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米国政府による中国製半導体製品等の排除~国防権限法5949条の成立~

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 米国政府は2022年12月23日、H.R.7776 – James M. Inhofe National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2023※1(以下、「23年度版国防権限法」といいます。)を成立させ、その5949条において、政府機関による一定の中国製半導体製品等の使用を禁止することとしました。米国では既に、2019年度版の国防権限法※2(以下、「19年度版国防権限法」といいます。)889条により、政府機関がHuawei等一定の中国企業の製造に係る映像監視機器及び通信機器並びにそれらを使用して提供される通信サービス及び映像監視サービスを利用等することを禁止しております。23年度版国防権限法はパートAとパートBから成り、一定の中国企業が製造する半導体製品及びサービスについて、19年度版国防権限法と類似の禁止措置を導入するものですが、19年度版国防権限法の禁止措置とは大きく異なる点もあり、本ニュースレターではその点も含めて23年度版国防権限法の概要を紹介します。

 なお、23年度版国防権限法の施行日は2027年12月23日となっており、同法を施行するための規則が2025年12月23日までに公表される予定です。

2. パートAの概要

 23年度版国防権限法5949条に基づく規制のうち、いわゆるパートAは、政府機関(executive agency)が規制対象半導体製品又はサービス(covered semiconductor products or services)を含む(include)電子部品、製品又はサービスを調達・入手し、又は調達・入手するための契約を延長・更新することを禁止しています※3。規制対象半導体製品又はサービスとは、以下のものをいいます※4

  • (1) Semiconductor Manufacturing International Corporation(又はその子会社、関連会社若しくは承継事業者)が設計、製造又は供給する、半導体、半導体製品、半導体製品を統合した製品又はそのような製品を活用したサービス
  • (2) ChangXin Memory Technologies又はYangtze Memory Technologies Corp(又はそれらの子会社、関連会社若しくは承継事業者)が設計、製造又は供給する、半導体、半導体製品、半導体製品を統合した製品又はそのような製品を活用したサービス
  • (3) 国防長官(Secretary of Defense)又は商務長官(Secretary of Commerce)が、国家情報長官(Director of National Intelligence)又は連邦捜査局長官(Director of the Federal Bureau of Investigation)と協議の上、懸念外国(foreign country of concern)の政府が所有又は支配し、その他懸念外国の政府と関連していると決定した事業者により、製造又は供給される半導体、半導体製品又は半導体サービス。懸念外国とは、北朝鮮、中国、ロシア、イラン及びその他米国の安全又は外国政策にとって有害な行為に従事しているとみなされる国をいいます※5

 19年度版国防権限法889条におけるパートAが、規制対象の映像監視機器及び通信機器等をシステムの実質的若しくは必要不可欠な構成要素又はシステムの重大な技術として使用している設備、システム又はサービスを禁止の対象としているのに対して、23年度版国防権限法5949条のパートAにはそのような限定的な要件は付されていません※6

3. パートBの概要

(1) パートBの規制内容

 23年度版国防権限法5949条に基づく規制のうち、いわゆるパートBは、政府機関(executive agency)が規制対象半導体製品又はサービス(covered semiconductor products or services)を含む(include)電子部品又は製品を使用する(use)電子部品又は製品を調達・入手するために事業者と契約を締結(又は延長若しくは更新)することを禁止しています※7。ただし、規制対象半導体製品又はサービスを重要なシステム(critical system)以外のシステムにおいて含んでいる(include)にすぎない製品又はサービスについては、パートBの適用対象から除かれます※8

(2) パートAとの違い

 パートAの書きぶりと比べると、パートBでは規制対象半導体製品又はサービスを「含む」製品等を「使用」する製品等も対象となっており、適用範囲が広いように読めますが、「含む」(include)や「使用」(use)については定義されていません。また、パートAは政府機関に提供される電子部品、製品及びサービスを対象としているのに対して、パートBは政府機関に提供される電子部品又は製品のみを対象としており、サービスが含まれていません。これらの文言の違いがどのようにパートAとパートBの適用範囲に影響するかについては、現時点では明確ではありません。

 もっとも、規制対象半導体製品又はサービスが重要なシステムに含まれる場合に限定されている点においては、パートBはパートAよりも適用範囲が制限されているといえます。ここでいう重要なシステムとは、以下に掲げるシステムをいいますが、日常的な行政及び事業に用いられるシステム(ペイロール、ファイナンス、物流及び人材管理等)は含まれません※9

  • (ア) 合衆国法典40章11103条(a)(1)に定める国家安全保障システム。具体的には諜報活動、国家安全に関わる暗号解読活動、軍隊の指揮統制又は武器若しくは武器システムに不可欠な設備に関係する、又は軍事若しくは諜報任務の直接的な達成に重要な、電気通信又は情報システムをいいます。
  • (イ) Federal Acquisition Security (FAS) Councilが追加で指定するシステム
  • (ウ) 国防総省(Department of Defense)が2020年度国防権限法224条に従って追加的に指定するシステム

(3) 19年度国防権限法889条パートBとの違い

 23年度国防権限法5949条パートBの規制は19年度国防権限法889条パートBと文言上類似しており、19年度国防権限法で導入された映像監視機器及び通信機器に係る規制の半導体版という側面を有していますが、以下の通り重要な違いもあります。

 19年度国防権限法889条パートBにおいては、政府機関と契約する事業者自身が、規制対象映像監視機器又は通信機器をシステムの実質的又は必要不可欠な構成要素又はシステムの重大な技術として使用してはならないとされていました。そのため、政府機関と契約する事業者は自社で使用する機器を点検の上、規制対象機器があれば使用を停止する必要があり、関係企業に大きな影響を与えました。

 一方、23年度国防権限法5949条パートBでは、政府機関と契約する事業者が規制対象半導体製品又はサービスを使用することは禁止されておらず、政府機関に供給する製品や部品が規制対象半導体製品又はサービスを含む製品や部品を使用していなければ良いこととなっています。したがって、政府機関に製品又は部品を提供する事業者は、2027年12月23日の施行日までに、当該製品又は部品について、規制対象半導体製品又はサービスを含む製品又は部品が使用されていないかを点検し、該当する場合は別の製品又は部品に交換等する必要があります。

4. 施行規則

 23年度国防権限法5949条は2027年12月23日に施行されますが※10、関連する施行規則がFederal Acquisition Regulatory (FAR) Councilにより2025年12月23日までに制定される予定です※11。施行規則では、以下の内容が盛り込まれることになっています※12

  • (1) 政府機関に電子部品又は製品を供給する事業者が以下の各事項を遵守すること。

    • (ア) 供給する電子部品又は製品に規制対象半導体製品又はサービスが使用されていない旨を保証すること。
    • (イ) 供給する電子部品又は製品に規制対象半導体製品又はサービスが使用又は含まれる場合はそれを発見し、回避すること。
    • (ウ) 供給する電子部品又は製品に規制対象半導体製品又はサービスが使用又は含まれる場合は治癒のために必要な再作業又は是正措置を行うこと。
  • (2) 規制対象事業者(covered entities)が直接の顧客に対して、規制対象半導体製品又はサービスが電子部品、製品又はサービスに含まれている旨を開示すること。なお、規制対象事業者とは、(ア)米国由来の技術又はソフトウェアを直接用いた半導体のデザインを開発する事業者及び(イ)上記「2. パートAの概要」の(1)又は(3)に掲げる事業者から規制対象半導体製品又はサービスを購入する事業者をいいます※13
  • (3) 規制対象事業者が(2)の開示義務に違反し、政府機関に供給された電子部品、製品又はサービスに規制対象半導体製品又はサービスが含まれていた場合、当該規制対象事業者がその治癒のための再作業又は是正措置について責任を負うこと。
  • (4) 規制対象半導体又はサービス、その疑いのある半導体製品及び治癒に係る再作業又は是正措置に関する費用については、連邦税制上控除されないこと。
  • (5) 規制対象事業者又は連邦政府の請負業者若しくは下請業者は、連邦政府が購入した(又は連邦政府の請負業者若しくは下請業者が連邦政府へ配送するために購入した)重要なシステムの部品等に規制対象半導体製品又はサービスが含まれていることを認識し、又はそう疑う合理的な理由があるときは、60日以内に関連当局へ書面で通知すること。
  • (6) 連邦政府の入札者及び請負業者は、連邦政府への提案の際、電子部品、製品又はサービスを供給する規制対象事業者による法令を遵守している旨の保証に合理的に依拠することができ、独自に第三者の監査や検証を行う必要はないこと。
  • (7) 連邦政府の請負業者若しくは下請業者が(5)の通知を行った場合において、関連する電子部品又は製品が自社で製造し、又は組み立てたものではないときは、通知をしたことを理由に民事責任を負うことはないこと。
  • (8) 連邦政府の請負業者若しくは下請業者が(5)の通知を行った場合において、関連する電子部品又は製品が自社で製造し、又は組み立てたものであるときであっても、規制対象半導体製品又はサービスを特定し、取り除くために包括的かつ書面化可能な努力を尽くせば、当該通知をしたことを理由に民事責任を負うことはないこと。

 以上の通り、23年度国防権限法5949条の施行規則は、電子部品等のサプライチェーン上の各事業者に規制対象半導体製品又はサービスの使用がないかを積極的に確認する義務を課し、使用がない旨を政府機関に表明させることで、違反した場合の是正費用等を事業者の責任及び負担とすることを内容としています。ただし、各事業者は、規制対象事業者が規制対象半導体製品又はサービスを使用していないと表明していればそれに依拠することができるため、部品等の購入先が規制対象事業者である場合はかかる点の表明を要請することで、23年度国防権限法5949条への抵触を避けることになると考えられます。

5. 今後のポイント

(1) 23年度国防権限法5949条は将来効

 規制対象半導体製品又はサービスに関する禁止措置は2027年12月23日からその効力を生じますが、その前に使用された規制対象半導体製品又はサービスについては、効力発生後も取り除く必要はありません※14。したがって、政府機関に製品等を供給する事業者は、約5年間新たな禁止措置に対応するための猶予期間があることになります。

(2) 関係事業者が取るべき対策

 23年度国防権限法5949条に対応するための方策の詳細については、FAR Councilが2025年12月23日までに制定する施行規則の内容を待つ必要がありますが、現時点で判明している上記の情報から、猶予期間中に以下のような事項への対応が求められるといえます。

  • (ア) 現在政府機関へ供給している電子部品、製品又はサービスに、規制対象半導体製品又はサービスが使用され、又は含まれていないかを確認し、該当する場合は代替品への交換等を行う。
  • (イ) 政府機関へ供給する電子部品、製品又はサービスに規制対象半導体製品又はサービスが使用されていない旨を政府機関に対して保証することができる体制を整備する。
  • (ウ) 今後政府機関へ供給する電子部品、製品又はサービスに規制対象半導体製品又はサービスが含まれていることが判明した場合の除去・交換等の是正措置の内容を取り決める。
  • (エ) 政府機関へ供給する電子部品、製品又はサービスに規制対象半導体製品又はサービスが含まれていることが判明し、又は疑われる場合に、関連当局に速やかに報告する体制を整備する。
  • (オ) 政府機関へ供給する電子部品、製品又はサービスに関連する仕入先との間の契約に、規制対象半導体製品又はサービスが含まれていないこと等の表明保証に関する規定を設ける。

上記の対応事項は2023年12月23日までに公表される施行規則の内容次第で変動し得るため、引き続きFAR Councilの動向を注視する必要があります。

脚注一覧

※2
2019年度版の国防権限法について、詳しくは当事務所のNO&T U.S. Law Update No.50 「米国政府によるHUAWEI製品等の排除~国防権限法889条の施行~」をご覧ください。

※3
23年度版国防権限法5949条(a)(1)(A)

※4
23年度版国防権限法5949条(j)(3)

※5
23年度版国防権限法5949条(j)(5)

※6
19年度版国防権限法889条(a)(1)(A)

※7
23年度版国防権限法5949条(a)(1)(B)

※8
23年度版国防権限法5949条(a)(2)(B)

※9
23年度版国防権限法5949条(j)(4)

※10
23年度版国防権限法5949条(c)(1)

※11
23年度版国防権限法5949条(c)(2)

※12
23年度版国防権限法5949条(h)

※13
23年度版国防権限法5949条(j)(2)

※14
23年度版国防権限法5949条(a)(2)(A)(i)(ii)

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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