塚本宏達 Hironobu Tsukamoto
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
ニューヨーク
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2024年3月6日、米国の商務省(Department of Commerce)、財務省(Department of Treasury)及び司法省(Department of Justice、以下「DOJ」といいます。)は、米国外に所在する個人及び法人(以下総称して「非米国人」といいます。)に対して、米国制裁法及び輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下「EAR」といいます。)の遵守を求める連名のコンプライアンスノート(Department of Commerce, Department of the Treasury, and Department of Justice Tri-Seal Compliance Note: Obligations of foreign-based persons to comply with U.S. sanctions and export control laws、以下「本コンプライアンスノート」といいます。)※1を公表しました。2023年7月、3省庁は、安全保障関連法令違反の可能性を認識した場合における企業の自主的な報告に関する連名のコンプライアンスノートを公表していましたが※2、本コンプライアンスノートは、非米国人に対する米国制裁法及びEARの域外適用※3の可能性、並びにこれらの法令に違反した場合における刑事訴追を含む執行メカニズムに焦点を当てるものとなっています。また、非米国人に対するコンプライアンス上の留意点や、そのリスクを軽減するためのコンプライアンスプログラムの具体的な内容も言及されています。
本コンプライアンスノートは、米国制裁法及びEARの遵守について非米国人に対して新たな義務を創出するものではありませんが、3省庁にとって非米国人が関連する米国制裁法及びEAR違反の取締りが優先分野であることを強調するものとなっており、非米国人に対してもこれらの法律の遵守をより厳しく監視する米国政府の姿勢が明確に打ち出されています。
以下、本コンプライアンスノートの内容を簡潔にご紹介します。
本コンプライアンスノートは、全ての米国人が財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control、以下「OFAC」といいます。)による規制(以下「OFAC規制」といいます。)を遵守しなければならないとする一方で、非米国人であっても特定のOFAC規制を遵守しなければならない場合があることに言及しています。例えば、非米国人が、米国人に対して故意又は過失にかかわらず米国制裁法に違反する行為を行わせたり、共謀したり、その他米国の制裁を回避する行為に関与することが禁止されています※4。さらに、特定の制裁プログラム※5においては、米国人が所有又は支配する外国企業も、当該規制に従わなければならないとされています。
OFAC規制に違反した場合、民事罰及び刑事罰の対象となる可能性がありますが、OFACは米国人によるOFAC規制違反に関与した非米国人に対しても積極的に執行を行っており、本コンプライアンスノートにおいては以下の行為類型及び執行例が列挙されています。
なお、これらは非米国人が責任を負う可能性のある事例の一部に過ぎず、OFACは優先度の高い外交政策目標を支援するため、引き続き積極的に調査活動を行うこととされています。
EARは、デュアルユース品目(軍事用途への転用が可能な民生用途品目)の輸出管理のための規制ですが、全世界の製品がEARの対象品目に含まれる可能性があり、非米国人に対してもEARが適用される可能性があります。EARの域外適用が想定されるのは以下のケースです。
また、本コンプライアンスノートでは、非米国人によるEAR違反に対する過去の執行事例として、2023年6月ロシア諜報機関への調達に関与したオランダとギリシャのAratos Group社に対して暫定拒否命令(Temporary Denial Order)を発令した事例※8、2022年2月以降、組込品の規制に違反したとして複数の航空会社に対して暫定拒否命令を発令した事例、2023年4月ファーウェイ向けの直接製品規制に違反したとして米国及びシンガポールのシーゲイト・テクノロジー社に対して3億ドルの罰金が課された事例※9が挙げられています。
DOJは、国際緊急経済権限法(International Emergency Economic Powers Act)及び輸出管理改革法(Export Control Reform Act of 2018)に基づき、米国制裁法又はEARの故意の違反に対して、刑事訴追を行う権限を有しています。米国制裁法又はEARの故意の違反(違反を行わせたり、違反を誘発したりする場合も含まれます。)に対しては、20年以下の懲役及び100万ドル以下の罰金が科される可能性があります※10。
本コンプライアンスノートでは、近時DOJにより刑事訴追がなされた事例として、①2022年10月、目的地を偽装等してロシア軍やその関係者に対して米国産のジグ・グラインダーを供給しようとしたラトビア人3名、ウクライナ人1名、ラトビア企業及びエストニア企業に対して刑事訴追を実施した事例※11、②2023年12月、無人航空機用の米国産のマイクロ・エレクトロニクスをイランに輸出した、イランを本拠とする個人及び中国・香港を本拠とする個人に対して刑事訴追を実施した事例※12、③2023年11月、世界最大の仮想通貨交換市場を運営するBinance社から米国制裁法の違反(米国のユーザーと制裁対象国のユーザーとの取引を行わせたこと等)について有罪答弁を得た事例※13が挙げられています。
本コンプライアンスノートを含め3省庁が継続的にメッセージを発信し続けているという事実は、米国政府が、企業等に対し、国家安全保障に関連するコンプライアンスを徹底させたいという明確な意思を有していることを表しています。グローバルにビジネスを展開する日本企業においても、米国制裁法やEAR等が適用されるケースを正しく理解した上で、それらの違反の可能性を特定し、潜在的な違反に対して迅速かつ効果的に対処するためのコンプライアンスプログラムを早急に整備することが求められています。本コンプライアンスノートでは、今後コンプライアンスプログラムの整備を進めていく上で特に注意すべきいくつかのポイントが列挙されています。
※2
詳細は、当事務所発行の米国最新法律情報No.97/危機管理・コンプライアンスニュースレターNo.79/国際通商・経済安全保障ニュースレターNo.10「米国制裁法・輸出管理規則等の安全保障関連法令違反の自主的な報告に関するコンプライアンスノートの公表」(2023年8月)をご確認ください。
※3
広く外国の会社等に対しても自国の法規を適用しようとすることを、一般に、「域外適用」といいます。
※4
50 U.S.C. § 1705(a) “It shall be unlawful for a person to violate, attempt to violate, conspire to violate, or cause a violation of any license, order, regulation, or prohibition issued under this chapter.”
※5
イラン、キューバ及び北朝鮮向けの制裁プログラムが対象となっています。
※6
EAR § 734.13(c)
※7
最近の直接製品ルールの拡大については、当事務所発行の米国最新法律情報No.107/国際通商・経済安全保障ニュースレターNo.13「米国輸出管理規制アップデート~先端コンピューティング及び半導体製造装置関連の輸出管理規制の強化~」(2023年12月)をご確認ください。
※10
50 U.S.C. § 1705(c)、50 U.S.C. § 4819(b).
※14
脚注2参照。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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