米国輸出管理規制アップデート～先端コンピューティング及び半導体製造装置関連の輸出管理規制の強化～

本暫定最終規則のポイント

　本暫定最終規則は計400ページを超える内容となっているため、本ニュースレターの性質に照らしてその詳細を取り扱うことはできませんが、特に注目すべき2022年暫定最終規則からの変更点は以下のとおりです。なお、本暫定最終規則は2022年暫定最終規則に対してBISに寄せられた各質問に対する回答を含んでおり、EARの解釈についての重要な指針を示しているため、特に半導体及びスーパーコンピュータ関連のサプライチェーンに関与する企業においては、本暫定最終規則の内容を正確に理解する必要があります。

1. 先端コンピューティング及びスーパーコンピュータ関連の規制強化

①規制対象となる先端コンピューティング用集積回路の技術的要件の変更

　2022年暫定最終規則は、一定の技術的要件を満たす集積回路のみを規制対象としており、当該技術的要件を下回る集積回路については、原則輸出許可（ライセンス）を取得することなく引き続き中国向けの取引を行うことが可能とされていました。他方、本暫定最終規則は、近年の技術革新を踏まえ、2022年暫定最終規則にて新たに追加されたECCN 3A090が規定する先端コンピューティング用集積回路の技術的要件を緩和し、規制対象の範囲を拡大しています。具体的には、対象となる集積回路につき”interconnect bandwidth”の技術的要件を除外し、新たに”performance density”（一つ又は複数の集積回路のパフォーマンス値の合計を用いた基準）の要件※6等が追加されています。

　更に、新たな許可例外プログラムが創設され、ECCN 3A090及び4A090に含まれる一定の集積回路（技術的要件を一定の範囲内で下回るハイパフォーマンスではない集積回路）について、カントリー・グループ※7で「D:1」、「D:4」又は「D:5」に指定された国への輸出・再輸出・国内移転の許可例外を設けるとともに、マカオ又はカントリー・グループで「D:5」に指定された国（中国を含みます。）に輸出・再輸出する場合は事前に通知が必要とされ、米国政府は当該通知から25日以内に、新たな許可例外の適用を認めるか、輸出許可を求めるか決定することとされています。このような技術的要件の変更及び通知プログラムの導入により、より広範な先端コンピューティング用集積回路がEARの規制対象に含まれることとなります。

②迂回防止のための新規制

　本暫定最終規則は、中国企業の子会社への輸出を通じたEARの迂回を防止するため、以下の新規制を導入しています。

• スーパーコンピュータ用の直接製品ルールの拡大：2022年暫定最終規則では、スーパーコンピュータ用の直接製品について中国若しくはマカオ向けであること又は中国若しくはマカオ向けの製品に組み込まれることを知り若しくは知り得る場合について輸出許可が必要とされていましたが、本暫定最終規則では中国及びマカオに加えて、カントリー・グループで「D:1」「D:4」及び「D:5」（但し、「A:5」か「A:6」にも指定されている国は除きます。）に指定された国に対象国が拡大しています。また、マカオ又はカントリー・グループで「D:5」に指定された国（中国を含みます。）に本社を置く企業又はその最終親会社がこれらの国のいずれかに本社を置く企業（全世界を対象とします。）に対する輸出・再輸出・国内移転もその規制対象に含まれることとされています。
• 先端コンピューティング用の直接製品ルールの拡大：2022年暫定最終規則では、先端コンピューティング用の一定の直接製品について中国若しくはマカオ向けであること又は中国若しくはマカオ向けの製品に組み込まれることを知り若しくは知り得る場合について輸出許可が必要とされていましたが、本暫定最終規則ではカントリー・グループで「D:1」「D:4」及び「D:5」に指定された国（但し、「A:5」か「A:6」にも指定されている国は除きます。）に対象国が拡大しています。また、マカオ又はカントリー・グループで「D:5」に指定された国（中国を含みます。）に本社を置く企業又はその最終親会社がこれらの国のいずれかに本社を置く企業（全世界を対象とします。）に対する輸出・再輸出・国内移転もその規制対象に含まれることとされています。
• スーパーコンピュータ関連のエンドユース規制の拡大：2022年暫定最終規則では、一定の集積回路、コンピュータ又は電子部品・部材等の輸出・再輸出・国内移転に関し、中国若しくはマカオに所在する又は中国若しくはマカオ向けのスーパーコンピュータの開発、製造若しくは使用等に用いられる目的があることを知り又は知り得る場合、輸出許可を求める新たなエンドユース規制が導入されていましたが、本暫定最終規則では中国及びマカオに加えてカントリー・グループで「D:5」に指定された国（武器禁輸対象国）に対象国が拡大しています。また、マカオ又はカントリー・グループで「D:5」に指定された国（中国を含みます。）に所在する又はそれらの国向けのスーパーコンピュータの部品、部材又は機器に組み込まれる場合もその規制対象に含まれることとされています。
• 新たな先端コンピューティング関連のエンドユース規制の追加：カントリー・グループで「D:1」「D:4」及び「D:5」に指定された国（但し、「A:5」か「A:6」にも指定されている国は除きます。）以外の国における先端コンピューティング用集積回路等の一定の品目の輸出・再輸出・国内移転に関し、当該品目がマカオ又は「D:5」に指定された国（中国を含みます。）に本社を置く企業又はその最終親会社がこれらの国のいずれかに本社を置く企業（全世界を対象とします。）に向けられたものであることを知り又は知り得る場合が新たにエンドユース規制の対象として追加されました。
• 新たなレッドフラッグ及びデューデリジェンス要件の追加：BISは、EAR適用対象品目を輸出する企業に対して取引先やその関係者に対する一定のデューデリジェンスを実施することを期待しており、そのための指標となる「Know Your Customer Guidance」※8（以下「KYC」といいます。）を公表しています。そして、KYCはデューデリジェンスを実施する際の目安となる「レッドフラッグ」（Red Flags）を公表していますが、本暫定最終規則において半導体製造工場に関する新たなレッドフラッグ及びデューデリジェンス要件が追加されました。
• 2022年暫定最終規則において付属された確認書（certificate）のモデル※9が全ての直接製品ルールにて用いることができる旨が明確化されました。

2. 半導体製造装置関連の規制強化

　半導体製造装置関連の規制に関する、2022年暫定最終規則からの主要な変更点は以下のとおりです。

• 輸出管理の対象となる半導体製造装置の種類が追加※10（ECCN 3B001、3B002、3D001、3D002、3D003及び3E001の改訂）されています。また、新たに追加された半導体製造装置には、NS（National Security）及びRS（Regional Stability）の規制理由が適用されることとなり、中国及びマカオだけでなく、カントリー・グループで「D:5」に指定の国への輸出・再輸出・国内移転について輸出許可の対象とされています。
• 先端ノード集積回路※11向けの半導体露光装置を対象とした0%デミニミス・ルールの新設がされたため、米国由来の技術が含まれた当該半導体露光装置はEAR対象品目となりました。
• 半導体製造装置関連のエンドユース規制対象について、2022年暫定最終規則では一定の条件を満たす集積回路を製造する中国内の施設（facility）で、集積回路の開発又は製造に使用されることを知り若しくは知り得る場合等において、全てのEAR対象品目が対象とされていましたが、本暫定最終規則においては、CCLに特定されたEAR対象品目のみが規制対象とされています。他方、対象国については、2022年暫定最終規則においては中国及びマカオのみとされていましたが、本暫定最終規則においては、マカオ又はカントリー・グループで「D:5」に指定された国（中国を含みます。）に拡大しています。

　米国人（US Person）※12による中国所在の半導体製造施設向けサービスに対する規制内容が、マカオ又はカントリー・グループで「D:5」に指定された国（中国を含みます。）の施設を含む形で拡大・明確化されています※13。

エンティティ・リストの新規掲載

　BISは、2023年10月17日、米国の国家安全保障及び外交政策上の利益に反する活動に従事していることが判明した人工知能（AI）向けの半導体開発を手掛ける中国スタートアップの上海壁仞智能科技（Biren Technology）及びGPUデザインに特化した摩尔线程（Moore Thread Intelligent Technology (Beijing) Co.）の2社とその子会社（合計13社）をエンティティ・リストに新たに追加しました。これにより、これらの会社に対して集積回路を製造・提供している半導体製造工場は、事前に輸出許可が求められることとなります。

今後に向けて

　上記のとおり、本暫定最終規則は、米国政府が中国向けの高度な集積回路や半導体製造装置の輸出に対して、引き続き強い姿勢で臨むことを示したものであり、今後更なる追加措置が行われることも予想されます。また、2023年4月19日付でファーウェイ向けの直接製品規制に違反したとして米国のハードディスクドライブ製造企業であるシーゲイト・テクノロジーに対して3億ドルの罰金が課されるなど※14、近時EAR違反に対する非常に重い罰則が課される事例が見受けられ、米国政府が強制措置を含め、EARに関連するコンプライアンスを向上させたいという明確な意思を有していることが伺われます。そのような状況において、米国・中国の双方でサプライチェーンに組み込まれる日本企業にとっては、影響のある法令のアップデートに関して、引き続きその最新の動向について注視する必要があります。