
堀内健司 Kenji Horiuchi
パートナー
東京
NO&T Tax Law Update 税務ニュースレター
「令和7年度税制改正大綱」につきましては以下もご参照ください。
令和7年度税制改正大綱:ミニマム課税・CFC税制(合算タイミング)・移転価格税制(利益B)、今後の法人税のあり方(2024年12月)
令和7年度税制改正大綱②:防衛増税関係(2025年1月)
令和7年度税制改正大綱③:外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場制度)の見直し~リファンド方式の導入~(2025年1月)
2024年12月27日、「令和7年度税制改正大綱」(「大綱」)が閣議決定され、公表された。大綱の内容は多岐にわたるが、本ニュースレターでは、小職がその改正に関与した、スピンオフ税制に関する改正を取り上げる。なお、大綱における他の重要な税制改正については、税務ニュースレター「令和7年度税制改正大綱:ミニマム課税・CFC税制(合算タイミング)・移転価格税制(利益B)、今後の法人税のあり方」、「同②:防衛増税関係」、及び「同③:外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場制度)の見直し~リファンド方式の導入~」を、それぞれ参照されたい。
株式分配(スピンオフ)※1を行った場合、スピンオフを実施した法人(スピンオフ実施法人)※2は、同社の株主に対し、分配資産割合を通知しなければならない※3。スピンオフ実施法人の株主は、スピンオフに際して、スピンオフの対象となる法人(スピンオフ対象法人)の株式を受け取ることになるところ、各株主は、スピンオフの効力発生直前のスピンオフ実施法人株式の取得価額(帳簿価額)を、スピンオフの効力発生直後のスピンオフ実施法人株式の取得価額と、スピンオフによって取得することになるスピンオフ対象法人株式の取得価額に割り付ける必要がある。そして、この割り付けのために用いられる割合が、大要以下の計算式によって定められる分配資産割合である。
分配資産割合:
そして、スピンオフの効力発生直前のスピンオフ実施法人株式の取得価額は、分配資産割合を用いて、効力発生直後のスピンオフ実施法人株式の取得価額と、スピンオフによって取得することになるスピンオフ対象法人株式の取得価額に、以下のとおり割り付けられる※4。
取得価額 | |
---|---|
スピンオフ実施法人株式 | スピンオフ実施法人株式の取得価額×(1-分配資産割合)※5 |
スピンオフ対象法人株式 | スピンオフ実施法人株式の取得価額×分配資産割合÷スピンオフ実施法人株式1株について取得したスピンオフ対象法人株式の数※6 |
分配資産割合はスピンオフ対象法人株式の帳簿価額がスピンオフ実施法人の純資産価額に占める割合を意味しており、この割合に応じてスピンオフ対象法人株式の取得価額の割り付けを行うことを意図するものである。この規律は一般論として合理的な内容といえるが、スピンオフ実施法人がグループ通算制度を採用している場合には、以下のとおり、スピンオフの効力発生日までに分配資産割合が決まらないという問題があった。
具体的には、スピンオフ実施法人がグループ通算制度を採用している場合、スピンオフに伴いスピンオフ対象法人がグループ通算制度から離脱することになるため※7、スピンオフの効力発生日の前日に投資簿価修正が必要となり、スピンオフ実施法人におけるスピンオフ対象法人株式の帳簿価額を同日のスピンオフ対象法人の純資産価額に相当する金額に修正する必要がある※8。しかしながら、スピンオフ直前(すなわち、スピンオフの効力発生日の前日)のスピンオフ対象法人の純資産価額は同日付のスピンオフ対象法人の計算書類を作成しない限り算出できないため、必然的にスピンオフの効力発生日までに分配資産割合(特にその分子)が決まらず、その結果、スピンオフ実施法人、スピンオフ対象法人いずれの株式についても、スピンオフ効力発生直後の取得価額が一定期間確定できないことになる。
スピンオフを行う法人の多くは上場会社であることが想定されるところ、一般株主が保有する上場株式の多くは、証券会社が一般株主に代わって譲渡所得等を計算し申告手続を行う特定口座※9で保管されていると考えられる。そして、証券会社が一般株主に代わって申告手続を行うことから、スピンオフ実施法人は、特定口座が開設されている証券会社に対し、株式の取得価額及びスピンオフにより取得した株式の取得価額の計算に関し参考となるべき情報(すなわち、分配資産割合)を通知しなければならないとされている※10。
すなわち、特定口座制度は、対象となる上場株式の取得価額が明らかになっていることをその前提とする制度であり、現行法下においてグループ通算法人がスピンオフを行った場合、スピンオフの効力発生日時点で取得価額が決まらないことを理由に、スピンオフ実施法人、スピンオフ対象法人いずれの株式についても特定口座への受け入れがなされず、一般口座に移管されてしまうという問題があった※11。特定口座で上場株式を保有する一般株主の多くは税務申告に不慣れであることが予想され、株主による申告漏れ、税務当局による事後の追徴課税やその対応に伴う混乱という問題が見込まれた※12。
また、特定口座に限らず、全ての株主との関係においてスピンオフ実施法人及びスピンオフ対象法人の株式の取得価額が一定期間確定しないため、その間に株主が株式を譲渡した場合に譲渡損益が確定しないことになり、株式取引に萎縮効果をもたらすという問題も見込まれた。従って、グループ通算法人がスピンオフを行うことは実務上困難であり、現に、グループ通算制度を採用していたメルコホールディングスは、昨年10月1日のシマダヤのスピンオフに先立ち、グループ通算制度から脱退することとなった※13。
大綱に示された法改正後のグループ通算法人が行うスピンオフにおける分配資産割合の計算方法は以下のとおりである※14。ここで、「簿価修正相当額」とは、(多少簡略化すると)スピンオフ対象法人の株式を有するスピンオフ実施法人の株式分配(スピンオフ)の効力発生日の属する事業年度の前事業年度終了の時(前期期末時)において、スピンオフ対象法人が有する資産の帳簿価額の合計額及び負債の帳簿価額の合計額を株式分配(スピンオフ)の直前においてスピンオフ対象法人が有する資産の帳簿価額の合計額及び負債の帳簿価額の合計額とみなして投資簿価修正の規定を適用した場合の簿価純資産不足額又は簿価純資産超過額に相当する金額をいう※15。
これは、ごくごく簡潔に述べると、グループ通算法人が行うスピンオフにおける分配資産割合の分子を、現行法におけるスピンオフの効力発生日の前日に行うことになる投資簿価修正によって算出される投資簿価修正額に代えて、スピンオフ対象法人が前事業年度末にグループ通算制度から離脱したとみなして計算することによって算出される投資簿価修正額(これが「簿価修正相当額」と定義されている。)を加えて算出することとするものである。投資簿価修正には基準となる日から数ヶ月(グループ法人数の多い法人の場合4ヶ月程度)を要するところ、今般の改正により、例えば、事業年度が12月期の法人が7月1日をスピンオフの効力発生日とする際に、前事業年度末の12月末日の数値を用いて投資簿価修正を行えばよいこととなり、スピンオフの効力発生日までに分配資産割合を確定することが可能となる。また、前事業年度末の数値が基準となることで、上記の例において上場承認が遅れた結果、スピンオフの効力発生日が10月1日となったような場合にも柔軟に対応できることになる。
なお、スピンオフ対象法人が保有する他の通算法人株式の投資簿価修正についても同様の規律が適用されることになる※16。
スピンオフ実施法人は、スピンオフに際して、スピンオフ直前のスピンオフ対象法人株式の帳簿価額に相当する金額を、自身の資本金等の額から減算することになっているところ※17、スピンオフの直前のスピンオフ対象法人株式の帳簿価額に相当する金額は分配資産割合の分子に対応することから、上記法改正の内容が同様に適用されることになる。非適格株式分配の場合のみなし配当の額の計算の基礎となる対応する資本金等の額※18についても同様である。
また、スピンオフ実施法人の株主は、スピンオフ実施法人株式のうち、スピンオフ対象法人(完全子法人)株式に対応する部分の譲渡を行ったものとみなされ、譲渡原価はスピンオフの直前の帳簿価額に分配資産割合※19を乗じて計算した金額※20とされるため、上記法改正の内容が同様に適用されることになる。
これらはパーシャルスピンオフについても同様であり、パーシャルスピンオフにおいてスピンオフ実施法人が交付せずに手元に残すスピンオフ対象法人の株式の帳簿価額についても、上記法改正の内容が同様に適用されることになると考えられる。
※1
会社分割についても同様の規律が定められているが、株式分配によるスピンオフが実務上一般的であることを踏まえて、株式分配で代表する。
※2
法令上の文言としては「現物分配法人」に該当する。
※3
個人株主について所得税法施行令113条の2第4項、法人株主について法人税法施行令119条の8の2第2項
※4
適格株式分配の場合
※5
所得税法施行令113条の2第2項、法人税法61条の2第8項、法人税法施行令119条の3第24項、119条の8の2第1項
※6
所得税法施行令113条の2第1項、法人税法施行令119条1項8号、119条の8の2第1項
※7
法人税法64条の10第6項6号
※8
法人税法施行令119条の3第5項、119条の4第1項
※9
租税特別措置法37条の11の3
※10
租税特別措置法施行令25条の10の2第26項2号
※11
現行法において、一般口座に移管された株式を特定口座に再移管することはできない。
※12
NTTドコモ株式のスクイーズアウトによる上場廃止とその後の一般口座への移管に伴う申告漏れに関する新聞報道としてhttps://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0206E0S3A700C2000000/
※13
同社第38期有価証券報告書79頁
※14
グループ通算制度を採用していない法人には、現行法の規律が適用される。
※15
大綱(注1)
※16
大綱(注4後段)
※17
適格株式分配の場合(法人税法施行令8条1項16号)。なお、非適格株式分配の場合には、スピンオフ直前の資本金等の額に分配資産割合を乗じて算出される金額となる(同17号)。
※18
法人税法施行令23条1項3号、所得税法施行令61条2項3号
※19
純資産移転割合、純資産減少割合と記載されることもあるが実質的に同じ内容であるため、分配資産割合で代表する。
※20
法令の文言としては「完全子法人株式対応帳簿価額」(法人税法61条の2第8項、法人税法施行令119条の8の2第1項)。なお、所得税につき、措置法通達37の10-2の2(2)、所得税法施行令113条の2第1項、措置法通達37の11-11。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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