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ニュースレター

EUの外国補助金調査の近況と中国の関税法改正(中国)

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 EUの外国補助金調査規則(以下「FSR」、2023年7月施行)に基づく、欧州委員会(以下「EC」)の中国企業に対する調査が近時相次いでいる。同規則は、当初から中国企業を念頭においているものと見られていたが、実務もそれを裏付けることとなった。本稿では2024年以降に公表された全4件(計5社)に対するFSR調査、及び昨年の中国EVメーカーに対して行われた他の補助金規則に基づく調査の概要と、直近中国で成立した関税法のうち、対抗措置の一環とみられる規定について解説する。

1. EUの中国企業に対するFSRに基づく外国補助金調査

 FSRはEU域内で事業を行う企業に対して、非EU国が付与する補助金(以下「外国補助金」)によって生じる欧州市場の歪み(distortion)※1に対処するために制定された。M&A取引及び公共調達について、取引規模及び当事者が受領した外国補助金の金額に応じて届出義務が課される。公共調達については、原則として契約金額が2億5000万ユーロを超える場合、過去3年間で400万ユーロ以上の外国補助金を得た入札企業に対して、強制的な届出義務が課されている。2024年以降、全4件(計5社)に対するFSR調査が公表されており、全て中国企業が対象とされている。

(1) CRRC(中国中車)の公共調達入札に対する調査※2

 業種:高速列車

 1月22日に、CRRCはブルガリアの長距離列車の製造及び保守に関する公共調達(推定契約額:約6.1億ユーロ)の入札手続に参加するため、ECに対してFSR届出を行った。

 2月16日に、ECは、予備審査の結果、CRRCは合計17.45億ユーロの外国補助金を得ている可能性があり、EU域内の市場競争を歪める十分な兆候があると指摘した上で、詳細調査(In-depth Investigation)を開始するとした。

 3月26日に、ECは、CRRCが当該入札から撤退したため、調査を終了させた。

(2) ロンジソーラー(隆基绿能)※3及び上海電気※4の公共調達入札に対する調査

 業種:太陽光発電

 1月22日に、ロンジソーラーの子会社及び上海電気の子会社は、それぞれ、ルーマニアの太陽光発電所に関する公共調達(推定契約額:約3.75億ユーロ)の入札手続に参加するため、ECに対してFSR届出を行った。

 4月3日に、ECは、予備審査の結果、両社がいずれも本件調達の推定契約額を大きく上回る外国補助金を得ている可能性があり(上海電気:数十億ユーロ、ロンジソーラー:金額の記載なし)、EU域内の市場競争を歪める十分な兆候があると指摘した上で、詳細調査を開始するとした。

 5月13日に、ECは、ロンジソーラー及び上海電気の関連子会社が、それぞれ当該入札から撤退したため、調査の終了を確認した。

(3) 中国の風力発電機メーカーに対する職権調査

 業種:風力発電

 4月9日に、ECは、EU5カ国(スペイン、ギリシャ、フランス、ルーマニア及びブルガリア)の風力発電所に風力発電タービンを供給した中国の風力発電機メーカー(名称未公表)に対して、各国での風力発電事業の開発条件を調査するためのFSRに基づく職権調査を開始したと発表した。

(4) Nuctech(同方威視)に対する職権に基づく立入調査

 業種:セキュリティ機器

 4月23日に、ECは、中国のセキュリティ機器メーカーであるNuctechのオランダ及びポーランド事業所に対して、FSRに基づく職権調査として、立入調査を行い、会社のPC及び従業員の携帯電話等を押収したことを発表した。

 上記のうち、(1)はFSRに基づき初めて詳細調査が行われた案件、(3)は初めての職権調査を行われた案件、(4)は初めての立入調査が行われた案件である。そのため、多くのECによる判断の先例が示されており、FSR届出を求められる日本企業にとっても参考となる。

 まず、(1)と(2)の案件はいずれも公共入札案件であるが、FSRの前文(19)では、公共入札案件において、受領した外国補助金が推定契約額の主要部分をカバーできる場合に、歪みを引き起こす可能性が高いとされている。この点、ECは、(1)及び(2)の案件で詳細調査の対象となった3社の中国企業は、いずれも推定契約額を大幅に上回る外国補助金を受領している可能性があると認定しており、FSR前文(19)が想定する場合に当たると指摘している。

 また、当事会社の受領した外国補助金が実際にどの程度入札に影響しているかを判断するためには、当事会社の入札金額と比較検討する必要がある。この点、(1)の案件では受領した外国補助金が入札金額の5倍に相当することが認定されている。(2)の案件では調達当局が当事会社2社の入札金額をECに通知することを拒否したが、ECはその場合であっても、外国補助金が入札金額に与える影響を排除できないとして、詳細調査を行うこととしている。

 次に、(2)の案件は、入札者である当事会社が所属するグループ企業の親会社が外国補助金を受領していたケースであった。この場合、親会社が受領した外国補助金が、当事会社の入札にどのような影響を及ぼすかが問題となる。この点、ECは、①当事会社が自ら外国補助金の性質、条件、目的及び用途に関する説明を十分に行っていないこと、②当事会社が親会社からグループ内金融等により多額の財政支援を受けていることを理由として、当該外国補助金は潜在的にEU市場を歪める効果があると判断している。グループ内の他の企業が補助金を受領している場合であっても、当事会社は当該補助金が自らの入札と無関係であることについて十分な説明が求められることとなる。

 更に、外国補助金として認定されたものは、政府から直接支給される補助金の他、税額還付、財政的インセンティブ・プラン及び融資が列挙されている。とりわけ、(2)の案件でロンジソーラーが受領していた、中国で「出口信贷」と呼ばれる、輸出企業向けの貸付(export credits)は、FSRの5条(1)(C)が定める、(市場を歪める可能性が高いとされる)「OECDアレンジメントに従わない輸出貸付方法」に該当すると指摘されている。

 なお、(1)から(4)までの件で調査対象となった5社のうち、対象会社不明の(3)を除くと、3社は中国の国有企業であるが、1社(ロンジソーラー)は民間企業であった。結果的に、(1)及び(2)の入札案件は、いずれも当事会社が入札から撤退したため調査は終了したが、仮に調査が継続していれば、ECは、調査期間である110営業日以内に、(i)当事会社による是正措置の受入、(ii)入札取引を拒否、又は(iii)違法性なしのいずれかの決定を下すこととなっていた。

2. EUの中国EVメーカーに対する補助金保護規則に基づく調査

 上記のFSRに基づく中国企業への調査とは別に、2023年10月4日に、ECは中国から欧州に輸入されるバッテリー式電気自動車(BEV)について、EU域外国からの補助金を受けた輸入品に対する保護に関する2016年6月8日付欧州議会・理事会規則(以下「補助金保護規則」)に基づく反補助金調査を開始している。

 補助金保護規則は、同様に外国補助金に対する規制であることから、FSRと混同されることがあるが、FSRとは別の、アンチダンピング措置に関する貿易管理法令である。同規則は、①輸入品がEU域外国からの補助金により利益を享受していること、②EU域内企業が実質的な損害を受けたこと、③②の損害と補助金を受けた輸入との間に因果関係があること、④措置を講じることがEUの利益に適合することを要件として、調査により当該各要件を満たす場合は、いわゆる補助金相殺関税を課すことができる。

 同規則に基づく調査は、原則としてEU企業等の利益関係者の申立てに基づき開始することが想定されているが、本件調査に関するプレスリリースでは、ECは中国製のBEVにつき、調査の端緒となる十分な証拠を有していることを理由に、職権で調査を開始するとしている。また、最長で13ヶ月の調査期間を置き、要件を満せば、調査開始から9ヶ月以内に相殺関税に関する暫定的な措置を発動し、13ヶ月以内に最終的な措置を発動するとしている。

3. 中国における関税法の成立

 2024年4月26日に、中国の全国人民代表大会(「全人代」、国会に相当)常務委員会は関税法を成立させ、同年12月1日から施行するとした。同法では、貿易相手国が中国との間の各種貿易関連協定に反して中国の輸入品に関税又は制限を設けた場合に、輸入品に関する報復関税を課す条項が含まれている。

 なお、具体的に対抗措置を定めた条項としては、以下の条項が挙げられる:

16条:輸入製品に対して、アンチダンピング税、補助金相殺関税、緊急関税(セーフガード)をそれぞれの根拠法令に基づき課すことができることが定められている。

17条:中国との協定に基づく最恵国待遇条項及び関税優遇条項を履行しない国・地域に対して、対等原則に基づく対抗措置をとることができることが定められている。

18条:中国との協定に反して中国に対して貿易の禁止、制限、関税の加増及びその他の正常な貿易に影響する措置を行った国・地域に対して、当該国・地域を原産地とする輸入品に対して、報復関税等の措置を課すことができることが定められている。

54条:合理的な商業目的を有さずに納税額を減少させる回避行為一般について、国は関税を調整するなどの反回避措置を行うことができることが定められている。

 関税法が想定する対抗措置の相手方は、中国に対して補助金調査を頻発しているEUだけではない。欧州同様に中国の過剰生産能力を問題視してきた米国に対しても対象となる。折しもバイデン大統領は5月14日に、中国政府の補助金を受けて過剰生産された製品が、米国の企業・労働者に脅威を与えているとして、貿易制裁措置を発動できる通商法301条にもとづき、中国製EVへの関税を現在の25%から4倍の100%に、EV用のリチウムイオン電池への関税を7.5%から25%に、太陽光発電設備への関税を25%から50%にそれぞれ今年中に引き上げるほか、半導体への関税を来年までに25%から50%に引き上げる方針を公表しており、これに対する対抗措置が執られるか、今後注目される。また、日本についても、2023年10月に日本政府は電気自動車や半導体等の補助金について、公正な競争環境確保のために、米欧と共通の基準づくりを目指すと公表しており、今後潜在的に対抗措置の対象となる可能性がある。

脚注一覧

※1
外国補助金により当該事業者の競争上の地位が引き上げられ、実質的又は潜在的にEU域内の市場競争に対して悪影響を及ぼすこととされている(FSR規則4条1項)。

※2
Summary notice concerning the initiation of an in-depth investigation in case FSP.100147 pursuant to Articles 10(3)(d) of Regulation (EU) 2022/2560

※3
Summary notice concerning the initiation of an in-depth investigation in Case FSP. 100151, pursuant to Articles 10(3)(d) of Regulation (EU) 2022/2560

※4
Summary notice concerning the initiation of an in-depth investigation in Case FSP. 100154, pursuant to Articles 10(3)(d) of Regulation (EU) 2022/2560

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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