
若江悠 Yu Wakae
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輸出管理法と信頼できないエンティティリスト規定について(上)(中国)(2020年11月)
輸出管理法と信頼できないエンティティリスト規定について(下)(中国)(2020年12月)
米国輸出管理規制アップデート~2024年12月対中国向け半導体輸出規制の拡大~(2025年3月)
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経済安全保障
2020年12月に施行された中国輸出管理法に基づく両用品目に関する下位法規として、2024年9月30日付けで「両用品目輸出管理条例」(以下「本条例」)が公布され、同年12月1日に施行された。これまで両用品目についての輸出管理は、両用品目の種類ごとの既存の法令やリスト、特定の品目に関する臨時輸出管理に基づいて実施されてきたが、本条例は、これらを統一するものである。また、輸出管理リスト(原文:出口管制清单)にあたる両用品目のリストも2024年11月15日に公表され、本条例の施行にあわせて施行される。同リストは、実質的内容に特に変更はないようであるが、米国ECCNに類似しているものの中国独自の輸出管理監督コードが付されており、今後はHSコードでなくこのコードに従って該当性の確認がされることになる。
本条例に関し、再輸出規制(ただし、以下に述べるように、輸出管理法本体において明確にされていなかった部分の方向性が明らかにされたにすぎない。)をはじめ、重要と思われるポイントを紹介する。
再輸出規制については、輸出管理法では45条において「再輸出」についても「本法の関連規定に基づき実施する」とだけ定めていた。これについて、再輸出の定義はなく、特に米国のEAR規制と同様の広い再輸出規制が導入されるのかが注目されていたが、本条例では、同様の内容を定める48条とともに、49条を設け、「国外の組織や個人が、中国国外で特定の仕向国や地域、特定の組織や個人に対し、以下の貨物、技術及びサービスを移転・提供する場合については、国務院商務主管部門は、関連事業者に対し、本条例の関連規定を参考にして実施するよう要求することができる。①中国を原産とする特定の両用品目を含有、統合又は混合して国外で製造された両用品目、②中国原産の特定の技術等の両用品目を使用して国外で製造された両用品目、③中国を原産とする特定の両用品目。」と定めた。
上記規定は、おおむね、①がde minimisルール、②が直接製品規制(foreign direct product rule)、③が原産品目の規制に相当するものとして、米国EARと同様の再輸出規制が導入されたものと評価されている。他方で、上記文言からも明らかなように、本条例をもって米国と同様の再輸出規制が幅広く設定され、今回施行されるというわけではなく、単に再輸出を行う業者に対し本条例に従った輸出許可を取得することなど本条例に従うべき旨の命令を個別に発する権限が商務当局に付与されたというにすぎない。中国はもともと米国EARのような法令の域外適用(long-arm jurisdiction)や、それらを使ったブロック経済化に強く反対してきたという経緯もあり、慎重な対応をとるものと思われる一方、(他の中国の反制裁法令と同じように)必要なときには迅速に対抗手段をとりうるよう、手元のツールボックスを整備した、という位置付けで理解すべきであろう。
もう一つの大きな違いとして、この再輸出規制は、輸出入に関する一般法である対外貿易法のもとの法令ではなく、輸出管理法のもと両用品目に関する輸出規制を規定した本条例において規定されているものであることも留意すべきである。したがって、対外貿易法のもとでの輸出禁止貨物目録、輸出許可証貨物目録や輸出禁止・輸出制限技術目録に記載された品目は、基本的には対象にならないと思われる。(過当競争ともいえる厳しい中国国内市場にさらされた)各分野における技術革新により中国産の製品や技術の重要度が高まっていくにつれ、(まさに米国が自国技術を使ってすでにそうしているように)、中国も輸出規制を使ってそのような優位性を武器化していくこと、そして再輸出規制も広く導入することにより国際サプライチェーンを支配することを懸念する向きもあるが、少なくとも本条例に関していえば、上記のような違いを前提に考えれば、直ちにそのような狙いがあると断定することは論理的には困難ではないかと思われる。
輸出管理法にはエンドユーザーや輸入業者に係る管理リスト(原文:管控名单)については規定されている(17条、18条)が、本条例はこれに加えて、エンドユーザー又は輸入業者が、両用品目のエンドユーザー及び最終用途に関する当局による検証に協力しなかった場合に関して、それらのエンドユーザーや輸入業者を注視リスト(原文:关注名单)に加える(26条)旨が規定された。これは米国の輸出規制におけるUVL(Unverified List)に相当するものとも評価されている。注視リストに掲載された企業向けの輸出については包括輸出許可をとることや下記輸出証明によることができず、個別許可を申請するに際してもリスク評価レポートを提出し、またリスト掲載企業による規制等を遵守する旨の誓約を提出する必要がある。なお、管理リストについても、同リストに掲載される事由がより具体的に規定され(28条)、管理リストに掲載された場合において採られうる措置が明確化された(29条)。
外国の輸出規制を遵守するために中国国内のエンドユーザーや輸入業者等に関して外国政府に対し行う情報提供については、輸出管理法本体において、当局同士の協力について規定する一方で、個別の主体による情報提供については「法に基づいて行い、国の安全及び利益を脅かすおそれがあるときは提供してはならない」旨が規定されていた(32条)。この点に関し、以前より商務部の2007年60号公告により規定されていたことではあるが、本条例38条でも、外国政府からの訪問や実地調査を受けた場合において当局に対し報告のうえ同意を得るべき旨が規定された。他方、37条では、そのような外国政府による実地調査ではなく、中国政府による証明書の発行、すなわち中国国内の輸入業者とエンドユーザーの申請に基づき、商務部当局がエンドユーザーと最終用途に関する説明書を発行しうる旨を定めた。
2024年12月3日、中国商務部は、「輸出管理法等の関連法令に基づいて」(上記記事で紹介した本条例は直接には言及されていない)、米国向け両用品目の輸出管理を強化する旨を発表し(2024年第46号、以下「本公告」)、同日付けで施行された。具体的には、①両用品目(全般)について、米国軍事ユーザー又は軍事用途への輸出を禁止、②ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、超硬材料関連の両用品目については、米国への輸出を原則として許可しない;黒鉛の両用品目については、エンドユーザー及び最終用途についてより厳格な審査を行う、としている。さらに、③「いかなる国及び地域の組織及び個人も、上記規定に違反して中国原産の関連両用品目を米国の組織又は個人に移転又は提供した場合は、法律責任を追及する」旨記載している。
本公告は、(そのように明言されているわけではないが)その前日12月2日に公表された米国の先端メモリー半導体及び半導体製造装置に関する輸出管理の強化並びに多数の中国企業のエンティティリストへの追加への対抗として公表されたものと報道されている。商務部の記者会見においても、背景として米国による輸出管理措置(「輸出管理措置の濫用」)が示されている。輸出管理法48条では、いずれかの国が輸出管理措置を濫用して中国の安全及び利益をおびやかしたときは実際の状況に応じて対等に措置を講ずることができるとの対抗条項が規定されているため、同条に基づく措置をとったものと解される。
本公告による米国向け輸出管理強化の措置については、初期的な分析としては、国ごとのリスク評価(輸出管理法8条2項。本条例10条ではさらに考慮要素が列挙されている)のうえ、これに基づき、特定の仕向国・地域や特定の組織及び個人を対象に、輸出を禁止(同法10条。本条例13条も同旨)し、また輸出許可における審査(同法13条5号で「輸出の仕向国・地域」が一つの考慮要素とされている)における方針が定められた、と位置付けることができよう。上記①の措置に関し、米国軍事ユーザーや軍事用途について、その具体的な定義やリスト(米国BIS規制のMEUリストのようなもの)を定めたものは少なくとも現時点では見当たらず、本稿2で記載した管理リストに加えられるのか、あるいは別途のリストが作成されるのか、そもそもリストで管理されるわけではないのか、不明である。また、上記③の点については、本稿1で記載した本条例49条(特に3号)の再輸出規制が早速実施に移されたかのようにみえなくもないが、再輸出の際の外国当事者による中国当局への許可申請の必要性やその手続等が具体的に規定されているわけでもなく、むしろ輸出管理法44条に規定されていた限定的な域外適用の原則をそのまま記載しているようにもみえる。いずれにしても、今後の展開を注視する必要があろう。
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