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従業員と独立請負事業者の分類について

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NO&T Labor and Employment Law Update 労働法ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2024年1月10日、米国労働省(U.S. Department of Labor)は、Federal Labor Standards Act(以下「FLSA」といいます。)上、労働者が従業員(Employee)として分類されるか独立請負事業者(Independent Contractor)として分類されるかについての判断基準に関する最終規則(以下「本規則」といいます。)を発表しました※1※2。本規則は本年3月11日に施行され、雇用主が従業員と独立請負事業者の分類を分析する際に、2021年にトランプ政権下で導入された雇用主による業務のコントロールの程度と労働者の損益機会を重視したテストとは大きく異なる、労働者が雇用主に経済的に依存しているかで判断する6つの要素の経済実態テスト(economic realities test)を定めています※3。本ニュースレターでは本規則の各要素の概要を説明するとともに、企業が検討すべき点をいくつかご紹介いたします。

本規則における経済実態テストの概要

 FLSAは、対象となる雇用主に対し、従業員に対し、最低賃金と時間外手当を支払うこと、雇用主が従業員に関する一定の記録を保管すること等を義務づけています。他方、これらの義務は独立請負事業者と契約する場合については適用されません。従業員と独立請負事業者の定義の間に必ずしも明確な線引きはなく、歴史的には、トランプ政権下で異なるルールが導入されるまでは、FLSAに基づく分類を定めるために、どの要素も決定的ではない多要素の経済実態テストが使用されていました。本規則は、その経済実態テストを成文化し、雇用主に対する労働者の経済的依存度を分析するための以下の6つの要素を列挙しており、各企業としては、今後、これらの複数の要素を考慮しながら従業員・独立請負事業者の分類を適切に行っていくことが必要になります。以下、本規則で列挙された6つの要素について簡潔に説明します。

(1) 経営的スキルによる利益または損失の機会

 この要素との関係では、労働者が経営的スキルを使用して自身の損益の機会に影響を及ぼすことが可能であるかが考慮されます。この要素を考慮するに際して、より具体的には、労働者が、

  1. 業務についての請求ないし支払われるべき金額を決定し、または有意な交渉をすることができるか、
  2. 業務を受諾または辞退したり、業務を行う順番や時間を決定したりすることができるか、
  3. 営業や広告その他自らの事業の拡大やさらなる業務の確保のための努力を行っているか、
  4. 他人を雇う、材料や設備を購入する必要があるか、及び/又は業務場所を賃借する等の決定を行っているか

等の事情が関連するとされています。労働者がその損益に影響を与える機会がないのであれば、そのような事情は、通常、当該労働者が、独立請負事業者ではなく従業員であることを示唆していることになります。

(2) 労働者と滞在的雇用主による投資

 この要素との関係では、労働者による業務への投資が本質的に「資本的または起業的」であるかどうかが考慮されます。労働者が資本的または起業的な投資を行っている場合、そのような事情は、通常、当該労働者が、従業員ではなく独立請負事業者であることを示唆することになります。なお、労働者が特定の業務を行うための道具や設備、労働者の労働等その業務を行うために労働者が負担する費用は、資本的または起業的投資の証拠とはならず、従業員であることを示唆すると考えられます。他方、独立請負事業者性を示す資本的または起業的投資は、一般的に、労働者が異なる種類またはより多くの業務を行う能力を高め、コストを削減し、または市場における活動範囲を広げる等、独立した事業を支え、事業的な機能を果たすものを指します。さらに、労働者の投資は、雇用主の事業全体に対する投資と相対的に考慮されます。労働者の投資は、雇用主の投資と同等である必要はありません。

 本規則では以下の具体例が記載されています。

  1. グラフィックデザイナーが商業デザイン会社にデザインサービスを提供している。当該会社は、ソフトウェア、コンピュータ、オフィススペース、および必要な機材や備品を提供している。当該会社は、マーケティングと顧客開拓に投資し、サービスを管理する中央オフィスを維持している。デザイナーは、特定の仕事において、自らの嗜好に沿う製図ツールを使用することがある。この具体例では、デザイナーの備品への僅かな投資は、資本的性質を有するものではなく、特定の仕事を完了する以上にビジネスを促進することは殆どない。したがって、これらの事情は、投資要素との関係では、従業員としての地位を有していることを示すものであると言える。
  2. 一方、グラフィックデザイナーが時折、同会社のため専門的なデザインプロジェクトを完成させることがあるとする。デザイナーは、ソフトウェア、コンピュータ、製図ツールを自ら購入し、共有ワーキングスペースにオフィスを借り、自らのサービスを売り込むために資金を費やしているとする。この具体例では、これらの投資は会社から独立した労働者のビジネスを支えるものであり、(当該労働者がより多くの業務をこなし、市場における活動範囲を広げることを可能にするという意味において)資本的性質を有すると考えられる。したがって、これらの事情は、投資要素との関係では、独立請負事業者としての地位を有していることを示すものであると言える。

(3) 労働関係の永続性の程度

 この要素については、労働関係が無期限もしくは継続的であるか、または専属的な関係であるという事情があれば、それは当該労働者が従業員であることを示すものであり、労働関係が期限付き、非専属的で、プロジェクトベース、または散発的であるという事情があれば、それは当該労働者が独立請負事業者であることを示すものであるとされています。なお、季節労働や臨時労働は必ずしも独立請負事業者であることを示すものではないとも述べられています。

(4) コントロールの性質と程度

 この要素を分析するにあたっては、雇用主が労働者のスケジュールを設定するのか、労働者の業務を監督するのか(カメラやその他電子的手段などの「技術的な監督手段」を含みます。)、労働者が他者のために業務を行うことを制限するのかどうか、また、サービスやマーケティングの価格や料金をコントロールするのか等が考慮されます。なお、本規則では、「適用される連邦法、州法、民族法、または地域の法律や規制を遵守することのみを目的として雇用主が実施する行為は、(従業員性を支持する)コントロールを示すものではない」とされている一方で、雇用主が適用される法律または規制の遵守を超えて、雇用主のコンプライアンス、安全性、品質管理、契約上もしくは顧客サービス基準に資するべくとった行為は、従業員性を支持する可能性があるとされています。

(5) 実行された労働者の業務が使用者の事業の不可欠な部分であったか

 この要素は、労働者が実行する業務が「雇用主の主たる事業にとって重要、必要、または中心的」かどうかを考慮するものです。実行された業務が使用者の主たる事業にとって重要、必要、または中心的である場合、そのような事情は、当該労働者が従業員であることを示すものとなります。

 本規則では以下の具体例が記載されています:

  1. ある大規模農園がトマトを栽培し、販売業者に販売している。この農園では、収穫期にトマトを収穫するために労働者に賃金を支払っている。トマトの収穫はトマトの栽培に不可欠であり、会社はトマトの栽培事業を行っているので、トマトの収穫を行う労働者は会社の事業に不可欠である。これらの事情は、事業における不可欠性の要素との関係では、当該労働者が従業員であることを示している。
  2. あるいは、同農園が会計士に給与処理以外の経理サポート(年次確定申告を含む)を依頼しているとする。この経理サポートは、農場の主たる事業(トマトの栽培)にとって重要、必要、および中心的なものではないので、会計士の業務は事業に不可欠であるとは言えない。したがって、これらの事情は、事業における不可欠性の要素との関係では、当該労働者が独立請負事業者であることを示している。

(6) 技能とイニシアチブ

 この要素は、労働者が業務を遂行するために専門的な技能を使用するかどうか、及び、それらのスキルがビジネス的なイニシアチブに寄与するものかどうかを考慮するものです。労働者がその業務を行うにあたって専門的な技能を使用していない場合や、雇用主からのトレーニングに依存している場合、そのような事情は当該労働者が従業員であることを示すこととなる一方、労働者が業務上の関係に専門的な技能を持ち込む場合には、そのような事情は、当該労働者が独立請負事業者であることを示すものとなります。

 本規則では以下の具体例が記載されています:

  1. 高度な技能を持つ溶接工が、ある建設会社に溶接サービスを提供している。溶接工は、与えられた仕事をこなすために必要な判断以外に現場で独自の判断を下さない。溶接工は、作業の順序を決めたり、追加の資材を発注したり、次の仕事の入札を考えたり、追加的な仕事を得るためにそのスキルを使用したりせず、どの作業をどこで行うかを指示される。この場合、溶接工は、高い技能を持っている一方で、ビジネス的なイニシアチブを示すような方法でその技能を使用していない。これらの事情は、技能とイニシアチブの要素との関係では、当該労働者が従業員の地位を有することを示している。
  2. あるいは、高度な技能を持つ溶接工が、様々な地域の建設会社に特注アルミ溶接などの特殊溶接サービスを提供しているとする。この溶接工は、これらの技能をマーケティング目的に使用し、新規ビジネスを創出し、複数の会社から仕事を獲得している。この溶接工は、高い技能を持っており、ビジネス的なイニシアチブを示すような方法で、これらの技能を使用し、市場に提供している。これらの事情は、技能とイニシアチブの要素との関係では、当該労働者が独立請負事業者としての地位を有することを示している。

(7) その他の要素

 なお、本規則では、上記の6つの要素に加えて、労働者が使用者に経済的に依存しているのではなく、自分自身のために事業を行っていることを示す要素があれば、その要素が従業員性、独立請負事業者性の決定に影響する可能性があることも示されていますのでこの点にも注意が必要です。

企業にとっての留意点

(1) 従業員分類の拡大

 本規則によって、従業員・独立請負事業者の分類は、労働者が雇用主に経済的に依存しているかで判断する6つの要素の経済実態テストによって行われることになります。その結果、トランプ政権の下で採用されたテストに比べて、より多くの労働者が独立請負事業者ではなく、従業員と分類される可能性があります。

(2) 分類を誤った場合の罰則

 もし企業が本来従業員と分類されるべき労働者を独立請負事業者と分類していた場合、当該企業はFLSA等に基づいて責任を負うことになります。従業員を独立請負事業者として分類した雇用主は、バックペイ(時間外手当を含む)、Liquidated damagesの賠償の責任を負う可能性があり、また、従業員として得られたであろう福利厚生についても請求を受ける可能性があります。また、FLSAの下では、独立請負事業者として分類されていた従業員が誤分類について訴訟を提起し勝訴した場合、雇用主は当該従業員の弁護士費用を負担することになります。なお、FLSAに違反した場合、民事罰や刑事罰が科される可能性もあります。

(3) 連邦法に加えて州法の検討

 本規則は連邦法のFLSAに関する規則であり、従業員・独立請負事業者の分類に関しては別途州法の検討を行う必要もあるので注意が必要です。例えば、カリフォルニア州を含む複数の州で、上記の経済実態テストとは異なる、いわゆるABCテストが採用されています。ABCテストの詳細は各州によって多少異なりますが、概ね以下の要素が満たされた場合に独立請負事業者と分類されることになります。

  1. 労働者が、業務を行うにあたって雇用主のコントロールや指示から自由であること
  2. 労働者が、雇用主の通常の業務の過程の外で業務を行っていること
  3. 労働者が、独立した取引、職業、専門職、または事業を行っていること

おわりに

 トランプ政権下で採用された規則と比較すると、本規則の下では、従業員と分類される労働者が多くなる可能性があり、その結果、労働者の分類に関するクレーム、訴訟も増加することが考えられます。企業としては、独立請負事業者との契約のレビュー、内部規則の強化、あるいは独立請負事業者の正しい利用の仕方についての管理職従業員のトレーニングを行う等することで、本規則のコンプライアンスを確保する必要があると言えます。

脚注一覧

※3
なお、日本においても、独立請負事業者の保護のために「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス新法)が施行される等、関心が高まっています。従業員と独立請負事業者の区別が問題となる事例も増えていますが、従業員性すなわち使用従属性が認められるか否かは、以下の要素から総合的に判断することとされています。

  1. 「指揮監督下の労働」であること

    1. 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
    2. 業務遂行上の指揮監督の有無
    3. 拘束性の有無
    4. 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
  2. 「報酬の労務対償性」があること

加えて、①事業者性の有無、②専属性の程度も使用従属性の判断を補強する要素とされています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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