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EUにおける強制労働製品禁止規則の成立を踏まえたサプライチェーン管理

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 強制労働製品の流通については米国において関税法・ウイグル強制労働防止法(UFLPA)を根拠に積極的に執行されてきましたが※1、2024年11月19日、EUでも、強制労働製品のEU域内での流通・販売やEU市場からの輸出を禁止する規則(Regulation on prohibiting products made with forced labour on the Union market and amending Directive(EU)2019/1937。以下「FLR」といいます。)がEU理事会で採択されることにより成立しました※2。本規則は、近日中に官報に掲載されることにより発効し、発効から3年後に適用開始されます。FLRは、EUに拠点を有する企業だけでなく、EU域内で製品の販売等を行う日本企業にとっても広く影響が及びうるため、以下概要を紹介します。

2. 最終採択されたFLRの概要

(1) 適用対象

 FLRは、強制労働製品について、EU域内での流通やEU域外への輸出を禁止するものであり、規制対象となる「強制労働製品」には、生産、製造、収穫、採掘のいずれかの段階で※3強制労働が全部または一部使用された製品がすべて含まれ、国産品か輸入品かにかかわらず、また、原産地や製品の種類を問わず適用されます(2条7項)。

 FLRの適用範囲は広範であり、規模、収益、事業所、法的形態にかかわらず、すべての経済事業者に適用されます。この点は、2024年7月に成立したEUの企業サステナビリティデュー・ディリジェンス指令(CSDDD)が従業員数や売上高を基準としている※4点との違いになります。

 また、同規則が対象とする「製品」については、サプライチェーンのあらゆる段階におけるすべての種類の製品に適用されることとされるとともに、当該製品の輸出入だけでなく、EU域内のエンドユーザーを対象としたオンライン販売も対象となります(4条)。オンライン販売の場合、単にエンドユーザーがEU加盟国でアクセス可能なだけで適用対象になるものではないとされており、「EU域内のエンドユーザーを対象とした」販売であるかは、発送可能な地域、注文等に利用可能な言語、支払手段および通貨、EUで登録されたドメインネーム等を考慮した上での事案ごとの判断となり、実際にEU市場に流通していない時点でも当局は必要な措置を講じることが可能であるとされます(前文22)。

(2) 規制内容

(a) 強制労働製品の流通禁止・市場からの排除

 当局※5は、強制労働により採掘、生産、製造等がなされた疑いがある製品について調査を実施し、強制労働が判明した場合、EU域内で生産されたものかEU域外から輸入されたものかにかかわらず、その製品の流通を禁止し、EU市場から排除する※6権限を有します※7。そして、当局の決定に従わない場合には、追って国内法で定められる罰則が課される可能性があります。一方で生産者が事業やサプライチェーンから強制労働を排除した場合には、当該製品を再度EU市場に戻すことが可能とされています。

 具体的な調査は、予備調査⇒本調査の順で行われることが定められています。すなわち、すべての自然人・団体は強制労働禁止に関する違反の疑いがある場合に当局に申告することができ(9条2項)、当該申告等に基づき強制労働の疑いがある場合、当局はまず予備調査を行い(17条)、製品が強制労働により生産されたことの実質的な懸念(substantiated concern)が認められる場合には本調査が開始されるものとされます(18条)。調査の過程において、調査対象企業は、一定期限内に回答書を作成し当局に提出することが求められます(17条1項および2項、18条3項および4項)。

 当局による調査はリスクベース・アプローチでなされることが明示されており、①強制労働の規模と深刻さ(国家による強制労働が懸念されるかを含む。)、②EU域内で流通する、または入手可能となった製品の数量、③最終製品に占める強制労働で製造されたと思われる部品等の割合、④サプライチェーンにおける強制労働リスクと事業者の影響力の近接性を踏まえて、優先順位を付けた上で企業および製品の調査を行うこととされます(14条)。この点については、UFLPAでは中国新疆ウイグル自治区において全部または一部が製造等された製品を米国に輸入する事業者側に強制労働により製造等されたものでないことの立証責任が課せられているのに対し、FLRでは、当局側が強制労働により製造等されたことの立証責任を負う建て付けとされている点が特徴です。

(b) 製品に関する追加情報の提出等

 FLRは、規制対象とする製品を特定できるようにするため、欧州委員会が委任法令を採択することにより、指定する製品に関し、企業に対して、製品の製造業者やサプライヤー等に関する追加情報の提出を求めることができるとしています(前文56、27条)。ここでの追加情報は、製品の製造者および製品の供給者に関する詳細(名称、商号または登録商標、連絡先の詳細、固有の識別番号)だけでなく、製品自体に関するその他の情報(たとえば、製品の名称またはブランド、製造番号など製品を識別するための情報等)が想定されています(前文56)。

 このような情報提供を支援するため、FLRは、特定の地理的地域や特定の製品・セクターに関する強制労働のリスクの情報提供を行うデータベースを公開することを定めています(8条。なお、事業者名については匿名化されます。)。

3. 企業に求められるサプライチェーン管理

 FLRの成立を踏まえ、自社製品またはこれを組み込んだ最終製品がEU域内での販売やEU域外への輸出を想定したものかをチェックし、これに該当する場合、地域・製品・サプライヤー等の要素に基づき強制労働リスクの有無についてデュー・ディリジェンスを実施し、強制労働により製造されたものが含まれないことを確認するというプロセスが今後はより重要になります。FLRの適用開始まで3年ありますが、このようなサプライチェーンを通じた取り組みには時間がかかるため、強制労働リスクがサプライチェーンのどの部分に存在するかマッピングを始めることが推奨されます。

 強制労働製品の輸入に関しては、上記1のとおり、これまで米国におけるウイグル強制労働防止法の執行が積極的になされており、本年11月25日にも金属加工や食品分野の中国企業が新たにエンティティ・リストに掲載されたことが公表されています※8。今後、EU当局はFLRに従い独自に優先分野を検討することになりますが、製品・セクターについて強制労働リスクが高い場合には自ずから優先分野が重なる可能性は高いと考えられます。そのため、優先順位付けを行うにあたっては、米国当局が公表している強制労働製品のリスト(List of Goods Produced by Child Labor or Forced Labor)※9や、UFLPAに基づく優先執行分野(アパレル、綿、ポリシリコンを含むシリカ製品、トマト、アルミニウム、ポリ塩化ビニル、水産品)等も参考になるでしょう。

 強制労働リスクの有無を検討するにあたっては、強制労働は、強制労働条約(29号)に基づき、処罰の脅威によって強制され、また、自らが任意に申し出たものでないすべての労働(ただし、兵役や裁判所の判決の結果強要される労務等を除く)を指すとされており、企業が外国人労働者からパスポート等の身分証明書を没収・保管することや、仲介手数料等を返済するための債務労働等も強制労働にあたりうる点にも留意が必要です。

 なお、今後、欧州委員会は18か月以内にガイドラインを発行することが見込まれ、その内容についても注目されます。

脚注一覧

※1
UFLPAの執行動向については、2024年7月発行「近時のウイグル強制労働防止法(UFLPA)の執行状況等に関するアップデート」(本ニュースレター第96号)をご参照ください。

※3
輸送サービスについては除外されます。

※4
CSDDDの概要については、2024年6月発行「欧州の企業持続可能性DD指令(CSDDD)の正式採択と日本企業に与える影響」(本ニュースレター第91号)をご参照ください。

※5
強制労働が疑われる行為がEU域内で行われている場合には、当該加盟国の管轄当局が主管官庁となり、行為がEU域外で行われている場合には欧州委員会が主管官庁となります(15条)。

※6
製品の性質により、事業者に寄付、リサイクル、破壊等の処分を行わせることを意味します。

※7
ただし、EUにとって戦略的または重要な製品については、サプライチェーンの混乱を考慮し、企業がサプライチェーンから強制労働を排除するまで、企業の費用負担で一定期間製品の処分を保留する可能性があるとされています(20条5項、前文48)。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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