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ニュースレター

NY LLCのニューヨーク州法に基づく実質的所有者情報の報告義務

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

著者等
塚本宏達加藤嘉孝大橋史明(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T U.S. Law Update ~米国最新法律情報~ No.114(2024年3月)
業務分野
キーワード
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2023年12月23日、米国ニューヨーク州知事が、LLC Transparency Act(以下、「NY LLCTA」といいます。)※1と呼ばれる、ニューヨーク州のlimited liability company(以下、「LLC」といいます。)に対して実質的所有者(beneficial owner)の報告を義務付ける法案に署名しました※2。これにより、NY LLCTAは2024年12月21日(以下、「本効力発生日」といいます。)に効力が発生します。NY LLCTAは、当事務所が2021年4月1日及び2023年9月8日に発行したニュースレター※3(以下併せて、「前回ニュースレター」といいます。)でご紹介した、米国財務省の金融犯罪捜査網(the Financial Crimes Enforcement Network、以下、「FinCEN」といいます。)管轄の、Corporate Transparency Act(以下、「CTA」といいます。)に基づく実質的所有者の報告をニューヨーク州においても義務付けるという法案です。そのため、NY LLCTAに基づく報告義務制度の多くはCTAを引用しておりますが、他方でCTAとは異なる制度設計となっている部分もあり、ニューヨーク州において事業を行う企業にとってNY LLCTAを理解しておくことは重要と考えられますので、本ニュースレターでは主にCTAとの相違点を中心にNY LLCTAの概要をご紹介いたします。

NY LLCTAの概要

1. 実質的所有者の報告義務

 NY LLCTAは、ニューヨーク州において設立されたLLC又はニューヨーク州において事業登録を行っているLLC(以下、「対象LLC」といいます。)に対して、報告対象除外会社(exempt company)に該当する場合を除き、New York Department of State(以下、「DOS」といいます。)にその実質的所有者の情報を報告するよう義務付けています。NY LLCTA上、実質的所有者及び報告対象除外会社の定義についてはCTAを引用しており、これらの定義の内容はCTAの内容と同様になっています。これら定義の概要については、前回ニュースレターをご参照ください。

 NY LLCTAに基づき報告すべき実質的所有者の情報についてもCTAと基本的に同様で、以下のとおりとなっています。

  • 正式な氏名
  • 生年月日
  • 現在のビジネス上の住所
  • パスポート、州政府等が発行する身分証明書又はドライバーズライセンス等に記載されている固有の識別番号※4

 また、報告会社がCTAに基づきFinCENに対して実質的所有者の報告を行った場合で上記の情報が含まれているときは、当該報告書のコピー※5を提出することで、NY LLCTA上も実質的所有者の報告を行うことができることとされています。下記2.(4)で述べるとおり、本効力発生日時点において設立又は事業登録されている対象LLC(以下、「既存LLC」といいます。)については、CTAと同様に2025年1月1日までの初回報告が必要ですので、基本的にCTAに基づく実質的所有者の報告書のコピーをDOSに提出することで足りると考えられます。

2. CTAとの主な相違点

(1) 報告会社の範囲

 CTAがLLCに限らず、米国において設立又は事業登録された事業体を広く報告会社としている一方で、NY LLCTAにおいては、ニューヨーク州において設立されたLLC又はニューヨーク州において事業登録されたLLCのみが報告会社となっています。そのため、corporation等の他の形態の事業体については、ニューヨーク州において設立又は事業登録されているとしても、NY LLCTAは適用されません。LLCのみが対象となっているのは、ニューヨーク州議会によれば、LLCの設立のためには僅かな個人情報しか要求されないという手続の簡易さと、LLCとの間に中間親会社を挟む方法により、実質的所有者の存在を隠蔽してマネーロンダリング、脱税、組織的犯罪等に利用されてきたという歴史的な背景があるとされています※6

(2) 報告対象除外会社による書類の提出

 上記1.記載のとおり、NY LLCTAは報告対象除外会社の範囲をCTAと同様としている一方で、報告対象除外会社に該当する場合、どの除外要件に該当するのかが記載された書面をDOSに対して提出する必要があることとなっています。この制度により、対象LLCは、報告会社か報告対象除外会社であるかにかかわらず、一定の書類をDOSに対して提出する必要がありますので、対象LLCを保有する日本企業にとっては特に実務上留意すべきポイントと考えています。

(3) 実質的所有者情報の公開(修正予定)

 CTA上、報告会社から提出された情報は、秘密として取り扱われ、国家安全、諜報活動又は法の執行に従事する連邦政府機関がこれらの活動のために利用する場合等、CTAにおいて定められている一定の場合を除き、政府機関等によって開示されることはないとされています。他方、現在のNY LLCTA上は、原則として実質的所有者の氏名が公にアクセス可能なデータベースにおいて公開されることが想定されていますが、ニューヨーク州知事とニューヨーク州議会の議論の結果、個人情報の流出の懸念から、実質的所有者の氏名を含めた実質的所有者の情報は、法の執行のために政府関係者のみがアクセスできるように制度を変更することが合意され、本効力発生日までにそのための法案の修正が行われる見込みとなっています。

(4) 報告の時期

 ①既存LLCについては、CTAに基づく実質的所有者の報告と同様、2025年1月1日までに、②本効力発生日以降に設立又は事業登録される対象LLCについては、設立又は事業登録を行う際に、初回報告又は報告対象除外会社に該当する旨の書類提出を行う義務があります。他方で、CTA上、その効力発生日以降に新設される会社については、2024年中は設立又は事業登録後90日以内、2025年以降は設立又は事業登録後30日以内となっています。

 また、初回報告後は報告した情報に変更が生じた場合(報告対象除外会社が除外要件を満たせなくなり、報告会社となった場合を含みます。)、90日以内に変更後の情報を報告する必要があります。

(5) 制裁

 NY LLCTAは、実質的所有者の報告義務を怠った場合の制裁として、段階的な制裁を規定しています。すなわち、提出期限から30日を超えてNY LLCTAに基づく提出を怠った場合、DOSの記録上「past due」と表示されます。また、提出期限から2年を超えてNY LLCTAに基づく提出を怠った場合、報告会社に対して通知書が郵送され、DOSの記録上「delinquent」と表示されます。さらに、当該通知書の郵送から60日以内に必要な情報の提出を行わない場合は、最終的に250ドルの民事罰が課されます。CTA上の制裁は、民事罰として1日につき500ドル以下の罰金のみならず、刑事罰として最大250,000ドルの罰金及び/又は5年以下の懲役が科されますので、NY LLCTAは刑事罰がないという点でCTAと異なるといえます。

まとめ

 NY LLCTAに基づく実質的所有者の報告は、CTAに基づく実質的所有者の報告と同趣旨の共通点の多い制度ですが、上記のとおり、ニューヨーク州で設立又は事業登録されたLLCのみが対象となっている点、報告対象除外会社に該当する場合でも一定の書類の提出が義務付けられる点等においてCTAと異なります。ニューヨーク州は、日本企業の事業拠点として重要な場所であり、LLCもよく利用される形態の事業体であることに照らすと、CTAの知識を前提にNY LLCTAを理解しておくことは実務上重要であると考えられます。本効力発生日及び報告期限まで若干の期間はありますが、期限に先立ち、①ニューヨーク州における設立又は事業登録されたLLCの有無、②報告対象除外会社該当性等を予め確認し、今後集積されると思われるCTAにおける実務を踏まえ、必要書類を準備することが必要になると思われます。

脚注一覧

※3
当事務所発行の米国最新法律情報No.55「米国子会社の実質的所有者情報の報告義務」(2021年4月)及び米国最新法律情報No.99「米国子会社の実質的所有者情報の報告義務(アップデート版)」(2023年9月)

※4
CTAと異なり、身分証明書それ自体の提出は不要とされています。

※5
CTAに基づく実質的所有者の報告は既にオンライン上での申請が可能となっていますが(https://boiefiling.fincen.gov/)、提出後にオンライン上でコピーのダウンロードが可能とされています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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