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鼎談:宇宙ビジネス ~ スペースポート編


鼎談者

パートナー

大久保 涼

当事務所宇宙プラクティスグループ代表。主な業務分野は、M&A、プライベート・エクイティ投資、プライベート・エクイティ投資、テクノロジー・宇宙分野などの複雑な企業法務全般である。2010年から宇宙航空研究開発機構(JAXA)契約監視委員会委員。

ゲスト

小田切 義憲

SPACE COTAN株式会社 社長兼CEO。1987年全日本空輸に入社。運航管理業務部門を経て、成田空港や羽田空港でのオペレーション体制再構築を務める。その後、エアアジア・ジャパンCEOを経て、ANA総合研究所にて地方創生などの業務に携わり、2021年4月より現職。

ゲスト

中神 美佳

インターステラテクノロジズ株式会社 ビジネスディベロップメント部マネージャー。SPACE COTAN株式会社 取締役兼CMO。1986年北海道大樹町生まれ。2009年に日産自動車株式会社に入社。主にマーケティング・調査分析をおこなう。2015年に大樹町へUターン(1回目)。地域おこし協力隊として、ふるさと納税や野外フェス(宇宙の森フェス)の企画運営などに携わる。任期終了後は、再び東京へ戻り、株式会社スマイルズのクリエイティブチームにて広報やプロジェクトマネージャーを経験。2019年、2回目のUターンを経てロケットベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」に。コーポレート広報やロケットのビジネスディベロップメント・営業等を担当。2021年から、宇宙港「北海道スペースポート」の事業推進会社SPACE COTANも兼業。

大久保

本日は、北海道に宇宙版シリコンバレーをつくる、ということで、SPACE COTAN株式会社CEOの小田切義憲氏と、インターステラテクノロジズ 社(以下、IST)ビジネスディベロップメント部マネージャーの中神美佳氏にお越し頂きました。ではまず、小田切さんからお話をお伺いしたいと思います。宜しくお願いします。ます、SPACE COTAN社と北海道スペースポート(HOSPO)の経緯について教えて頂けますでしょうか。

小田切

私は前職航空会社にいて空港でオペレーションや運航の仕事をしていましたが、北海道の大樹町で2021年4月20日にSPACE COTAN社を立ち上げました。COTANはアイヌ語で集落を意味します。「宇宙版シリコンバレーをつくる。」を標榜していますが、宇宙ビジネスの産業クラスターをつくることを目指しています。この会社自体は北海道スペースポートという公共施設であるロケットの射場を運営・管理する会社ですが、大樹町を中核として、十勝、北海道全域に宇宙ビジネス産業を広げていくことが最終的な目標です。大樹町では実は1985年から宇宙への取り組みを始めており、徐々にスペースポートの計画を温め、進めてきましたが、多くの民間人が宇宙に旅立ったエポックメーキングな年である2021年に、いよいよ北海道スペースポートを運営するためのSPACE COTAN社を立ち上げて本格的に始動していくことになりました。

大久保

北海道スペースポートの整備の現状を教えて下さい。

小田切

大樹町は人口が5,400人という小さい町ですが、企業版ふるさと納税、個人版ふるさと納税で半分、残り半分を国から地方創生拠点整備交付金として頂くことで大樹町の公共事業として北海道スペースポートを整備しています。世界規模での宇宙産業市場規模は2040年には110兆円まで成長すると言われており、とくにリモートセンシングは大きな成長余力があります。そして、小型衛星を多数配置するコンステレーションの計画が増えています。今後年間1,000機を超える人工衛星打上げ需要があると言われている中で、世界的に射場とロケットが不足しています。日本は、鹿児島県内之浦と種子島にJAXAの施設がありますが、民間の射場が必要となります。北海道スペースポートでは、これまでJAXAの成層圏実験用の気球を打上げてきた他、インターステラテクノロジズ(IST)社がロケットの打上げを行っています。IST社は、2019年5月に、国内民間企業の単独開発として初めて、サブオービタルロケットのMOMOを打上げ、宇宙に到達させました。その後、2021年7月にMOMO6号機・7号機が連続打上げに成功し、今後ZEROという20m級の超小型衛星打上げロケットも開発して、本格的な商業利用に入ることになっています。

大久保

大樹町はロケットの打上げにとってどういうメリットがあるのでしょうか。

小田切

地理的に、大樹町は、東・南に太平洋が開かれており、人工衛星を効率的に任意の軌道に投入できるのですが、そういった場所は世界に余り多くありません。また、航空路、海上航路が輻輳しておらず、地元関係者の理解もあり、打上げに関わる諸調整が比較的容易というメリットがあります。また、大樹町には、今後世界中の民間企業のロケット需要を取り込み、拡大できる展開用地もあります。また、十勝晴れと言いますが、晴天率が高く、気象条件が良好です。さらに、海外の射場に比べて、圧倒的に空港、都市、港から近いというアクセス上のメリットもあります。

大久保

施設としてはどのようなものがあるのでしょうか。

小田切

今ある施設としては、1,000Mの滑走路、気球格納庫、MOMOを打上げるLaunch Complex(LC)-0があります。2023年度には、ZEROを打上げるLC-1を運用開始するとともに、滑走路を1300Mに延伸して有翼型の実験ロケットを使えるようにします(第1期工事23.6億円)。さらに、2025年には、さらに大きなロケットを打上げるLC-2を整備する予定です(第2期工事概算費用40億円)。

大久保

合計63.2億円ですね。資金調達はどのようにされているのですか?

小田切

企業版ふるさと納税で31.6億円と国からの地方創生交付金で31.6億円を目指しています。まずは初年度ふるさと納税等で5億円集めることを目標としていたのですが、全国から、そして様々な企業様にご協力頂き、最終的には88社から8億円を超える企業版ふるさと納税を集めることができました。小さな町である大樹町を支援するのみならず、北海道全体に貢献できるということがご理解いただけた結果と考えています。道・経済団体、大学、民間企業等と連携し、雇用創出、観光、教育、衛星ビックデータや自動運転を活用した畜産、農業、林業、漁業といった1次産業・飲食などの3次産業への貢献など、保守的に見積もっても北海道全体に年間267億円の経済波及効果があると見積もっています。また、牛の糞尿を使って液化メタンガスを作り、発電に使うとともに、ロケットの液体燃料としたり、EV用の水素を作るという取組みも行っています。地産地消のバイオ燃料ということで、SDGsや脱炭素に役立ちます。

大久保

衛星ビッグデータの活用としてはどのようなことがあるのでしょうか。

小田切

小麦栽培は収穫する時期が極めて重要なのですが、衛星データを使って小麦の生育状況を確認して、刈り取り順序の計画を立てて効率的、集中的に刈り取るということが十勝地域では定着しており、成功事例の一つと言えます。

大久保

15年後くらいにはどうなっていると思いますか?

小田切

水平型のロケットを使ったPoint to Point(P to P)のビジネスモデルが発達すると思います。日本からNYまで40分とかで到達できるので世界中に日帰り旅行ができるようになります。大樹町にそのような宇宙港を作っていきたいと考えています。

大久保

現在寄付に頼っているわけですが、スペースポートビジネスは将来性もありビジネスとして成立すると思うところ、PFI、PPPや、ベンチャーからの出資といった形での資金調達はお考えではないのでしょうか。

小田切

スペースポートは今後需要な社会基盤インフラなので、本来は国や自治体が作るのが筋とも考えていますが、最初から国にお願いしたり、PFI、PPPを提案しても、夢はあるけれどということで、事業性にクエッションマークがつけられてしまいます。ゼロから1を生み出すことは難しいですが、まず第一期工事は自分たちで寄付で集めてやった方が早いと考えました。そこできちんと実績を作り、第二期工事については、PFI、PPPなど違う財源確保をすることも並行して考えていきます。形としては地方空港に近いものなので、出資よりはPFI、PPPかなと思っていますが、空港と違って実績がなく事業性をご理解いただくことはなかなか難しいので、いいアイデアがあれば是非教えてください。

大久保

JAXAの内之浦射場では、ロケットを打上げる際に住民を毎回避難させないといけないので、頻繁にロケットを飛ばすのは簡単でないという理解ですが、大樹町ではいかがでしょうか。

小田切

MOMOでも何世帯かの方は保安区域に入るので、対応して頂いていますが、周辺にそれほど人家はありません。酪農家の育成している牛について騒音による若干の課題はあり、都度対応しています。今後ZEROになると保安区域は広がりますが、先ほどからお話しておりますとおりこのスペースポートの発展は地域にとってもよい話であり、Win-Winを目指し地域全体の理解を得て進めていことが肝要だと考えています。

大久保

ありがとうございました。続いて、今度はロケット側の視点から、IST社の中神さんにお話を伺いたいと思います。中神さん、よろしくお願いいたします。まずは、IST社の概要を教えていただけますか。

中神

はい、IST社は2005年に作られた民間組織「なつのロケット団」が前身となり、2011年から大樹町にてロケット打上げ実験を開始しました。その後2013年にIST社が設立され、IST社が現在開発しているロケットとしては、小田切さんからもご紹介のあったMOMOという10m程度の観測ロケット、それからZEROという25m程度の超小型衛星打上げロケットになります。MOMOは、今まで7回打上げをしていて2019年にはじめて宇宙に到達しました。2021年に打上げられたMOMO6号・7号は、問題が見つかったエンジンなどを設計し直した新型です。MOMOでは微小重力環境の科学実験などを行っています。ZEROは2023年度に初号機を打上げる予定の二段ロケットで現在開発中です。宇宙に到達した民間開発単独開発のロケットを有しているのはIST社が国内唯一です。

大久保

IST社がターゲットしている分野はどの辺になるのでしょうか。

中神

現在、人工衛星の小型化・コンステレーション化が進んでいて、小型衛星の打上げ需要が高まっており、2021年に打上げられた小型衛星は1,000機を超えています。小型衛星の利用目的としては、全地球インターネットなどの通信、リモートセンシング、安全保障などがありますが、ISTがターゲットにしているのはこのような小型衛星の打上げです。日本では、現在年間平均2~6回しかロケットの打上げは行われていませんが、今後は年間数十回以上の需要があると言われています。

大久保

なるほど。既存のロケットで打上げるのと比べてIST社のロケットで打上げるとどのようなメリットがあるのでしょうか。

中神

まず、価格です。ZEROでは、150kgまでの衛星が打上げられますが、打上げ価格は一般的には40~200億円であるところ、ZEROでは一桁安い6億円以下での打上げを目指しています。MOMOでも同クラスの観測ロケットの相場である2~5億円とは一桁違う数千万円で打上げが可能です。

大久保

すごい低価格ですね。それはどうやって実現するのでしょうか。

中神

敢えてメンテナンスの必要な再利用は目指さず使い切りモデルで量産すること、また設計・製造・試験評価・打上げを自社で一気通貫させることで無駄を省ける開発体制により実現します。これは開発のスピード感にも直結するのですが、実際に、エンジンの燃焼試験を週3回やったこともあります。また、燃料を噴射するインジェクターは、数百パーツあったものを数パーツに削減するなどで部品点数を削減することで低価格化したり、3Dプリンタを作って部品を作ったりといった工夫もしています。また、北海道スペースポートにIST専用の射場・工場があるのでそれもスムーズ・安価な打上げにつながっています。

大久保

値段以外のメリットはありますでしょうか。

中神

はい、SpaceXのFalcon9のような大型ロケットだと、小型衛星は相乗りさせてもらうことになり、そうすると行きたいときに直接行きたい軌道に行けないという不便があります。他方、ZEROは小型衛星専用なので、打上げたい時に行きたい軌道へ人工衛星を送ることができます。目的地が違うところに連れていかれる大型バスなのか、あなたの行きたい目的地にあなたの希望のタイミングに届けてくれるチャーター便なのかという違いですね。また北海道スペースポート(HOSPO)を使うので、東から南まで、広角度に打上げられるのは大きな強みです。また、ISTのロケットは液体推進剤(液化メタンと液体酸素)を使っていますが、液体メタンは天然ガスに多く含まれる成分で環境にも優しいなど世界的に注目されています。液体ロケットだと固体ロケットと比較して振動が少なく人工衛星への負荷が小さいというメリットもありますし、将来有人宇宙船の開発も目指しているのですが有人飛行だと固体ロケットは振動が大きく人は耐えられないため、液体ロケットの技術を選択しているという理由もあります。小田切さんの話にあったように北海道では牛の牛糞から液化メタンを地産地消できるという点や、それによりカーボンニュートラルに貢献できる点も魅力です。なお、民間の液体ロケットでの宇宙到達では、IST社は、米国のSpaceX、Blue Origin、Rocket Labに次ぎ、世界でも4社目です。良いポジションについています。

大久保

日本の衛星事業者からすると、国内から打上げられるので、輸出入に関する許可や空輸のための梱包や空輸後の追加試験などを考えなくてよいというメリットも大きそうですね。IST社の今後の展開について教えて下さい。

中神

人工衛星・ロケット(IST)・宇宙港3者(SPACE COTAN社)による垂直統合サービスの実現を目指し、2021年にはOur Starsという小型人工衛星会社を子会社として設立しました。ピンポン玉サイズの超小型衛星数千個のフォーメーションフライトによる通信衛星サービス、宇宙実験用衛星回収カプセル、超低高度リモートセンシング衛星による地球観測サービスなどを目指しています。また、将来的には、ロケットを大型化して有人の宇宙船を作ったり、小惑星探査なども考えており、最終的には、社名でもあるインターステラー(恒星間)の探査(太陽系外探査)を目指します。

大久保

フォーメーションフライトですが、スターリンク衛星でも話題になっていますが、こんなに大規模に展開してしまうと、光ってしまって天体の観測に悪影響が生じるということで、天文学者から文句が出たり、今後規制されたりする懸念はないでしょうか。

中神

現状ある規制で例えばデブリ規制は、すでに各国で規制があって民間もそれを守る形で開発・製造していますし弊社も同様です。弊社の人工衛星も最終的に軌道上から落としてデブリ化させない設計なので問題ないと思っています。天文学への影響などそれ以外の規制というのは今後議論になっていくのかもしれません。

大久保

なるほど。最後に、より大きな観点から法的な側面に着目して、小田切さん、中神さんの方で、何か法律面でお困りの点とか課題とかはご認識されておりますでしょうか。

小田切

飛行機ですとICAO(国際民間航空機関)という国連組織があってそこで国際ルールが調整されてそれに基づいて各国で航空法が作られていますが、ロケットだとまだ人が国境を超えて移動することが基本的になく、近い将来には先ほどお話したとおりP to Pが実現するまでには、ロケットにも同様の国際的組織、規制が必要になるのだろうと思っています。また、米国では射場もロケットもFAA(連邦航空局)が全て管轄していますが、日本では射場は航空局、ロケットの認証取得は内閣府と担当が分かれています。射場もロケットも合わせて管轄する宇宙庁のような一元的な組織を作って、宇宙港を作るための要件などを予め明確に定めてもらうことが望ましいのだろうと思っています。

中神

あと、日本で海外のロケットを打上げるためには、例えば米国の輸出規制(ITAR)対応なども必要となりますが、日米間でTSAの協定について議論がされています。現在まだ国家間で調整中ですね。

大久保

米国だと、FAAの商業宇宙輸送オフィスにスペースポート局があり、さらにいくつかの州では州法に基づきSpaceport Authorityが設置され、スペースポートの整備に官が大きく関与している印象ですが、日本ではまだ民間が自力でやっているという感じでそこまで行っていないですね。

小田切

そうですね、日本はまだ米国ほどの実績もなく、ボトムアップで積み上げている段階ですが、将来的には米国のように国や道など自治体によりトップダウンで進めていって欲しいと思っています。

大久保

本日は大変面白く勉強になるお話をどうも有り難うございました。

本鼎談は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。