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ホワイトカラーエグゼンプションの最低給料基準の増額を定めた規則を無効とした連邦地方裁判所の判断について(State of Texas v. U.S. Department of Labor事件)

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

著者等
塚本宏達佐藤恭平(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T U.S. Law Update ~米国最新法律情報~ No.133(2024年12月)
業務分野
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 米国の公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)(以下「FLSA」といいます。)上の最低賃金及び時間外労働手当ての規定の適用除外(エグゼクティブ職等のいわゆるホワイトカラーエグゼンプション等)のための最低給料基準について、2024年4月に米国労働省(Department of Labor)(以下「DOL」といいます。)がその基準を増額する内容の規則を定めていましたが、2024年11月15日、テキサス州東部地区連邦地方裁判所において、かかる規則は無効と判断されました(以下「本判断」といいます。)※1

 今回、裁判所は上記規則が全米において無効であると判断したため、(本ケースの当事者のみならず)米国における全ての使用者において、FLSA上のホワイトカラーエグゼンプションとして取り扱われる従業員の範囲に影響を与えることになります。2024年4月にDOLが制定した上記規則に基づき、相当数の会社において一部の従業員のエグゼンプトの資格を維持するための給料額の増額が既に実施されていたり、今後実施される予定であったことを踏まえると、本判断の影響は非常に大きいものと考えられます。

 そのため、以下では、ホワイトカラーエグゼンプションの概要を説明しつつ、本判断の内容やその意義等について紹介します。

ホワイトカラーエグゼンプションについて

 FLSAでは、週40時間を超えて勤務する従業員の最低賃金及び時間外労働手当てに関する使用者の義務が定められていますが、エグゼクティブ職(executive)、管理職(administrative)又は専門職(professional)に従事する従業員等について、FLSA上の上記義務が除外されています(いわゆるホワイトカラーエグゼンプション)。

 もっとも、特定の従業員をホワイトカラーエグゼンプションとして取り扱うためには、FLSA上の要件を満たす必要があります。FLSAでは、ホワイトカラーエグゼンプションについて、当該従業員が「真正なエグゼクティブ職、管理職又は専門職の立場で雇用されている(employed in a bona fide executive, administrative, or professional capacity)」必要があると規定されていますが、FLSAではこれらの用語は具体的に定義されておらず、労働長官が定める規則によって定義され、範囲が定められると規定されています(FLSA 213条(a)(1))。

 上記のFLSAの規定を受けたDOLの規則では、ホワイトカラーエグゼンプションに該当するためには、基本的には、①当該従業員の主な職務内容がエグゼクティブ職、管理職又は専門職の職務であること(job duties基準)、②業務の量や質にかかわらず事前に決定された金額の給料がサラリーとして支払われること(salary basis基準)、及び③当該従業員が一定額を超える給料を受領していること(最低給料基準)のいずれも満たす必要があると規定されています(29 CFR Part 541)。もしこれらの基準を一つでも満たさない場合には、当該従業員はノンエグゼンプト従業員とみなされ、使用者は、当該従業員に対してFLSA上の最低賃金及び時間外労働手当ての義務を負うことになります。

 2024年4月26日、DOLは、ホワイトカラーエグゼンプションに適用される上記③の最低給料基準を、週1,128ドル(年58,656ドル)に増額し、また、最新の賃金データを反映すべく3年ごとにこれらの基準を調整する仕組みを導入する内容の規則(以下「2024年規則」といいます。)を公表しました※2。この2024年規則では最低給料基準の二段階での増額が予定されており、ホワイトカラーエグゼンプションについては、2024年7月1日以降、週684ドルから844ドル(年35,568ドルから43,888ドル)に増額し※3、2025年1月1日以降、週844ドルから1,128ドル(年43,888ドルから58,656ドル)に増額することになっていました※4

 その後、テキサス州や事業者団体等によって、テキサス州東部地区連邦地方裁判所において上記の2024年規則の有効性が争われました。

本判断について

 本件訴訟において、原告側は、2024年規則は、ホワイトカラーエグゼンプションへの該当性について、FLSAの文言により求められる職務内容に基づいた基準(つまり、上記①のjob duties基準)が、最低給料基準と取って替えられてしまう程度にまで最低給料基準を増額する内容であるため、DOLがFLSAにおいて認められた権限の範囲を超えて定めたものであると主張し、その有効性を争いました。

 2024年11月15日、テキサス州東部地区連邦地方裁判所は、全米において2024年規則を無効とする旨の判断を下しました。その理由として、FLSAの文言(「真正なエグゼクティブ職、管理職又は専門職の立場で雇用されている(employed in a bona fide executive, administrative, or professional capacity)」)に照らすと、ホワイトカラーエグゼンプションへの該当性は給料の金額ではなく職務の内容により判断されるべきであること(FLSAでは給料の額への言及はありません。)、2024年規則においてホワイトカラーエグゼンプションのための最低給料基準を高く設定した結果、本来依拠されるべきjob duties基準がほとんど機能しなくなり、事実上給料額のみがホワイトカラーエグゼンプションの基準になってしまうこと※5等が挙げられています。

 実際、job duties基準を満たしているにもかかわらずエグゼンプトの資格を失うことになる従業員が多数存在していました。裁判所は、DOL提供のデータに基づき、給料が週684ドルから844ドルの間の従業員の少なくとも約3分の1はjob duties基準を満たしていた(が、2024年規則に基づく2024年7月1日の最低給料金額の増加により、エグゼンプトとして取り扱われなくなったはずである)と試算しています。

本判断の意義について

 本判断の意義、今後の見込み及び本判断を受けて考えられる対応としては、以下のとおりです。

  • 本判断を受けて、2024年規則は全米において無効となりました※6。2024年規則において予定されていた2025年1月1日付けでの最低給料基準の変更は効力を有しないことになり、また、2024年7月1日付けで効力が生じていた最低給料基準の変更も無効となります。そのため、連邦レベルでのホワイトカラーエグゼンプションの最低給料基準は、2024年7月1日より前の水準、つまり、週684ドル(年35,568ドル)に戻ります。
  • DOLは2024年11月26日に本判断について上訴したため、今後の動向につき注視が必要です。
  • 本判断を受けて、使用者側の対応としては、上訴等の動向に注視しつつ、(1)2024年規則で定められていた新たな最低給料基準に合わせるための従業員の給料の増額等、予定されている雇用条件の変更を取りやめる、(2)2024年規則を遵守するために既に行われていた雇用条件の変更を元に戻す(但し、既に支払った給料を取り戻すことはできません。)、又は(3)2024年規則を遵守するために既に行われていた雇用条件の変更についてそのまま維持する等の選択肢を検討することが考えられます。

 なお、州や地方自治体によっては、連邦レベルのホワイトカラーエグゼンプションの基準よりも厳格な基準を定めている場合もありますので、この点については注意が必要です。

脚注一覧

※1
State of Texas v. U.S. Department of Labor, No. 4:24-cv-499 (E.D. Tex. Nov. 15, 2024)

※3
この増額により、約百万人の従業員がエグゼンプトではなくなったとされています。

※4
この増額により、更に約三百万人の従業員がエグゼンプトではなくなる想定でした。

※5
本判断において、最低給料基準は、明らかにノンエグゼンプトである従業員を排除するためだけに設定されているため、意図的に低い金額で設定されるべきであり、その点については歴史的に見てDOLも理解していたと説明されています。

※6
なお、2024年規則では、ホワイトカラーエグゼンプションだけでなく、高額給料従業員(“highly compensated” employee)のエグゼンプションの年間最低給料基準についても増額する内容が含まれていました。本判決では、かかる高額給料従業員のエグゼンプションについては明示的には分析されていませんが、脚注において、ホワイトカラーエグゼンプションの最低給料基準の変更に関する裁判所の分析が同様に妥当する旨が記載されています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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