icon-angleicon-facebookicon-hatebuicon-instagramicon-lineicon-linked_inicon-pinteresticon-twittericon-youtubelogo-not
People 弁護士等紹介

多岐にわたる分野の専門的知識と実績を持つ弁護士が機動的にチームを組み、質の高いアドバイスや実務的サポートを行っています。

Publications 著書/論文

当事務所の弁護士等が執筆したニュースレター、論文・記事、書籍等のご紹介です。多様化・複雑化する法律や法改正の最新動向に関して、実務的な知識・経験や専門性を活かした情報発信を行っています。

Seminars 講演/セミナー

当事務所では、オンライン配信を含め、様々な形態でのセミナーの開催や講演活動を積極的に行っています。多岐にわたる分野・テーマの最新の企業法務の実務について解説しています。

Who We Are 事務所紹介

長島・大野・常松法律事務所は、国内外での豊富な経験・実績を有する日本有数の総合法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題に対処するため、複数の弁護士が協力して質の高いサービスを提供することを基本理念としています。

SCROLL
TOP
Publications 著書/論文
ニュースレター

米国外の者による米国制裁法及び輸出管理規則の遵守に関するコンプライアンスノートの公表

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

NO&T International Trade Legal Update 国際通商・経済安全保障ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2024年3月6日、米国の商務省(Department of Commerce)、財務省(Department of Treasury)及び司法省(Department of Justice、以下「DOJ」といいます。)は、米国外に所在する個人及び法人(以下総称して「非米国人」といいます。)に対して、米国制裁法及び輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下「EAR」といいます。)の遵守を求める連名のコンプライアンスノート(Department of Commerce, Department of the Treasury, and Department of Justice Tri-Seal Compliance Note: Obligations of foreign-based persons to comply with U.S. sanctions and export control laws、以下「本コンプライアンスノート」といいます。)※1を公表しました。2023年7月、3省庁は、安全保障関連法令違反の可能性を認識した場合における企業の自主的な報告に関する連名のコンプライアンスノートを公表していましたが※2、本コンプライアンスノートは、非米国人に対する米国制裁法及びEARの域外適用※3の可能性、並びにこれらの法令に違反した場合における刑事訴追を含む執行メカニズムに焦点を当てるものとなっています。また、非米国人に対するコンプライアンス上の留意点や、そのリスクを軽減するためのコンプライアンスプログラムの具体的な内容も言及されています。

 本コンプライアンスノートは、米国制裁法及びEARの遵守について非米国人に対して新たな義務を創出するものではありませんが、3省庁にとって非米国人が関連する米国制裁法及びEAR違反の取締りが優先分野であることを強調するものとなっており、非米国人に対してもこれらの法律の遵守をより厳しく監視する米国政府の姿勢が明確に打ち出されています。

 以下、本コンプライアンスノートの内容を簡潔にご紹介します。

米国制裁法及びEARの域外適用

1. 米国制裁法の域外適用

 本コンプライアンスノートは、全ての米国人が財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control、以下「OFAC」といいます。)による規制(以下「OFAC規制」といいます。)を遵守しなければならないとする一方で、非米国人であっても特定のOFAC規制を遵守しなければならない場合があることに言及しています。例えば、非米国人が、米国人に対して故意又は過失にかかわらず米国制裁法に違反する行為を行わせたり、共謀したり、その他米国の制裁を回避する行為に関与することが禁止されています※4。さらに、特定の制裁プログラム※5においては、米国人が所有又は支配する外国企業も、当該規制に従わなければならないとされています。

 OFAC規制に違反した場合、民事罰及び刑事罰の対象となる可能性がありますが、OFACは米国人によるOFAC規制違反に関与した非米国人に対しても積極的に執行を行っており、本コンプライアンスノートにおいては以下の行為類型及び執行例が列挙されています。

  1. 米国人が関与する金融取引において、制裁対象者・制裁対象地域が関与していることを取引文書から隠蔽したり、記載を省略したりする行為
    →2023年6月、スウェーデンの金融機関のラトビア子会社であるSwedbank Latviaが計386のクリミア半島関連のOFAC制裁の違反について民事制裁金約340万ドルを支払う旨の和解をした事例

  2. 制裁対象地域向けの輸出に向けて米国人を欺く行為
    →2021年7月、UAEのAlfa Laval Middle East社が計2つのOFAC制裁プログラムの違反について民事制裁金約42万ドルを支払う旨の和解をした事例

  3. 禁止されている取引に関して、米国の金融システムを通じた送金等を行うことにより、米国の金融機関にOFAC制裁に違反する取引等をさせる行為
    →2022年4月、オーストラリアのToll Holdings社が計2,958のOFAC制裁プログラムの違反について民事制裁金約613万ドルを支払う旨の和解をした事例

 なお、これらは非米国人が責任を負う可能性のある事例の一部に過ぎず、OFACは優先度の高い外交政策目標を支援するため、引き続き積極的に調査活動を行うこととされています。

2. EARの域外適用

 EARは、デュアルユース品目(軍事用途への転用が可能な民生用途品目)の輸出管理のための規制ですが、全世界の製品がEARの対象品目に含まれる可能性があり、非米国人に対してもEARが適用される可能性があります。EARの域外適用が想定されるのは以下のケースです。

  1. 「再輸出」又は「国内移転」
    →「再輸出」は、域外適用の典型的な場面であり、EAR適用対象品目を、方法を問わず、米国以外の国から、別の米国以外の国に実際に出荷又は移送することを指します。また、経由国を経てEARで特定された仕向地に対して品目を輸出する場合、当該経由国ではなく、当該仕向地への「輸出」とみなされる※6ため、例えばイラン向けの制裁を回避する目的でUAEの販売代理店に商品を輸出し、当該UAEの販売代理店に対してイランの顧客に対する輸送を指示するような場合、当該輸出はイラン向けの輸出とみなされ、輸出者及び販売代理店が共にEAR違反の責任を負うこととなります。

  2. 「組込品」
    →EAR規制対象の米国原産品目が一定割合(デミニミスレベル)を超える外国製品目はEAR対象品目となり、デミニミスレベル(de minimis levels)はイラン、北朝鮮、シリア及びキューバを仕向地とする場合には10%、それ以外の国・地域を仕向地とする場合には原則として25%とされています。
  3. 「直接製品」
    →所定の米国原産の技術又はソフトウェアを直接利用して米国外で生産された一次製品(プロセスやサービスを含みます。)をいい、それ自体に米国原産の品目を含まない場合でも、EARの規制対象に含まれることとされています。すなわち、商流に米国や米国人が関与していない場合であってもEARの適用があるケースであり、域外適用の観点から特に留意が必要です。代表的な直接製品規制としては、ファーウェイ直接製品ルール(2020年新設)、ロシア・ベラルーシ軍事エンドユーザー直接製品ルール(2022年新設)、先端コンピューティング直接製品ルール(2022年新設、2023年改定)等が挙げられます※7。本コンプライアンスノートでは、米国外の半導体施設において米国製の半導体製造装置が至る所で利用されている実態を踏まえると、特定の主体や場所向けの半導体に関して、製造場所にかかわらず、直接製品規制の適用があり得るとの指摘がなされています。

 また、本コンプライアンスノートでは、非米国人によるEAR違反に対する過去の執行事例として、2023年6月ロシア諜報機関への調達に関与したオランダとギリシャのAratos Group社に対して暫定拒否命令(Temporary Denial Order)を発令した事例※8、2022年2月以降、組込品の規制に違反したとして複数の航空会社に対して暫定拒否命令を発令した事例、2023年4月ファーウェイ向けの直接製品規制に違反したとして米国及びシンガポールのシーゲイト・テクノロジー社に対して3億ドルの罰金が課された事例※9が挙げられています。

米国制裁法及びEAR違反に対する刑事訴追

 DOJは、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)及び輸出管理改革法(Export Control Reform Act of 2018)に基づき、米国制裁法又はEARの故意の違反に対して、刑事訴追を行う権限を有しています。米国制裁法又はEARの故意の違反(違反を行わせたり、違反を誘発したりする場合も含まれます。)に対しては、20年以下の懲役及び100万ドル以下の罰金が科される可能性があります※10

 本コンプライアンスノートでは、近時DOJにより刑事訴追がなされた事例として、①2022年10月、目的地を偽装等してロシア軍やその関係者に対して米国産のジグ・グラインダーを供給しようとしたラトビア人3名、ウクライナ人1名、ラトビア企業及びエストニア企業に対して刑事訴追を実施した事例※11、②2023年12月、無人航空機用の米国産のマイクロ・エレクトロニクスをイランに輸出した、イランを本拠とする個人及び中国・香港を本拠とする個人に対して刑事訴追を実施した事例※12、③2023年11月、世界最大の仮想通貨交換市場を運営するBinance社から米国制裁法の違反(米国のユーザーと制裁対象国のユーザーとの取引を行わせたこと等)について有罪答弁を得た事例※13が挙げられています。

コンプライアンス体制を整備する上でのポイント

 本コンプライアンスノートを含め3省庁が継続的にメッセージを発信し続けているという事実は、米国政府が、企業等に対し、国家安全保障に関連するコンプライアンスを徹底させたいという明確な意思を有していることを表しています。グローバルにビジネスを展開する日本企業においても、米国制裁法やEAR等が適用されるケースを正しく理解した上で、それらの違反の可能性を特定し、潜在的な違反に対して迅速かつ効果的に対処するためのコンプライアンスプログラムを早急に整備することが求められています。本コンプライアンスノートでは、今後コンプライアンスプログラムの整備を進めていく上で特に注意すべきいくつかのポイントが列挙されています。

  • 制裁コンプライアンスプログラムの開発、実施及び定期的なアップデートにより、制裁コンプライアンスに対するリスクベース・アプローチを採用する。
  • 関連会社、子会社、代理店、その他の取引先が関与する支払いと物品の移動を管理するために、強固な内部統制手続を確立する。そのような管理体制を構築することにより、複雑な支払や請求の取決めによって隠蔽される可能性のある制裁対象者や制裁対象地域とのつながりを検知するのに役立つ。
  • 顧客情報(パスポート、電話番号、国籍、居住国、法人設立国、事業所、住所等)と地理情報がコンプライアンス・スクリーニング・プロトコルに適切に統合され、全体的なリスク評価と特定の顧客のリスク評価に基づいて継続的に情報が更新されていることを確認する。
  • 子会社及び関連会社が、米国法制裁及びEARに関する研修を受け、レッドフラッグを効果的に特定することができ、禁止行為を把握して経営陣に対して報告する権限が与えられていることを確認する。
  • コンプライアンス上の問題が特定された場合、可能な限り、直ちに効果的な措置を講ずるものとし、問題の根本的原因が特定され是正されるまでの間、代替の管理策を特定し、実施する。
  • 特に、企業が急速に拡大している場合や、複数の事業体にまたがって従来とは異なる情報技術システムやデータベースが統合されている場合には、他の企業との合併や買収に先立ち、米国制裁法やEARのリスクを軽減するための対策を特定し、実施する。
  • 米国制裁法又はEARに違反した可能性があると思われる当事者は、自主的にその事実を報告すべきである※14

脚注一覧

※2
詳細は、当事務所発行の米国最新法律情報No.97/危機管理・コンプライアンスニュースレターNo.79/国際通商・経済安全保障ニュースレターNo.10「米国制裁法・輸出管理規則等の安全保障関連法令違反の自主的な報告に関するコンプライアンスノートの公表」(2023年8月)をご確認ください。

※3
広く外国の会社等に対しても自国の法規を適用しようとすることを、一般に、「域外適用」といいます。

※4
50 U.S.C. § 1705(a) “It shall be unlawful for a person to violate, attempt to violate, conspire to violate, or cause a violation of any license, order, regulation, or prohibition issued under this chapter.”

※5
イラン、キューバ及び北朝鮮向けの制裁プログラムが対象となっています。

※6
EAR § 734.13(c)

※7
最近の直接製品ルールの拡大については、当事務所発行の米国最新法律情報No.107/国際通商・経済安全保障ニュースレターNo.13「米国輸出管理規制アップデート~先端コンピューティング及び半導体製造装置関連の輸出管理規制の強化~」(2023年12月)をご確認ください。

※10
50 U.S.C. § 1705(c)、50 U.S.C. § 4819(b).

※14
脚注2参照。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


全文ダウンロード(PDF)

Legal Lounge
会員登録のご案内

ホットなトピックスやウェビナーのアーカイブはこちらよりご覧いただけます。
最新情報をリリースしましたらすぐにメールでお届けします。

会員登録はこちら

弁護士等

危機管理/リスクマネジメント/コンプライアンスに関連する著書/論文

国際通商・経済制裁法・貿易管理に関連する著書/論文

海外業務に関連する著書/論文

南北アメリカに関連する著書/論文

米国に関連する著書/論文

決定 業務分野を選択
決定