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公取委確約手続の運用変更~外部専門家(トラスティ)選任の原則義務化を中心とする運用の厳格化

NO&T Competition Law Update 独占禁止法・競争法ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 公取委の確約手続は、事業者が自主的に策定した確約計画を公取委として認定することにより、競争上の問題の早期是正を図り、独禁法の効率的かつ効果的な執行に資することを目的として、2018年に導入された手続であり、本年6月までに既に19件において確約手続を適用して事件処理がなされております。

 今般、公取委は、本年7月3日付けの事務総長定例会見において、今後の確約手続につき、主に以下の三点につき運用を変更する旨を公表しました※1

  1. 確約措置の履行期間:これまで確約手続を適用した事案における確約措置の履行期間は、(必要な期間をケースバイケースで検討した上で設定する、ということにはなっているものの)全ての事案において3年間となっていたところ、今後は、原則として5年間以上の履行期間とすること
  2. 確約措置の履行監視における外部専門家(トラスティ)選任の原則義務化:これまで、公取委が認定した確約措置については、事業者が自ら履行してそれを公取委に報告する、という形が基本的に採用されていたところ、今後は、より確実な履行を確保する観点から、確約措置全体の履行につき、外部専門家による監視を原則とすること
  3. 公取委による履行状況の確認の強化(罰則付きの調査権限の積極的な適用):上記に加えて、公取委としても、特に必要がある場合には、罰則付きの調査権限(独禁法68条、47条)を適用し、直接の関係者のみならず、取引先事業者や競合他社などに対しても、履行状況の確認などを行うこと

 公取委によれば、今後出てくる案件については、上記の方針に基づき臨んでいくとのことです。また、確約手続に関しては、独禁法においても関連する規定があるほか、公取委の確約手続ガイドライン(「確約手続に関する対応方針」)もあるものの、今般の運用の変更については、法改正は不要であり、また、確約手続ガイドラインを直ちに改定する必要もないとの説明がなされており、法改正や確約手続ガイドラインの改定を待たずして、この事務総長定例会見をもって確約手続の運用は変更されることが見込まれます※2。そのため、(法令・ガイドライン等の改定という形ではないものの)この事務総長定例会見に示された方針を把握し、今後の実務対応に活かす必要があると考えられます。

 そこで、本ニュースレターでは、今般の確約手続の運用変更の主要なポイントを概説いたします。

2. 主な運用変更点及びそれに対する考え方

(1)確約措置の履行期間

 公取委の確約手続ガイドラインは、確約措置の履行期間(ガイドライン上は「実施期限」との表現が用いられています)につき、「措置実施の確実性を満たすために、確約措置の内容ごとに実施期限を設定する必要がある」(同ガイドライン6(3)イ)としているものの、これまでの運用としては、公取委は全ての事案において3年間を設定しておりました。

 今後、公取委は、確約措置の履行期間は原則として5年以上とする、との方針を示しています。もっとも、再発防止をこれまで以上に確実にするという観点から、従前よりも長い期間の履行期間の設定が適切であるという方針のもと、原則は5年以上としつつも、公取委は、履行期間の設定につき、「違反被疑行為の対象となった製品のライフサイクル※3やサービスの契約期間など」、「海外当局の対応」、「競争の確実な回復の観点」、「事案の実態」などに照らして履行期間を決定することを示しており(これらは、確約手続ガイドラインにいう、措置実施の確実性を満たすための要素と考えられます。)、また、実際にも、製品・サービスによっては、あるいはその市場における競争の状況次第では、非常に流動的で動きが速いなどの理由から、5年の履行期間では長すぎるというケースも十分ありえます。

 このようなことを考え合わせると、公取委では必ずしも全ての案件について履行期間を5年とするのではないとも考えられ、したがって、問題となる製品・サービスの市場については、5年未満の履行期間であっても取引状況の監視・取引条件の適正化にとっては十分である、ということを具体的な資料等とともに公取委担当官に説明していくことは、十分に意義のあることだと考えられます。

(2)確約措置の履行監視における外部専門家(トラスティ)選任の原則義務化

 確約措置の履行報告・監視につき、確約手続ガイドラインは、「確約措置の履行状況について、被通知事業者又は被通知事業者が履行状況の監視等を委託した独立した第三者(公正取引委員会が認める者に限る。)が公正取引委員会に対して報告することは、措置実施の確実性を満たすために必要な措置の一つである」と定めているものの(同ガイドライン6(3)イ(キ))、これまでの運用上は、確約措置全体の履行につき事業者が自ら履行してそれを公取委に報告する、という形が基本的に採用され、そのような確約措置でも公取委の認定がなされておりました。

 公取委の説明によれば、これまで確約計画の内容が不十分であったという事実はなく、また、特定の個別事案を直接の契機として今回の運用変更に至ったわけではないとされています※4。しかしながら、公取委が事業者の策定した確約計画を認定するにあたっては当然その内容の精査を行うものの、一旦認定がなされた後においては、事業者が自ら報告するのみであり、履行報告・監視は公取委の確約認定の際ほどには厳格な精査が徹底されていないとの指摘もなされていました。また、欧州委員会におけるほとんどの確約事案では、独立した第三者が報告を行うことが確約計画に盛り込まれていることもあり※5、これらも踏まえて、今回の運用変更に至ったと考えられます※6

 公取委としては、今後の運用では、事業者の確約計画を認定するにあたっての検討方針として、確約計画実施の確実性という観点から、外部専門家の選任がなされていることを原則として求めていく、ということと理解されます。そのような外部専門家は、事業者を適切に監視し得る能力を有する独立した第三者であると公取委が認める者であり、具体的には、個別の事案ごとの判断となるものの、公取委としては、現時点では、弁護士や公認会計士等を想定しているとの説明がなされています。

 この点も、上記2.(1)と同様に、あくまで「原則として」ということであり、例外的に外部専門家の選任をしない確約計画が認定される余地もあるように見受けられますが、そのためには、定期的な外部監査といった個別の確約措置ではなく、確約措置全体につき、第三者である外部専門家の監視がなくとも確実に履行・報告できることを公取委に説得的に説明する必要があると考えられます。そのため、例外的な取扱いが許容されるハードルは上記2.(1)よりも高いように思われますので、確約手続の早期適用を目指す観点からは、外部専門家の選定・選任を内々・早期に進めておき、必要に応じて確約計画の内容として盛り込めるようにしておくことが重要です。

(3)公取委による履行状況の確認の強化(罰則付きの調査権限の積極的な適用)

 確約手続においては、事業者が策定した確約計画が認定された後であっても、確約が遵守されていないと認められる場合には、公取委としては、確約認定を取り消して(独禁法48条の9)、調査を再開することができるとされています。また、現在も独禁法上、公取委は、確約計画認定後も、特に必要があるときは、確約計画に従って措置が実施されているかどうかを確認するために、47条の強制的な調査権限を用いることができるとされています(68条1項、2項)。

 これまで、公取委が、一旦認定した確約計画の認定を取り消した事例はなく、また、確約計画認定後に47条の調査権限を用いた事例は公表されておりません。もっとも、今後は、確約計画の確実な履行確保の見地から、上記2.(3)に加えて、公取委自らも、強制的な調査権限を用いて履行状況の確認などを積極的に行うという方針が示されたものです。

3. おわりに

 前記のとおり、本ニュースレターで概説した公取委の運用変更は、(ガイドライン等の改定の可能性もあるものの)今後の事件では直ちに適用されると考えられるため、公取委による違反被疑事件調査への対応という観点からは、今般の運用変更を念頭に置いて進める必要があります。依頼者の皆様におかれては、公取委調査に対する対応方針に関連して、今般の公取委の運用変更をメモされておくことが有益と考えます。

脚注一覧

※1
令和6年7月3日付け公取委事務総長定例会見記録。原文は以下からご確認いただけます(2024年7月10日最終閲覧)。
https://www.jftc.go.jp/houdou/teirei/2024/jul_sep/240703.html

※2
前掲注1の記者会見において、公取委事務総長から、「本日、基準の明確化ということを皆さんに報告をさせていただきましたので、それをもちまして、今後この新しい方針で取り組んでいく」との発言がなされています。

※3
具体的には、対象となる製品の購入サイクルが5年の場合には、確約後の次の購入時までの取引状況を監視することが必要である、という意味において、ライフサイクルの期間を考慮する必要があるとの考えが説明されています。

※4
もっとも、報道によれば、2010年のGoogle・ヤフーの提携の際、Googleは、「両社の競争関係を維持する」と公取委に説明したにもかかわらず、2014年にヤフーの取引を制限する新たな契約を締結し、約7年間にわたり不当な取引を続け、その間もGoogleは公取委による複数回の聞き取りに対して事実を一切報告しておらず、事態の発覚が遅れたという事態が念頭に置かれていた、との指摘もなされています。読売新聞オンライン「独占禁止法違反疑い企業のチェック体制、公正取引委員会が強化へ…第三者の監視義務化」(2024年7月3日配信)ご参照。

※5
公取委が平成28年改正で独禁法に確約手続を導入した際にも、欧州委員会を中心とした海外の主要な当局の動向を参考にしたと考えられます。欧州委員会を中心とした海外の確約手続の運用等については、拙稿「Commitment Decisions in Antitrust Cases」(共著、OECD(2016年))及び「競争法執行手続としての確約手続に関するOECD報告書の概要」(共著、一橋法学第15巻第2号)(2016年))もご参照ください。

※6
また、欧州委員会等における確約手続とは異なり、日本の確約手続においては、確約が実施されていない場合であっても、そのこと自体(確約違反)に対する課徴金を課すことはできず、公取委としては、本文記載のとおり、確約認定を取り消して調査を再開し、独禁法違反が認められる場合に排除措置命令及び課徴金納付命令を課すという方法しか採れないため、課徴金の存在という抑止力をもって確約計画の確実な履行の確保を図ることができない、ということも、今般の運用方針変更に影響を与えた可能性があります。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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