
塚本宏達 Hironobu Tsukamoto
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
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特集
経済安全保障
2025年8月19日、トランプ大統領は「輸出管理の透明性向上による米国優位維持法」(Maintaining American Superiority by Improving Export Control Transparency Act、以下「ECTA」といいます。)に署名し※1、※2、2018年輸出管理改革法(Export Control Reform Act of 2018)の一部を改正し、米国商務省産業安全保障局(the U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry and Security、以下「BIS」といいます。)に対し、輸出許可申請の状況等をまとめた報告書を毎年議会へ提出することを義務づけることとしました。従来、BISは自主的な情報提供を行っていたものの、ECTAにより制度的かつ義務的な報告体制が構築されることとなるため、今後は輸出許可の発行状況について義務的な情報公開を通じて一定の透明性が確保されることとなります。従来より、米国議会では、米国からの技術流出のリスクに対処するため輸出管理規則を積極的に活用し、かつ、執行措置の状況を積極的に監視しようとする姿勢が超党派で高まっており、ECTAはそのような流れを象徴したものであるといえます。
本ニュースレターでは、ECTAの概要および実務的な影響についてご紹介します。
ECTAにより、BISは、2026年8月19日までに、議会の特定の委員会に対して初回の報告書を提出することが義務づけられ、その後も少なくとも年一回の報告書の提出が義務づけられます。各報告書においては、”Covered Entities”に対するEAR対象品目の輸出・再輸出・国内移転に関して処理されたすべての輸出許可申請等の詳細を記載することが求められており、具体的には以下の項目が報告対象とされています。また、”Covered Entities”に関する申請全体の統計情報の提出も求められていますが、当該統計情報を除き、報告書の内容は原則として公開されないこととされています。なお、”Covered Entity”とは、①中国、ロシア、シリア等のカントリー・グループ「D:5」の国に所在し※3、かつ、②エンティティ・リスト※4または軍事エンドユーザーリスト※5に掲載されている主体と定義されています。
半導体を中心とした先端技術のグローバルサプライチェーンにおいて重要な役割を果たす日本企業にとって、ECTAはいくつかの実務的な示唆を含んでいます。
”Covered Entity”向けにEAR対象品目を輸出・再輸出・国内移転するための輸出許可申請を行う場合、当該申請内容が報告書を通じて議会に対して詳細に報告されることとなります。そのため、特定の相手方に対する輸出等の活動が政治的論争の的となる可能性があり、自社の輸出許可申請が政治的側面からどのように見られるか、政府関係者や議会との対応を考慮する必要があります。
議会に対する新たな報告義務を通じて、企業側としても輸出許可申請における申請書や添付書類の正確性・完全性がこれまで以上に重要となります。記録保持や内部監査プロセスを強化し、BISからの追加情報の要請や議会からの調査要請に迅速に対応できる体制を整備する必要があります。
BISが報告義務に対応する過程で、輸出許可審査がより厳格かつ長期間を要する可能性があります。輸出許可の取得を前提とした取引に関連する企業としては、サプライチェーン計画や顧客との契約条件に余裕を持たせ、調整コストを最小化することが重要と考えられます。
ECTAを通じて、短期的には、”Covered Entity”を相手方とする許可申請にかかるBISの審査プロセスがより厳格化することが予想されるため、当該申請を行う企業はコンプライアンスのための追加的な負担や時間的コストに直面する可能性があります。また、議会が輸出許可の詳細なデータを閲覧できるようになることで、規制の抜け穴や特定の技術・エンドユーザーへの規制強化を求める立法措置が今後さらに提起される可能性も考えられます。
上記のとおり、ECTAにおける”Covered Entity”の定義は一定程度限定されているため、ECTAの直接的な影響を被る企業の範囲は必ずしも大きくならないとも考えられます。もっとも、日本企業としては、米国議会による輸出管理への関与が強化される準備が着々と進められている状況が広がっていることを認識したうえで、早期に輸出管理のコンプライアンス体制を強化し、政治的・法的環境の変化に柔軟に対応する準備を整えておくことが重要と考えられます。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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