
塚本宏達 Hironobu Tsukamoto
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
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特集
経済安全保障
2025年9月29日、米国商務省産業安全保障局(the U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry and Security、以下「BIS」といいます。)は、輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下「EAR」といいます。)に基づき公表しているエンティティ・リスト※1及び軍事エンドユーザーリスト※2(以下「MEUリスト」といいます。)に関して、米国財務省外国資産管理局(The Office of Foreign Assets Control、以下「OFAC」といいます。)が長年用いてきた「50%ルール」(米国制裁法の対象となる個人や法人が、直接又は間接的に特定の事業体を50%以上保有している場合、当該事業体も制裁対象とみなすルール)を取り入れた中間最終規則(Interim Final Rule、以下「本中間規則」といいます。)を公表しました※3。本中間規則では、エンティティ・リスト又はMEUリストに記載された個人又は法人が、直接又は間接的に特定の事業体を50%以上保有している場合、当該事業体も当該各リストの対象者とみなされる旨が定められています。本中間規則は、2025年9月29日をもって効力を発生することとされています。
従来、エンティティ・リスト又はMEUリストに基づき必要とされる輸出許可は、当該リストに掲載された主体にのみ適用され、リストに掲載されていないその親会社、子会社、兄弟会社、その他法的に独立した主体に対しては適用されないこととされていました。もっとも、BISは、エンティティ・リストに掲載されていない主体を通じた迂回的な取引(例:輸出許可の適用を避けるため、エンティティ・リスト掲載者が別の外国法人を設立し、当該外国法人を経由した最終的にエンティティ・リスト掲載者を需要者とする取引)が行われている現状について懸念を表明していました。本中間規則は、そのような迂回的な取引を防ぎ、米国の国家安全保障及び外交政策上の利益を保護することを目的として「50%ルール」を導入することとしています。
本ニュースレターでは、本中間規則の概要及び実務的な影響についてご紹介します。
本中間規則は、以下のリストに掲載されている個人又は法人により、直接又は間接的に、単独又は合計で50%以上保有される事業体は、当該各リストに掲載されているものとみなされる旨を規定しています。
本中間規則が定める「50%ルール」に関して、注目すべき点は以下のとおりです。
本中間規則により、輸出許可の対象となる事業体が大幅に増加することが想定されます。この点、これまでの輸出管理プロセスとして、アメリカ合衆国商務省国際貿易局が提供するConsolidated Screening List※6を通じてリスト掲載者であるか否かを確認することが実務的に合理的な手段と考えられてきましたが、本中間規則によりConsolidated Screening Listのみの確認ではスクリーニングプロセスとして不十分であることが明らかとなりました。実際、BISは、Consolidated Screening Listにはリストに掲載された事業体のみが掲載されており、本中間規則により対象となる子会社等はリストに含まれないため、完全な情報源とはならないことを明言しています。そのため、輸出者自身で一定の追加確認プロセスを実施する必要があり、本中間規則施行後のスクリーニングプロセスはより複雑化することが予想されます。
また、エンティティ・リスト及びMEUリストの違反には厳格責任が適用されるため(すなわち、これらの違反は当事者の故意・過失の有無を問わず成立することとなります。)、取引の相手方が本中間規則に基づき規制対象であることが判明した場合、EAR上の責任を免れることはできません。その観点からも、本中間規則施行後においては、顧客のスクリーニングプロセス及びデューデリジェンスの実務を根本的に見直す必要があると考えられます。
今回BISが「50%ルール」を採用したことにより、米国の経済制裁法と輸出管理の整合性が高まった一方、EARの適用対象が大幅に拡大することから、企業のコンプライアンス義務・負担が飛躍的に増大することが想定されます。上記のとおり、本中間規則の違反には厳格責任が適用されるため、仮に違反が生じた場合は多額の制裁や刑事責任が問われる可能性があり、コンプライアンス違反が生じた場合のリスクは極めて高いといえます。そのため、日本企業においても、EAR関連のスクリーニングプロセス及びデューデリジェンス手続の強化並びに一時的な一般許可のライセンスの終了後を見据えたコンプライアンス体制の整備に早急に着手する必要があります。
※1
米国の国家安全保障や外交政策に反する活動又はその恐れがある個人、法人、政府機関等をまとめたリストであり、当該リストの掲載者に対してEAR対象品目を輸出・再輸出・国内移転しようとする場合、輸出許可の取得が必要となります。
https://www.ecfr.gov/current/title-15/subtitle-B/chapter-VII/subchapter-C/part-744/appendix-Supplement%20No.%204%20to%20Part%20744
※2
EAR対象品目を軍事転用する恐れがある事業体のリスト。
https://www.ecfr.gov/current/title-15/subtitle-B/chapter-VII/subchapter-C/part-744/appendix-Supplement%20No.%207%20to%20Part%20744
※5
BISは、EAR適用対象品目を輸出する企業に対して取引先やその関係者に対する一定のデューデリジェンスを実施することを期待し、そのための指標となる「Know Your Customer Guidance」(KYC)を公表しており、KYCはデューデリジェンスを実施する際の目安となる「レッドフラッグ」(Red Flags)を特定しています。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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