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不動産事業におけるESGと人権デュー・ディリジェンス


対談者

パートナー

福原 あゆみ

法務省・検察庁での経験を基に、危機管理案件及び「ビジネスと人権」を含むコンプライアンス関連のアドバイスも行っている。

パートナー

糸川 貴視

不動産デベロッパーへの出向経験を活かし、J-REITを含む様々な事業者に対しファイナンスを中心に幅広いリーガルサービスを提供する。

CHAPTER
01

不動産事業におけるESGの現状について

福原

近時、ほとんどのビジネスの場面でESGとの関係が問題になりますが、本日は特に不動産事業(不動産の開発・運用、不動産投資)において事業者に求められるESGの取組みについて議論させていただければと思います。

糸川

不動産事業の流れをざっくりかみ砕くと、用地を取得し、その用地において建物を建設するという一段階目の開発フェーズと、開発完了後の不動産を管理運用する二段階目の運用フェーズがあります。不動産開発事業者は、一段階目の開発フェーズ、二段階目の運用フェーズのいずれにも関わるのに対し、不動産投資ファンドは、一段階目の開発フェーズから関わることもあるものの、通常の場合は二段階目の運用フェーズの不動産を取得することで不動産投資を行います。不動産事業について最近特に議論が活発なのは不動産投資の文脈であり、国土交通省でESG不動産投資・環境不動産ポータルサイトが立ち上がるなど、不動産事業の投資家への開示や認証制度のあり方も含めて議論が進んでいるところです。

福原

不動産投資の場面で注目されているESG要素においては、環境に優しいこと、例えば、再生可能エネルギーの利用を推進し温室効果ガス・気候変動に優しいことや水環境への保全、省資源・廃棄物削減の推進等、E(環境)にフォーカスした運用が強調されているように見受けられました。

糸川

不動産は環境負荷の低減とも密接に関わることから、そのような取組みや議論は盛んに行われています。
もちろん、S(社会的課題)の側面でも、少子高齢化やコロナによる多様な働き方・暮らし方への対応方法を提供するなどの課題や、自然災害の脅威への対応として災害拠点を提供するなどの課題をクリアしようという取組みは盛んです。特に、都市の再生や再開発、街づくりは、そこで快適に暮らせるようコミュニティづくりも欠かせないと思いますので、これらの社会的課題への解決にも密接につながっています。
E(環境)やS(社会的課題)に対処することは、開発における企画段階からも強く意識されるようになってきました。
CHAPTER
02

不動産運用と人権デュー・ディリジェンス

福原

不動産運用を行う場面ではESGに対してどのような関係者への配慮が求められるでしょうか。

糸川

不動産運用の段階では、テナントとなる企業の従業員の働き方をサポートすることや、不動産の管理運営を行う現場従業員の働き方をサポートすることが挙げられますね。上記のS(社会的課題)にリンクしています。

福原

不動産の運用を行うに当たり、その不動産が労働者の権利等に配慮される形で使用されることで、執務環境の改善等に資し、中長期的な不動産価値に影響するということですね。

糸川

不動産に入居させるテナントの選別の段階でも、テナントの属性についてスクリーニングすることがこれまでの実務として行われてきたと思います。ただ、それは人権に配慮しているかという側面よりも、テナントとして賃料を支払うだけの財務基盤が安定しているか、反社会的勢力でないかなどのチェックがなされています。これに対し、テナント候補が、従業員を適切に扱っているか、人権が軽視された委託先に業務委託していないかなどはあまり意識されていないのではないかと思います。
もっとも、このような観点でのテナントの属性チェックを行うこととした場合、どの程度であれば非人道的な事業者ではないと整理できるのか、またどの程度調査すればよいのか、基準としては曖昧になる危惧もあります。

福原

人権デュー・ディリジェンスという観点では、他社の事業活動を通じて人権侵害に加担していないかという視点も必要になりますが、この場面では人権侵害を行っているテナントへの不動産の賃貸を通じて人権侵害に加担していないかという点が問題になり得ると思います。ただし、現時点で明確な基準が定められているわけではなく、当該テナントの事業内容や人権侵害の程度等も含めて慎重な判断が必要ではないでしょうか。
CHAPTER
03

不動産開発と人権デュー・ディリジェンス

福原

続いて不動産開発を行う場面ですが、まず環境との関連では合法的かつ持続可能性に配慮した木材の調達や、生態系・水資源の保全といったテーマがよく取り上げられます。一方、人権という意味では、不動産が解体され、土地が造成され、また不動産が建てられるという現場での労働者への人権も重要になりますね。

糸川

従来から特に建設業者が配慮している内容です。古くはピラミッドや万里の長城等も労働集約の固まりですしね。技能実習生への適切な取扱いを行っているか、労働者による転落事故防止や工事材料の落下事故防止等適切な労働環境を提供しているかという労働安全衛生が問題となり、従来からどのように解決するべきか深く議論されてきた問題であるともいえます。
建設業界では十分に議論が進んでいる論点だと思いますし、建設業界と不動産事業者の業界とで自主的な勉強会が立ち上げられているケースもあります。
建設業者の他にも委託先は多くあると思います。例えば、設計事務所等でも、労務管理がちゃんとなされていない、あるいは職業的訓練と称して人道的な労務環境が与えられていない可能性等も問題となり得るといえます。

福原

不動産開発においては、様々な作業が外注されますし、外国人労働者や非正規労働者等脆弱な立場に置かれやすい方が関わる場合も多いため、外注先における人権保護は重要なテーマのように思います。

糸川

はい。これらはレピュテーションリスクだけでなくリーガルリスクにも関連しています。不動産事業に限らない論点ではありますが、不動産事業の業界としても、建設業界やその他の業務委託先の対応に依拠するだけでなく、このような従来からの問題に積極的に立ち返ることで人権侵害の連鎖を断ち切る取組みを考える必要があるように感じます。

福原

欧州では現代奴隷法のような表示規制から、フランスの企業義務注意法やドイツのデュー・ディリジェンス法等企業が行う人権デュー・ディリジェンスの内容に踏み込んだ規制がなされる傾向が進んでおり、不動産事業の業界においてもこのようなトレンドを踏まえたサプライチェーンの見直しが必要となっているように感じます。人権の軽視された労働という犠牲が元になった街づくりに携わる・投資するというのは正当化されにくい状況が強まるのではないでしょうか。

糸川

そうですね。いかに素晴らしいコンセプトの街であっても、人権の犠牲の元に成り立っているようであればそのような街の不動産を開発し運用する・投資することは現代においては望ましくはないという批判を受けるリスクが残ってしまうように思います。
CHAPTER
04

不動産における地域コミュニティと人権デュー・ディリジェンス

福原

不動産開発との関係では、特に新興国における開発等、場所によっては先住民の権利が保護されるべき場所等もあるかと思いますが、実務上はどのような考慮が必要でしょうか。

糸川

先住民がいるような場合、原則として融和的な土地の開発を指向するべきといえると思います。開発用地の取得に当たっては、地歴を確認しますが、これまでの主な目的としては、売主に完全な所有権があることや土壌汚染がないか等の開発用地として適法・適切であることを確認するほか、反社会的勢力からの取得となっていないか、違法な地上げがないかを確認するためのものです。今後は、不動産の取得に当たって、先住民に対して適切な補償等がなされているか、土地固有の文化や慣習的な権利への配慮がなされているかといった点の確認の重要性も増してくるように思います。

福原

そうですね。また、用地取得に当たっては、売主が非人道的な行動をした企業でないか、例えば農地収奪の上児童労働をさせていたなどもチェックすべきということになってくるようにも思います。

糸川

負の連鎖を断ち切るという面で正当化されるような用地取得もあり得るのでしょうか。

福原

その点は、非人道的な企業にとって利益となるような金銭的な受渡がなされないことが前提かと思いますが、難しい問題ですね。人権侵害に加担したと評価されないためのスキームも含めて個別的な検討の必要があると思います。

糸川

都心部では先住民よりも近隣住民との融和が問題となると思います。この点が難しいのは、土地開発に当たって近隣住民に配慮しなければならないのは間違いないと思いますが、他方で、そもそも都心部では建物が密集していますし、それを前提に都市計画が組まれていると思います。その上で、土地が有効に活用されるためには、近隣住民側が甘受すべき場合もあり、またそもそも法的権利もなく感情的なクレームや不当な要求がなされることもあり、このような場合には不動産の社会的有用性を害しないようにするためにも毅然とした態度を取る必要があると思います。

福原

色々と考慮すべき点はありますが、ESGに関わる取組みによって不動産価値の向上や競争力強化につなげられるよう、弁護士としてもこれからもサポートしていきたいですね。本日はありがとうございました。

糸川

不動産分野での人権デュー・ディリジェンスについては法的問題も関連することが多いため、様々な視点から弁護士としてサポートできることは多いと思っています。本日はありがとうございました。

本対談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。