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ニュースレター

近時のウイグル強制労働防止法(UFLPA)の執行状況等に関するアップデート

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 米国では、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)の執行が2022年6月に施行されて以降、積極的に行われている。2024年7月9日、米国国土安全保障省(DHS)のアレハンドロ・マヨルカス長官は、UFLPA施行後の2年間で、当局は約9000件(34億米ドル相当)の貨物の輸入を差し止め、後述するEntity Listに68の事業体を指定したと述べ、これまでの成果を強調している※1。本ニュースレターでは、UFLPAに関連する近時の主要なアップデートを中心に紹介する※2

2. 新疆ウイグル自治区からの調達等を理由とするEntity Listへの追加

 米国では、従前から1930年関税法により強制労働により全部又は一部が製造等された製品の輸入が禁止されてきたが、UFLPAは、中国新疆ウイグル自治区における強制労働に特化し、①新疆ウイグル自治区で全部又は一部が生産等された製品、及び②米国政府が特定した事業体のリスト(Entity List)に掲載された事業体により生産等された製品について、強制労働により生産された製品であると推定し、輸入者である企業が、輸入品が強制労働により製造されたものでないことを「明確かつ説得力のある証拠」により立証するなどの要件を満たした場合に限って輸入が認められるとしており、新疆ウイグル自治区からの調達を行う企業側に強制労働を利用していないことの立証責任を課している点に特徴がある。

 上記②における規制対象となるEntity Listは施行以降複数回にわたって更新されているが、2024年5月16日にDHSは新たに中国を拠点とする繊維企業26社をEntity Listに追加しており※3、本更新では過去最大数の企業が一度にEntity Listに追記されている。また、追加された26社には、(新疆ウイグル自治区と距離的に離れている)中国東部に所在する企業も含まれており、自社が新疆ウイグル自治区における強制労働に関与しているのではなく、同地区から綿花を調達していることを理由にリストに追記がなされたものであることが注目される。

 また、DHSは、2024年6月11日にも、中国を拠点とする水産物加工、アルミニウムやグラファイトカーボン、プレベーク陽極等の製造、履物の製造販売を行う3社について、新疆ウイグル自治区における強制労働に関与しているとしてEntity Listへの追加を行っている※4

3. 優先セクターへのアルミニウム、PVC、水産物の追加

 UFLPA施行後、DHSは毎年UFLPAに関する戦略を公表しているところ、2024年7月9日に本年の新たな戦略が公表された※5(以下「2024年戦略」という。)。従前のUFLPAの戦略では執行の優先度が高いセクターとして綿花やポリシリコンを含むシリカ系製品、トマトとその加工品が列挙されていたところ、2024年戦略では、アルミニウム、PVC(ポリ塩化ビニル)、水産物が新たに追加されたことが注目される。同戦略では、当該サプライチェーンにおける新疆ウイグル自治区での強制労働リスクが高いとして、これらのセクターに含まれうる企業に関するEntity Listへの掲載や関連する執行を優先的に検討することが記載されている。

 これらのセクターは、上記2.に記載したEntity Listへの追加事例にも表れているように、優先セクターとして追加される以前から、Entity Listへの追加や公聴会の開催等が積極的に行われるなどして強制労働リスクが問題とされており、今回の優先セクターへの追加において、こうした流れを追認・補強するものと考えられる。米国当局がどのような製品群について執行を強化しようとしているかは、このように執行戦略の中で優先セクターとして公表されるまでの間は必ずしも明らかではなく、Entity Listへの追加や執行状況を基に推測せざるを得ない面がある。今後も同様の流れにおいて優先セクターが追加されうることも示唆されることから、執行戦略以外の当局の動向等にも留意しておく必要があると考えられる。

4. その他のUFLPAに関する動向

 UFLPA自体においては製品に含まれる新疆ウイグル自治区からの調達品の割合が少ない場合の除外規定は設けられておらず、理論的にはごく一部の原材料や部品が同地区から調達されていたとしても、製品全体の輸入が差し止められる可能性がある。もっとも、米国通関全体としては、関税法全体のデミニマス規定(800米ドル以下の製品については関税が免除される。)が存在することにより、これが抜け穴となっているとして厳格化を求める声もあることから、この点についても今後の動きが注目されるところである。

 また、報道によれば2024年2月に欧州自動車メーカー等の自動車数千台がUFLPAに基づき輸入の差止めを受けたとされているところ、自動車業界を巡っては、米国上院財政委員会のロン・ワイデン委員長が、2024年5月、自動車メーカーが新疆ウイグル自治区に由来する部品等が米国に輸入される自動車やトラックに使用されていないことを確認するために適切にサプライチェーンを監視することが遅れている等の内容を含む報告書を公表する※6など、執行強化を求める動きもあることに留意しておくべきである。

5. EUの強制労働規則の動向

 強制労働により生産等された製品の流通については、EUでも議論が進展している※7。2024年4月、欧州議会は、強制労働により生産された製品のEU域内での流通及びEU域外への輸出を禁止する規則案(FLR)を承認した※8

 本規則案は、強制労働により生産された製品のEU市場での流通及びEU市場からの輸出を禁止する目的のため、当局が、製品が強制労働により採掘、生産、製造等がなされた疑いがある製品について調査を実施し、強制労働が判明した場合、EU域内で生産されたものかEU域外から輸入されたものかに関わらず、その製品の流通を禁止し、EU市場から排除することを可能にするものである。UFLPAでは上記のとおり企業側に立証責任が課せられているのに対し、FLRでは、当局側が立証責任を負う建て付けとされている点が特徴である。

 別途EUで2024年5月に最終採択された企業持続可能性DD指令※9と異なり、本規則案の適用には従業員数や売上高の要件はなく、EU市場に製品の供給や輸出等を行う全ての法人または自然人が対象となる。今後、EU理事会による採択がなされた後、加盟国は規則発行日から3年以内に新規則の適用を開始することが見込まれる。

6. おわりに

 このように欧米ではサプライチェーンからの強制労働排除の動きが進展している。企業としては、このような規制に基づく製品の供給断絶のリスクにも留意するため、自社のサプライチェーンに存在する人権リスクについて定期的に評価し、リスクの重大性に応じたサプライチェーンの見直しなどの対応を行うことが望ましいと考える。

脚注一覧

※2
前回のUFLPAに関連するアップデートについては、NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター No.80(NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報 No.101・NO&T International Trade Legal Update 国際通商・経済安全保障ニュースレター No.12との合併号)「米国ウイグル強制労働防止法に関する近時のアップデート」(2023年10月)をご参照ください。

※7
前回のアップデートについては、NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター No.86「欧州の企業持続可能性DD指令(CSDDD)案及び強制労働製品・流通禁止の規則案に関する近時のアップデート」(2024年3月)をご参照ください。

※9
NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター No.91「欧州の企業持続可能性DD指令(CSDDD)の正式採択と日本企業に与える影響」(2024年6月)をご参照ください。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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