
カラ・クエック Kara Quek
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シンガポール
NO&T Dispute Resolution Update 紛争解決ニュースレター
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ニュースレター
【From Singapore Office】SIACの新仲裁規則(第7版)施行 第1回 少額事件へのStreamlined Procedureの自動適用と保護的予備命令制度の導入について(2025年1月)
【From Singapore Office】シンガポール国際仲裁の最新動向2025(2025年5月)
前回の本ニュースレターでは、シンガポール国際仲裁センター(以下「SIAC」という。)による2025年1月1日施行のSIAC仲裁規則(第7版)(以下「新規則」という。)について、2016年版旧規則からの2つの重要な改正のポイントを紹介した。
第1回に引き続き、本稿では、新規則における2つの重要な変更点として、(i)仲裁手続と並行して行われる調停等による和解の強調、(ii)公正な仲裁人の選解任のための規律の拡充を紹介する。
2014年にシンガポール国際調停センター(以下「SIMC」という。)が設立された際、SIACとSIMCとが連携し、「Arb-Med-Arb」プロトコルを策定した(以下「SIAC-SIMC AMAプロトコル」という。)。SIAC-SIMC AMAプロトコルの目的は、SIAC規則で行われる仲裁事件について、当事者に調停による紛争解決を促す点にあった。
新規則は、様々な段階においてSIAC-SIMC AMAプロトコル等による友好的な紛争解決に言及しており、和解のための調停の役割をさらに強調するものとなっている。
条文番号 | 項目名 | 条文仮訳 |
---|---|---|
6.4 | 仲裁通知(Notice of Arbitration) | 仲裁通知には、紛争の全部または一部の解決のために、SIAC-SIMC AMAプロトコルに基づく調停等の友好的な紛争解決手段の採用に関する記載[…]を含めることができる(The Notice may include […] any comment on the adoption of amicable dispute resolution methods such as mediation under the SIAC-SIMC AMA Protocol for the settlement of all or part of the dispute.)。 |
7.3 | 仲裁通知に対する答弁(Response to the Notice of Arbitration) | 答弁書には、紛争の全部または一部を解決するために、SIAC-SIMC AMA プロトコルに基づく調停等、友好的な紛争解決手段の採用に関する記載を含めることができる(The Response may include any comment on the adoption of amicable dispute resolution methods such as mediation under the SIAC-SIMC AMA Protocol for the settlement of all or part of the dispute.)。 |
32.4(a) | 手続の遂行(Conduct of the Proceedings) | 初回の手続準備会議において、仲裁廷は、SIAC-SIMC AMA プロトコルに基づく調停等の友好的な紛争解決手段の採用を含め、紛争の全部または一部の解決の可能性について、追加的に当事者と協議することができる(At the first case management conference, the Tribunal may additionally consult with the parties on […] the potential for the settlement of all or part of the dispute, including through the adoption of amicable dispute resolution methods such as mediation under the SIAC-SIMC AMA Protocol.)。 |
50.2(l) | 仲裁廷の付加的権限(Additional Powers of the Tribunal) | 仲裁廷は、[…] 当事者がSIAC-SIMC AMAプロトコルに基づく調停等の友好的な紛争解決手段を採用するために必要な指示を行う権限を有するものとする。この権限には、仲裁手続の停止も含まれる([…] the Tribunal shall have the power to […] make any necessary directions, including a suspension of proceedings, for the parties to adopt any amicable dispute resolution methods such as mediation under the SIAC-SIMC AMA Protocol.)。 |
上記のとおり、新規則では、当事者は、紛争の早い段階から、友好的な紛争解決を検討するよう促され、仲裁廷もまた、当事者と和解の可能性について協議することが奨励されている。さらに、仲裁廷には、当事者が調停等の仲裁外の紛争解決手段を模索している場合に仲裁手続を一時停止する権限が明示的に付与されている。調停等による和解に関する新規則の上記各規定は、強制的な性質を有するものではないが、SIAC仲裁が申し立てられた事件について、友好的な紛争解決の検討を促進するものといえる。
新規則では、公正かつ透明性の高い仲裁人の選解任手続を担保するために、以下の点が変更されている。
これらの改正は、仲裁人の中立性、公平性を強化し、仲裁手続全体をより公正なものとするものである。また、仲裁人が公平性を欠く事態は仲裁判断の取消事由となり得るため、そのような事態を回避するための規律の拡充により、仲裁判断の取消のリスクを下げることが期待される※1。
このように、新規則の上記改正は、可能な限り友好的な紛争解決を促進しつつ、和解交渉が不奏功の場合にも仲裁判断の執行可能性を確保し、その両側面から紛争をより効果的に解決しようとするSIACの姿勢を反映している。
※1
実際に、シンガポール国際商事裁判所は、近時のDJO対DJP事件 [2024] SGHC(I) 24において、自然的正義の原則違反を理由に仲裁判断を取り消したが、理由の一つとして、仲裁廷の長が公平性を欠いていたことが挙げられた。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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