
平川雄士 Yushi Hegawa
パートナー
東京
NO&T Tax Law Update 税務ニュースレター
「令和7年度税制改正大綱」につきましては以下もご参照ください。
令和7年度税制改正大綱:ミニマム課税・CFC税制(合算タイミング)・移転価格税制(利益B)、今後の法人税のあり方(2024年12月)
令和7年度税制改正大綱③:外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場制度)の見直し~リファンド方式の導入~(2025年1月)
令和7年度税制改正大綱④:スピンオフ税制の改正(2025年1月)
令和7年(2025年)が明けました。本年もNO&T Tax Law Updateをどうぞよろしくお願いいたします。引き続き、租税法務についての有益な情報をタイムリーに発信できますよう、当事務所租税プラクティスの弁護士一同、努めてまいります。
毎年恒例でお届けしております、NO&T Tax Law Updateでの税制改正大綱の解説は、今般の令和7年度税制改正大綱(「本大綱」)については、周知のとおりの政治状況により、発刊が若干後ろ倒しとなっております。今回は、第2弾として、防衛増税関係につき、本大綱の記載の限りで、簡潔に触れたいと思います。
まず、過去の経緯を復習しますと、所得税の防衛増税については、2年前の令和5年度税制改正大綱において、「所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する。」とされており、その実施時期は、「令和6年以降の適切な時期とする。」とされていました。
本大綱が出る少し前の報道では、上記の改正が本大綱において実施される旨が報じられていました。しかし、結論としては、政治的考慮により、実施は先送りにされております。すなわち、本大綱では、「所得税については、令和5年度税制改正大綱等の基本的方向性を踏まえつつ、いわゆる『103万円の壁』の引上げ等の影響も勘案しながら、引き続き検討する。」とされるにとどまっております。
租税法務の実務家として、所得税につきこの種の付加税としての増税がある場合に最も気になる点は、源泉税の税率です。特に、資本市場・金融関係の取引案件では、課税関係の開示文書を正確に書く必要があるため、この点が重要となってきます。また、当職らの職責外ですが、源泉税率の変更がありますと、取引に係る各種システムの改修等々も必要となります。
この点は、もう今や昔となりますが、復興特別所得税が導入された際に表面化しました。従前は、金融取引関係の源泉税率といえば、15%や20%といったキリのいい数字だけ頭に置いておけばよかったのですが、2013年から復興特別所得税が課されることとなり、その準備段階から、同税を考慮に入れた源泉税率をどのように正確に記載すればよいのかという点が一応は検討されました。
結論としては、現状の実務もそうですが、復興特別所得税の税率(所得税額の2.1%)を源泉所得税の税率に織り込んで表記した、15.315%(源泉所得税15%および復興特別所得税0.315%)、20.315%(源泉所得税15%および復興特別所得税0.315%ならびに住民税5%)や20.42%(源泉所得税20%および復興特別所得税0.42%)などといった、小数点以下を含む見慣れない数字での記載がなされることになりました。今や、これらの数字は、もはやお馴染みのものとして実務に定着していると思います。同様に、個人の申告所得税についても、いわゆる限界税率としては、55.945%という数字(所得税45%、復興特別所得税0.945%および住民税10%)が定着していると思います。
そのような中で、また所得税率に変更がありますと、面倒だな、との思いがあるわけですが、上記のように、本大綱では、所得税の防衛増税は先送りにされております。
仮にこの先において所得税の防衛増税がなされる場合であっても、それが上記の令和5年度税制改正大綱のとおりになされるとしますと、「所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す」との防衛増税(防衛特別所得税(仮称))がなされるとともに、「復興特別所得税の税率を1%引き下げる」ことになります。つまり、復興特別所得税が所得税額の1.1%(現行は2.1%)、防衛特別所得税が所得税額の1%となります。したがって、現状実務に定着している上記の源泉税率の数字には、変更はないことになると思われます。むしろ、この措置は、源泉税率を変更することの実務的な煩雑さに配慮したものであるともいえるのかもしれません。
もっとも、その場合であってもブレイクダウンには変更が生じますので、例えば、現状において「15.315%(源泉所得税15%および復興特別所得税0.315%)」などという文言で開示がなされている場合は、「15.315%(源泉所得税15%ならびに復興特別所得税および防衛特別所得税計0.315%)」や「15.315%(源泉所得税15%ならびに復興特別所得税0.165%および防衛特別所得税0.15%)」などという文言に変更する必要が生じるのではないかという点も検討を要します。また、復興特別所得税については、「課税期間を延長する」とされていますところ、現状は2037年末までと開示されていると思われますが、これを20xx年まで(xx>37)と変更する必要が生じます。さらには、防衛特別所得税は「当分の間」課されるところ、防衛特別所得税が廃止されても復興特別所得税はなお課されているという状態(またはその逆の状態)もあり得ることになり、その場合は、小数点以下単位で新たな源泉税率が発現するということもあり得るところです(できれば改正により避けていただきたいところですが。)。
以上に対し、法人税については、付加税としての防衛特別法人税(仮称)が創設されます。課税は、令和8年(2026年)4月1日以後に開始する(令和9年(2027年)3月期以後の)事業年度(3月末決算の場合につき概していえば、翌々事業年度)からとなります。そこから「当分の間」課されることになります。
税率は、概していえば法人税額の4%とされています。その法人税額つまり課税標準は、「課税標準法人税額」とされており、これは、「基準法人税額」-500万円とされています。法人税額500万円分を控除することとし、この分については防衛特別法人税を課さないのは、中小法人に配慮する観点からとされています。その「基準法人税額」は、大要、所得税額控除や外国税額控除等の適用前の法人税額とされています。
この点、既に課されている地方法人税(国税)については、税率が10.3%とされており、その課税標準は、大要、所得税額控除や外国税額控除等の適用前の法人税額とされています。つまり、上記の500万円の控除ほか若干の相違を敢えて捨象しますと、防衛特別法人税の課税標準は、地方法人税のそれと大まかには同じといえます。なお、これも今や昔、復興特別法人税が法人税の付加税(10%)として課されていた時期がかつてありましたが、復興特別法人税も上記と似たようなものとなっていたところです。
所得税額控除や外国税額控除等の適用前の法人税額は、あくまでも大まかにいえば※1、各事業年度の課税所得×法人税率23.2%ですから、各事業年度の課税所得に対する原則的な法人課税(国税のみ)の表面税率は、これもあくまでも大まかにいえば、法人税率23.2%+地方法人税率23.2%×10.3%+防衛特別法人税率23.2%×4%となり、約26.52%となりそうです。
法人税の国際税務の関係で実務上慣れ親しんだ数字として、25.59%というのがあります。恒久的施設を有しない外国法人に対する法人課税の原則的な税率です。いわゆる事業譲渡類似株式譲渡ないしは25/5ルールにヒットする株式譲渡を行う場合などに出てくる数字です。これは、法人税率23.2%+地方法人税率23.2%×10.3%の和でした。防衛特別法人税の導入後は、これに代えて、上記の約26.52%を用いることになろうかと思われます。
さらに進んで、法人課税の法定実効税率(法人住民税ならびに損金算入可能な法人事業税および特別法人事業税のいわば「込み込み」のもの)については、東京都23区内における外形標準課税適用法人の法定実効税率は、現行では30.62%といわれているところです。この数字の計算過程を前提として、防衛特別法人税込みの場合の法定実効税率をあくまでも大まかに試算しますと、計算過程は割愛しますが、約31.52%となるようです。もっとも、こちらは大まかなイメージとご理解いただき、たとえば税効果会計の適用上の厳密に正しい数字としての法定実効税率については、当職の能力と資格を超える話ですので、会計士の先生方が追って発信されるであろう正確を期した情報に依拠されてください。
このように、結局のところ、防衛特別法人税の創設により、法人税負担は1%弱増加することになりそうです。
かつての復興特別法人税について先に触れました。これは、元々は3事業年度に亘り課されるとされていたところ、平成26年度税制改正により、1年前倒しで廃止されました。その経緯・理由としては、「安倍晋三首相の強い意向を踏まえて」、同廃止を「継続的な賃上げへ第一歩を踏み出すきっかけ」と位置づけ、「経済界に賃上げや下請け企業の支援に積極的に取り組むよう要請する」との点があったものと報道されています。
そこから10年余が経過し、総理総裁も3代交替して経済政策も変化した今、本大綱においては、「2010年代に・・・法人税率を23.2%まで引き下げた」にもかかわらず、「大企業を中心に国内投資は低水準で推移した」、「賃上げについても、諸外国と比較して、長年低迷してきた」、「他方、企業の利益が現預金として社内にとどまる傾向※2が一層強まってきた」などとの辛い指摘がなされています。その上で、「企業の国際競争力等にも一定の配慮が求められるが」としつつも、「法人税改革は意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ず、法人税のあり方を転換していかなければならない」、「法人税率を引き上げつつターゲットを絞った政策対応を実施するなど、メリハリのある法人税体系を構築していく」、と述べられるまでに至っています。
防衛特別法人税の増税も、このような考え方によるものと拝察されるところです。この線での政策が、防衛特別法人税以上に、今後具体的にどのように推進されていくのか、目が離せないところです。
※1
研究開発税制における税額控除や賃上げ促進税制における税額控除等々を捨象して、ということです。
※2
一般世間において俗にいうところの「内部留保」を指すものと解されます。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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