
大久保涼 Ryo Okubo
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
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ニュースレター
米国HSR企業結合届出のフォームの改正案について(2023年7月)
米国HSR企業結合届出の基準額及び手数料の改定(2025年)(2025年1月)
2024年10月10日、米国連邦取引委員会(以下「FTC」といいます。)は、Hart-Scott-Rodino Actに基づく企業結合届出(以下「HSRファイリング」といいます。)に関する規則の改正(以下「本改正」といいます。)を発表しました※1。
FTCは2023年6月27日にHSRファイリングに関する規則の改正案を発表しました(以下「2023年改正案」といいます。)※2が、その後、多くの実務家らから反対意見やコメントが提出されたことを受けて、FTCは、2023年改正案で追加された重い負担の一部を削除するなどの修正を加えて今回の改定成案を発表しています。本改正は、連邦裁判所において効力が争われるなどしない限り、Federal Registerにおいて公表された日(2024年11月12日)※3から90日後である2025年2月10日に効力が発生することが見込まれており、効力発生後にHSRファイリングを行うことになる取引については、本改正に基づくHSRファイリングが求められます。また、FTCは、本改正の効力発生と併せて、現在は運用が停止されている待機期間の早期終了制度の再開を予定していることを発表しました。
本改正は、HSRファイリングが必要となる要件、提出義務者、審査手続の流れや審査期間を変更するものではなく、HSRファイリングの提出時に当事者が提供すべき情報や書類の範囲を大幅に拡大することを目的としています。本改正では、2023年改正案で提案されていた、当事者にとって非常に重い負担を課す内容の一部は削除されたものの、当事者により広範かつ膨大な情報提供を求めるという基本的な方向性は崩れておらず、HSRファイリングが必要となる取引において、手間、時間及び費用の面で大きな負担となること、また、場合によってはより精緻な競争分析が必要になることが予想されます。FTCによると、具体的には、本改正に従ってHSRファイリングの準備をするための時間として、ファイリングをする各当事者に1件当たり追加で68時間程度(ファイリング1件当たり)の負担増が見込まれるとのことです。特に、プライベート・エクイティ・ファンドや投資会社のように同一業界において複数の投資を行っている場合には、HSRファイリングの準備のために実際に必要となる時間や費用が増大することが予想されます。
本改正は、当事者の大幅な負担増が想定され、買収取引の進め方自体にも多大な影響を与える可能性があり、また、効力発生日までの期間がそれほど長くないこともあって、非常に注目されています。そこで、本ニュースレターでは、本改正のポイントをご紹介します。
FTCによると、今回の改正の趣旨は、FTC及び米国司法省反トラスト局が、反トラスト法上違法となる企業結合取引を取引完了に先立って発見するための能力を向上させること、並びに、コーポレートストラクチャー及び取引実行の変化並びに事業が競合する方法についての市場の現状に対応することにあるとしています。本改正において、両当局が新たに注目をしている分野やポイントは以下のとおりです。
以上を踏まえた、本改正での具体的な変更点のポイントは以下のとおりです。
なお、covered entityがリミテッドパートナーシップである場合は、(a)ジェネラルパートナー及び(b)一定の戦略的権利(covered entity、ジェネラルパートナー又はcovered entityのマネジメント会社の取締役会構成員又はそれと同様の責任を有する個人として従事したり、これらの者を指名、選任、拒否若しくは承認したりする権利等)を有する5%以上の持分権を有するリミテッドパートナーについての報告が求められます。
なお、2023年改正案に含まれていた、提出当事者の従業員に関する情報(職業分類、勤務地、競合従業員の地理的市場情報等)や過去10年間の買収取引に関する情報等に係る提出要求は、本改正では削除されています。
本改正を受けて、今後、企業結合取引を検討している当事者(特に、プライベート・エクイティ・ファンドや投資会社等)は、HSRファイリングの準備のためにこれまでよりも更に多くの時間と労力が求められることが見込まれます。本改正により追加で求められている情報は、現行制度であれば、当初のHSRファイリングの後に、(主に競争上の懸念が存在する場合に)待機期間やセカンドリクエストの過程で当局の裁量によって追加の提供が要求されるような種類の情報ですが、本改正によって、HSRファイリングが必要になる全当事者がファイリング時にこれらの情報を提供しなければなりません。
今後、HSRファイリングの準備に掛かる時間や手間を理由に取引のクロージングのタイミングが遅れるような事態を避けるため、実務上当事者として対応すべきこととして、以下が考えられます。
その他の留意点として、本改正では、HSRファイリングの際に求められる情報により主観的な要素が含まれる(例えば、競合製品の有無等)ため、ファイリングに記載された内容に関連して当局との間で追加のやり取りが発生し、クロージングの更なる遅延に繋がる可能性も考えられます。
また、本改正によって当事者が提供すべき情報や書類が拡大したことで、当局は市場の定義等の論点について当事者に対して記録に残すことを求めることになるため、それらの証拠はセカンドリクエストや企業結合取引の差止め等の裁判手続において(場合によっては、将来の別の企業結合取引の審査において)当事者に不利な方向で使われ得るというリスクも考えられます。
なお、本改正が、当局からの示唆を受けて当事者がファイリングを一度撤回して再提出するという実務対応(実務上、「pull and refile」と呼んでおり、当初の30日の審査期間では当局によるレビューが完了しない見込みであるが、より大掛かりな手続であるセカンドリクエストには進めずに、再提出による再度の30日間の審査でレビュー完了を目指すもの)の運用や、セカンドリクエストの運用にどのような影響を与えるのかについては、現時点ではまだ見通しが不明確です。ファイリング当初から広範かつ詳細な情報が提出されることで、当局の分析により多くの時間が掛かり、「pull and refile」が求められる場面やセカンドリクエストに進む場面が増える可能性もあるかもしれません。他方で、当局が当初から競争分析に必要な情報を的確に取得できることで、特に競争法上のリスクの少ないようなケースでは、これまで以上に迅速に審査が完了する可能性もあります。これらの点については、今後の実務を注視する必要があります。
※2
当事務所発行の米国最新法律情報No.95/独占禁止法・競争法ニュースレターNo.23「米国HSR企業結合届出のフォームの改正案について」(2023年7月)
※4
FTCによると、「supervisory deal team lead」とは、当該人物の肩書のみでは判断されず、取引を機能的に先導するか又は取引についての日常的なプロセスを取りまとめる者であり、また、取引についての最終決定権を有している必要はないものの、取引の評価の作成又は監督について責任を負い、取引についての最終決定権を有する者(officerやdirector等)とのコミュニケーションに関与する者とされています。
※5
42 U.S.C. 18741(a)(5)
※6
42 U.S.C. 18741(a)(5)(C)
※7
19 U.S.C. 1677(5)(B)
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
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