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ニュースレター

米国競争法・企業結合ガイドラインの最終版の公表

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

NO&T Competition Law Update 独占禁止法・競争法ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2023年12月18日、米国連邦取引委員会(以下「FTC」といいます。)及び米国司法省(以下「DOJ」といいます。)が企業結合ガイドラインの最終版(以下「本ガイドライン」といいます。)を公表しました※1。本ガイドラインは、2023年7月19日に公表されていた企業結合ガイドラインの案(以下「ガイドライン原案」といいます。)について、提出されたパブリックコメント等※2を踏まえて修正したもので、2010年に公表された水平型企業結合ガイドライン及び2020年に公表された垂直型企業結合ガイドライン(以下併せて「旧ガイドライン」といいます。)に替わることになります※3

 ガイドライン原案からの変更点として、①ガイドライン原案では13項目となっていたものが本ガイドラインでは11項目となっていること(例えば、ガイドライン原案の6項は本ガイドラインでは他の項目に統合されています。)、②本ガイドラインではガイドライン原案よりも表現や姿勢がやや抑えられた箇所があること、③本ガイドラインでは、反証のための証拠により焦点が当てられていること等が挙げられますが、本ガイドラインは大部分においてガイドライン原案を踏襲するものであり、バイデン政権下での競争当局の積極的な姿勢を反映して旧ガイドラインの内容を大きく変更するものです。

 当事務所では、2023年7月に公表されたガイドライン原案の内容を解説するニュースレターを発行しておりますが※4、上記のとおり一部の内容に変更があり、最終版となったガイドラインの全体を把握・理解することが重要であると考え、(一部ガイドライン原案の解説と重複する箇所はありますが)本ニュースレターで改めて本ガイドラインの主なポイントについてご紹介します。

 なお、当事務所では、米国競争当局によるエンフォースメントの最近の状況や2023年7月に公表されたHSRファイリングのフォームの改正案についてもそれぞれニュースレターを発行しておりますので※5※6、米国における競争当局の最新動向に関する参考資料として、本ニュースレターと併せてご参照いただけますと幸いです。

本ガイドラインの位置付け

 米国競争当局による競争法の観点からの企業結合の分析は、基本的にClayton ActのSection 7(効果として実質的に競争を減殺するか又は独占を形成するおそれのある企業結合を禁止する規定)に基づいて行われることになるところ、競争当局が発表する企業結合ガイドラインは、禁止対象となる企業結合に該当するか否かを競争当局が判断するための指針となるもので、企業結合の当事者の立場からは、企業結合について競争法上の懸念があるか否か、また、競争当局が企業結合に対してどのような反応を示すのかを予測する上で非常に重要なものとなります。

 重要な点として、競争当局が公表する企業結合ガイドラインは法的拘束力を有するものではなく、裁判所の判断を拘束するものではありません。もっとも、企業結合ガイドラインの内容は実際の裁判において裁判所に好意的に引用される場合もあります。そのため、本ガイドラインは、企業結合を実施する当事者にとって、競争法上の分析に非常に大きな影響を与えるものとなります。

旧ガイドラインから大きく変更された点について

 本ガイドラインの11項目のうち、今回の改正において、旧ガイドラインから大きく変更されたポイントについて説明します。

(水平型企業結合の違法性推定のための閾値の引下げ:本ガイドライン1項)

 旧ガイドライン及び本ガイドラインのいずれにおいても、市場集中度(market concentration)又は市場シェアが一定の閾値を超えた場合には、企業結合が競争法上の懸念を生じさせ得ることが規定されています。市場集中度は、HHI(Herfindahl-Hirschman Index)※7の単位で測定され、旧ガイドラインでは、HHIが1,500から2,500までのやや集中している市場(modestly concentrated markets)の場合、又はHHIが2,500を超える高度に集中している市場(highly concentrated markets)の場合であれば、HHIの増加が100を超えるような企業結合について、競争上の懸念が生じ、しばしば調査の対象になるとされていました。そして、高度に集中している市場の場合でHHIの増加が200を超えるような企業結合については、市場支配力を強める可能性が高いと推定されることになっていました。

 他方、本ガイドラインの1項によると、①企業結合後にHHIが1,800を超え、かつ、HHIの増加が100を超えるような場合には、当該企業結合は違法であると推定されます。また、②HHIの増加が100を超え、かつ、企業結合の当事者が競合する分野における企業結合後の当事者の市場シェアが30%を超える場合にも、当該企業結合について違法性が推定されるとされています。これらの閾値・基準の変更により、違法性が推定される取引の範囲が拡大することが見込まれ、これまでであれば詳細審査がなされなかったような案件でも、これらの閾値・基準を超えた企業結合については詳細な審査がなされる可能性が高くなります※8

 なお、市場シェアの算定が困難な場合であったり、競合他社間で市場シェアに差があるような場合には、HHIの代わりに、市場における重大な競合他社の数を用いて市場の集中度を測定することが有益であるとされています。

(支配的地位を有する会社を含む企業結合:本ガイドライン6項)

 旧ガイドラインでは言及がなかった取引類型として、本ガイドラインの6項は、既に有する支配的地位(already dominant position)を確立又は拡大する取引は競争法に違反する可能性があると規定しています。そして、ある会社が支配的地位を有しているか否かは、耐性のある市場支配力(durable market power)を示す直接証拠又は市場シェアにより判断されるとされます。もっとも、ガイドライン原案※9とは異なり、本ガイドラインでは何が市場支配的地位を示す直接証拠に該当するのか例示されておらず、また、どの程度の市場シェアが耐性のある市場支配力に該当するのかについて定義されていません。

 会社が支配的地位を有すると判断された場合、競争当局は、企業結合の違法性を判断するために、企業結合によって、市場参入や競争に対する障害が大きくなる可能性があるか、買収者に対して脅威となる会社自体の買収であるか、又は、企業結合後の会社が、ある市場における支配的地位を他の関連市場にも拡大することを可能にするかを検討することになります。そして、ある市場における支配的地位を他の関連市場にも拡大することを可能にする例として、抱き合わせ販売(tying)やセット販売(bundling)が挙げられています(もっとも、これらの行為は、状況によっては合法・競争促進的であると裁判所に判断されています。)。

(市場の寡占化傾向のある業界における企業結合:本ガイドライン7項)

 同じく旧ガイドラインでは言及がなかった新たな類型として、本ガイドラインの7項は、業界における寡占化傾向がガイドラインの他の項目の競争上の懸念(例えば、新規参入を阻む等)を高める可能性があるかを検討するとされています。例えば、ある業界において、かつて多くの競合他社が存在していたにもかかわらず、近年は市場がより集中しているような場合、新規参入がしにくくなる等の危険が高まる可能性があるとされています。なお、本ガイドライン7項の内容は、ガイドライン原案の内容※10から実質的に変更されています。

旧ガイドラインとの類似点について

 他方、本ガイドラインでは旧ガイドラインの内容及び方針を踏襲し、敷衍・発展させている部分もあります。これらのポイントについて以下で説明します。

(企業結合の当事者間の競争の分析:本ガイドライン2項)

 旧ガイドラインでは、企業結合が実質的に競争を減殺するか否かを判断するために、企業結合の当事者間の競争の程度を検討することが説明されており、もし企業結合の当事者間に実質的な競争関係が存在する場合には、企業結合の結果当該競争関係が排除されることは反競争的効果を有する可能性があるとされていました。

 本ガイドラインの2項でも、もし企業結合前の企業結合の当事者間の実質的な競争についての証拠がある場合には、かかる企業結合が実質的に競争を減殺する可能性があることが示唆されるとしています。そして、同項では、実質的な競争関係があるかを判断するための指標(企業結合の当事者が通常の業務過程においてそれぞれ相手方に対する戦略的考慮や判断を行っているか、顧客が一方当事者の製品から他方当事者の製品に乗り換える意欲を有しているか、他方当事者に影響を与える一方当事者による競争的行為があるか等)が列挙されています。

(協調的行為による競争の阻害:本ガイドライン3項)

 旧ガイドラインでは、関連市場において企業結合後に協調的行為を可能にしたり助長したりするような場合、当該企業結合は競争を害する可能性があるとされていました。

 本ガイドラインの3項でも、関連市場において残りの会社間で協調的行為に及ぶリスクを増加させたり、既存の協調的行為をより安定させ又は効果的にしたりする場合には、当該企業結合は実質的に競争を減殺する可能性があると規定されています。市場の集中度が高い場合、過去に行われた協調的行為やその未遂の証拠がある場合、又は市場の攪乱的要素となっている会社(maverick)が排除されるような場合には、企業結合により協調的行為が行われるリスクが高くなるとされています。また、その他の二次的な要素として、会社の行為が競合他社により即時かつ容易に確認され得るか、競合他社から顧客を奪うことにより会社が得られる利益が競合他社の予想される反応により著しく減殺されるか(これにより、より積極的に競争することのメリットが減少し、市場が協調的行為の影響をより受けやすくなる可能性があるとされています。)等が挙げられています。

 なお、企業結合による協調的行為のリスクの増加については、本ガイドラインの5項(以下参照)でも論じられています。

(潜在的な競争に対する弊害:本ガイドライン4項)

 旧ガイドラインでは、既存の市場参加者と潜在的参加者の企業結合は重大な競争上の懸念を生じる可能性があると規定されていました。

 本ガイドラインの4項でも、潜在的な新規参入者を排除するような場合には、当該企業結合は実質的に競争を減殺する可能性があり、集中度の高い市場においてはその弊害の程度がより大きいとされています。具体的には二つの場面でその弊害が生じ得るとされており、一つ目の場面は、将来の参入の合理的可能性を排除する場面(actual potential competitionの排除の場面)で、競争当局は、①企業結合の当事者の一方が関連市場に参入する合理的可能性があったか否か、そして、②かかる参入が最終的に市場を非寡占化させる実質的な可能性又は他の重大な競争促進的効果を有していたか否かを考慮するとしています。二つ目の場面は、知覚された潜在的な競争的圧力を減少させる場面(perceived potential competitionの排除の場面)で、競争当局は、現在の市場参加者が企業結合の当事者のうち一社を潜在的な市場参加者と合理的にみなす可能性があったか否かを判断するとしています※11

(競合他社に対する害を生じる企業結合:本ガイドライン5項)

 旧垂直型企業結合ガイドラインでは、競合他社のコストを上昇させることによる競争上の弊害について説明されていました。具体的には、企業結合後の会社が関連製品(旧ガイドラインでは、企業結合後の会社により供給又は支配される製品やサービスであって、関連市場における製品やサービスと垂直関係や補完関係にあるものとされていました。)をコントロールしている場合に、かかる立場を利用して実際の又は潜在的な競合他社の立場を弱めるような場面があり得る、とされていました。

 本ガイドラインの5項では、この点を敷衍して、企業結合後の会社が関連製品やサービス(旧ガイドラインと異なり、競合他社が市場において競争するために使用する製品、サービス又は市場へのルートとされています。)へのアクセスを制限できる場合には、当該企業結合は実質的に競争を減殺する可能性があると規定されています。そして、関連製品へのアクセスを実際に制限する場合だけではなく、単にアクセスを制限すると脅した場合であっても、競合他社や潜在的な競合他社による投資を排除する可能性があることから、競争を阻害する可能性があるとされています。

 旧垂直型企業結合ガイドラインでは、「コントロール」に焦点が当てられていましたが、本ガイドラインでは、「アクセスの制限」(より正確には、伝統的な垂直的な取引関係又は流通取引関係の有無にかかわらず、競合他社が市場において競争するために使用し、競合他社にとって競争上重要な製品、サービス又は市場へのルートへのアクセスの制限)に焦点が当てられています。なお、本ガイドラインでは、競合他社のアクセスの制限が問題になる関連製品やサービスの例として、競合他社が材料として現在使っている又は将来使う可能性があるサービス、競合他社に流通サービスを提供する等顧客による購入判断に影響を与える製品、競合他社の製品の価値を高める補完製品等が挙げられています。

 本ガイドラインでは、企業結合後の会社が競合他社のアクセスを制限するか否かの判断において、会社がアクセスを制限する能力やインセンティブを有しているかを検討するものとされ、代替製品の利用可能性、会社の過去のアクセス制限行為の存在等の要素が考慮されるとされています。競争当局は、会社のアクセスを制限する能力の有無を判断するために市場の構造を見るものとされ、会社が関連製品について独占力を有しているか又はそれに近接したものを有している場合には、アクセスを制限することで競争を阻害する能力を有するとされています。

 本ガイドラインでは、競争当局は、企業結合後の会社が関連製品市場において50%を超えるシェアを有する場合、(それに反する証拠がない限り)関連製品について独占力を有しているかそれに近接したものを有していると推測するとされています。もっとも、関連製品市場において50%未満のシェアしかない場合であっても、関連製品が取引相手にとって重要なものである場合には、競争を実質的に阻害する可能性があるとされています。

 また、本ガイドラインでは、垂直型企業結合においてしばしば当事会社により市場閉鎖行為を行わないことの証拠として提出され、裁判所においても認められてきた「当事会社が市場閉鎖行為を企図していることを示唆する資料の不存在」、「市場閉鎖行為を行うとレピュテーションが毀損すること」、「当事会社又はその経営陣が主張する意図・目的」等について重きを置かないこと、企業結合の当事者のインセンティブと合致しない、競合他社を保護し、又は競合他社を害しない旨の主張や約束(問題解消措置)について競争当局が受け入れる可能性は低いことが示唆されています。

 さらに同項では、企業結合後の会社が競合他社の競争上の機密情報へのアクセスを取得したりアクセスを拡大したりするような企業結合についても、協調的行為を促進したり、競争するインセンティブを失わせることになるため、競争を阻害する可能性があるとしています。

その他のポイント

 更に、本ガイドラインでは、以下で紹介するとおり、現在の競争当局の懸念事項・関心事となっている特定の場面や論点についても触れられています。

(連続取引:本ガイドライン8項)

 本ガイドラインの8項では、同一又は関連する事業についての連続した買収について、競争当局は、「業界の傾向の一部」として又は「買収者による連続買収のパターンや戦略の一部」として検証するとされています。本ガイドラインでは、競争当局は当事者の過去の買収のパターン(実行されたか否かを問わず)や買収者のインセンティブに関する証拠に注意を払うべきことが示されています。

(マルチサイドプラットフォームを含む企業結合:本ガイドライン9項)

 本ガイドラインの9項は、マルチサイドプラットフォーム(二つ以上の異なるグループに対して異なる製品やサービスを提供するプラットフォーム)を含む企業結合について、厳密には垂直型又は水平型の企業結合ではなかったとしても、競争上の問題が生じ得ると規定しています。競争当局が問題になる可能性があると考えている具体的な事例としては、①プラットフォーム運営者が、そのプラットフォーム上での主要な販売者である参加者を買収して、競合するプラットフォーム運営者から参加者を奪うことにより自らの地位を強化するようなケース、②複数のプラットフォームへの参加を促進するサービス(例えば、複数のプラットフォームにおける価格を比較するサービス等)を提供する会社を買収するケース等が挙げられています。また、競争当局はプラットフォーム上の競争の保護にも注目しており、例えば、プラットフォーム運営者がプラットフォーム参加者を買収し、プラットフォーム上で自社の製品・サービスを優遇する差別的取扱いを行うといった競争を阻害する利益相反が生じる可能性のある場面の問題点にも触れています。

(競合する買手間の企業結合と労働市場:本ガイドライン10項)

 旧水平型企業結合ガイドラインにおいて、競合する買手間の企業結合について需要独占を理由として売手側に対して反競争的な効果を有する可能性があることが指摘されていたところ、本ガイドラインの10項では、この点に触れつつ、さらに特に懸念される問題として、労働市場における需要独占について詳細に論じられています。もし雇用者(労働市場の買手側)の企業結合により実質的に労働市場の競争が減少する可能性がある場合、それにより、賃金の減少や賃金上昇の鈍化、福利厚生や労働環境の悪化、職場の質の劣化等を招く可能性があると指摘されており、競争上の懸念が生じ得る市場における集中の程度は、(労働市場が特殊な性質を有しているため)製品市場よりも労働市場の方が低い可能性があるとしています。

(部分的持分の取得:本ガイドライン11項)

 旧水平型企業結合ガイドラインでも触れられている論点ですが、本ガイドラインの11項では、持分の一部やマイノリティ持分の取得によっても競争を害する可能性がある旨が規定されています。このような持分の一部取得が競争上の問題を惹起する可能性のあるケースとして、競争当局は、①かかる取得により買収者が対象会社の競争的行為・振る舞いに影響を与える能力を得る場合(例えば、取締役の選任や予算の決定に関する議決権を取得する場面等)、②買収により買収者自身が競争するインセンティブを失う場合(例えば、競合会社の持分を取得することで、競合会社から配当等の利益を受けることができるために自ら積極的に競争をしなくなる場面等)、③買収により買収者が対象会社を通じて競争上の機微情報にアクセスすることができる場合(例えば、機微情報にアクセスすることで買収者と対象会社が協調的な行動が可能になる等)、を挙げています。

(キャッチオール規定:本ガイドライン11項)

 上記の各項目でカバーされていない企業結合であっても、実質的に競争を減殺したり、独占を形成したりするおそれがある点に言及しています(キャッチオール規定)。このキャッチオール規定は、ガイドライン原案では独立した項目が立てられていましたが、本ガイドラインでは(内容は変わらないものの)11項の末尾に規定されています。

まとめ

 最近の米国競争当局によるエンフォースメントの状況に関する当事務所のニュースレター等で述べているとおり、バイデン政権下において、米国競争当局は、競争上の懸念が生じる可能性のある取引について積極的に中止を求める等、非常にアグレッシブな立場を取っています。本ガイドラインは、競争当局の積極的な姿勢・実務を色濃く反映したガイドライン原案から多少の修正はあったものの、大部分においてその内容を踏襲しており、競争当局が今後も基本的にはこれまでと同様の方針で進めることが予想されます。

 企業結合ガイドラインは裁判所を拘束するものではありませんが、競争当局は本ガイドラインに従って企業結合の違法性を判断すること(競争当局の判断を訴訟で争うこと自体が時間・コストの面で大きな負担となること)を踏まえると、企業結合ガイドラインにおいて示される競争当局の考え方や姿勢を理解しておくことは、買収取引を検討している当事者にとっては大変重要です。他方で、本ガイドラインで示された競争当局の考え方を裁判所が受け入れるのかという点については、今後の裁判の集積を待つことになります。

 HSRファイリングのフォームの改正案の公表、企業結合ガイドラインの改正等、米国競争法の分野では近年目まぐるしい動きがありますが、買収取引を検討している当事者にとっては、実際の裁判や競争当局のエンフォースメントの動向等について、今後も継続して注視していくことが重要です。

脚注一覧

※2
パブリックコメント期間において、30,000を超えるコメントが提出され、3度のワークショップが開催されています。

※3
なお、FTCは、2021年9月に垂直型企業結合ガイドラインを取り消していますが、DOJは同ガイドラインを取り消していませんでした。

※7
市場シェアの二乗の総和

※8
本ガイドラインにおいて違法性が推定される閾値・基準は、日本や欧州委員会における水平型企業結合のセーフハーバー基準と比較しても低い水準であると考えられます。また、日本や欧州委員会におけるセーフハーバー基準は、基準を超えたとしても直ちに違法性が推定されるわけではないという意味でも、本ガイドラインの閾値・基準は厳しいものとなっています。

※9
ガイドライン原案では、支配的地位を有しているか否かについての基準(①企業結合の当事者のいずれか又は双方が、価格を引き上げ、品質を下げ、若しくはその支配的地位がなかった場合には得られなかったであろう条件を課したりそのような条件を獲得したりする力を有することについての直接証拠があるか、又は、②企業結合の当事者のいずれかが30%以上の市場シェアを有しているか)が定められていました。

※10
ガイドライン原案では、市場の寡占化傾向に寄与するような企業結合について、それ自体で違法になる可能性があると指摘されていましたが、本ガイドラインでは、単に本ガイドラインの他の項目の競争上の懸念を高める一つの要素という位置付けになっています。

※11
Federal Trade Commission v. Meta Platforms Inc. et al. (case number 5:22-cv-04325, the U.S. District Court for the Northern District of California)のケースでは、FTCが本項に基づく主張を行っていましたが、裁判所はFTCの主張を理論としては認めつつ、その立証が不十分であったことを理由に差止請求を斥けています。このケースについては、当事務所発行の米国最新法律情報No.90/独占禁止法・競争法ニュースレターNo.20「バイデン政権下における米国企業結合法制のエンフォースメントの最新動向のアップデート(2023年)」(2023年6月)もご参照ください。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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