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海外建設契約Memo(第1回)

NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update インフラ・エネルギー・環境ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 近時、洋上風力発電施設の建設など、国内の大型プロジェクトにおいて、国際建設プロジェクトで利用される建設契約約款が用いられている例が少なからず見受けられるようになっています。FIDIC※1の発行している契約約款はその典型です。

 その一方で、FIDICの建設契約約款は、国内の約款には見られない条項が定められていたり、国内の約款とは異なる規律をしている条項も少なくなく、用いる際には若干の注意が必要です。このシリーズでは、FIDICの建設契約約款を国内のプロジェクトで用いるに際して注意する必要のある事項について、国内の約款と比較しながら、解説していきます。国内の約款として想定しているのは、主として、中央建設業審議会による公共工事標準請負約款※2(「公共工事約款」)及び民間(七会)連合協定による工事請負契約約款(「民間連合約款」)ですが、必要に応じて、日本建設業連合会による設計施工契約約款(「設計施工約款」)にも触れていければと思います。そして、国際建設契約約款として想定しているのは、FIDICの発行する1999年版のYellow book(「イエロー(1999)」)ですが、必要に応じて2017年版(2022年修正版)(「イエロー(2017)」)についても言及したいと思います。

 今回は、以下の発注者の義務について、解説します。

  • 工事用地の確保
  • 契約金額の支払資金の確保

1 工事用地の確保

1. 発注者の用地確保義務

 国内の約款では、発注者は、工事の施工上必要とする日(設計図書に特別の定めがあるときは、その定められた日)までに、工事用地※3を確保する義務を負い(公共工事約款第16条第1項、民間連合約款第2条、設計施工約款第33条)、工事用地の確保が発注者の義務であることが明確にされています。

 この点、FIDICの約款においても、ほぼ同様の規定が存在し、工事用地の確保義務が発注者にあることが明らかにされています(イエロー(1999)第 2.1条)。

 しかし、発注者がこの義務を履行しない場合に受注者に与えられる権利の内容及びその実現方法には、国内の約款とFIDICの約款との間には違いがあります。

2. 国内の約款

 公共工事約款は、発注者が工事用地を確保しない場合には、発注者に工事中止の指図義務が生じる旨定めたうえ(公共工事約款第20条第1項)、当該条項に基づく発注者の指図によって工事が中止された場合、発注者は、「必要があると認められるとき」には、(イ)工期の変更を行う義務、及び(ロ)請負代金額の変更を行う義務が生じ、そして、(ハ)受注者に増加費用や損害が生じた場合にはそれを補償する義務が生じるものとされています(公共工事約款第20条第3項)。

 また、民間連合約款は、工事用地が確保されない場合には、受注者は工事を中止できる旨定めたうえ(民間連合約款第32条第1項b)、工事が中止された場合、受注者は、(イ)工期の延長を請求することができ、(ロ)請負代金額が明らかに適当でないと認められるときは、請負代金額の変更を求めることができ、(ハ)(取引上の社会通念に照らして発注者の責めに帰すことができない事由によって工事が中止された場合を除き、)発注者に対して損害の賠償を請求できるものとされています(民間連合約款第29条第1項g、第30条の2第1項a、第32条第3項)。ここにいう「損害」の中には、増加費用も含まれるというのが合理的な解釈ですので、この二つの約款の間に本質的な相違はないといってよいかと思います※4

3. FIDICの約款の場合

① 工期の延長

FIDICの約款においても、発注者が工事用地(Site )を確保して受注者に引き渡すことができないことにより完工の遅延が認められる場合に工期の延長(extension of time)が認められる点は、国内の約款と同様です。

② 補償請求及び契約金額の変更

その一方で、FIDICの約款では、発注者が期日までに工事用地を確保できない場合、受注者は、発注者に対して、それによって発生した費用(Cost)と合理的な利益(reasonable profit)の支払を請求できる旨定められています。

この点は、以下の通り、国内の約款に比べて、受注者の請求できる範囲が若干広いのではないかと思われます。

「費用(Cost)」

ここにいう「費用(Cost)」とは、工事用地において発生したものに限らず、合理的に発生する追加の支出がすべて含まれる形で定義されており、公租公課やいわゆる一般管理費/間接費(overheads)もこれに該当することが明記されています。

「合理的な利潤(reasonable profit)」

加えて、受注者には、当該費用相当額を基準とした「合理的な利潤」の請求が認められています。合理的な利潤がどの程度のものであるのかは解釈の余地を残しますが、上記の「費用」概念を前提として、さらに利潤の支払を追加して請求できるところは、受注者の請求できる範囲が広いと思われます。なお、イエロー(2017)では、受注者が請求することのできる合理的な利潤(reasonable profit)とは、別途の定めがない限り、追加費用額の5%相当額であることも定められています。

さらに、FIDICの約款においては、民間連合約款のように、発注者に帰責事由がないことを理由とする免責を定めていませんので、受注者は、発注者の事情にかかわらずに、上記の金銭的な支払を受けることが期待できるようにも思われます※6

③ 受注者の過誤・遅延

その一方で、FIDICの約款では、工事用地を引き渡すことができない理由が、受注者の過誤又は遅延にある場合には(例えば、受注者が作成/提出するべき書面に誤りがあり又はその作成/提出が遅れた場合)、その限度において、工期の延長や費用及び利潤の支払を発注者に対して請求することはできないことが定められています。

ただ、この点は、国内の約款が用いられた場合でも、工期の延長についてはその必要性の判断において、追加の金銭請求については因果関係等の判断において、同様の斟酌がなされることが想像され、結論に大きな差が生じるものではないと思われます。

④ 請求期間の設定

FIDICの約款が、国内の約款と比較して最も特徴的なのは、受注者に対して、工期の延長や費用等の補償の請求について、厳格な期間制限を設けている点です※7

具体的には、原因となる事由を知ったとき又は知ることができたときから28日以内に請求権を行使する旨の通知(「クレーム通知」)を行い、42日以内に所定の詳細を記載した完全な請求(fully detailed claim)を書面で行わないと受注者はその権利を失うものとされています(イエロー(1999)第20.1条)。

工期延長や追加支払の請求という、受注者の非常に重要な権利について期間制限が設定されており、それを徒過すると失権するという重大な結果を招きますので、FIDICの約款を用いる際には、契約を締結した後の契約管理が重要になります※8

⑤ 工事の中止について

国内の約款とは異なり、FIDICの約款においては、工事用地が確保されないことを理由として工事を中止できることを定める条項はありません。その理由は必ずしも明らかではありませんが、(イ)工事用地が提供される前の時点においては中止されるべき工事自体が開始していないこと、(ロ)受注者が被る不利益は、工期の変更及び費用・利潤の支払の請求を通じて回復できること、から受注者に工事の中止権を与える必要はない、という考えに基づくものかもしれません。

むしろ、FIDICの約款においては、工事用地が確保されない場合、受注者は、工事用地における施工を開始することができないとしても、工事用地を要しないその他の業務については遂行を継続する義務があるように読める点、留意が必要です。発注者としては、(たとえ工事用地の確保が遅れたとしても)最小限の遅延で完工できるようにその他の遂行可能な業務を遂行することを受注者に望むかもしれませんし、他方、受注者は、現実に工事用地が確保されるか不確実な中で、業務の遂行を継続することには躊躇を覚えるかもしれません。

工事用地が確保されない場合のその他の業務の遂行の要否について明確にする特約を設けることも一つの解決策として考えられるところです。

FIDIC 公共工事約款 民間連合約款
工期の延長 完工遅延が見込まれる場合 必要と認められるとき 必要と認められるとき
金銭請求 増加費用(間接費を含む)・合理的な利潤 増加費用・損害 損害(増加費用を含む)
免責事由 受注者の過誤・遅延が原因である場合には、その限度で、(イ)工期延長、及び(ロ)金銭請求は認められない n/a 「取引上の社会通念に照らして発注者の責めに帰すことができない事由」が原因である場合には、金銭請求は認められない(工期延長は認められる)。
工事の中止 n/a 発注者の中止指図義務 受注者の中止権

2 契約金額の支払資金の確保

1. FIDICの約款

 FIDICの約款においては、契約金額の支払資金に関して、以下の通り規定されています。

  1. 発注者は、受注者から請求を受けたときには、契約金額を支払うための資金の手当てがなされていることを示す合理的な証拠を示す義務を負い、また、発注者は、その資金の確保の方法に重要な変更を加える場合には、その詳細を受注者に対して通知する義務を負う(イエロー(1999)第 2.4条)
  2. 発注者が上記の義務に違反し(=28日以内に書類を提出せず)、受注者の催告にもかかわらず、21日以内に書類を提出しない場合、受注者は、工事を中止し又は工事の進捗を遅らせることができる(イエロー(1999)第16.1条)
  3. 発注者が上記の義務に違反し(=28日以内に書類を提出せず)、発注者が催告から42日以内に書類を提出しない場合において、受注者が通告したにもかかわらず14日以内に書類を提出しない場合、受注者は本契約を解除できる(イエロー(1999)第 16.2a条)

2. 受注者にとっての重要性

 これらの条項は、国内の約款に相当するものも存在せず、内容としても、現状、実務的に広く浸透している条項ではないと思います。その一方で、国内のプロジェクトでFIDICが用いられる場合、この条項を削除する旨の特約が設定されることもなく、そのまま存置されている例が多いかと思います。ただ、上記の通り、この条項は、受注者の中止権・契約解除権につながる重要性の高い条項です。大規模なプロジェクトになればなるほど、外部資金調達の必要性が生じる可能性も高くなり、その結果として、発注者がSPCとなる可能性は高くなります。したがって、発注者(であるSPC)が適切な資金手当てをしているか否かは、本来、受注者が大きな利害を有する事項であり、この条項は、受注者の利益を守る上で重要な条項であるといえます。

3. 開示するべき書類

 しかしながら、上記の通り、現状、実務的に広く浸透している条項ではありませんので、「資金の手当てがなされていることを示す合理的な証拠」として何を提出するべきか、予め当事者の間で合意しておくことが望ましいところです。とりわけ、金融機関に作成を依頼する必要のある書類については、発注者は、守秘義務の解除を含め、金融機関の対応も必要になると思います。

4. 「直接協定」との関係

 この点、国内のプロジェクトでも、一定の規模を超える場合には、建設契約の受注者と、発注者に対してプロジェクトファイナンスを提供する金融機関の間で、いわゆる直接協定が締結されている例も少なくありません。従前は、このような直接協定は、むしろ、プロジェクトファイナンスの保全の見地から金融機関の主導により締結されてきましたが、今後は、受注者が、上記の条項との関連において、この直接協定をより積極的に活用することを検討することも考えられます。例えば、発注者のプロジェクトファイナンスについて期限の利益喪失事由等が発生した場合にはそれを受注者に通知する旨が直接協定に定められる場合には、受注者は、発注者の信用状態の変化をより早期にかつ客観的に確認できるようになることが期待できます。

脚注一覧

※1
Fédération Internationale Des Ingénieurs-Conseilsの略称です。

※2
その名称にかかわらず、この約款は、国の機関、地方公共団体、独立行政法人等が発注する工事を対象とするのみならず、電力、ガス、鉄道、電気通信等の常時建設工事を発注する民間企業の工事についても用いることができるように作成されたものであるとの説明がなされています(国土交通省HP)。

※3
公共工事約款と民間連合約款(及び設計施工約款)では、定義語としての「工事用地」の意味するところが若干異なります。前者では、工事目的物が建設される場所そのものを指す一方、後者では、そのような土地は「敷地」とされ、「工事用地」とは敷地以外で設計図書等において発注者が提供するものと定められた施工上必要な土地をいうものとされています。ただ、公共工事約款も、そのような民間連合約款における「敷地」及び「工事用地」の双方(公共工事約款は、これを「工事用地等」と定義しています。)について発注者が確保義務を負う旨明らかにされており、両者の間に実質的な差異はありません。ここでは、両者の間をとって、敷地及び敷地以外で設計図書等において発注者が提供するものと定められた施工上必要な土地という意味で用いています。

※4
この点、損害賠償請求に関連して、文言上、民間連合約款は発注者に帰責事由が認められない場合に発注者の免責を定める一方、公共工事約款は発注者の帰責事由についての言及はない、という相違があります。ただ、民間連合約款の免責文言は、民法第415条第1項但書きを反映したものであり、日本法の適用を前提とする限り、公共工事約款の解釈において、同条項の適用が排除される理由もないと思われますので、この点は、実質的な差異はないものと考えられます。

※5
FIDICにおいて、「Site」は、本工事(Permanent Works)が行われるべき場所、機器(Plant)及び資材(Materials)が搬入される場所、及びその他この契約においてSiteの一部を構成するものとして特定された場所として定義されており、公共工事約款における「工事用地等」、あるいは民間連合約款における「敷地」と「工事用地」と近似した内容になっています。そこで、本稿では、Siteの訳語については、比較の便宜の観点から、「工事用地」を充てることにしています。

※6
ただ、民間連合約款に定める「取引上の社会通念に照らして発注者の責めに帰すことができない事由」との文言は、民法第415条第1項但書きを反映したものですので、同条項但書きは、FIDIC約款が用いられる場合であっても、当然に適用があるのではないか、という議論もありうるところです。

※7
この期間制限については、イエロー(2017)において若干の見直しがなされていますが、基本的な考え方は変わっていませんので、変更の詳細についてはここでは割愛します。

※8
なお、イエロー(2017)においては、発注者の金銭の支払に関する請求権や瑕疵担保責任の延長請求権についても、同様の期間制限に付すものとされ、受注者のみならず発注者においても、契約管理の重要性が高まっています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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