
ジャスティン・イー Justin Ee
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シンガポール
NO&T Dispute Resolution Update 紛争解決ニュースレター
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仮に、施工業者が、合意された設計通りの丸柱ではなく、誤って角柱で住宅を完成させ、かかる不適合を是正する唯一の方法が住宅全体を取り壊し、建て直すことであった場合、所有者は債務不履行に基づく損害賠償として契約不適合の修補費用を請求できるだろうか。
仮に施工業者側が、所有者が実際には契約不適合を修補するつもりがないこと、あるいは修補のための費用を支払っていないことを証明した場合、所有者が、施工業者の不当な犠牲の上に過大な利益を得ているとして、かかる費用を受け取ることができないとするべきか。それとも、所有者は、契約不適合による住宅価値の減少分に相当する損害賠償のみを受け取る権利を有するべきだろうか。
過去の裁判例や解説で様々な見解があるように、これらは単純な問題とはいえない。幸いにも、シンガポール高等裁判所のAppellate Divisionは、Terrenus Energy SL2 Pte Ltd v Attika Interior MEP Pte Ltd and another appeal [2025] SGHC(A) 4(以下「本判決」という。)という最近の裁判例において、これらの問題に関する原則的な立場と指針を示した。
裁判所は、原則として、原告が実際に修補を行う意思の有無や修補費用の発生にかかわらず、契約不適合の修補費用を請求する権利を有すると判断した。この立場の基礎にあるのは、損害賠償は原告の損失を補償し、契約が履行されたかのような状態に回復させるものであるという根本的な原則である。ただし、契約不適合の修補費用が認められた結果、結論の合理性や比例性が損なわれるといった要素が存在する場合は、修補費用が不当とされ、否定される可能性もある。
本判決において、太陽光発電所の請負業者は、契約によってソーラーパネル・ロッドを最低深度として500mm以上埋め込む仕様で設置するよう求められていたが、これを怠った。
プラント所有者は、欠陥工事による契約不適合の修補費用を請求する訴訟を提起した。所有者は、埋め込み最低深度を達成できなかったことが、強風時にソーラーパネルが構造的に破損する危険性を生じさせたと主張した。これに対して、請負業者は、所有者が不適合の程度と構造的な欠陥による危険性を立証していないと主張した。
裁判長は、所有者が工事に実質的な欠陥があったことを示せなかったとして、1,500シンガポールドルのごく僅かな損害賠償を命じた。所有者は判決を不服として控訴した。
控訴審は、所有者は契約不適合の程度を立証できなかったため、相当額の損害賠償を受ける権利はないとし、控訴を棄却した。
上記の決定により、所有者の控訴は棄却されたが、裁判所は、仮に所有者が契約不適合を立証していた場合、契約不適合の修補費用の請求が認められるかという2つ目の争点について、判断を示した。
請負業者は、(i) 構造的な欠陥の現実的な危険性がないにもかかわらず、契約不適合の修補を行うことは比例的でなく、不合理である、(ii) さらに、所有者が主張する不適合を是正する意思がない、という理由で、契約不適合の修補費用を認容すべきではないと主張していた。
裁判所は、原則として、原告(控訴人)は契約不適合の修補費用を請求できると判断した:
そのため、修補の意思は、修補費用の請求を認めるための前提条件ではない。
また、裁判所は、契約違反による損失は契約違反の時点で発生するものであり、修補費用の発生は回復可能性とは無関係であるところ、修補費用が実際に支出されたものであることは必要ないことを明らかにした。
しかし、裁判所は、契約不適合の修補費用の請求権について、合理性と比例性を考慮して一定の制限に服するとした。特に、契約不適合の修補の金額が期待損失の価値と比例しない場合、原告が理論上、修補費用の支払いによって本旨に従ったのと同様の履行を受ける権利を有していたとしても、修補を与えることは実際的または経済的に不合理な場合があり得るとした。
この点において、契約不適合の修補の意思の有無は、特に原告の「消費者余剰」、すなわち客観的価値を上回る合意履行の主観的価値を示すことになる場合、修補費用請求の合理性と比例性を評価するための考慮要素となりうる。その他の要素は以下のとおり:
冒頭の仮想事例に戻ると、所有者に対する修補費用の賠償は、一応の救済となるが、合理性と比例性の検討結果によっては、否定される可能性が残る。
上記の例で、角柱が家の安全性やスペースに重大な影響を与えない場合、不適合に対して比例的でない修補費用が正当化できるような、他の重大な価値の損失がない限り、所有者は契約不適合に基づく修補費用を請求できる可能性は低い。仮にそのような重大な損失が観念できるのであれば、修補により家を再建する意思があるかどうかは、重要な考慮要素となるだろう。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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