渡邉啓久 Yoshihisa Watanabe
パートナー
東京
NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update インフラ・エネルギー・環境ニュースレター
今通常国会で「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律」※1が成立し、2024年5月29日に公布された。
同法は、サーキュラー・エコノミー(循環経済)※2への移行の必要性が年々高まっているという背景の下、温室効果ガスの排出量の削減効果が高い資源循環の促進を図るべく、再資源化のための廃棄物収集、運搬及び収集事業並びに再資源化の実施に用いられる技術や設備の高度化を促進するための措置を講じること等を目的に成立した。
以下本稿では、サーキュラー・エコノミーへの移行の必要性や再資源化事業等高度化法の主要な点について概説していく※3。なお、同法は、一部の規定を除き、公布の日から起算して1年6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される(附則第1条)※4。
サーキュラー・エコノミーへの移行の必要性は年々高まっている。サーキュラー・エコノミーとは、従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動を意味する※5。
2050年の世界人口は97億人に達すると予測され、人口増に伴う資源・エネルギー・食料需要の増大、廃棄物量の増加、地球温暖化や生物多様性の損失をはじめとする環境問題の深刻化が予測されている一方、途上国・新興国も含め世界経済の成長が加速する中、資源・エネルギー・食料の多くを輸入に依存する日本にとっては、これらをいかにして安定的に確保するかが大きな課題となっている※6。脱炭素社会の実現という観点でも、令和3年度(2021年度)の日本の温室効果ガス排出量(約11億7,000万トン)のうち、廃棄物分野からの排出は約3,700万トン(約3.2%)を占めているとされ※7、また、国内の温室効果ガス排出量の約36%は資源循環が排出削減に貢献できる余地がある部門からの排出であるとの試算もあり※8、資源循環分野の取組の強化が希求されている。
こうした状況下において、脱炭素化、ネイチャーポジティブ、産業競争力強化、経済安全保障などの社会課題の解決や地方創生を実現するためにも、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済モデルを脱し、高い技術力や3R+Renewableの積極的な取組といった日本の強みを活かして高度な資源循環を行い、その循環された資源を国内で活用し、国内の資源確保、天然資源の消費抑制、最終処分量の最小化を実現し、サーキュラー・エコノミーへ移行することの必要性が高まっている※9。同法によって資源循環の高度化等が促進され、ひいては温室効果ガスの排出の量の削減の効果が高い資源循環が促進されることが期待される。
再資源化事業等高度化法は、主に、①再資源化事業等の高度化を促進するための基本方針の策定、②廃棄物処分業者による再資源化事業等の高度化等の促進に関し判断の基準となるべき事項の策定と、特に産業廃棄物の処分量の多い産業廃棄物処分業者(特定産業廃棄物処分業者)の再資源化実施状況の報告・公表に関する制度の導入、③再資源化事業等の高度化に係る認定制度と、認定事業者に対する廃棄物処理法上の許可手続の特例制度の創設から構成される。
(環境省「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案の概要」をもとに筆者らが作成)
法が企図するのは「再資源化事業等の高度化」である。例えば、AIを活用した効率的な再資源化の実施や、再エネ発電事業関連の産業廃棄物である太陽光パネルや風車ブレード等の効果的な再利用の促進などが念頭に置かれる。
法にいう「再資源化」とは、廃棄物※10の全部又は一部を部品又は原材料その他製品の一部として利用することができる状態にすることをいう(法第2条第1項)。また、「再資源化事業等の高度化」については、以下の①乃至④のいずれかに該当する措置を講ずることにより、再資源化の実施に伴う温室効果ガスの排出※11の量の削減の効果が増大することをいう(法第2条第2項)。
(出典:環境省「環境省における資源循環に向けた取組(再資源化事業等高度化法案)について」)
再資源化事業等高度化法の下で、環境大臣は、資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化を促進するため、環境省令で、廃棄物処分業者の判断の基準となるべき事項(以下「判断基準事項」という。)を策定する(法第8条)。具体的な内容は今後制定される環境省令に規定されることになるが、判断基準事項としてカバーされる内容は以下のとおりである。
判断基準事項の対象項目
環境省は、判断基準のイメージとして、①供給先の需要を把握し、再生材の質・量を確保すること、②可能な範囲で技術の向上を図ること、③省エネ型の設備への改良や運転の改善を図ること、④目標を定め、計画的に取組を進めることを念頭に置いている※12。
判断基準事項は、環境大臣による①廃棄物処分業者に対しての指導・助言及び②特定産業廃棄物処分業者に対する勧告・命令に際しての勘案事項となる。
すなわち、環境大臣は、再資源化事業等の高度化及び再資源化の実施を促進するため必要があると認めるときは、判断基準事項を勘案し、廃棄物処分業者に対して、再資源化事業等の高度化について必要な指導及び助言をすることができるとされる(法第9条)。
また、環境大臣は、産業廃棄物の処分量が特に多い産業廃棄物処分業者(特定産業廃棄物処分業者)に対しては、再資源化の実施の状況が判断基準事項に照らして著しく不十分であると認める場合、必要な措置をとるべき旨の勧告をすることができ、さらに、特定産業廃棄物処分業者が正当な理由なくその勧告に従わない場合において再資源化の実施の促進を著しく阻害すると認めるときは、環境大臣は、その勧告に係る措置をとるべき旨の命令を発することができるとされる(法第10条)。当該命令違反については罰則も規定されている(法第49条)。
再資源化事業等高度化法は、再資源化事業等の高度化のために、各種認定制度を設けるとともに、認定事業者に対し、本来必要とされる廃棄物処理法上の許可を得ることなく廃棄物の処理等を実施することができる制度を導入する。具体的には、以下の認定制度が導入される。
製造業者が求める質・量の再生材を供給するため、特定の廃棄物を地方公共団体の区域をまたがって広域的に収集し、質の高い再資源化を実施する事業を促進するという観点※13から、需要に応じた資源循環のために実施する再資源化のための廃棄物の収集、運搬及び処分の事業(高度再資源化事業)を行おうとする者向けに、高度再資源化事業の実施に関する計画(高度再資源化事業計画)の認定制度が創設された(法第11条)。
認定事業者は、廃棄物処理法上の許可を別途受けることなく、認定された高度再資源化事業計画に従って行う再資源化に必要な行為を業として実施し、又は当該計画に記載された廃棄物処理施設を設置することができるようになる(法第13条)。
最先端の技術を用いた再資源化は、国内に事例が少なく、適正処理の妥当性を判断することは容易でないため、施設の審査に時間を要することから、国が最新の知見を踏まえ迅速に認定することで、先進事例の知見を蓄積し、同様の事業を全国的に波及させることが望ましい※14。
そこで法は、廃棄物(その再資源化の生産性の向上により資源循環が促進されるものとして環境省令で定めるものに限る。)から高度な技術を用いた有用なものの分離及び再生部品又は再生資源の回収を行う再資源化のための廃棄物の処分の事業(高度分離・回収事業)を実施しようとする者向けに、高度分離・回収事業の実施に関する計画(高度分離・回収事業計画)の認定制度を導入する(法第16条)。
認定事業者は、廃棄物処理法による許可を受けることなく、認定された高度分離・回収事業計画に従って行う再資源化に必要な行為を業として実施し、又は当該計画に記載された廃棄物処理施設を設置することができるようになる(法第18条)。
廃棄物処理施設への先進的な高性能の設備導入は、国内に事例が少なく、その妥当性を判断することが容易ではないために導入が進んでいないという現状がある※15。
こうした現状を改善するため、認定制度を通じて設備導入を促進すべく、法は、廃棄物処理施設の設置者であって、当該廃棄物処理施設において、再資源化の実施の工程を効率化するための設備その他の当該工程から排出される温室効果ガスの量の削減に資する設備の導入(再資源化工程の高度化)を実施しようとする者向けに再資源化工程の高度化に関する計画(再資源化工程高度化計画)の認定制度を創設する(法第20条)。
認定事業者は、当該認定された再資源化工程高度化計画に従って行う設備の導入については、廃棄物処理法の許可を受けたものとみなすとされている(法第21条)。
再資源化事業等高度化法では、個別企業が再資源化を実施した廃棄物の種類・量に関する情報を国が集約・公表することで、資源循環の促進に向けた情報基盤を整備し、製造業者と廃棄物処分業者のマッチング機会を創出する※16といった観点から、特定産業廃棄物処分業者に対し、再資源化の実施の状況の報告を義務付けた。具体的には、特定産業廃棄物処分業者は、毎年度、環境省令で定めるところにより、産業廃棄物の種類及び処分の方法の区分ごとに、その処分を行った数量及びその再資源化を実施した数量その他環境省令で定める事項を環境大臣に報告しなければならない(法第38条第1項)※17。報告された事項は環境大臣によって公表される(法第40条)。具体的には、以下のような公表内容が想定されている。
(出典:前掲注12環境省「環境省における資源循環に向けた取組(再資源化事業等高度化法案)について」(2024年5月9日)15頁)
なお、特定産業廃棄物処分業者は、当該報告に係る事項の情報が公にされることにより、当該特定産業廃棄物処分業者の権利、競争上の地位等が害されるおそれがあると思料するときは、当該報告に係る事項に代えて、再資源化を実施した数量がその処分を行った数量に占める割合として環境省令で定める方法により算定した割合をもって公表を行うよう環境大臣に請求することができる(法第39条)。
本稿では、脱炭素型資源循環システム構築に向けた再資源化事業等高度化法の内容を概説したが、同法に限らず、サーキュラー・エコノミーへの移行に向けた今後の取組のますますの加速が予想される。サーキュラー・エコノミー関連の法令等の動向や運用・執行状況についても、引き続き注目していく必要がある。
※1
以下、本稿において「再資源化事業等高度化法」又は「法」と呼称する。
※2
経済産業省・環境省「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」(2021年1月)i頁
※3
サーキュラー・エコノミー(循環経済)への移行の必要性を背景に、近時、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(令和3年法律第60号、2022年4月1日施行)も制定されている。同法については、本ニュースレターNo.19「サーキュラー・エコノミーへの移行とプラスチック資源循環法の施行」(2022年3月)を参照されたい。
※4
本稿作成時において、施行日は未定であり、また、関連政省令(案)も未策定である。
※5
前掲注2 i頁
※6
経済産業省「循環経済ビジョン2020」(2020年5月)2頁
※7
中央環境審議会「脱炭素型資源循環システム構築に向けた具体的な施策のあり方について(意見具申)」(2024年2月)(以下「中央環境審議会意見具申」という。)2頁
※8
同上。
※9
中央環境審議会意見具申5頁
※10
廃棄物の処理及び清掃に関する法律第2条第1項に規定する廃棄物をいう(法第2条第1項)。
※11
地球温暖化対策の推進に関する法律第2条第4項に規定する温室効果ガスの排出をいう(法第2条第2項柱書)。
※12
環境省「環境省における資源循環に向けた取組(再資源化事業等高度化法案)について」(2024年5月9日)11頁
※13
環境省「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律について」(2024年6月)5頁
※14
前掲注13 6頁
※15
前掲注13 7頁
※16
前掲注13 9頁
※17
特定産業廃棄物処分業者以外の産業廃棄物処分業者も、任意で報告することができる(法第38条第2項)。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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