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日米輸出規制と近時の実務動向を踏まえた輸出管理(前編)~輸出管理規制の重要性と近時の動向~

経済安全保障:日米輸出規制と近時の実務動向を踏まえた輸出管理
経済安全保障:日米輸出規制と近時の実務動向を踏まえた輸出管理

【はじめに】

近年、経済安全保障の強化を主たる目的として各国が輸出管理規制を累次強化するとともに、ロシアによるウクライナ侵攻に対する対抗措置として対露制裁が発動されるなど、経済制裁の一環という形でも輸出規制が強化されています。このような状況の下、「自由で開かれた経済」を前提に国際分業が進展し、多くの日本企業が構築・発展させてきた国際的な商流やサプライチェーンが経済制裁を含む各国の輸出規制によって影響を受けるリスクがこれまで以上に増大しています。また、輸出規制の違反者に対する当局のサンクションや措置も年々厳格化しており、その観点からも適切な規制遵守の重要性がより一層高まっています。経済産業省貿易管理部に出向した経験を持ち、輸出管理や経済制裁を含む経済安全保障に関わる案件を幅広く担当している大澤弁護士と、NO&Tニューヨーク・オフィスで米国の輸出管理及び制裁法に関わる案件を数多く扱っている伊佐次弁護士は、日頃から協働してリーガルサービスを提供していますが、本対談では、そのような経験も踏まえて、日米輸出規制や近時の実務動向、それらを踏まえた輸出管理体制や取引先管理等について議論します。

対談メンバー

大澤大弁護士
パートナー

大澤 大

M&A・コーポレートを中心に企業法務全般の助言を提供するほか、経済産業省にて外為法等に関わる立案、審査、規制執行、各国との連携強化等に関与した経験を活かして、経済安全保障全般のサポートを行う。近年ではサプライチェーンの分析や強靱化の支援も行う。

伊佐次亮介弁護士
アソシエイト

伊佐次 亮介

日米間のM&A、米国の輸出管理・投資規制・制裁法関連、TMT(Technology, Media and Telecoms)分野の取引・紛争を中心に、現在はニューヨークを拠点として企業法務全般に関するアドバイスを提供している。

CHAPTER
01

輸出管理規制の重要性

大澤大弁護士

大澤

本日は、近年重要性が高まっており、弊所へのご相談も増えている日米の輸出管理規制について、近時の法改正や政策動向も踏まえて議論したいと思います。最後には輸出管理体制のあり方や取引先管理にまで焦点を当てて議論したいのですが、その前提として、日本企業にとって、なぜ輸出管理規制が重要なのか、改めて考えてみましょう。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

日本企業にとって、日本の外国為替及び外国貿易法(外為法)を遵守するというのはある意味当然の話だと思いますが、近年の国際環境や実務動向も踏まえて、改めてその重要性を教えていただけますか。
大澤大弁護士

大澤

日本の輸出管理規制については、日本企業のコンプライアンスとして当然に遵守すべき点において重要な法令であることは言うまでもありませんが、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢など、武力衝突が世界各地で相次いで発生するなどの近年の国際情勢では、輸出された貨物や技術、プログラムが軍事転用される可能性はもはや抽象的なものとはいえず、現に国際平和の脅威となってしまう可能性がありますので、輸出管理規制の目的を改めて意識して適切な規制遵守に努める必要性がこれまで以上に高まっています。
また、違反が判明した場合、悪質な違反であれば、刑事責任や行政制裁といった外為法上のサンクションや公表措置が行われる可能性があり、その結果、自社の商流・サプライチェーンが止まってしまったり、レピュテーションが大きく傷ついてしまったりするおそれもあります。また、比較的軽微な違反であっても、違反者は、経済産業省に「報告書」を提出する必要があり、違反原因の究明と再発防止の宣誓が求められます。確実な再発防止のためには、違反を巡る個別事情を踏まえて具体的な原因分析を行い、原因に即した再発防止策を策定することが重要ですし、経済産業省の担当者も「報告書」に記載された違反原因の分析や実施予定の再発防止策を個別具体的に確認している印象ですから、軽微な違反であるからといって、一般的・抽象的な原因分析や再発防止策に終始するわけにはいきません。違反を起こしてしまった場合、事実調査から再発防止策の策定まで、重い負担がのしかかります。このような事態にならないよう、日頃から輸出管理規制の確実な遵守を心がけておく必要があります。

[外為法違反事案の処分内容別割合(2023年度)]

経済産業省 貿易経済安全保障局 安全保障貿易検査官室「外為法違反事案の分析結果について (安全保障貿易関係)(2023年度)」より抜粋

(出典)経済産業省 貿易経済安全保障局 安全保障貿易検査官室「外為法違反事案の分析結果について (安全保障貿易関係)(2023年度)」より抜粋

大澤大弁護士

大澤

他方で、日本企業、とりわけ米国から貨物や技術を輸出していない企業にとって、米国の輸出管理規則(EAR)をなぜ意識する必要があるのかという点に関しては直感的に理解が難しい面があると思います。EARというのは日本企業との関係においてどのような場合に問題となるのでしょうか。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

EARが適用される品目は、主に以下の5つの分類に分かれます。このうち、③④⑤は、米国外で製造された製品・品目であっても米国由来の技術やソフトウェアと一定の関わりがあることを理由に米国法の「域外適用」を認めるものであり、日本企業を含む非米国企業との関係で特に問題となることが多い類型となります。EARは、米国法の域外適用を明示的に許容している点で世界の中でも異例の輸出管理規制となっており、非米国企業にとって思わぬ場面でEARの適用を受けるということが少なくありません。

[EARが適用される品目の分類]

対象品目 備考
①全ての米国内に所在する品目 「品目」とは、産品、ソフトウェア及び技術を指す。
②全ての米国原産品目
③EAR規制対象の米国原産品目が一定割合(デミニミスレベル)を超える外国製品目 デミニミスレベル(de minimis levels)はイラン、北朝鮮、シリア及びキューバを仕向地とする場合には10%でありそれ以外の国・地域を仕向地とする場合には原則として25%とされている。
④米国原産等の技術又はソフトウェアを使用して製造された一定の外国製直接製品 「直接製品」とは、米国原産等の技術又はソフトウェアを直接使用して米国外で製造された一次的な産品又はソフトウェアをいう。
⑤外国製直接製品に該当する米国外の工場又は工場の主要設備を使用して製造された一定の品目

大澤大弁護士

大澤

日本企業が日本において製造した品目であったとしても、当該品目の製造過程において米国由来の製品や技術・テクノロジーが利用されている場合には、EARの規制対象となる可能性があるということですね。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

はい、そのとおりです。EARが適用される品目を米国以外の国から輸出したり、米国以外の国の国内で移転したりする場合であっても、一定の条件を満たすとEARに基づく輸出許可を取得する必要があることとなり、当該取引を実施するためのハードルが一気に上がることとなります。
大澤大弁護士

大澤

日本で製造した製品を日本国内で販売する場合であっても、EARが適用される品目に該当するときには米国の輸出許可が必要となる可能性がある、というのはあまり意識されていないポイントですね。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

日本企業としては、日本国内で完結する取引ということもあり、中々意識しづらいポイントかと思います。その上で、最終的な輸出許可の要否については、①対象となる品目が何か、②当該品目の最終的な仕向地はどこか、③当該品目の最終的なエンドユーザーは誰か、④当該品目の最終的な利用目的は何か、⑤取引先・最終的なエンドユーザーがどのような活動を行っているかといった多角的な検討が必要となります。EARに関する輸出管理体制を整備する上では、これらの情報をいかに社内で効率よく集約・共有できるか工夫が求められます。
大澤大弁護士

大澤

なるほど。日本の輸出管理規制の違反については、外為法上は刑事罰や行政制裁等が規定されており、実務運用上も違反者には比較的厳しい措置が講じられている印象ですが、米国ではいかがでしょうか。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

EARに違反した場合、極めて厳しい罰則が適用される可能性があります。具体的には、違反の程度に応じて、違反行為1件ごとに100万米ドル以下の罰金・20年を超えない禁固刑という刑事罰並びに約35万米ドル以下又は取引額の2倍のいずれか高額な方の制裁金という民事制裁金の対象となる可能性があります。また、行政罰として、一定期間の輸出禁止処分が課せられる場合や、既に出されている輸出許可の取消し、悪質・重大な違反を犯したと認定された場合は禁輸対象者を定めた各リストに掲載される場合があります。当該リストに掲載された場合、掲載者と米国内の個人・企業等による取引等が原則禁止されることとなりますので、事実上掲載者は米国関連の取引が一切行えないこととなり、米国関連の事業に特に甚大な影響が生じる可能性があります。したがって、法令違反の中でも、特にリスクが高い類型と認識する必要があります。
大澤大弁護士

大澤

実際に、米国外での取引について非米国企業が処罰された事例はあるのでしょうか。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

米国商務省産業安全保障局(BIS)は、毎年執行実績やEAR違反で行政罰・刑事罰の対象となった企業や個人の主な事例をまとめた事例集を公表しており、非米国企業が処罰された事例も複数報告されています。近年に限って言えば、幸い日本企業を直接の対象とした執行事例は特段公表されていませんが、日本企業との関係では東芝機械ココム違反事件が著名であり、米国政府から3兆円という天文学的な金額の損害賠償請求を受けるなど、当該事件のインパクトは未だに語り継がれているところかと思います。
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CHAPTER
02

近時の規制動向

大澤大弁護士

大澤

国際輸出管理レジームの参加国であればそれに即して一定程度共通した輸出管理が行われているという側面はありますが、各国の規制の枠組みや具体的な範囲まで見ると異なることが多い印象です。各国が輸出管理規制を累次強化していることもあり、日本企業にとって、自社に関係する各国の最新の立法・改正までタイムリーにフォローしながら規制を遵守するだけでも相応に負担があると思います。しかも、近年では、規制の導入や改正が公表されてから施行・適用開始までのスパンがかなり短いという点も企業の頭を悩ませているポイントですね。特に米国では、規制対象品目の範囲が高頻度で改正されている印象です。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

米国では、2022年10月以降、対中国向けの半導体及び人工知能(AI)・先端コンピューティング等のディープテック関連の輸出規制の強化を中心として、毎年輸出管理規制の改定が行われています。①2022年10月7日に公表された規則案では、先端コンピューティング用集積回路、一定の半導体製造装置、スーパーコンピュータに関連する取引等を広くEARの規制対象とし、②2023年10月17日に公表された規則案では①の規制の迂回を防止しEARによるコントロールの実効性を高める観点から、先端コンピューティング及び半導体製造装置関連の規制の明確化・更なる規制強化が図られ、③2024年12月2日に公表された規則案では人工知能(AI)・先端コンピューティングに利用可能な先端ノード半導体を生産する能力を制限することを目的とした規制が導入されています。このように、毎年大きなアップデートが行われている状況です。
大澤大弁護士

大澤

日本でも、いわゆるリスト規制品の範囲が累次改正されています。近時の改正としては2023年3月31日に公表されて同年7月23日に施行された高性能な半導体製造装置23品目の追加が記憶に新しいところですが、その後も、相補型金属酸化膜半導体集積回路、半導体素子・集積回路の画像取得用の走査型電子顕微鏡、量子計算機等の設計・製造に必要な技術の追加(2024年9月8日施行)などが行われています。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

規制対象品目以外にも、最終需要者(エンドユーザー)や最終用途(エンドユース)の観点からの規制強化も図られていますよね。米国は、EARのもとで整備されている、米国の国家安全保障や外交政策に反する活動に関与していると考えられる個人、法人及び団体等をエンティティ・リストとして公表していますが、エンティティ・リストについても頻繁に更新がなされており、直近では2024年12月2日に新たに140の主体が追加されるなど、後に議論する取引先管理の観点からも常にアップデートが求められています。
大澤大弁護士

大澤

経済産業省は、いわゆるキャッチオール規制の実効性を向上させるための参照用として、大量破壊兵器等の開発等の懸念が払拭されない外国企業等の情報を「外国ユーザーリスト」の形で提供していますが、2025年1月31日にはこれを改正して42の外国企業等を追加しています。
また、2025年1月31日にはキャッチオール規制の見直し(通常兵器キャッチオール規制の「需要者要件」の追加、グループA国向けの輸出に対する「インフォーム要件」の追加等)に係る改正案も公表され、同年3月1日まで意見公募手続が行われました。早晩、意見公募手続の結果も踏まえた最終的な改正内容や施行に向けた具体的なスケジュールが公表されると思います。この改正案は、2024年10月の石破政権発足後に公表されたものですが、2024年4月の産業構造審議会通商・貿易分科会安全保障貿易管理小委員会の中間報告からの流れに沿ったものであり、必ずしも「石破色」が色濃く出た政策とはいえないように思います。他方、米国では、2025年1月20日に就任したトランプ大統領が「トランプ色」満載の政策を次々に出している印象なのですが、輸出管理の分野ではどうでしょうか。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

おっしゃるとおり、トランプ大統領は、バイデン政権下で行われていた政策を180度転換する大統領令等を次々と発出していますが、輸出管理の分野においては、従前行われていた対中国向けの輸出規制の厳格化が今後も継続することが予想されており、それに対抗した中国側の対米の輸出規制も今後過熱していくものと思われます。
また、ルール面だけでなく、今後は更にEARの執行面についても更なる強化が予想されています。2025年1月に中国企業により発表された生成AI「DeepSeek」は、米国製の最先端半導体を用いず低コストで高度な生成AIの開発に成功した点で記憶に新しいと思いますが、米国ではDeepSeekに対して東南アジアの仲介企業を通じNVIDIAの先端半導体が供給されていた可能性が指摘・調査されており、昨今の対中国向けの輸出規制の厳格化では未だ不十分である、BISによる取り締まり・執行をより強化すべきであるとの機運が高まっています。
大澤大弁護士

大澤

以上のように、日米の輸出管理規制だけを見ても多くの改正が高い頻度で行われるなどしているわけですが、最新の輸出管理規制の動向にキャッチアップしていくためには、どのような方法が考えられるでしょうか。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

米国に関しては、速報性という観点からは日本貿易振興機構(ジェトロ)が公表しているビジネス短信が有益です。米国当局の公表から1~2日程度で速報ベースでニュースが配信されるため、アップデートの概要をキャッチアップすることが出来ます。更に詳細な情報が必要な場合、安全保障貿易情報センター(CISTEC)が公表している各種解説資料を利用することが考えられます。こちらは、より詳細なアップデートの内容について日本語で解説がなされているため、日本企業にとって貴重なリソースとなっています。また、NO&Tを含めた日本の法律事務所も輸出管理規制のアップデートに関する定期的な情報発信を行っていますので、これらのリソースも組み合わせてあわせて活用いただくことで、EAR関連の最新動向についてキャッチアップいただけるのではないかと思います。
大澤大弁護士

大澤

日本の輸出管理規制に関する最新の情報については、経済産業省が関連ウェブサイトにおいて網羅的な情報発信を行っているほか、CISTECが公表している解説資料も非常に有益かつコストパフォーマンスに優れた情報ソースです。米国同様、日本の法律事務所によるニュースレター等も、情報源としていただけると思います。
また、「自社に関わる複数の国の輸出入規制について、定期的にアップデート情報を提供して欲しい」というご依頼をいただくこともあり、そうしたご依頼には、適宜NO&Tの各現地オフィスと協働しながら対応しております。
情報収集に関して企業が意識すべき点が1つあります。それは、情報収集はそれ自体が目的というわけではないということです。収集した情報を検討・分析し、必要に応じて現場の実務対応に反映させる(内容によっては、経営判断の材料とする)ことができなければ、せっかくの情報収集の意味が半減してしまいます。収集した情報について、明確になっていない背景事情や問題意識を把握し、各企業の個別事情等も踏まえて具体的な影響等を検討・分析したり、その結果を踏まえて実務対応に落とし込んだりすることで、はじめて真価を発揮します。輸出管理分野では、従来、社内でこれらの対応を完結させるケースも多かったように思いますが、輸出管理規制がスピーディに厳格化し複雑さも増している昨今の状況では、情報の収集・整理・分析等に長けたコンサルや、当局出向経験や同種の案件対応等を通じて知見が豊富な弁護士等の外部リソースを活用いただくことも考えられると思います。
伊佐次亮介弁護士

伊佐次

EARの規定は年々細分化・詳細化している傾向にあり、最新の改正内容を社内の実務・現場に落とし込む際には、先ほど申し上げた情報のリソースだけではなく、実際にEARの原文を確認しながら検討を行うことは避けられません。例えば、許可例外一つを取ってみても、適用されるための要件が非常に細かく規定されている場合があり、また、EARの原文を見ても必ずしも解釈が明らかではないポイントというのもしばしば見られますので、そういった場合、外部の弁護士を含めた検討が必要になってくるかと思います。
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本対談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。