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米国制裁法・輸出管理規則等の安全保障関連法令違反の自主的な報告に関するコンプライアンスノートの公表

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2023年7月26日、米国商務省産業安全保障局(the U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry and Security、以下「BIS」といいます。)、財務省外国資産管理局(the Office of Foreign Assets Control、以下「OFAC」といいます。)及び司法省(the Department of Justice、以下「DOJ」といいます。)は、米国制裁法、輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下「EAR」といいます。)、その他の国家安全保障に関する法律に違反する可能性のある行為に関する自主的な報告(voluntary self-disclosure、以下「VSD」といいます。)に関する、連名のコンプライアンスノート(the Department of Commerce, Department of the Treasury, and Department of Justice Tri-Seal Compliance Note: Voluntary Self-Disclosure of Potential Violations、以下「本コンプライアンスノート」といいます。)※1を公表しました。過去、BIS、OFAC及びDOJはそれぞれVSDに関する規則やガイドラインを公表しており、本コンプライアンスノートは当該各規則において示された政策方針の要点をまとめる内容となっています。すなわち、各3省庁は、法令違反の可能性を認識した場合における企業の積極的なVSDを奨励し、認識した違反を報告しなかった企業に対する罰則を強化する取り組みを行ってきましたが、本コンプライアンスノートはそのような取り組みの内容をあらためて周知するものとなっており、VSDが民事責任や刑事責任に与える重大な緩和効果を強調するものとなっています。上記のVSDに関する規則やガイドラインの公表、及び本コンプライアンスノートの発行は、2022年9月15日付でDOJの副長官であるリサ・モナコ氏が示した企業犯罪取締指針※2に示される方針とも軌を一にするものと言えます。本ニュースレターでは、本コンプライアンスノートにおいて示された各3省庁のVSDポリシーの概要についてご説明します。

DOJのVSDポリシー

 本コンプライアンスノートは、DOJの国家安全保障局(the National Security Division、以下「NSD」といいます。)を通じて2023年3月1日付で公表した執行政策方針(the NSD ENFORCEMENT POLICY FOR BUSINESS ORGANIZATIONS、以下「本執行方針」といいます。)※3の内容に言及しています。本執行方針は、刑事罰に相当し得る米国制裁法又はEAR違反の可能性を自主的に報告した場合における潜在的な刑事責任の減刑又は免除の可能性に言及しており、特に、VSDを行い、調査に全面的に協力し、適時かつ適切に違反状態を是正する措置を講じた企業に対しては、有罪答弁(guilty plea)を求めず、不起訴合意(non-prosecution agreement)を与え、制裁金の支払いが不要となる推定が働くこととしています。NSDは、当該是正措置の適切性を分析するにあたり、企業が効果的なコンプライアンスプログラムを実践しているかどうか、また、違反に関与した従業員に対して報酬の返還を含む適切な懲戒処分を課しているかどうかを考慮することとしています。他方で、社内において刑事罰の対象となる行為が蔓延している、上級管理職による隠蔽若しくは関与、又は国家安全保障法に繰り返し違反している等の加重要因(aggravating factors)が存在する場合には、VSDを行ったとしても上記推定は適用されず、NSDは訴追猶予合意(deferred prosecution agreement)又は有罪答弁(guilty plea)を求める裁量を有するとされています。

 なお、本コンプライアンスノートは、本執行方針の適用を受けるためには、潜在的な違反を認識した場合、法令上の報告義務がない場合であっても適時にNSDに対してVSDを行うことが求められるとしていますが、OFACやBIS等の規制当局に対するVSDに加えて、別途NSDに対する直接のVSDが必要とされている点に留意が必要です。また、本執行方針は、米国制裁法又はEAR違反のみならず、外国代理人登録法(Foreign Agents Registration Act)、CFIUS(Committee on Foreign Investment in the United States)審査における刑事罰、テロリストへの物質的支援を禁止する法律等のNSDの管轄下にあるその他の企業犯罪法規にも適用されることとされています。

BISのVSDポリシー

 BISは、2022年6月30日付で公表した行政執行に関するメモランダム※4や2023年4月18日付で公表したEAR違反に関する自主的な報告及び他者に関する報告についての政策方針を明確化するための覚書(Clarifying Our Policy Regarding Voluntary Self-Disclosures and Disclosures Concerning Others、以下「本覚書」といいます。)※5を通じて、潜在的なEAR違反に関するVSDを強く奨励し、EAR違反に対する法執行を強化する方針を明確に打ち出していますが、本コンプライアンスノートは、これらに続くものとして、その内容をあらためて確認するものとなっています。

 従前BISは、Guidance on Charging and Penalty Determinations in Settlement of Administrative Enforcement Cases※6において、適時、包括的、かつ全面的な協力を行うVSDに対しては、適用される民事罰の大幅な軽減を認め、悪質なケースでない場合については民事罰が全面的に猶予される場合がある等として、VSDを行った当事者に対して潜在的な罰則を大幅に免除する取り扱いを認めてきました。他方、本覚書においては、当事者が輸出管理プログラム等を通じて重大なEAR違反の可能性を発見したにもかかわらずVSDを提出せず、輸出管理法法令執行課が当該違反を後に発見した場合には、当事者がVSDを行わなかったという事実がBISによる審査における加重要因(aggravating factor)とみなされることを明確にしました。本コンプライアンスノートにおいても、これらの内容についてあらためて注意喚起がなされています。

OFACのVSDポリシー

 OFACは、DOJ及びBISと同様、米国制裁法に対する違反に関するVSDを促す方針を維持しており、当該方針は「経済制裁執行ガイドライン」(Economic Sanctions Enforcement Guidelines、以下「本ガイドライン」といいます。)※7を通じて公表がなされています。本ガイドラインにおいて、OFACは、特定の米国制裁法違反のケースにおいて最も適切な執行対応を決定する際に、VSDを緩和要因(mitigating factor)とみなすこととしており、適切なVSDがなされた場合には、違反者が受ける可能性のある民事罰の基準額を最大50%減額する可能性があるとしています。そして、本コンプライアンスノートにおいては、当該適切なVSDと認められるためのキーファクターが示されています。すなわち、VSDが緩和要因として考慮されるためには、①VSDがOFAC又はその他の政府機関が問題となる行為を発見する前又はその発見と同時に行われること、また、②VSDが、明白な違反を取り巻く状況をOFACが完全に理解するために十分に詳細な報告を含む(あるいはそのような報告が合理的な期間内に追完される)ものであることが必要であるとしています。他方で、③ある取引が第三者によって妨げられ若しくは拒絶されたため、当該第三者がOFACに対し明白な違反を報告する必要があり、かつ、実際に報告を行っている場合、④VSDに虚偽若しくは誤解を招く情報が含まれている場合、⑤VSDが企業によって自主的に行われたものでない場合(例えば、VSDが政府機関や役人によって促され若しくは要求されたものである場合や、マネジメントの承認を得ないまま従業員によって行われたものである場合等が含まれます。)、又は⑥VSDが著しく不完全である場合については、VSDを緩和要因として考慮しないことが明示されています※8

今後に向けて

 上記のとおり、本コンプライアンスノートは、国家安全保障に関する法律の違反の可能性についてVSDを行うことで得られるメリットを示しつつ、責任ある企業の報告は、米国の国家安全保障と外交政策の目標に脅威を与える可能性のある活動について主要な国家安全保障機関に通知するものであり、米国政府及び米国国民の利益にも資するものであるとしています。その上で、特に国際貿易や金融に携わる企業に対しては、「悪意ある行為者からの脅威を特定し、国家安全保障の保護に貢献する上で重要な役割を果たす」(“critical role in identifying threats from malicious actors and helping to protect our national security.”)ことが強く求められています。また、本コンプライアンスノートを含め3省庁が継続的にメッセージを発信し続けているという事実は、米国政府が、国家安全保障に関連するコンプライアンスを向上させたいという明確な意思を有していることを表しているものと思われます。このように積極的なVSDを含めたコンプライアンスへの取り組みの機運が高まっている状況において、米国制裁法やEAR等の適用対象となる可能性がある日本企業においても、それらの違反の可能性を特定し、潜在的な違反に対して迅速かつ効果的に対処するためのコンプライアンスプログラムを早急に整備することが求められています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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