
糸川貴視 Takashi Itokawa
パートナー
東京
NO&T Real Estate Legal Update 不動産ニュースレター
安全保障上の懸念が認められる国境離島や防衛関係施設周辺等における土地の所有・利用をめぐって2022年9月20日に全面施行された重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(令和3年法律第84号。以下「重要土地等調査法」といいます。)について、今般、重要土地等調査法に基づく注視区域及び特別注視区域の指定(第3回)に関する告示※1(以下「本告示」といいます。)が2023年12月11日に公布され、2024年1月15日に施行されました。
本告示により、新たに全国各地において重要土地等調査法に基づく注視区域が指定されることとなり、三大都市圏(首都圏、中京圏及び近畿圏)を含む主要都市及びその周辺地域内にも注視区域が生じることとなりました。特に千代田区及び新宿区をはじめとする東京23区内にも注視区域が指定されることで、今後は都心部の不動産取引においても重要土地等調査法に留意する必要性がより高まることとなります。そこで本ニュースレターでは、重要土地等調査法の概要について改めてご紹介した上で、本告示で新たに注視区域に追加された23区内の区域及び重要土地等調査法に関する今後の留意点について概説します。
重要土地等調査法の下、防衛施設等の重要施設や国境離島のような安全保障上重要な地域については、注視区域として指定され、その所有者により安全保障上懸念のある行為が行われた場合には、政府は当該所有者による利用の中止を含む措置を命じることができます。また、注視区域のうち特に重要な特別注視区域内の土地・建物(以下「土地等」といいます。)を取得する場合には、事前に売買の届出を行う必要があります。
外国投資家に対して規制を課す外為法に基づく投資管理と異なり、本法の要件さえ満たせば日本人や日本法人であっても一定の場合には事前届出義務の対象となる点に留意が必要です。
重要土地等調査法に基づく対象区域及び調査・規制の枠組みの概要は以下のとおりです※2。
注視区域とは、重要施設(防衛関係施設、海上保安庁の施設、及び生活関連施設※3)の周囲おおむね1,000メートルの区域内及び国境離島等の区域内の区域で、その区域内にある土地等が重要施設又は国境離島等の機能を阻害する行為(機能阻害行為)の用に供されることを特に防止する必要があるものとして、内閣総理大臣が指定する区域をいいます(5条1項)。また、特別注視区域とは、注視区域のうち、重要施設や国境離島等の機能が特に重要、又はその機能を阻害することが容易で、他の重要施設や国境離島等によるその機能の代替が困難である場合に内閣総理大臣に指定される区域をいいます(12条1項)。注視区域又は特別注視区域が指定される場合には、その旨及びその指定に係る注視区域が官報で公示されます(5条3項、12条3項)※4。
注視区域・特別注視区域内の土地等に対しては、当該土地等を利用して機能阻害行為が行われることを未然に防止するため、利用状況の調査(土地等利用状況調査)が行われます※5(6条)。また、政府は土地等利用状況調査のために必要な場合、関係行政機関等に対して当該土地等の利用者その他の関係者(土地利用者等)に関する情報の提供を求めることや(7条)、土地利用者等に対して報告又は資料の提出を求めることができます(8条)。
特別注視区域内にある土地等のうち、原則として面積が200平方メートル以上の土地等に関する所有権又はその取得を目的とする権利(以下「所有権等」といいます。)の移転又は設定をする契約を締結する場合には、契約の当事者は、内閣総理大臣に事前の届出を行う必要があります(13条1項、同条3項)。
なお、「所有権等の移転又は設定をする契約」としては、売買・贈与・交換・形成権(予約完結権や買戻権)の譲渡等が想定されており、賃借権、抵当権等の設定及び移転は届出の対象とはなりません。届出義務があるにもかかわらず当該届出を怠った場合又は虚偽の届出をした場合の罰則としては、6か月以下の懲役又は100万円以下の罰金が課されます(26条)。
注視区域・特別注視区域内の土地等を利用して機能阻害行為が行われた場合等には、土地等の利用者に対する必要な措置をとるべき旨の勧告・命令の対象となります(9条)。当該勧告・命令に係る措置に基づいて損失を被った場合は、「通常生ずべき損失」の範囲で補償がなされます(10条1項)。
本告示により新たに注視区域に指定された東京23区内の区域は、防衛省市ヶ谷庁舎(千代田区・新宿区)、補給統制本部(北区・板橋区)、及び練馬駐屯地(板橋区・練馬区)の周辺区域です。この他、東京都内では府中基地(府中市・小金井市)の周辺区域も注視区域に指定されています。
これらは、特別注視区域に指定されているわけではありませんので、注視区域に留まる限りは区域内の土地等の売買について事前届出は不要ですが、今後これらの区域が特別注視区域に指定された場合には、土地等の売買につき事前届出が必要になる可能性があります。このように都心部の不動産取引においても重要土地等調査法に留意する必要性が高まることとなりますので、今後も継続的に告示による指定区域の追加・変更の動向を注視する必要があります。
※1
内閣府告示第126号(令和5年12月11日):https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/doc/kokuji-126.pdf
※2
本文に記載の重要土地等調査法の概要の他、本法の成立経緯等については、当事務所のニュースレター『日本における重要土地等調査法の制定及び中国からの不動産投資に対する影響』(NO&T Asia Legal Update No.142/NO&T International Trade Legal Update No.3、2023年3月)にてご紹介しています。
※3
国民生活に関連を有する施設であって、その機能を阻害する行為が行われた場合に、国民の生命、身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもので政令で定めるものとして、原子力関係施設及び空港が定められています(重要土地等調査法施行令1条)。
※4
注視区域・特別注視区域の一覧は内閣府のウェブサイトで公開されています。
※5
なお、当該調査については、公簿等(不動産登記簿、住民基本台帳等)の収集を基本とし、必要に応じて、現地・現況調査や、土地等の利用者その他の関係者からの報告又は資料の提出の方法を適切に組み合わせる形で実施されます。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
(2025年5月)
洞口信一郎
(2025年4月)
松本岳人
(2025年4月)
松本岳人
(2025年4月)
洞口信一郎、小山嘉信、渡邉啓久、杉本花織(共著)
(2025年5月)
洞口信一郎
(2025年4月)
洞口信一郎、小山嘉信、渡邉啓久、杉本花織(共著)
宮城栄司
大久保涼、大橋史明(共著)
(2025年5月)
洞口信一郎
(2025年4月)
洞口信一郎、小山嘉信、渡邉啓久、杉本花織(共著)
(2025年4月)
松本岳人
(2025年4月)
松本岳人
(2025年5月)
今野庸介
松﨑景子
三笘裕、濱口耕輔、奥野晟史(共著)
(2025年4月)
山本匡
(2025年5月)
今野庸介
松﨑景子
(2025年4月)
山本匡
(2025年4月)
酒井嘉彦
松﨑景子
(2025年4月)
若江悠
(2025年4月)
細川智史、大澤大(コメント)
服部薫、塚本宏達、近藤亮作(共著)