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特集

対内直接投資規制とその実務運用 ―近年の経済安全保障情勢を踏まえて―(後編)


座談会メンバー

パートナー

濱口 耕輔

主な取扱分野は、M&A、企業再編、コーポレートガバナンス、敵対的買収対応等。海外での経験を活かし、国内外の企業を代理して、数多くのクロスボーダー案件に携わっている。とりわけ、戦略的M&A・提携に数多くの経験を有している。

パートナー

鹿 はせる

企業法務一般に加え、クロスボーダーの複雑なM&A取引、輸出入貿易、外為法等経済安全関連法務に関するアドバイスを提供している。米国、中国の法律事務所での執務経験を踏まえ、貿易摩擦・紛争関連案件、国際間取引の紛争案件、海外法令のコンプライアンス関連、中華圏企業との買収・合弁等の交渉案件に関して幅広い経験・知見を持つ。

アソシエイト

大澤 大

M&A・企業再編、コーポレートに関わる業務を中心に、企業法務全般に関するアドバイスを提供している。2021年12月から2022年11月まで経済産業省に出向(貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易管理政策課、同課国際投資管理室、大臣官房経済安全保障室等に所属)、外為法に基づく対内直接投資規制の政策・運用・執行を中心に、経済安全保障に関わる業務を担当した経験を持つ。

CHAPTER
03

事前届出審査の実務運用①:届出〜審査

濱口

一連の改正に伴って、事前届出審査制度に関する法制度はかなり複雑化している印象を持っています。ここからは、事前届出審査における届出から審査までのプロセスについて議論しましょう。

鹿

届出に関して実務的に悩むことが多い論点の一つとして、正式な事前届出に先立って当局への事前相談を行うべきかどうかという点があります。事前相談なく事前届出を行ってもよいのですが、その場合、当局がどの程度時間をかけて審査を行うか分からず、投資等が実行できるようになる時期の見通しが立ちません。そのため、外国投資家には、正式な事前届出を行う前に当局との調整を済ませて、投資等が実行可能となる時期の見通しを持ちたいというニーズがあります。

大澤

私が先月まで勤務していた経済産業省(経産省)は、幅広い事前届出業種を所管しており、事前届出案件全体の約9割の審査を担当している事業所管省庁ですが、そのような外国投資家のニーズに応えて、事前相談を受け付けています。事前相談において経産省との調整を終えた外国投資家は、正式に事前届出を行うことになりますが、投資先の日本企業が営む事前届出業種をすべて経産省が所管していれば、正式な届出が受理された日から6〜8営業日を経過した日から投資を実行できるようになるケースが大半です。

濱口

日本企業が営む事前届出業種が経産省以外の事業所管官庁の所管である場合にはどうなるのでしょうか。

大澤

私が知る限り、事業所管省庁の中には、事前相談を受け付けていないところもあります。このような省庁が所管する事前届出業種が関わる場合、正式な届出が行われるまでこの省庁の審査が進みませんから、先ほどお話したようなスケジュールで投資を実行することができない可能性があります。

鹿

事前相談では当局との間でどのようなやりとりが行われるのでしょうか。

大澤

経産省の場合、正式な事前届出が行われた場合と同様の審査が行われています。具体的には、事前相談の申し込みに際して外国投資家が提出する届出書のドラフト、公開情報、経産省が独自に保有する情報などを踏まえた審査が行われます。また、審査に必要な情報を取得するため、外国投資家に質問票が送付されたり、適宜外国投資家の同意を得た上で、投資を受ける側の日本企業へのヒアリングが行われたりすることもあります。

鹿

事前相談はどの段階で受け付けてくれるのでしょうか。例えば、外国投資家が日本企業への投資案件を計画しているものの、多くの時間とリソースを費やして案件を進めたにもかかわらず、最後に外為法に基づき当局に中止を命じられては困るため、案件の初期段階で当局の感触を得ておきたいというニーズがあると思います。そのような相談でも受け付けてもらえるのでしょうか。

大澤

検討が始まったばかりの「やわらかい」段階で事前相談が申し込まれても、投資の具体的なスキーム、投資実行後の経営関与方針等が固まっていなければ、当局が有意な心証を形成することは困難です。そのような段階では、そもそも当局に事前相談を受け付けてもらえない可能性がありますし、受け付けてもらえても有益な感触が得られることは少ないと思います。一般論を言えば、届出書に記載する内容や投資のスキームが具体的に固まった時点で事前相談を申し込むことがよいですね。

鹿

ありがとうございます。
次に、事前相談を行わない場合の審査プロセスに関してですが、審査の過程において、当局から質問票を受領することがあります。質問票を受領すると、回答の準備などを含めて、審査期間がだいぶ長くなりがちという印象があります。当局が質問票を送付する案件を決める基準のようなものはあるのでしょうか。

大澤

質問票は、当局が審査に必要な情報を取得するために送付するものであることを考えると、案件ごとに個別に判断されていると考えられます。一般論を言えば、投資先の日本企業が非上場会社の場合、上場会社と比較して公開情報が充実していないことが多く、質問票が送付されるケースが相対的に多くなると思います。

濱口

当局から質問を受けそうな事項をあらかじめ届出書に厚めに記載することで、質問票を受領することを回避できるのでしょうか。

大澤

ケースバイケースではありますが、届出書に補足の情報が記載されている場合、その情報も考慮して審査が行われます。そのため、本来なら質問票が送られていたはずの案件について、補足の情報が記載されていたので当局が質問票を送る必要がなくなり、そのまま審査が終了することもあるでしょう。
この補足の情報は、安全保障の観点から審査している当局の関心を捉えていなければ意味がありません。理想を言えば、経済安全保障に関する知見がある者(例えば、元当局担当者)を届出書の作成等に関与させ、当局が重視する情報を的確に記載できるとよいですね。

鹿

最近では、アクティビストファンドによる日本企業への投資案件が増えていますよね。一口にアクティビストと言っても、事業の買収や売却といったドラスティックな提案を行うものもいれば、株主還元、資本効率の改善、ガバナンスの強化を求めるにとどまるものもいるので、一概には言えないかもしれませんが、外国投資家に該当するアクティビストが行う投資等については、どのような観点から審査されるのでしょうか。

大澤

対内直接投資規制はアクティビスト封じを狙ったものではありませんから、外国投資家がアクティビストであっても、そのことのみを理由に不利に取り扱われることはないと考えられます。しかし、例えば、過去の経営関与や投資行動などを踏まえて、事業の譲渡・廃止を働きかけたり、過度な株主還元を要求したりすることによって、安全保障上重要な事業が継続的・安定的に運営できなくなるリスクがあると認められるといった場合には、そのことを当局が重く見ることはあり得ます。
CHAPTER
04

事前届出審査の実務運用②:審査結果を踏まえた当局の対応

鹿

次に、事前届出審査が完了した後、その審査の結果を踏まえて当局が講じる対応について議論したいと思います。外為法上、当局は、投資等の中止や変更を勧告することができ、勧告に従わない場合には中止や変更の命令ができるとされていますが、これまでにこのような勧告・命令が行われた事例はあるのでしょうか。

大澤

はい、2008年1月にザ・チルドレンズ・インベストメント・マスターファンド(TCI)が届出を行った電源開発株式の取得について、当局が中止を勧告・命令した事例があります。この件では、TCIが株式取得を行った場合、電気の安定供給や原子力・核燃料サイクルに関する国の政策に影響を与え、公の秩序の維持を妨げるおそれがあると認められました。TCIは、同年4月に株式取得を中止するよう、日本政府から勧告されましたが、勧告に応じなかったため、日本政府は、さらに、同年5月に株式取得の中止の命令を行いました(その後、TCIは中止命令を受け入れることを発表)。
近年では、諸外国による対内直接投資への介入の動きが強まっており、日本企業が当事者となる案件が介入を受けた事例も複数存在します。このような潮流から、日本においても投資介入の動きが強まる可能性がありますので、注意が必要です。直近の論考※1において諸外国における主な投資介入事例を一覧化しましたので、ご参考としていただければと思います。

鹿

中止や変更の勧告・命令には至らないものの、審査過程において外国投資家が遵守すべき投資条件等が付されることはあるのでしょうか。

大澤

審査の過程において、投資に安全保障上問題がある可能性が残るものの、外国投資家が一定の事項を遵守するならばその可能性が払拭される場合があります。このような場合、外国投資家が一定の事項の遵守を届出書において誓約すれば、投資の中止や変更の勧告・命令を行うプロセスに進まず、審査を終了するという運用になっています。外国投資家が誓約する遵守事項としては、例えば、事前届出業種に属する事業の譲渡・縮小・廃止を提案しないこと、重要な秘密情報にアクセスしないことといった内容が挙げられます。
CHAPTER
05

エンフォースメント

濱口

近年、対内直接投資規制に関する改正が相次いでいるため、外国投資家、投資を受け入れる側の日本企業のいずれにおいても、本来ならば事前届出されるべき投資が事前届出されていないといった外為法違反を起こさないよう、細心の注意を払っているのではないかと思います。このような外為法違反に対しては、どのようなモニタリングが行われているのでしょうか。

大澤

経産省のプラクティスでは、「事前届出業種を営まない日本企業に関する投資等である」という理由で事前届出なく行われた投資について、事後的に提出される報告書を全件確認し、本来事前届出が必要ではなかったかを検証することにより、モニタリングを行っています。また、事前届出審査の過程においても、届出者である外国投資家が行った過去の取引の履歴などを確認し、過去の取引において必要な事前届出が漏れていたなどの違反がなかったか、確認を行っています。そのほか、制度所管省庁である財務省が設置している情報提供窓口に寄せられる情報、投資を受け入れる側の日本企業から提供される情報などを加味したモニタリングも実施されています。

濱口

外為法違反が判明した場合、当局からどのようなサンクションを受けるのでしょうか。

大澤

本来であれば必要であった事前届出を行わなかった場合、故意であれば刑事罰の対象となりますし、国の安全等の観点から問題がある投資ならば、故意・過失によらず、措置命令の対象になり得ます。実務運用として、外為法違反を起こした外国投資家は、違反の概要などを具体的に記載した事案調査票を提出するよう求められており、当局は、その内容も踏まえて事実関係を調査し、必要に応じて措置を講じています。また、外為法違反を起こした外国投資家が、将来、他の案件で事前届出を行った場合、過去の違反の事実が審査において考慮される可能性があります。

濱口

外為法違反を起こした外国投資家は何らか再発防止策を策定すべきですよね。どのような再発防止策が求められるのでしょうか。

大澤

外国投資家においては、外為法違反を起こした原因を具体的に特定した上で、特定した違反原因に即して実効性が高い具体的な再発防止策を策定して実施する必要があります。例えば、日本企業の業種が改正により事前届出業種に追加されていたことに気づかずに届出を怠ったという事案であれば、日本銀行や関連省庁のホームページなどを定期的に確認することにより関連法令の改正情報を定期的に収集し、改正情報が適時に社内に周知される体制を整えるといった再発防止策を講じることが考えられます。当局は、事案調査票などを通じて再発防止策の内容を確認していますので、その実効性に疑義があれば、当局から再検討が求められることがあります。
なお、過去の違反事例における主な原因と対応する再発防止策の例の詳細については、私が2022年5月に寄稿した論考※2において整理されていますので、そちらを参考にしていただければと思います。

濱口

本日は、M&A・コーポレートの文脈を中心に重要性が高まっている対内直接投資規制について、最新の実務動向も紹介しつつお話をしました。この分野は近年複雑性を増しており、これまで以上に専門的な知見が求められるようになっていますので、精通した弁護士の助言を受けて対応を進める必要があります。今後も、最新状況をアップデートして、皆さんにお届けしたいと思います。

FOCUS

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質疑応答

脚注

※1
大澤大「外国資本の受入れと経済安全保障〔上〕 ─日本企業に求められる検討─」旬刊商事法務 2022年12月15日号(No.2313)。

※2
大澤大「経済産業省における外国為替及び外国貿易法に基づく投資管理と実務上の諸論点」旬刊商事法務 2022年5月5・15日号(No.2294)。

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。