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ニュースレター

インドの企業結合規制―取引価値基準が2024年9月10日に施行―

NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報

NO&T Competition Law Update 独占禁止法・競争法ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 インド競争法(Competition Act, 2002)に基づき、一定の基準に該当する企業結合は、インド競争委員会(Competition Commission of India、通称「CCI」)への事前届出及びその承認が必要となる。事前届出を要する基準は、従来、企業結合の当事者及びそのグループのインド国内外における資産及び売上高を基準としていたが※1、2023年に成立したインド競争法の改正により、取引価値基準(deal value threshold)が導入されることとなっていた。2024年9月9日付の企業省(Ministry of Corporate Affairs)の通達により、この取引価値基準が、翌10日に施行されることが公表された。あわせて、新たな企業結合規則であるCompetition Commission of India (Combinations) Regulations, 2024(以下「新企業結合規則」という。)が2024年9月9日に公表され、翌10日に施行された。これに伴い、従来の規則(Competition Commission of India (Procedure in regard to the transactions of business relating to combinations) Regulations, 2011)は廃止された。

 上記通達及び新企業結合規則上、取引価値基準の施行の猶予期間や移行期間はない。2024年9月10日現在で実行未了の企業結合で、取引価値基準に該当するものは、インド競争委員会への事前届出が必要となり、その承認が得られるまで当該企業結合を実行することはできない。そのため、インド企業が対象会社であるM&A取引や、対象会社自身やグループ会社がインドで事業を行っている場合、現段階で取引価値基準に基づく事前届出の要否を精査する必要がある。

1. 取引価値基準

 企業結合(支配権、株式、議決権もしくは資産の取得又は合併等)に関連する取引価値が200億ルピー※2を超える場合において、企業結合の対象企業がインドで実質的な事業(substantial business operations in India)を行っている場合には、インド競争委員会への事前届出が必要となる。

2. インドでの実質的な事業

 取引価値基準の要件の1つとして、対象企業がインドで実質的な事業を行っていることが必要である。具体的には、以下の3つの要件の内のいずれかに該当する場合に、対象会社がインドで実質的な事業を行っていることになる。

  1. 提供されるデジタルサービスについて、インド国内のビジネスユーザー又はエンドユーザーの数が、全世界のかかるユーザーの数の10%以上である場合
  2. 関連日(relevant date、即ち、合併等の取締役会における承認日又は支配権、株式、議決権もしくは資産の取得のための契約その他の書類の締結日)に先立つ12か月間のインドにおける流通取引総額が全世界の流通取引総額の10%以上であり、かつ50億ルピーを超える場合
  3. 前事業年度のインドにおける売上高が、全製品及びサービスからの全世界の売上高の10%以上であり、かつ50億ルピーを超える場合

 デジタルサービスについては、上記②及び③の内、流通取引総額、売上高が50億ルピーを超えるという要件が適用されず、それぞれ、インドにおける流通取引総額、売上高が全世界の流通取引総額、売上高の10%を超えれば②及び③の基準に該当する。ここで、デジタルサービスとは、エンドユーザー又はビジネスユーザーに対し、有償、無償を問わず、インターネットを利用したサービス又は1つ以上のデジタルコンテンツ、その他の活動を提供することをいい、広い定義となっている。

3. 取引価値

 新企業結合において、取引価値に含まれるものが規定されている。具体的には、直接的か間接的か、即時の支払いか後払いか、現金かそれ以外かを問わずにあらゆる価値を有する対価が含まれ、対価が別途合意されている場合は、売主その他の者に課された誓約、約束、義務もしくは制限に対する対価、相互に関連する手続や取引の対価、技術支援もしくは知的財産のライセンス等、企業結合の一部として、もしくはこれに付随して締結された取引について、企業結合の効力発生日以前の2年間に支払われる対価、オプション及び行使時の対価、取引書類に規定される将来の結果に基づき、最善の見積りにより支払われる対価が取引価値に含まれるとされている。

 新企業結合規則では、取引価値について説明書きが付されており、その中には、例えば、取引価値には、当事者の一方又はそのグループ企業による、関連日以前の2年間における対象企業の買収の対価が含まれること、合併又は企業結合の真実かつ完全な価値が取引書類に記録されていない場合、取引価値又はその構成要素の価値は、取締役会その他の事前届出義務者が検討したものと同じでなければならないこと、取締役会等が取引価値を合理的な確実性をもって確定できない場合、取引価値は200億ルピーを超えるとみなすことができること等が規定されている。

4. 取引価値基準に該当する取引への小規模企業結合の例外の不適用 

 企業結合の対象会社のインド国内の資産が45億ルピー以下又はインド国内の売上高が125億ルピー以下である場合には事前届出が不要とされている(de minimis exemption、小規模企業結合の例外)。日本企業はこのde minimis exemptionを多用してきたと理解しており、de minimis exemptionはインドでの事前届出を不要と整理する際の非常に重要な拠り所となってきた。

 しかしながら、取引価値基準に該当する場合はde minimis exemptionは適用されず、上記基準に該当したとしても、インド競争委員会への事前届出が必要であることに注意する必要がある。

脚注一覧

※1
基準の詳細は、アジア最新法律情報 No.189/独占禁止法・競争法ニュースレター No.31「インド競争法に基づく企業結合の届出及び小規模取引の除外の基準の変更」(2024年4月)参照

※2
2024年9月10日現在、1ルピー=1.7円(同日現在、200億ルピー=約340億円)

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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