
塚本宏達 Hironobu Tsukamoto
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
ニューヨーク
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2024年2月23日、ロシアによる対ウクライナ侵攻が本格化してから2年が経過し、また、プーチン政権に対する反体制派指導者であったアレクセイ・ナワリヌイ氏が死亡したことを受け、米国バイデン政権は対ロシアに対する追加制裁(以下「本追加制裁」といいます。)を発動する旨を公表しました※1。本追加制裁は、省庁横断的に行われ、かつ、過去最大規模のものとなっています。すなわち、財務省(U.S. Department of the Treasury)及び国務省(U.S. Department of State)により合わせて500以上の事業体及び個人が金融制裁の対象となるSDN(Specially Designated Nationals and Blocked Persons)※2として指定され、ナワリヌイ氏の死亡に関係したと考えられる個人だけでなく、ロシアの金融部門、防衛産業基盤、第三国において対ロシア制裁回避の受け皿となっている事業体及び個人等が新たに制裁の対象となっています。また、商務省(U.S. Department of Commerce)により新たに90以上の事業体が輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下「EAR」といいます。)に基づくエンティティ・リスト※3に追加され、ロシアの防衛産業基盤や対ウクライナ侵攻の継続を支援していると考えられる事業体が新たに制裁の対象となっています。
本ニュースレターでは、本追加制裁の概要についてご説明いたします。
財務省及び国務省は、過去2年間、対ロシア制裁として、本追加制裁を含め計4,000以上の個人及び事業体をSDNに指定してきましたが、本追加制裁は、ロシアによる対ウクライナ侵攻が本格化して以降、最大規模のものとなっています。
本追加制裁の一環として、OFACは約300の事業体及び個人をSDNに指定することを公表しました※4。今回OFACによりSDNに指定された事業体及び個人は主に以下のとおりです。
本追加制裁の一環として、国務省は約250の事業体及び個人をSDNに指定することを公表しました※9。今回国務省によりSDNに指定された事業体及び個人は主に以下のとおりです。
また、国務省は、上記SDNの指定に加え、ロシアによる、ウクライナの子供の移転、国外追放、監禁にかかる人権侵害に関与した個人5名に対して、ビザの発給を制限する措置の準備も進めている旨を公表しています。
商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security、以下「BIS」といいます。)は、ロシアの防衛産業基盤や対ウクライナ侵攻の継続を支援しているとして、93の事業体を新たにエンティティ・リストに追加することを公表しました※11。BISは、対ウクライナ侵攻の本格化以降、ロシアへの軍事的支援等を理由として815の事業体をエンティティ・リストに追加していましたが、今回の公表を含めて計900以上の事業体がエンティティ・リストに追加されたこととなります。今回追加された事業体の国別の内訳を見ると、ロシアが63、トルコが16、中国が8、アラブ首長国連邦が4、キルギスが2、インド・韓国が1つずつとなっています※12。このうち50以上の事業体が、ロシア又はベラルーシの軍事エンドユーザーである「脚注3(footnote 3)」として指定されています。EAR上、「脚注3(footnote 3)」としての指定を受けた場合、最も厳しい規制を受けることとなります。すなわち、「脚注3(footnote 3)」に指定された事業体に対してEAR対象製品を輸出等する場合は事前許可を取得する必要がありますが、EAR99に該当する一部の製品を除き、policy of denial(原則不許可)という厳しい判断基準で審査されることとなります。
上記のとおり、本追加制裁は省庁横断的に行われ、かつ、過去最大規模のものとなっていますが、過去に公表された制裁を含め、対ロシア向けの制裁の全体像を正確に把握することは必ずしも容易ではありません。この点に関連して、米国政府はロシア関連のビジネスを行う上で各種経済制裁やEAR違反等のリスクを検討するにあたってのアドバイスを2024年2月23日付で公表※13しており、ロシア関連のサプライチェーンに組み込まれる日本企業にとっても非常に参考になるものと思われます。
ロシアによる対ウクライナ侵攻が長期化するに伴い、ロシアに関わる取引についての規制の厳格化が続いているため、影響のある法令等のアップデートに関して、引き続きその最新の動向を注視する必要があります。
※2
SDNとして指定された場合、在米資産が凍結され、また、原則として(直接又は間接的に指定された事業体の50%以上の持分を保有する者も含め)米国人との取引が禁止されることとなります。
※3
エンティティ・リストとは、EARのもとで整備されている、米国の国家安全保障や外交政策に反する活動に関与していると考えられる個人、法人及び団体等のリストのことをいいます。エンティティ・リスト及びエンティティ・リスト掲載者への輸出規制の詳細は、当事務所発行の米国最新法律情報No.53「米国輸出管理規制アップデート~エンティティ・リストの更新とFAQsの公表~」(2021年1月)をご確認ください。
※5
指定された事業体の詳細は脚注4のリンク中「ANNEX 4」を参照ください。
※6
指定された事業体の詳細は脚注4のリンク中「ANNEX 3」を参照ください。
※7
指定された事業体の詳細は脚注4のリンク中「ANNEX 1」を参照ください。
※8
指定された事業体の詳細は脚注4のリンク中「ANNEX 2」を参照ください。
※10
本文で列挙した以外にも複数のカテゴリの事業体がSDNに指定されています。詳細は脚注9をご確認ください。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
服部薫、塚本宏達、近藤亮作(共著)
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長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
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