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ウクライナ危機アップデート ロシアによる経済制裁への対抗措置

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

NO&T Europe Legal Update 欧州最新法律情報

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 ロシアがウクライナに対する全面的な軍事侵攻を開始したことに対応し、各国が相次いで対ロシア経済制裁措置を発表したことについては、当事務所の米国最新法律情報No.69/欧州最新法律情報No.8で説明させていただいたとおりです。これらの経済制裁措置に対抗する目的で、ロシアにより各国に対する対抗措置が相次いで導入されており、ロシア政府が同国から撤退する外資系企業の資産を接収することを検討しているという報道は日本でも大きく報じられました。本ニュースレターでは、かかるロシアによる対抗措置の内容を概説いたします。

 なお、本ニュースレターは2022年3月15日時点の情報に基づきます。ロシアに対する経済制裁やロシアによる対抗措置を巡る状況は日々目まぐるしく変動しています。当事務所では、ロシア・ウクライナ危機対応に関する専用のお問い合わせ窓口を設けていますので、最新情報については以下の専用メールアドレスまでお問い合わせください。

 ロシア・ウクライナ危機対応 相談窓口:russia-support@noandt.com

2. 今般新たに導入された対抗措置

 ロシアが今般の対ロシア経済制裁措置に対抗する目的で新たに導入した対抗措置のうち、主なものは以下のとおりです。

(1) 取引規制(2022年3月1日発効)※1

 2022年3月2日以降、ロシア居住者と、(i)非友好国(”Unfriendly States”)に関係する外国の者※2、又は(ii)その支配下にある者※3(以下、(i)と併せて「非友好国関連当事者」といいます。)との間における以下の類型の取引について、当局(Subcommission of the Government Commission on Monitoring Foreign Investments)の許可が必要となります※4

  • 非友好国関連当事者に対するロシアルーブル建てによる信用・融資の供与
  • ロシア居住者と非友好国関連当事者の間の証券又は不動産の取得に関する取引(2022年2月22日以降に非友好国関連当事者から当該資産を取得した非友好国に関係しない者から、ロシア居住者が当該資産を取得する取引も含む。)
  • その他別途指定される外国為替取引等

 日本は上記「非友好国」に指定されているため、例えばロシア子会社の資金を日本の親会社に集めるようなグループ内CMSを導入している場合には、上記1点目の類型の取引に該当すると解されるおそれがあります。また、ロシア居住者が関わるM&A取引が上記2点目によって影響を受ける可能性もあります。

 上記の取引規制は、2022年3月2日以降に契約が締結されたものだけではなく、同日以前に締結された契約の履行についても適用される可能性があるため、個別の検討が必要となります。

(2) 外貨輸出制限(2022年3月1日発効)※5

 2022年3月2日以降、1万米ドル相当額超の外貨の現金又は外貨建て金融商品の輸出が禁止されます。

(3) ロシアルーブルによる債務返済の容認(2022年3月5日発効)※6

 公表された大統領令によれば、非友好国の債権者に対して債務を負うロシアの債務者は、ロシアの銀行に、当該「債権者の名義」で、ロシアルーブル建ての「Type C」口座を開設することができるとされています。本大統領令の規定は非常に曖昧であり、文言上不明確な点が残るものの、当該「Type C」口座に対しロシアルーブル建てで債務相当額の支払いを行うことにより、債務者は債務を弁済したものとみなされると考えられています。

 また、大統領令に続いて公表されたロシア中央銀行の決定によると、資金の引き出しには、基本的に特別な許可が必要とされており、また、引き出しの手続きについても具体的に定められていません。

 日本企業など、非友好国の債権者が、ロシアの取引先から弁済を受ける際に、「Type C」口座を利用され、ルーブルでの返済を強制されるとともに、そこからの資金の引き出しも制約される可能性があることになりますので、取引時には注意が必要となります。

3. 現在検討中の対抗措置

 上記に述べた対抗措置のほか、現在以下の対抗措置の導入が検討されていると考えられています。

(1) 有価証券取引及び配当の停止

 2022年2月28日、Central Bankにより、以下の2つの措置の導入が宣言されました。具体的な導入時期は明らかにされていませんが、ロシア子会社からの配当が制約される可能性があるため、導入されれば日本企業にも影響が及ぶと考えられます。

  • ロシアのブローカーに対する、ロシア非居住者のために証券の売買の媒介を行うことの禁止
  • 外国人及び外国法人に対する、ロシアの発行体の証券に係る配当の停止

(2) 国有化法

 ロシアにおける事業の停止・撤退を決定した外資企業に対する資産の接収等を定める、いわゆる国有化法の導入が検討されている旨が、多くのメディアにより報道されています。国有化法については、まだ公に法案が公表されていない状況であるものの、一部市場関係者と政党の間で回覧されている非公式なドラフトに基づき報道がなされており、最終的な法律内容は大きく変わるとも言われています。

 現時点でのドラフトによると、以下の要件を充たす企業について、政府による外部管理の対象になるとされています。

  • 非友好国に関係する外国人・外国法人が支配している又は直接若しくは間接に25%以上の議決権・出資持分を保有していること、
  • 直近の計算書類における資産の簿価が10億ルーブル超であること及び/又は外部管理申請前1か月の平均従業員数が100名を超えること、かつ
  • 以下のいずれかを満たすこと
    • –   会社の事業活動が事実上終了していること(会社の経営陣・株主の行為によって、会社の資産に大きな損失を与えたこと及び/又は会社の義務履行を不能にさせたことなどが含まれます。)
    • –   会社の経営陣・株主により根拠のない活動終了、清算又は破産が行われたこと(2022年2月24日以降に、会社の経営陣・株主が、明らかな経済的な理由がないにもかかわらず、その事業の終了を公表したこと、重要な契約を解除したこと又は企業の従業員の3割以上の解雇通知をしたことが含まれます。)
    • –   その他ロシア政府が定める基準

 上述のとおり、これらはいずれも検討段階であり、公式の法律・法案に基づく内容ではないものの、法案が成立すれば、ロシアで事業活動を行う日本企業への影響は甚大であるものと思われ、注視が必要です。また、今後成立する法律の内容次第では、日本とロシアが相互の企業や投資財産を保護するために締結している投資協定との関係についても検討が必要となると考えられます。この点については、改めて他のニュースレターで取り上げることを予定しています。

(3) 刑事責任・行政責任

 2022年3月2日現在において、上記制裁に係る刑事/行政責任は法定されていません。もっとも、以下の行為について刑事責任を定める法案※7が国会で審議中であり、2022年2月には、同法案が同年春頃採択される見込みである旨発表されています。

  • 対ロシア制裁措置を遵守する目的で行われた行為であって、これによりロシアの事業体がその通常の事業活動を制限された場合
  • 外国又は国際機関による対ロシア制裁措置の導入を意図的に促進する行為

4. 従来の対抗措置:ロシアの裁判所の専属的管轄権

(1) 概要

 今般のウクライナ侵攻をめぐる各国の制裁措置の導入以前から存在したロシアによる対抗措置のうち、重要なものとして、2020年6月に成立した連邦法No.171-FZがあります。これは、各国による制裁措置の対象となっているロシアの個人や法人に対し、ロシアの裁判所で裁判を受ける権利を付与することを目的とするものであり、具体的には、以下の紛争について、ロシアの裁判所が専属的管轄権を持つことが定められています。

  • 外国の制裁の対象となったロシアの個人又は法人が関与する紛争
  • ロシアの個人又は法人を対象とする外国の制裁に起因する紛争

 さらに、当事者間の契約上、外国の裁判所・仲裁地に関する合意管轄や仲裁条項が定められている場合であっても、以下の場合には、やはりロシアの裁判所が専属的管轄権を持つこととされています。

  • 制裁措置により制裁対象者の司法へのアクセス(”access to justice”)が妨げられていることによって、当該契約が執行不能(”unenforceable”)であり、かつ、
  • 当該制裁対象者が、かかるaccess to justiceの制限の存在を申し立てた場合

 加えて、近時のロシア最高裁の判例※8では、当事者が対ロシア制裁の対象者となっていることのみをもって、当該当事者のaccess to justiceが制限されているといえるものと判断したものがあります。したがって、かかる判例に従うと、制裁対象者との紛争については当然に上記1点目の要件が満たされることとなり、当該制裁対象者が申し立てることによって、当事者間の合意内容に拘わらず、ロシアの裁判所が専属的管轄権を持つことにもなりうることになります。

 そして、ロシアの裁判所に専属的管轄権があると判断された場合には、外国の裁判所における判決や仲裁機関における仲裁判断がロシアにおいて執行されない可能性があることを意味するため、制裁対象者と取引を行う場合や、制裁を理由として取引を解除する等により紛争が生じることが想定される場合には、紛争リスクの分析にあたって考慮する必要があると考えられます。

(2) 審議中の修正法案

 さらに、ロシアの裁判所が専属的管轄権を持つこととなる紛争の対象として、直接又は間接的に以下の行為を行った者を当事者とする紛争を加える法案が提出され、現在ロシア国会にて審議中です。

  • 経済的又はその他の支援の提供等による制裁の導入の促進
  • 制裁措置に起因する不当な優遇や利益の受領
  • 制裁措置を理由とする債務不履行

*ロシア法に関する記述部分については、ALRUD Law Firmから提供された情報に基づきます。

脚注一覧

※1
大統領令No.81 “On Additional Temporary Economic Measures to Ensure the Financial Stability of the Russian Federation”

※2
非友好国の国籍を有する者、非友好国において登録された者、主要な事業活動地又は収益地が非友好国である者等が該当するものとされています。

※3
登録地、経済活動地は問わないものとされています。

※4
法定の審査期間は定められておらず、許可に要する期間は不明確です。

※5
大統領令No.81 “On Additional Temporary Economic Measures to Ensure the Financial Stability of the Russian Federation”

※6
大統領令No.95

※7
Draft Law No.464757-7

※8
2021年12月UralTransMash v. PESA (case number А60-36897/2020)

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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