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米国輸出管理規制アップデート~対中輸出規制の強化~

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2022年10月7日、米国商務省産業安全保障局(the U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry and Security、以下「BIS」といいます。)は、中国による先端コンピュータチップの調達、スーパーコンピュータの開発及び維持、並びに先端半導体の製造に関する能力を制限することを目的として、輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下「EAR」といいます。)を強化するための新たな暫定最終規則※1(Implementation of Additional Export Controls: Certain Advanced Computing and Semiconductor Manufacturing Items; Supercomputer and Semiconductor End Use; Entity List Modification、以下「本暫定最終規則」といいます。)を公表しました。本暫定最終規則は、半導体及びスーパーコンピュータに関連する取引を広くEARの対象として規制するものであり、従前の規制と比較しても著しい規制強化がなされていることから、日本企業を含めその影響は非常に大きいものと思われます。なお、本暫定最終規則は2022年10月7日、2022年10月12日及び2022年10月21日をもって既に段階的に施行されています※2

 また、同日、BISは、本暫定最終規則の公表にあわせて、エンティティ・リスト※3への掲載要件を変更し、新たに中国関連の31社を未検証エンドユーザーリスト(Unverified List、以下「UVL」といいます。)に掲載することを発表しています。

 本ニュースレターではこれらの点を含むEARに関する最新のアップデートについて紹介します。

本暫定最終規則のポイント

 本暫定最終規則は、米国の国防及び外交上の懸念に対処する観点から、特定の先端コンピューティング用集積回路及びスーパーコンピュータに関する取引並びにエンティティ・リストに掲載の一定のエンティティを含む取引に関して、新たな規制を課しています。また、特定の半導体製造装置を含む取引についても新たに規制対象に含まれています。特に注目すべき本暫定最終規則のポイントは以下のとおりです。

1. 規制品目リスト(Commerce Control List、以下「CCL」といいます。)※4の追加及び改定

 本暫定最終規則は、中国向け又はテロ支援国家向けの輸出又は再輸出を規制する観点から、半導体製造装置及び先端コンピューティング用集積回路を対象に、以下の新たな輸出管理分類番号(ECCN)を新設し、既存のECCNの対象製品を一部改定しました。

ECCN 対象製品
3A090(新設) 一定の先端コンピューティング用集積回路
3B090(新設) 一定の半導体製造装置及びその部材
3D001及び3E001(改定) 3A090の集積回路又は3B090の半導体製造装置に関連するソフトウェア及び技術
4A090(新設) 3A090の集積回路を搭載したコンピュータ・電子機器・部材
4D090(新設) 4A090のコンピュータ・電子機器・部材に関連するソフトウェア及び技術

2. 米国外製品向けEAR規制の拡大

 EARは米国製の技術又はソフトウェアを直接利用して米国外で製造された一定の製品を「直接製品」(Foreign Direct Product)として規制対象としていますが、本暫定最終規則においては、以下のとおり、直接製品規制の対象となる新たな3類型が追加されました。なお、新たな直接製品ルールの下でも、従来の直接製品規制と同様、ライセンスの対象となるか否かは、当該製品の内容及び当該製品の利用目的という観点から判断されることとなります。

① 脚注4付エンティティ・リスト掲載者向けの直接製品に関する新規制

 BISは、2022年10月21日付で、すでにエンティティ・リスト掲載済みの中国企業28社を新たに脚注4付エンティティ・リスト※5として指定し、その上で、ECCNが付与された一定の技術又はソフトウェアを使って製造した米国外製品のうち、(i)脚注4付エンティティ・リスト掲載者が製造・購入・発注する製品等に組み込まれる若しくは利用されることを知り得る場合、又は(ii)脚注4付エンティティ・リスト掲載者が当該製品の取引に関与することを知り得る場合については、中国向けに限らず、全世界への輸出・再輸出・国内移転がライセンスの対象となります。かかる規制の下では、例えば日本国内企業に対する日本国内における移転を前提とした取引であっても、最終的に当該移転先企業によって脚注4付エンティティ・リスト掲載者向けの製品に組み込まれることを知り得る場合については、ライセンスの対象に含まれることとなります。

② 先端コンピューティング用の直接製品に関する新規制

 ECCNが付与された米国製の一定の技術又はソフトウェアを使って米国外で製造した先端コンピューティング用集積回路や当該集積回路を組み込んだ製品又は技術であって、当該製品・技術が、(i)中国向け若しくは中国向けの製品に組み込まれることを知り得る場合、又は(ii)上記技術が中国企業等若しくはそれらの中国内外の子会社等によってマスク、半導体のウェハー若しくはダイのために開発されたものであることを知り得る場合については、中国向けに限らず、全世界への輸出・再輸出・国内移転がライセンスの対象となります。

 なお、無許可で対象となる直接製品の輸出・再輸出・国内移転をしてしまうリスクを回避するために、当該製品のサプライヤーから、当該製品が上記要件を満たす直接製品かどうかの確認書(certification)を受領することができる旨が規定され、当該確認書のフォームが本暫定最終規則に付属されています。

③ スーパーコンピュータ用の直接製品に関する新規制

 ECCNが付与された米国製の一定の技術又はソフトウェアを使って米国外で製造した製品又は技術であって、当該製品・技術が、(i)中国に所在する若しくは中国向けのスーパーコンピュータの開発、製造、使用等に利用されること、又は、(ii)中国に所在する若しくは中国向けのスーパーコンピュータの部品、部材若しくは機器に組み込まれること若しくはその開発若しくは製造に利用されることを知り得る場合については、中国向けに限らず、全世界への輸出・再輸出・国内移転がライセンスの対象となります。

3. 新たなライセンス要件(License Requirement)の導入

(1) 半導体製造装置関連のエンドユース規制の導入

 本暫定最終規則においては、以下の各製品の輸出・再輸出・国内移転に関し、ライセンスを求める新たなエンドユース規制が導入されています。

  • 1. EAR 744.23条の条件を満たす集積回路※6を製造する中国内の施設(facility※7)で、集積回路の開発又は生産に使用されることを認識している場合、全てのEAR対象製品
  • 2. 中国内の半導体製造施設における集積回路の開発又は生産に利用されることを認識しているものの、当該半導体製造施設がEAR 744.23条の条件を満たす集積回路を製造しているか分からない場合、半導体等を含むエレクトロニクス分野の製造及び試験装置、材料、ソフトウェア、技術等
  • 3. 中国において半導体製造装置等に関連する部品、部材又は装置の開発又は生産に使用されることを輸出者らが認識している場合、全てのEAR対象製品

 上記製品のライセンスは許可例外がないこととされており、例外的に米国又は一定の非懸念国に本社を有する企業の中国拠点向けの輸出・再輸出・国内移転である場合は事案ごとの審査が行われることとされていますが、その他の場合は原則不許可の推定が働くとされていることに留意する必要があります。また、上記1及び3に該当する場合、リスト外規制品目(EAR99)であってもライセンスの対象となる点にも留意が必要です。

(2) スーパーコンピュータ関連のエンドユース規制の導入

 本暫定最終規則においては、ECCNが付与された一定の集積回路、コンピュータ又は電子部品・部材等の輸出・再輸出・国内移転に関し、以下の目的があることを知り得る場合、ライセンスを求める新たなエンドユース規制が導入されています。

  • 1. 中国に所在する又は中国向けのスーパーコンピュータの開発、製造、使用等に用いられる目的
  • 2. 中国に所在する又は中国向けのスーパーコンピュータに用いられる部品又は部材に組み込まれる又は用いられる目的

 上記製品のライセンスについては、(1)同様許可例外がないこととされており、原則不許可の推定が働くとされていることに留意する必要があります。

4. その他

(1) 暫定包括許可(Temporary General License)

 本暫定最終規則は、2022年10月21日から2023年4月7日までの期間、本暫定最終規則において規制対象とされた製品に関する中国外での使用を目的とした一定の活動について、サプライチェーンへの短期的な影響を最小化するため、暫定包括許可を導入するとしています。なお、暫定包括許可は、あくまでも中国国外での顧客に向けた製品を対象とするものであり、中国のエンドユーザー向けの対象製品の輸出・再輸出・国内移転を対象とするものではないとされていることに注意が必要です。また、脚注4付エンティティ・リスト掲載者向けの取引についても、本暫定包括許可の対象には含まれておりません。

エンティティ・リスト掲載要件の改定・UVLへの新規掲載

1. エンティティ・リスト掲載要件の改定

 BISはエンティティ・リストの掲載要件を改定し、「米国の国家安全保障又は外交政策に反する重大なリスクがある者」を追加しました。一例として、所在国政府の作為又は不作為によりBISがEARの遵守状況について検証が十分に実施出来ない場合には、当該国に所在する企業・団体がエンティティ・リストに掲載され得る旨が規定されました。これにより、エンドユーザーによる場合だけでなく、所在国政府がBISに協力しない場合においてもエンティティ・リストへの掲載リスクが発生することとなります。

2. UVLへの新規掲載

 UVLとは、EAR規制対象品目の輸出・再輸出・国内移転に関して、輸出許可審査時や出荷後確認時において懸念が払拭できなかったとして、BISが公表しているリストをいいます。UVLに掲載された顧客との EAR規制対象品目の輸出・再輸出・国内移転については、許可例外が一切適用されず、また、許可が不要な場合であっても、取引前に、当該UVLに掲載された顧客から一定の内容を含む書面を取得する必要があります。今回、BISは、中国の国有半導体統合デバイスメーカーである長江メモリ(Yangtze Memory Technologies Corp)を含む中国企業31社を新たにUVLに追加しました。

今後に向けて

 上記のとおり、本暫定最終規則は、中国国内を直接の対象とした取引であるか否かに関わらず、半導体及びスーパーコンピュータ関連の取引について広くEARの規制対象とするものであり、これらの取引に関与する日本企業においてはEARのライセンスの対象となるか否かをあらかじめ慎重に検討する必要に迫られることとなりました。このような対中輸出規制の強化に対して、中国の毛寧外交部報道局副局長は、「テクノロジーや貿易の問題を政治的に利用している」とし、「米国は輸出規制を悪用して、中国企業を徹底的に妨害している。」と批判しています※8。今後同様の輸出管理規制が中国側で対抗措置として設けられる可能性もあり、米国・中国の双方でサプライチェーンに組み込まれる日本企業にとっては、影響のある法令のアップデートに関して、引き続きその最新の動向について注視する必要があります。

脚注一覧

※2
2022年10月28日付でBISが公表したFAQ(https://www.bis.doc.gov/index.php/documents/product-guidance/3181-2022-10-28-bis-faqs-advanced-computing-and-semiconductor-manufacturing-items-rule-2/file)(以下「本FAQ」といいます。)によれば、BISは2022年12月12日まで本暫定最終規則に関するパブリックコメントを受け付けており、当該パブリックコメントを踏まえて本暫定最終規則の内容が変更され得る旨が示唆されています。

※3
エンティティ・リストとは、EARのもとで整備されている、米国の国家安全保障や外交政策に反する活動に関与していると考えられる個人、法人及び団体等のリストのことをいいます。エンティティ・リスト及びエンティティ・リスト掲載者への輸出規制の詳細は、本ニュースレターNo53.「米国輸出管理規制アップデート~エンティティ・リストの更新とFAQsの公表~」をご確認ください。

※4
CCLに該当する場合、包括許可や例外の適用ができない限り、原則として輸出・再輸出・国内移転に関する許可申請が必要となります。

※5
北京理工大学、国防科技大学、スーパーコンピュータ関連の各支部、中科曙光(sugon)等が含まれています。

※6
当該集積回路として、(A)非平面トランジスタアーキテクチャーを使用する又は16/14ナノメートル以下の製造技術ノードを使用するロジック集積回路、(B)128層以上のNAND型メモリー集積回路、又は(C)18ナノメートルハーフピッチ以下の製造技術ノードを使用するDRAM集積回路が指定されています。

※7
本FAQにおいて、”facility”とは規制対象レベルの技術を用いて生産を行っている建物を指し、組み立て、試験、パッケージング等の技術レベルの変更がない後工程にのみ関与する施設は対象外であることが明らかとなっています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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