
塚本宏達 Hironobu Tsukamoto
パートナー(NO&T NY LLP)/オフィス共同代表
ニューヨーク
NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報
ニュースレター
米国子会社の実質的所有者情報の報告義務(2021年4月)
米国子会社の実質的所有者情報の報告義務(アップデート版)(2023年9月)
当事務所の2021年4月1日及び2023年9月8日付ニュースレター※1にてお知らせした通り、米国では、2021年国防権限法(the National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2021)の下、マネーロンダリング等の防止を目的として企業透明化法(Corporate Transparency Act、以下「CTA」といいます。)が制定され、米国財務省管轄の金融犯罪捜査網(the Financial Crimes Enforcement Network、以下「FinCEN」といいます。)に対して、一定の報告会社(Reporting Company)がその実質的所有者(Beneficial Owner)の報告を義務付けられることになっていました。
しかし、その後米国各地でCTAの有効性が争われ、2024年12月3日付で米国テキサス州東部地区連邦裁判所が全米を対象とする仮差止命令(preliminary injunction)を発令して本報告義務の施行を差し止めたり、その仮差止命令が争われて本報告義務の施行が復活したりと、本報告義務に関して不透明な状況が続いていました。このような状況で、2025年2月18日、本報告義務の施行が再び復活したことをきっかけに、FinCENは新たな報告期限を同年3月21日に設定するとともに、同年2月27日、今後FinCENが行う報告ルールの見直しによって新たに設けられる報告期限までの間、同報告期限を徒過しても罰則や制裁措置を適用しないと予告していました※2。この報告ルールの見直しの背景には、同年1月20日にトランプ政権が発足し、同年1月31日付の大統領令※3において、米国の経済的繁栄と国家安全保障を確保し、米国市民の生活の質を向上させることを目的として、連邦規制を遵守するための民間企業の支出を削減する規制緩和の方針を示していたことも関係しています。
上記のような背景のもと、2025年3月21日、FinCENは予告通り実質的所有者の報告ルールの暫定最終規則(interim final rule、以下「本暫定最終規則」といいます。)を公表しました※4。本暫定最終規則は、上記の通りトランプ政権の米国第一主義の影響を色濃く受けて、これまでの報告ルールの内容を大きく変更するものであり、報告に向けて準備を進めていた企業に重要な影響を与えることが想定されますので、本ニュースレターにて本暫定最終規則の概要をご紹介いたします。
本暫定最終規則公表前のCTAでは、大規模な事業体や上場会社、金融機関等の一定の例外を設けつつ、米国法に基づき設立された事業体及び米国外の法律に基づき設立され、米国のある州において事業登録(register to do business)をしている事業体を広く報告会社として定義していました。本暫定最終規則では、報告会社の定義が後者、すなわち米国外の法律に基づき設立され、米国のある州において事業登録を行った事業体に限定されました。米国法に基づき設立された事業体に関しては、親会社が外国会社であっても報告会社と捉える旨の規定は特にないことから、これにより日本企業の米国子会社は報告会社の定義から外れる一方、日本企業自体が米国のある州において事業登録を行っている場合には、いずれかの例外要件を満たさない限り、引き続き報告会社に該当することになります。
本暫定最終規則は、米国人(United States persons)が実質的所有者に該当する場合、当該米国人の情報は報告する必要がないとしています。また同様に、米国人は、当該米国人が実質的所有者である報告会社について報告する義務を免除されています。したがって、本暫定最終規則により、報告会社に該当する外国会社であっても、実質的所有者が米国人のみの場合は報告自体行う必要がないということになります。また、実質的所有者が米国人と米国人以外である場合には、米国人以外のみを実質的所有者として報告すれば足りることになります。
本暫定最終規則によって新たに設けられた初回の報告期限は、以下の通りです。
本暫定最終規則は、連邦官報への掲載により直ちに効力を生じるものとされていますが、本暫定最終規則により変更された米国国内会社の報告義務を免除する部分等については、その公表から60日間パブリックコメントを受け付け、2025年中に最終化される予定となっています。したがって、最終規則において一定の変更が加えられる可能性はまだ残されているものの、米国国内会社に関しては、本暫定最終規則により直ちに報告義務を免れることになります。特に、本暫定最終規則では、日本企業の米国子会社であっても、米国法に基づき設立された事業体であれば報告会社に該当しないことになりますので、この変更は米国法人を通じて米国事業を展開している日本企業にとって歓迎されるものになっています。
他方、日本企業自身が米国において事業登録を行っている場合や今後行う場合には、引き続きCTAに基づく実質的所有者の報告義務を負うことになりますので、報告期限までに報告を行う必要があります。
また、冒頭にも記載の通り、CTAを巡っては複数の訴訟が提起されており、まだその最終結果が出ていません。今後の訴訟の結果次第では、実質的所有者の報告義務に更なる影響や変更がある可能性もありますので、引き続き動向を注視する必要があります。
※1
当事務所発行の米国最新法律情報No.55「米国子会社の実質的所有者情報の報告義務」(2021年4月)及び米国最新法律情報No.99「米国子会社の実質的所有者情報の報告義務(アップデート版)」(2023年9月)
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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