
平川雄士 Yushi Hegawa
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NO&T Tax Law Update 税務ニュースレター
ニュースレター
組織再編成に関する行為計算否認規定を適用してなされた更正処分が初めて取り消された事例(東京地裁令和6年9月27日判決)(2024年12月)
セミナー
租税法務「事後」編 ~最高裁における租税争訟の最新実務(2024年10月)
組織再編成に係る包括的否認規定といわれる法人税法132条の2の解釈適用が司法の場で争われた「3番目」の事件であるいわゆるPGM事件については、一審判決(東京地判令和6年9月27日)においては納税者が勝訴していたところです。
国側は控訴していましたが、今般、控訴審判決(東京高判令和7年7月23日)がありました。結論は、納税者勝訴(控訴棄却、一審判決維持)でした。そこで、控訴審判決の内容を、速報としてお伝えするとともに、若干の所感を述べます。
速報ですので、裁判例の紹介としては異例ながら、事実関係や一審判決の判示内容については、先の当事務所のニュースレターに譲ることとし、控訴審判決と一審判決の「差分」に焦点を当てます。
PGM事件における大きな関心事は、完全支配関係にある法人間の適格合併の場合においても、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続が必要とされるのか否かという点でした。より正確にいえば、完全支配関係にある法人間の適格合併における繰越欠損金の引継ぎ(法人税法57条2項)を法人税法132条の2を適用して否認する場合に、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続があることが法人税法57条2項の本来の趣旨及び目的であると解した上で、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を欠く場合には、その適格合併は法人税法57条2項の本来の趣旨及び目的を逸脱するもので同項の濫用であるとして、法人税法132条の2にいう不当性要件に該当することになるのか否かという点でした。
一審判決は、この点を否定的に解していました。つまり、完全支配関係のある法人間の適格合併について、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続が、法人税法57条2項の適用の前提になっている、あるいは、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続がない完全支配関係のある法人間の適格合併にこれらの規定を適用することはその本来の趣旨及び目的に反するなどと解することはできない旨判示していました。この判断は、先行した法人税法132条の2の事件の「2番目」の事件であるTPR事件判決(東京高判令和元年12月11日)の判示(完全支配関係にある法人間の適格合併の場合においても、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続が必要となる旨)を事実上否定するかのようなものであったため、今般の控訴審判決においても、上記の点が租税実務界の大きな関心事となっていたところでした。
しかして、控訴審判決は、上記一審判決の判断を維持・是認しています。その上で、控訴審判決は、控訴審における国側の主張に対する応答として、以下の趣旨を追加的に説示しています:
この控訴審判決により、上記の論点については、TPR事件判決(こちらは確定)と本件のPGM事件判決という、少なくとも法令解釈・規範レベルでは相反するかのような高裁判決が並立する状態※1となったものと思われます。かかる状況に照らして、PGM事件につき、国側が上告受理申立てを行うのか、また行う場合には最高裁による統一的判断がなされるのか(TPR事件のように不受理とはならないのか)、なされるとすればそれはいかなる(いずれの判決に寄った)判断となるのか、が注目されるところです。
当職としては、この論点については、多数の論者と同じにはなりますが、TPR事件一審判決のころから一貫して、PGM事件判決の解釈が(理由付けは措いて)正しいと考えており、できるだけ説得的な理由付け(TPR事件判決の批判)としての解釈論を模索していたところです(拙稿「TPR事件判決とPGM事件裁決の批判的検討-法人税法57条2項の趣旨の理解は正しいのか-」税務通信3720号(2022年)15頁、拙稿「立法趣旨論再考―最判令3.3.11から近時の法132条の2による否認事例を考える―」租税研究864号(2021年)94頁)。また、当職の最高裁における数々の租税訴訟の経験に基づき、「租税法務『事後』編 ~最高裁における租税争訟の最新実務」とのセミナーを行ったこともあります。
控訴審において、国側は、法人税法132条の2の不当性要件の判断に当たっては、税負担の減少目的とそれを除外した事業目的を区別した上で、その主従関係を考慮すべき旨の主張をしていました。同主張に対する応答として、控訴審判決は、以下の趣旨を追加的に説示しています:
同説示は、実務上もよく問われる点に係るものであり、注目すべきものといえます。つまり、税目的と税以外の事業目的が、例えば、9:1であればほぼ確実に否認されるのか、6:4でも危ないか、5:5では微妙か、はたまた3:7であればほぼまあセーフなのか、といったことです。このような問いは、ユニバーサルミュージック事件最高裁判決(最一小判令和4年4月21日)が、(法人税法132条の2ではなく)同族会社等の行為計算否認規定である法人税法132条1項の不当性要件として、いわゆる経済合理性基準をとることを宣明した上で、「日本の関連会社の資本構成に負債を導入する・・・目的には、多額の利益を生じていたUMKKの事業を承継した被上告人に対して多額の利息債務を負担させることにより、被上告人の税負担の減少をもたらすことが含まれていたといわざるを得ない。しかしながら、本件組織再編取引等には、税負担の減少以外に、前記(ア)に説示したとおりの目的があり、これらは、本件組織再編取引等を行う合理的な理由となるものと評価することができる。」と判示していたことから、あらためて実務上もよく問われるようになったということと拝察されます。
上記の控訴審判決の説示について、現時点で確たる解釈を施すのは難しいところです。税目的と税以外の事業目的が、例えば6:4であれば直ちに不当性要件に該当するというわけではなく、6:4であっても、また7:3であっても、不当性要件に該当しない場合はあり得るはあり得る、との趣旨に読み得るのではないかと思われます。他方で、そもそも、税目的のほうは定量化が可能であるとしても、税以外の事業目的のほうは、必ずしも定量化が容易ではないまたは適当ではないものも含まれることから(まさに上記ユニバーサルミュージック事件においてはそうであったといえます。)、そもそもx:yと定量化して捉えた上でどちらが上回るか(重いか)という思考様式で判断すること自体が適当ではないとの趣旨にも読み得るのではないかと思われます。さらには、法人税法132条の2の不当性要件(いわゆる濫用基準による)と、法人税法132条1項の不当性要件(いわゆる経済合理性基準による)とで、この点の捉え方が異なり得るのか、それとも同じになるのか、ということも、興味深いところです。
控訴審においては、国側は、本件の取引のストラクチャーについて、①合併時期及び合併相手という点で、欠損金引継ぎが可能となる時期かつ最も所得金額の多い法人(本件の納税者)が選択されており、これは税目的を基礎付けるものである、②いわゆる第二会社方式による事業再生ではbadなほうの(欠損金のある)法人を清算して法人格を消滅させるのが一般的であるところ、本件では清算をせず合併をしているから不自然である、③複数会社を合併する際には、合併を複数併存させるのが一般的であるところ、本件では二段階で順次合併しているから不自然である、④合併当事者の1つにおいて事前にその優先株式を少数株主から自己株取得し100%化したこと(もって完全支配関係を形成したこと)につき、そうしなくても優先株式の普通株式への転換権の放棄を求める(それで優先株式はそのまま存置しておく)方が経済的に合理的であり、そうしなかったことは経済的に不合理である、との趣旨の主張をしていました。
要は、税負担の減少が生じない(=欠損金の引継ぎができない)取引形式の選択の余地があったのに、そしてそちらの取引形式も自然ないしは経済合理性があるともいい得るのに、納税者はそうしなかったので、不当性要件に該当する、との趣旨の主張と思われます。
個別の具体的事実を踏まえて上記各々につき解説することはここではしませんが、控訴審判決は、上記いずれの主張についても、本件の取引のストラクチャーについての納税者の選択が合理性を欠きまたは通常あり得ないとは認められないとして、退けています。
実務上はよく認識されているところではありますが、納税者が実際に選択した、税負担の減少が生じる取引形式と、税負担の減少は生じないが税以外の点では実質的に同じ経済的効果を達成できる他の取引形式の2つが想定し得る場合においては、なぜ後者ではダメで前者をとるべきなのかという事業上等々の税以外の理由を正しく説明できるようにしておくことが重要であることを、あらためて認識させられる判断といえます。それができている限り、より税負担の重い(税負担の減少が生じない)取引形式を採用すべきことが、法人税法132条の2の不当性要件を介して、いわば事実上義務付けられる、ということまでは少なくともないということは、控訴審判決からいえるように思われます。
※1
同一ではないものの類似の状況は、いわゆるデラウェアLPS事件(3件)とバミューダLPS事件、またエー・ディー・ワークス事件とムゲンエステート事件においても存在していたところです。いずれも、(いずれかの件で)上告受理申立てが受理され判決に至ったことは周知のとおりです。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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