icon-angleicon-facebookicon-hatebuicon-instagramicon-lineicon-linked_inicon-pinteresticon-twittericon-youtubelogo-not
People 弁護士等紹介

多岐にわたる分野の専門的知識と実績を持つ弁護士が機動的にチームを組み、質の高いアドバイスや実務的サポートを行っています。

Publications 著書/論文

当事務所の弁護士等が執筆したニュースレター、論文・記事、書籍等のご紹介です。多様化・複雑化する法律や法改正の最新動向に関して、実務的な知識・経験や専門性を活かした情報発信を行っています。

Seminars 講演/セミナー

当事務所では、オンライン配信を含め、様々な形態でのセミナーの開催や講演活動を積極的に行っています。多岐にわたる分野・テーマの最新の企業法務の実務について解説しています。

Who We Are 事務所紹介

長島・大野・常松法律事務所は、国内外での豊富な経験・実績を有する日本有数の総合法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題に対処するため、複数の弁護士が協力して質の高いサービスを提供することを基本理念としています。

SCROLL
TOP
Featured Topics 特集
特集

対内直接投資規制とその実務運用 ―近年の経済安全保障情勢を踏まえて―(前編)


座談会メンバー

パートナー

濱口 耕輔

主な取扱分野は、M&A、企業再編、コーポレートガバナンス、敵対的買収対応等。海外での経験を活かし、国内外の企業を代理して、数多くのクロスボーダー案件に携わっている。とりわけ、戦略的M&A・提携に数多くの経験を有している。

パートナー

鹿 はせる

企業法務一般に加え、クロスボーダーの複雑なM&A取引、輸出入貿易、外為法等経済安全関連法務に関するアドバイスを提供している。米国、中国の法律事務所での執務経験を踏まえ、貿易摩擦・紛争関連案件、国際間取引の紛争案件、海外法令のコンプライアンス関連、中華圏企業との買収・合弁等の交渉案件に関して幅広い経験・知見を持つ。

アソシエイト

大澤 大

M&A・企業再編、コーポレートに関わる業務を中心に、企業法務全般に関するアドバイスを提供している。2021年12月から2022年11月まで経済産業省に出向(貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易管理政策課、同課国際投資管理室、大臣官房経済安全保障室等に所属)、外為法に基づく対内直接投資規制の政策・運用・執行を中心に、経済安全保障に関わる業務を担当した経験を持つ。

【はじめに】

外国投資家※1による日本企業への投資等を規律する外為法※2上の対内直接投資規制は、経済安全保障を確保するための大切な取り組みの一つであるとともに、M&Aや株主総会実務等に大きな影響を及ぼし得る重要な法制度です。これらに加えて、近年、関係する法改正が相次いだこともあって、対内直接投資規制に対する実務的な関心はこれまで以上に高まっています。本座談会では、対内直接投資規制が関わる案件に多く携わる濱口弁護士・鹿弁護士と、先月まで当局担当者として対内直接投資規制の政策・運用・執行に関与していた大澤弁護士が、対内直接投資規制とその実務運用について、対談形式で議論します。

CHAPTER
01

対内直接投資の意義・リスク

濱口

本日は、最近注目を集めている対内直接投資規制の内容や実務運用について議論したいと思いますが、その前に、対内直接投資の意義とリスクを踏まえつつ、対内直接投資規制の趣旨を確認しておきましょう。

大澤

対内直接投資に期待できることとして、経営ノウハウ・技術・人材をはじめとする外国の高度な経営資源を国内に流入させ、国内の生産性の向上や雇用の創出に貢献し、日本経済の健全な発展に寄与することが挙げられます。また、外国の人材・技術・ノウハウ・資本が地方に流れ込み、観光や農林水産といった地域資源と結びつくことにより、地方創生の起爆剤となることも期待されています。

濱口

日本政府は「INVEST JAPAN」を掲げて対日直接投資を推進する取り組みを進めていますが、そのような積極的な効果に期待しているのでしょうね。取り組みの成果もあってか、対日直接投資の残高は概ね増加傾向にあり、2021年末には過去最高値(40.5兆円)を更新しています。

近年の対日直接投資残高の推移

(引用元:https://www.jetro.go.jp/invest/investment_environment/ijre/report2022/ch1/sec2.html

大澤

2021年6月に決定された対日直接投資促進戦略では「対日直接投資残高を2030年までに80兆円に倍増させる」目標が掲げられており、対日直接投資を推進する取り組みは今後も進められていくと考えられます。

鹿

ただ、近年、外国投資家から見ると日本の対内直接投資規制はどんどん厳しくなっていると思います。日本政府としてどういった点をリスクとして懸念しているのでしょうか。

大澤

一例を挙げると、近年の国際社会では、経済的な手段を活用して自国の戦略的目標を追求する「エコノミック・ステイトクラフト」と呼ばれる動きが活発化しています。このような情勢においては、経済的な手段の一つとして対内直接投資が活用され、これにより国の安全等(具体的には、日本国の安全の確保、公の秩序の維持、公衆の安全の保護等)に支障が生じることが懸念されます。日本政府は、外為法に基づいて事前に投資スクリーニングを行うことにより、対内直接投資によって国の安全等が損なわれるリスクに適切に対処しています。
具体的には、外国投資家が、国の安全等の観点から事前届出が必要と指定された業種(事前届出業種)を営む日本の会社に関して、一定の投資等を行う場合に、原則として事前届出が義務付けられています。日本政府は、国の安全等の観点から審査を行い、必要があれば、投資を中止するよう勧告するなどの措置を講じることが可能になっています。

濱口

国の安全等を損なうおそれがある対内直接投資とはどのような投資なのでしょうか。

大澤

例えば、外国投資家が投資を通じて日本企業に対する影響力を獲得し、この影響力を背景に日本企業から機微な技術や情報を引き出すことを意図した投資が挙げられます。このような投資を通じて、軍事転用可能な先端技術や自衛隊が使用する防衛装備品の設計図といった機微な情報が流出した場合、懸念国に流出したり、大量破壊兵器等に転用されたりして、日本国の安全保障に対する直接的な脅威になることが懸念されます。

鹿

外国投資家は、必ずしも皆さん、外国政府の戦略的目標を追求するために日本企業に投資をしているわけではないと思います。対内直接投資規制が厳しくなっているのは、いわゆる政府系投資家による投資のみを想定している動きなのでしょうか。

大澤

いえ、そうではありません。一例を挙げると、外国の国益を追求する目的を持たない外国投資家による投資であっても、投資後の経営関与方針等によっては、国の安全等に支障を及ぼす可能性があり、そういった投資も念頭に置かれています。
例えば、外国投資家が、防衛装備品を製造して自衛隊に納入している日本企業を買収した後、利益率が低いといったビジネス的な理由から、防衛装備品の製造事業を廃止することを考えている場合があります。この防衛装備品の重要性が高く、他社が代わりに製造することが難しい場合、この買収が実行された結果、日本国の防衛力の低下を招くおそれがあります。こういった買収は、国益追求を目的とした投資ではありませんが、国の安全等に悪影響を生じるおそれがあるといえます。

濱口

対内直接投資には積極的な意義だけでなくリスクもあるということですね。

大澤

おっしゃるとおりです。対内直接投資規制は、対内直接投資が持つ意義とリスクを念頭に置いて、日本経済の発展に寄与する健全な対内直接投資を促進しながら、国の安全等の観点から問題がある投資に適切に対処することを図っています。
CHAPTER
02

近時の改正

濱口

2017年以降、対内直接投資規制に関する改正が相次いで行われていますね。

大澤

はい、外為法の主要な改正としては、2017年10月施行(同年5月公布)の改正、2020年5月施行(2019年9月公布)の改正の2回があります。2017年の改正は、①外国投資家が他の外国投資家から非上場株式等を取得する取引(特定取得)を事前届出の対象取引に追加する、②無届、虚偽届出によって一定の投資等を行った外国投資家等に対して、当局が株式売却命令その他の措置命令を行うことができるようにするといった内容でした。

濱口

実務的により大きな影響を与えた改正は、もう一つの改正である2020年5月施行の改正ですね。

大澤

はい、2020年5月施行の改正では、安全保障に支障を生じさせるおそれのある投資等を的確に補足すべく、上場株式等の取得に際して事前届出が必要となる閾値を10%から1%に引き下げる、役員就任や事前届出業種に属する事業の譲渡・廃止等、外国投資家による一定の行為についての事前届出制度を導入するなど、事前届出の対象の見直しが行われました。
他方で、国の安全等を損なうおそれがある投資等に適切に対処しつつ、日本経済の健全な発展に寄与する投資等を一層促進するため、外国投資家が所定の基準を遵守することを前提に株式取得に係る事前届出を免除する制度(事前届出免除制度)が導入されました。

濱口

事前届出業種についても、複数回追加が行われていますね。

大澤

近年では、①サイバーセキュリティを確保する重要性が高まっていることなどを踏まえたサイバーセキュリティ関連業種の追加(2019年8月1日から適用)、②新型コロナウイルス感染症の蔓延を背景に、国民の命や健康に関わる重要な医療産業の国内製造基盤を維持する必要性を踏まえた医薬品製造業等の追加(2020年7月15日から適用)、③重要鉱物資源の安定供給確保が経済安全保障上の重要な課題であることを踏まえた重要鉱物資源に係る金属鉱業等の追加(2021年11月4日から適用)が行われています。

対内直接投資規制に関する近年の主要な改正

2017(平成29)年 特定取得に関する事前届出制度の導入
外国投資家が他の外国投資家から非上場株式を取得(特定取得)するもののうち、国の安全を損なうおそれが大きいか否かの基準で審査が必要なものを追加。
措置命令制度の導入
無届けで対内直接投資等を行った外国投資家等に対し、国の安全を損なうおそれがある場合には、株式の売却命令等の必要な措置命令を行うことができる制度を創設。
2019(令和元)年 サイバー関連業種を指定業種に追加
我が国の安全保障に重大な影響を及ぼす事態を適切に防止する観点から、サイバー関連業種に対する対内直接投資を新たに規制対象化。
2020(令和2)年 日本経済の健全な発展に寄与する対内直接投資を一層促進するとともに、国の安全等を損なうおそれがある投資に適切に対応していくことを目的とし、事前届出免除制度を導入し、事前届出の対象を見直すなどの改正。

  • ① 事前届出の対象の見直し(上場会社の取得時事前届出の閾値を10%から1%に引き下げたほか、役員への就任及び指定業種に属する事業の譲渡・廃止について、行為時事前届出を導入)
  • ② 事前届出免除制度の導入
  医薬品に係る製造業等を指定業種に追加
今般の新型コロナウイルス感染症の蔓延を踏まえ、国民の命・健康に関わる重要な医療産業の国内製造基盤を維持し、我が国の安全保障、人の生命又は健康に重大な影響が及ぶ事態を適切に防止する観点から、感染症に対する医薬品に係る製造業及び高度管理医療機器に係る製造業を対内直接投資等のコア業種に追加。
2021(令和3) 年 重要鉱物資源の安定供給確保のための指定業種の追加
重要鉱物資源の安定供給を確保し、サプライチェーンの脆弱性の克服等を図ること等の観点から、レアアース等の重要鉱物資源34鉱種に係る業種及び特定離島港湾施設等の整備等を行う建設業等を対内直接投資等のコア業種に追加。

濱口

今後も事前届出業種の見直しは行われるのでしょうか。

大澤

2022年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)は「外為法上の投資審査について・・・指定業種の在り方について検討を行う」と明示されていますし、経済安全保障を巡る情勢の変化等に対応して、今後も不断に行われていくと思います。

鹿

非常に外国投資家が混乱しやすい点ですけど、投資先の業種が例えば10年前の投資時には事前届出業種ではなかったのに、その後の改正により事業届出業種となった場合、どう対処すればよいか、という点についてご説明していただけますか。

大澤

投資後に投資先の日本企業が営む業種が新たに事前届出業種に指定された場合でも、そのことだけで、直ちに外国投資家が対応を求められるわけではありません。もっとも、事前届出業種に指定された後に、株式を追加取得したり、株主総会において一定の役員選任や事業譲渡等に同意したりする場合には、原則として事前届出が必要になります。事前届出免除制度を利用する場合や、法令によって事前届出義務が解除されている場合には事前届出が必要ないとされていますが、関係する法令の規定ぶりはやや複雑ですので、対内直接投資規制に明るい弁護士からアドバイスを受けつつ対応することが安全でしょう。

鹿

はい、この点について、外国投資家が要注意なのは、日本における対内直接投資の実務と、会社の設立等の際の登記実務が必ずしも接続されていないことです。例えば、日本の場合、会社の定款における事業目的は、取引の安全性を確保する観点から広範に記載することが認められているため、会社が実際に行っていない事業を登記することもできますし、事前届出が必要な事業が記載されていても、届出及び当局による審査終了の有無を確認されることなく登記できてしまいます。しかし、必要な事前の届出を行っていないと、後で当局から質問状が届き、届出手続のやり直しを求められ、処罰を受けるリスクが出てきてしまいます。この辺りは、外国投資家及び彼らが設立・投資している日本の会社に意外に周知されていないというのが私の実感です。

FOCUS

関連するセミナー

クロスボーダーM&Aを検討する日本企業に送る
ー各国の外国投資規制と最新の審査動向ー

プログラム 15:00~15:30 講演「外資への事業売却と外国投資規制」
15:30~16:00 講演「外国会社の買収と外国投資規制」
16:00~16:15 質疑応答

プログラム
15:00~15:30 
講演「外資への事業売却と外国投資規制」
15:30~16:00 
講演「外国会社の買収と外国投資規制」
16:00~16:15 
質疑応答

脚注

※1
外為法26条1項所定の「外国投資家」。非居住者である個人、外国の会社、これらのものにより50%以上の議決権を保有されている日本の会社等が該当します。

※2
外国為替及び外国貿易法。

Next Column

対内直接投資規制とその実務運用
―近年の経済安全保障情勢を踏まえて―(後編)

(濱口耕輔弁護士、鹿はせる弁護士、大澤大弁護士)

本座談会は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。