塚本宏達 Hironobu Tsukamoto
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経済安全保障
2024年9月5日、米国商務省産業安全保障局(the U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry and Security、以下「BIS」といいます。)は、先端半導体、量子コンピュータ等の先端技術に関する規制を実施するための新たな暫定最終規則※1(“Commerce Control List Additions and Revisions; Implementation of Controls on Advanced Technologies Consistent With Controls Implemented by International Partners”、以下「本暫定規則」といいます。)を公表しました。BISによれば、本暫定規則は、①量子コンピュータ品目(量子コンピュータ、並びに量子コンピュータの開発及び保守に利用可能な関連機器、部品、材料、ソフトウェア及び技術)、②先端半導体製造装置(先端半導体デバイスの製造に不可欠な装置及び機器)、③GAAFET※2技術(スーパーコンピュータに利用可能な高性能コンピューティングチップの製造又は開発の技術)、及び④積層造形※3(Additive Manufacturing)品目(金属又は金属合金部品を製造するために設計された装置、部品並びに関連技術及びソフトウェア)に対する新たな規制を導入するとともに、米国と同じ考えを持つ信頼できるパートナーのために新たな許可例外規定を設けることで、輸出管理システムの機動性を確保することを目的とするものとされています※4。本規則は2024年9月6日付で施行されています。
本暫定規則は、半導体、量子技術及び積層造形関連の品目を管理するために、新たに18のECCNを追加※5し、また、既存の9つのECCNの内容を改訂しています。これらのECCNの多くは、次項以下でご説明する新たな許可要件(License Requirement)の対象となるとともに、許可例外適用輸出管理(License Exception Implemented Export Controls)及び一般許可(General License)の対象とされています。
半導体関連として、新たにECCN 3E905が追加されています。GAAFET技術により製造された集積回路は、従来のアーキテクチャーと比較して効率が良く、また、消費電力が少ないため、より高速で強固な人工知能やその他の軍事及び商業転用が可能とされています。そのため、ECCN 3E905では、GAAFET構造を用いた集積回路又は装置の開発又は生産のための技術が新たに規制品目として指定されています。なお、ECCN 3E905には「プロセスレシピ」(process recipes)が含まれるものの、GDSII形式の物理レイアウトファイル、EDAツール、集積回路設計の物理レイアウトファイルを作成するための技術等は対象外とされています。
量子技術関連として、量子コンピュータ及び関連する電子部材・部品(ECCN 4A906)、特定の低温冷却システム(ECCN 3A904)、特定の低温ウェーハプロービング装置(ECCN 3B904)、並びに量子コンピュータに使用される特定の材料(ECCN 3C907、3C908、3C909)が新たに規制品目として指定されています。また、量子コンピュータ及び関連する電子部材・部品(ECCN 4A906)の開発又は製造のためのソフトウェア(ECCN 4D906)も含まれることとされています。
積層造形関連として、ECCN 2B910、2D910、2E903、2E910、及び2E003において、金属又は金属合金部品を製造するために設計された特定の装置や、その装置に関連するソフトウェア及び技術、さらにはコーティングシステムの開発又は製造に関する技術が新たに規制品目として指定されています。今日では、金属積層造形装置が航空機、ミサイル、推進システム等の軍事装置の部品や部材の製造に利用されており、将来的には、次世代の金属積層造形装置が高精度かつ高い制御性能を備えることで、部品や部材の性能・特性が大幅に向上し、高度な軍事能力を創出することが想定されているため、規制対象が拡大されています。
輸出管理規則(EAR)では、ECCNが割り振られている品目に関する取引を行う場合、Commerce Country Chart※6を確認し、規制品目リストに記載されている対象品目の規制理由と、当該取引の仕向地とが交差する欄にXが記載されていれば、許可例外(License Exception)に該当しない限り、輸出許可の取得が必要とされています。このような輸出許可の取得に関して、本暫定規則では、国家安全保障を規制理由とする品目(ECCNの3桁目が0の品目)と、地域的安定性を規制理由とする品目(ECCNの3桁目が9の品目で、規制理由にRS:Regional Stabilityが記載される品目)に関して、新たな許可要件が追加されています。なお、いずれの規制理由についても、本暫定規則の施行日時点において利用されている技術やソフトウェアに対する継続的なアクセスを認めるため、一定のみなし輸出及びみなし再輸出について新たな許可要件が適用されない旨が規定されています。
規制品目リスト内で§742.4(a)(5)が参照されている場合、国家安全保障の目的で世界的な許可要件が課されます。当該許可要件のポイントは以下のとおりです。
①審査基準:カントリー・グループ「A:1」に指定された国への輸出又は再輸出に対するライセンス申請は承認の推定(presumption of approval)が働くこととされています。他方、カントリー・グループ「D:1」又は「D:5」 ※7に指定された国への輸出又は再輸出は、拒否の推定(presumption of denial)が働くこととされています。それ以外の国の場合は、個別に審査がなされ、カントリー・グループ「D:1」又は「D:5」に指定された国の軍事的能力への貢献や地域の不安定化リスクを考慮して審査がなされることとされています。
②対象となるECCN:2B910、2D910、2E903、2E910、3A901、3A904、3B001.c.1.a、3B001.c.1.c、3B001.q、3B903、3B904、3C907、3C908、3C909、3D001(3B001.c.1.a、3B001.c.1.c、3B001.q用)、3D002(3B001.c.1.a、3B001.c.1.c用)、3D901、3D907、3E001(3B001.c.1.a、3B001.c.1.c、3B001.q用)、3E901、3E905、4A906、4D906、4E906
規制品目リスト内で§742.6(a)(10)が参照されている場合、地域的安定性の目的で世界的な許可要件が課されます。当該許可要件のポイントは以下のとおりです。
①審査基準:上記1.①と同様
②対象となるECCN:上記1.②と同様
③国家安全保障を規制理由とする品目について、通常地域的安定性を規制理由とした規制が二重に課されることはないものの、1.②の対象となるECCNはCFIUSが指定する「重要技術」(critical technology)にも該当するため、一部例外的に地域的安定性を規制理由とした二重の規制が課されています。
本暫定規則は、上記新たに追加されたECCN対象品目を含む特定の品目について、米国と同等の技術的な規制を実施している一定の国に対して、許可例外を認める適用資格を規定しています。具体的には、BISが公表する「許可例外IEC対象品目及び対象国」(License Exception IEC Eligible Items and Destinations)チャート※8に記載された各ECCN対象品目について、当該チャートに記載された特定の国に対する輸出、再輸出及び国内移転が個別の輸出許可を経ることなく認められることとなります。本ニュースレター発行時点において、対象品目として、ECCN 2B910、2D910、2E903、2E910、3A901、3A904、3B001.c.1.a、3B001.c.1.c、3B001.q、3B903、3B904、3C907、3C908、3C909、3D001(3B001.c.1.a、3B001.c.1.c、3B001.q用)、3D002(3B001.c.1.a、3B001.c.1.c用)、3D901、3D907、3E001(3B001.c.1.a、3B001.c.1.c、3B001.q用)、3E901、3E905、4A906、4D906及び4E906が指定されており、品目毎に、日本、英国、イタリア、フランス、ドイツ、スペイン、オーストラリア、カナダ等の国が列挙されています。なお、BISによれば、「許可例外IEC対象品目及び対象国」チャートは、各国の輸出管理の状況に応じて、適時にアップデートされる見込みとのことです。
本暫定規則は、米国の技術的優位性を維持しつつ、先端技術にかかる現在進行中の開発や研究への悪影響を回避する観点から、以下のとおり、2つのGAAFET技術に関する一般許可※9及び1つの量子コンピュータ品目に関する一般許可を新たに追加しました。
この一般許可では、ECCN 3E905で特定されているGAAFET技術を、集積回路の開発又は生産のために、カントリー・グループ※10で「A:5」又は「A:6」に指定された国に所在するエンドユーザーに対して、輸出、再輸出又は国内移転することが許可されています。なお、当該開発又は生産は、2024年9月6日以前に開始された場合に限られる点に留意が必要です。
この一般許可では、ECCN 3E905で特定されているGAAFET技術を、2024年9月6日時点で既に雇用されている非米国人の従業員や個人事業主に対して、みなし輸出又はみなし再輸出することが許可されています。これらの非米国人は、直近の市民権又は永住権がカントリー・グループで「D:1」又は「D:5」に指定された場所にある者であり、かつ、EAR Part 744で禁止された者(例えば、エンティティリスト、未検証リスト、軍事エンドユーザーリスト等に掲載された者)ではない場合に限られます。
この一般許可では、ECCN 3D901及び3E901で特定されている量子ソフトウェア及び技術(ECCN 3A901.bや3B904の量子品目に関連するもの)や、ECCN 4D906又は4E906で特定されている量子品目を、非米国人に対して、みなし輸出又はみなし再輸出することが許可されています。これらの非米国人は、直近の市民権又は永住権がカントリー・グループで「D:1」又は「D:5」に指定された場所にある者であり、かつ、EAR Part 744で禁止された者ではない場合に限られます。
これらの一般許可に基づく輸出、再輸出及び国内移転(みなし輸出及び再輸出を含む。)は、①Supplement No. 1 to Part 736 (f)(4)に基づく年次報告、②Supplement No. 1 to Part 736 (f)(5)に基づくエンドユーザーの制限、③Supplement No. 1 to Part 736 (f)(6)に基づく記録保管要件の対象となる点に留意が必要です。
※2
半導体トランジスタの設計方式の1つであり、従来の設計と比べて性能とエネルギー効率が向上しているため、低消費電力と処理速度の向上が重要な高性能コンピューティングチップ、人工知能、5G通信システム等の用途に特に適しているとされています。全周ゲートFET技術ともいいます。
※3
金型を用いず3Dデータモデルからレイヤー毎に材料を接合し積み重ねて形状を造る技術のことをいいます。
※5
具体的には、2B910、2D910、2E903、2E910、3A901、3A904、3B903、3B904、3C907、3C908、3C909、3D901、3D907、3E901、3E905、4A906、4D906及び4E906が追加されています。これらはECCN番号の3桁目が9と指定されていることから、「900シリーズ」と呼ばれています。
※7
中国、イラン、イラク、ロシア等の国が指定されています。
※9
一般許可とは、特定の要件を満たす取引や活動についてあらかじめ輸出許可を付与する制度をいいます。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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