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トランプ政権による相互関税の導入

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 トランプ大統領は、第2次政権の就任日の2025年1月20日に「米国第一の通商政策」メモランダムを公表し、通商措置を通じて解決を目指す政権の課題を列挙したリストを公表して以来、次々と追加関税措置を打ち出している。

 法的根拠としては、即座に追加関税措置のために活用できると政権が考えているものの活用が目立っている。具体的には、第1次政権時代に既に特定の品目について調査を完了していた1962年通商拡大法232条、及び、国家緊急事態を宣言することで一定の要件の下で追加関税を課すことができる1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税措置が発動されている。

 2025年4月2日に発令された大統領令14257号※1(以下、「本大統領令」という。)に基づき、4月5日から「基本」相互関税が発動され、4月9日から「国別」相互関税が発動されることとなった(以下、あわせて、「本相互関税」という。)。

 その後間もなく、4月9日中には、トランプ大統領の指示により、同日から課されていた「国別」相互関税の執行が、4月10日より、停止されることとなった。停止期間は、当面90日間とされている。ただし、4月10日からは、中国、香港、マカオの各産品については、4月9日時点で84%まで引き上げられていた「国別」相互関税が4月10日からは125%まで引き上げられることとなり、賦課継続することとなった※2

 第2次政権発足からこれまでの追加関税措置を簡単に振り返れば、以下のようになる。

発動日 対象国 根拠法 内容
2月4日 中国 IEEPA 10%追加関税(全中国産品対象)
3月4日 中国 IEEPA 追加関税を10%上乗せ(10%→20%に)
3月4日 カナダ・メキシコ IEEPA 25%追加関税(全カナダ・メキシコ産品対象。ただし、カナダ産「エネルギー資源」は10%を適用)
3月12日 全世界 232条 鉄鋼・アルミに25%追加関税
従前の例外を廃止。派生品にも対象を拡大。
4月3日 全世界 232条 自動車(完成車)に25%追加関税
4月5日 全世界 IEEPA 全世界(ロシア等※3の一部制裁対象国を除く)からの全輸入品に一律10%追加「相互関税」
4月9日 59カ国 IEEPA 日本を含む59カ国の特定国ごとの「国別」相互関税を引上げ(日本は10%→24%に)
4月9日 中国 IEEPA 中国に対する「国別」相互関税が、中国による報復関税への対応として、さらに50%上乗せされ、34%から84%へと改定されて発動。
4月10日 58カ国 IEEPA 日本を含み中国(香港・マカオ)を除く58カ国の特定国ごとの「国別」相互関税部分の発動を、当面の間、停止(日本は、24%→「基本」相互関税の10%に戻る)
4月10日 中国 IEEPA 中国に対する「国別」相互関税が、84%から125%へとさらに引き上げ。

 実際の対米輸出取引においては、輸出品目と原産地によって、上記の各追加関税のうち二つ以上に該当する場合もある。課税対象かどうかは、貨物の輸出地ではなく原産地によって定まる点に、注意が必要である。

 なお、一連の追加関税の加算関係のルールは、通常、後に発令された追加関税の大統領令に規定されている。本相互関税については、基本的にその他の関税に加算される仕組みであるが、以下3.に記載のような例外ルールに当たる場合には適用されない(加算されない)ことになる。

 以下では、本相互関税の概要と対応について、説明する。

2.相互関税の背景と概要

(1)背景

 第2次トランプ政権は、米国の貿易収支の恒常的な赤字は、米国内の製造拠点の空洞化等をもたらしたとしたうえで、その原因として、貿易相手国との間の関税の不均衡と、不必要に貿易制限的な基準や技術規制を含む様々な非関税障壁によって米国産品の外国市場へのアクセスが阻まれていることを挙げる。

 そして、国家及び経済の安全保障の基盤でもある(工業製品、農産品を含めた)国内生産能力への悪影響を除去するために、貿易の不均衡を放置することはできないとし、今回の本相互関税を発動するとしている。

(2)本相互関税の概要

 本相互関税の発動時点、対象国、税率等の概要は、以下のとおりである。

  • 4月5日より、米国に輸入される全世界からのすべての産品を対象に、一律10%の「基本」相互関税が課される。
  • 4月9日より、大統領令のAnnex I ※4に記載の特定国からの輸入品については、そのリストに従い、「国別」相互関税税率が引き上げられる。たとえば、日本24%、EU 20%、中国34%(引き上げ前)、インド27%、インドネシア32%、フィリピン18%、タイ37%、ベトナム46%、韓国26%などとなった※5
  • 4月10日より、4月9日から課されていた上記「国別」相互関税の執行が停止された。停止の期間は、90日間とされている。(その結果、日本は、24%→「基本」相互関税の10%に戻る。)
    ただし、中国(香港・マカオを含む)に対する「国別」相互関税は停止されず、「国別」相互関税の税率は84%から125%へとさらに引き上げられた。
  • 本相互関税は、原則として通常の関税や、その他の追加関税に加えて課されるが、例外ルールも多い(下記3.参照)。

3.適用除外や免除

 今回の相互関税には、いくつかの適用除外や免除に関する例外ルールが盛り込まれていることから、これらを的確に踏まえることが必要となる。日本企業にも関係があり得る、念頭におくべき主な適用除外・免除のルールとして、以下が挙げられる。

232条追加関税対象品目の適用除外 1962年通商拡大法232条に基づく追加関税の対象となっている品目、また、今後同条に基づく追加関税の対象となる品目は、本相互関税の対象にならない。
(例えば、鉄鋼・アルミ製品(及びその派生品)、また、自動車及び自動車部品がこれに該当する。)
医薬品ほか特定品目の適用除外 医薬品、半導体、木材製品、特定の重要鉱物、エネルギー及びエネルギー製品などは、本相互関税の対象にならない。その具体的な該当品目については、参照用として、本大統領令のAnnex II※6がHTSコードを列挙したリストとなっている。
(なお、本大統領令によりHTSコードを改訂するAnnex III※7の内容が、Annex IIに優先する。)
カナダ・メキシコ産品の特則 本相互関税に関する本大統領令は、カナダとメキシコとの関係では、3月4日に発動され適用されているIEEPAに基づく追加関税(25%。一部10%)の現状に、基本的に影響しない。
すなわち、引き続き、USMCAの原産地規則に適合するカナダ・メキシコ産品には、3月4日からの追加関税も本相互関税も適用されない。他方で、USMCAの原産地規則に適合しないカナダ・メキシコ産品には、3月4日からの25%ないし10%の追加関税が課されるが、それに加えて本相互関税の加算はされない。
「米国コンテンツ」の適用除外 本相互関税の適用一般において、米国へ輸入するある対象産品の価額のうち少なくとも20%が米国原産だといえる場合には、本相互関税は、非米国コンテンツの価額をベースに算定すればよい。
「米国コンテンツ」(U.S. content)とは、米国で完全に生産された、又は、実質的に加工された構成部分に起因する物品の価額を指す。
デミニミス・ルールによる小口輸入品の免税 当面の間、本相互関税との関係でも、800ドル未満の小口輸入品についての免税措置は有効。
ただし、小口輸入品についても関税を徴税するシステムが整った時点で、免税は廃止される見込み。
なお、中国・香港産品については、先行して、5月2日から、免税が廃止される。

4.対応のあり方

 本相互関税をめぐっては、各国が米国との個別協議による打開を模索しており、米国政権としても、本相互関税の究極的な目的である国内製造能力の増強や外国市場へのアクセス確保などが達成できると判断すれば、国別の税率などが緩和される可能性がある。また、米国経済への悪影響が深刻化したり、中国等からの報復関税の悪影響が出始めたりするなど、米国内の経済情勢の変化に伴い、措置が変更される可能性もある。反対に、各国の対応と措置の実際の効果に進展が見られなければ、措置は継続又は強化される可能性もあり、いずれにしても、当面の間、今後の日本政府を含めた各国政府と米国政権との間の協議と米国政権からの反応を注視していくことが必要となる。実際に、トランプ大統領が「国別」相互関税の4月9日の発動からわずか1日でその執行を当面の間停止したのは、今回の措置の影響の甚大さもさることながら、各国政府と協議を行う時間を稼ぐためともされている。

 その上で、現状の対応としては、情勢を慎重に注視しつつ、まず本相互関税のルールとの関係、そして、自社内、対取引先、対政府の各方面において、影響を抑えるために可能な対応を検討して実践することが考えられる。

(1)適用除外や免除の活用

 まずは、本相互関税の適用を回避する、あるいはその影響を限定するため、上記の例外ルールの活用を検討する必要がある。

 日本企業との関係でも、カナダ・メキシコ産品については、USMCAへの準拠を利用できるかどうかが、既存のIEEPAに基づく追加関税との関係のみならず本相互関税との関係でも非常に重要となるであろう。

 また、米国の部品や原材料を用いて米国外で加工等を行い、米国に再度輸入する物品については、その割合が20%以上である場合、「米国コンテンツ」の例外ルールを活用することも重要となる。この基準適用の判断には、新たに、工程・サプライチェーンの追跡が必要となる場合もあることが想定される。なお、米国税関・国境取締局(CBP)は、輸入時の税関申告において、米国コンテンツの価額を確定し、また、輸入品が米国で実質的に完成されたものであるかどうかを確定するために必要な情報及び書類の収集を行うことができるとされており、この点にも関わる税関申告についてのガイダンス※8を公表している。

 加えて、本大統領令には明記されていないが、本相互関税についてはドローバックの制度が利用できるとされていることから、こうした制度の活用による影響の減殺を検討する余地があると見られる。

(2)自社内の対応 – サプライチェーン・販路等の変更・見直し

 対米市場向けの輸出については、国別の相互関税率により、原産地によって、関税負担が相当に変わる可能性がある。したがって、対米輸出元を自社内又は他社を含めたサプライチェーンとの関係で最適に調整ができないか、検討する余地があり得る。

 また、米国を加工地・製造地として他国を最終市場とする製品については、ルールの適用除外や例外も考慮しながら、一連の製造プロセスの中の米国越境回数をなくしたり最小化したりするなど、バリュー・チェーンの流れの見直しができないか、検討する余地があり得る。各国の報復関税の動きも、考慮することが必要である。

(3)対取引先の対応 – 契約対応

 米国が関係する契約については、自社が置かれている立場(サプライヤーなのか、調達者なのか等)によっても必要な対応は様々であるが、たとえば、関税を直接負担する輸入者の立場からは、増加する関税負担をいかに売主ないし転売先に転嫁しやすい仕組みを契約内に設けられるかが肝要となる。実際には具体的な状況により交渉により価格が決められるとしても、契約条項として関税負担が生じる場合の価格のエスカレーションや価格調整を定めることが考えられる。また、不透明なトランプ政権下での取引環境の変化に備え、価格の見直しや契約更新期間を短めに設定することも考えられる。

(4)対政府の対応 – 政府へのインプット・コミュニケーション

 本相互関税を含む一連の追加関税措置については、トランプ政権は政府間での交渉を重視する姿勢を見せていることから、追加関税による具体的影響についての日本政府への情報提供と、日本政府からの米国政権への働きかけが、状況の打開に向け一層重要となり得る。

 日本の企業の視点からは、今回の本相互関税が、実はトランプ政権が達成したいと考えている目的の実現に資さない事態を招いているのであれば、そうした事実を日本政府を通じて、あるいは米国において、米国政権に伝えていく努力も場合によっては必要となろう。自社の関わる業界に関してそのような情報があれば、積極的に日本政府への働きかけをすることも一案である。

5.おわりに

 本関税措置の影響は大きく、今後のその他追加関税措置を含めた適用関係・ルールも単純ではない。また、情勢も流動的となっている。

 必要な対応は、各社の米国に関係する物品ごと、サプライチェーンや販路ごとに異なるが、最新の情報の収集に加え、公表されたルールを的確に分析し、いち早く自社への影響及び対応を検討、実行することが肝要といえよう。

脚注一覧

※3
ロシア、ベラルーシ、キューバ、北朝鮮産の産品は、本相互関税の対象とされていない。以下同じ。

※4
本大統領令、Annex I(前注1の連邦官報も参照)

※5
なお、4月5日又は4月9日になった時点で既に積出港から最終輸送手段によって米国の港に向けて輸送中の貨物は、それぞれの「基本」ないし「国別」の相互関税が課されない。

※6
本大統領令、Annex II(前注1の連邦官報も参照)

※7
本大統領令、Annex III(前注1の連邦官報も参照)

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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