
講演録
Space Business
-Legal Round Table #06
講演録
Space Business
-Legal Round Table #06
Kai-Uwe Schrogl
ゲスト
2016年より、50カ国以上の宇宙法専門家の国際団体である国際宇宙法学会(IISL)の会長を務める。 2014年から2016年までは、国連宇宙空間平和利用委員会の法律小委員会の委員長。欧州宇宙機関(ESA)の政治問題担当特別顧問。世界経済フォーラムの宇宙に関するグローバル・フューチャー・カウンシルの共同議長であり、国際法協会の会員、国際宇宙航行アカデミー(政策、経済、規制に関する委員会の議長を務める)の会員及びフランス航空宇宙アカデミーの準会員でもある。政治学の博士号を取得しており、ドイツのテュービンゲン大学では国際技術政策の名誉教授として国際関係論を講義している。宇宙政策及び宇宙法の分野において、20冊の著書及び共編著、140以上の記事、報告書、論文を執筆している。
大久保涼
パートナー
当事務所宇宙プラクティスグループ代表。主な業務分野は、M&A、プライベート・エクイティ投資、宇宙、テクノロジー分野など。2010年から宇宙航空研究開発機構(JAXA)契約監視委員会委員。
武原宇宙
アソシエイト
当事務所宇宙プラクティスグループ所属。主な業務分野は、M&A、プライベート・エクイティ投資、宇宙・テクノロジー、税務。
国際宇宙法学会(International Institute of Space Law, IISL)は、1960年に創設されました。
現在では、約50カ国からの参加者を有しており、
学術的・政策的・産業的な観点から世界の宇宙法法律家の主要なプラットフォームとなっています。
さて、本日は、宇宙法の最新の動向についてお話しさせていただきます。
宇宙政策と法整備に関連する課題として、現在二つの対立するトレンドが見られます。
第一のトレンドとして、現在の宇宙空間は、「無秩序」に向かっています。宇宙はより混雑し、対立が激化し、リスクと脅威が高まり、特に対衛星兵器などの軍事化が進み、ルールが守られない世界になっています。
第二のトレンドとして、逆に、宇宙空間での商業活動が急速に拡大しており、ルールの整備が求められています。世界経済フォーラムの資料によれば、現在の市場規模は年間3,500億から4,000億ドルですが、2040年には1兆ドルに達する可能性があると予測されています。民間セクターからも政府からも投資が増加しており、これにより宇宙空間の商業活動が一層進展しています。このような商業活動は、適切な法規制の下で行われることが期待されます。
私達は、これらの二つの対立するトレンドを認識しつつ、解決策を見つけることが重要です。ルールが守られない世界に対応するシステムを作る一方で、商業活動が繁栄するためのフレームワークを提供する必要があります。
TREND 01
トレンド 01
次に、それぞれのトレンドについて少し深掘りをします。まず、一つ目のトレンドである「無秩序」ですが、これに対抗するためには、宇宙での活動をソフトローなどで規制することが重要です。冷戦時代に得られた地上での軍拡競争の教訓から、宇宙では、軍拡競争の代わりに、透明性及び信頼醸成措置(Transparency and Confidence Building Measures、通称「TCBM」)を採用すべきです。
国連の宇宙空間平和利用委員会(Committee On the Peaceful Uses of Outer Space、通称「COPUOS」)においては、国連事務総長が組織した専門家グループが、TCBMや長期的な持続可能性に関して議論しています。また、国連総会においても、「責任ある行動の規範、ルール及び原則を通じた宇宙空間における脅威の削減」が決議されています。
宇宙交通管理(Space Traffic Management、通称「STM」)と、その基盤となる宇宙状況把握(Space Situational Awareness、通称「SSA」)も重要です。地上での交通規則と同様に、宇宙空間でも交通を規制する必要があります。これらについては宇宙条約6条に基づき、私人にも国家による規制が及ぼされるべきです。これにより、意図しない衝突を避けることができます。そのため、宇宙物体を確認するためのメカニズムの構築が必要です。
さらに、宇宙活動におけるセキュリティについても触れます。宇宙空間から、地上の信号を妨害するなどの問題が発生しています。これらの問題に対処するためには、信頼性のある規制と管理による、サイバーセキュリティの維持と回復力の確立が必要です。
また、月やその他の天体の平和的探査を維持するための規則作りに関して、アルテミス合意やILRS(International Lunar Research Station)宣言も踏まえ、COPUOS法律小委員会の新たな作業部会が作業をしています。もっとも、自由利用、平和的利用、発展途上国の利益も考慮した国際協力など、これまで宇宙活動をうまく支えてきた基本原則を定める既存の宇宙法は廃止すべきではありません。そうではなく、新たな行動規範とルールを追加するのです。民間の活動の場合であっても、国家の責任と賠償義務を適用することを考える必要があります。
TREND 02
トレンド 02
次に、二つ目のトレンドである、拡大する宇宙経済を宇宙秩序の安定のために利用し、世界宇宙経済の主要原則を確立する動きについてです。私企業が無秩序に活動すれば、責任問題の発生や衝突等により成り行かなくなりますが、宇宙条約6条により、国家が民間企業を制約するのではなく管理する法律を作る責務を負っています。国家が法律で作るべき原則としては、まず、後発者に対する優先権も含む、公平な競争条件を確立することであり、例えば、知的財産権を尊重しながらも、調達面での貿易障壁を排除することが必要です。また、新興企業も対象とする宇宙活動の資金調達の機会均等も挙げられます。この点については、資産ベースの融資なども考えられるでしょう。さらに、「打上げ国」概念による宇宙損害責任条約の適用範囲に関して、各国の許認可に関する法規性の調和を通じて、特定の国の法律が便宜置籍船的に使われることを回避することも重要です。宇宙損害責任条約の請求委員会のアプローチを考慮した仲裁の確立も期待されます。このような、世界的宇宙経済における主要原則策定はIISLの近年の注力分野であり、2021年にはポジションペーパーも発表しています。
規則策定にあたり私人を対象に加えるモデルとしては、国際電気通信連合(International Telecommunication Union、通称「ITU」)の例が参考になります。加えて、宇宙に関する国際法や国内法の制定に当たっては、宇宙の「Global Common」、すなわち、人類共有の資産としての性質を維持し、専有禁止・先着順禁止等の原則を守る、そして、億万長者がルールを決めることを避ける必要があります。
この問題は遅くとも1980年代から議論されています。すなわち、スペースシャトルやロシア版スペースシャトルであるブランが地球に帰還するときに、上空を通過する国の航空法を違反しているのかが問題になりました。宇宙活動とは何か、宇宙と航空の境目がどこかという問題で、これは引き続き解決するべき問題です。
アルテミス合意がそれに該当しますが、実は宇宙条約の段階で既に関連する規定があります。自由なアクセス、科学的調査・利用の自由、他国との協力・協調が原則で、軍事的利用でなければ、誰でも月面活動ができるのが原則です。アルテミス合意で問題となっている点は2つで、資源の取得と、有害な干渉防止のためのセーフティーゾーンの設定です。これらを宇宙条約の取得禁止・自由使用原則との関係でどう整理するかが課題です。この点、日本や米国等が調印していない月協定は資源の採取を禁止していると一般に言われていますが、私はその理解は間違っていると主張しています。月協定は、月資源の開発を適切な手続を含む国際レジームによって行うとしか言っていないのです。私が思うに、未締結の各国は直ちに多くの国が参加している月協定に参加して、国際レジームを作るべきだと言いたいです。
宇宙条約はあくまで基本原則を定めるものであり、他の原則や要請との衝突が生じる場合には、それはまさに宇宙法法律家が解決するべき分野と言えます。現在「主権(sovereignty)」の考え方がフランス・米国などにおいて強くなってきていますが、他方で、1兆円の市場を早期に成立させるには協調が必要です。特にこのような経済的な分野においては、IISLのような国際的なフォーラムで対応を検討することも考えられます。
本講演録は、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。
また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。
一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。
個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。