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農業・農地ファイナンスのポイント(下)~営農型太陽光発電事業を例として~

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

0. 承前

 前回のニュースレター※1では、金融機関が農地において農業を行う資金需要者に対して融資を行う場合を想定して、そのポイントを検討いたしましたが、本ニュースレターでは、農地を利用して農業以外の事業を行う資金需要者に対して融資を行う場合として、営農型太陽光発電事業を例に検討いたします。

1. 営農型太陽光発電への注目

 近年、農業と再生可能エネルギー事業の両立を図る事業として、営農型太陽光発電(農地の一部に一時転用許可※2を受け、農地に簡易な構造でかつ容易に撤去できる支柱を立てて、上部空間に太陽光発電設備を設置し、下部の農地での農業を継続しながら発電を行う取組※3)が注目されています。

 日本では、菅義偉首相(当時)が2020年10月26日の所信表明演説で2050年カーボンニュートラルを宣言し、その後、2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画で2030年度の電源構成に占める再エネ比率を36%~38%程度とすることが目標とされ※4、その一環として太陽光発電事業の開発が進んでいます。

 その一方で、太陽光発電事業の新規開発を行うのに適した土地は減少傾向となってきています。そのような状況のなかで、農地は太陽光発電事業の新規開発地の有効な選択肢として考えられており、特に、営農型太陽光発電では、農用地区域や第1種農地でも太陽光発電事業を行うことができるため、農地全体を非農地に転用※6した上で太陽光発電設備を設置し発電を行う場合に比べて、より多くの土地が事業の候補地となり得ることが期待されています。また、営農型太陽光発電は、農業従事者の立場からも、太陽光発電設備の下部の農地で農業を継続しつつ、売電収入から安定的な収入を得られる可能性があるほか、発電した電気を自家利用することにより農業経営を改善する可能性が期待されています。農林水産省も、営農型太陽光発電事業を始めようとする人やその取組を支援する地方自治体・金融機関に向けて「営農型太陽光発電取組支援ガイドブック」※7を公表するなど、営農型太陽光発電事業を推進する姿勢を示しています。

2. 営農型太陽光発電事業に対するファイナンス

1. 想定される事業スキーム

 営農型太陽光発電と異なり、農地を非農地に転用した上で太陽光発電設備を設置して売電を行う事業では、当該農地全体の転用について転用許可(農地法第4条第1項又は第5条第1項※8)を取得する必要があります。

 それに対して、営農型太陽光発電では、農業を続けることが前提となるため、農地全体は非農地とならないものの、発電設備を支えるための支柱の接地部分(下記図表2の赤丸部分)が非農地となることから、当該接地部分についてのみ一時転用許可(農地法第4条第1項又は第5条第1項)を取得する必要があります(平成30年5月15日30農振第78号(最終改正:令和4年3月31日3農振第2887号)「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」※9(以下「平成30年通知」といいます。)1)。

 金融機関としては、営農型太陽光発電について、事業者自体の信用力に依拠したコーポレートファイナンスや、事業者が得る売電収入に依拠したプロジェクトファイナンスといった手法で融資を行うことが考えられますが、その際は上記の一時転用許可をはじめとした営農型太陽光発電事業特有の法規制※10を踏まえた適切な保全を図ることが重要となります。

2. 営農型太陽光発電事業を営む事業者に対して融資を行う際に検討すべき主なポイント

(1) 一時転用許可の維持について

 営農型太陽光発電事業を営む事業者に対する融資を行う際に留意すべき点としては、営農型太陽光発電事業を継続させるために、一時転用許可を維持する必要がある点が挙げられます。営農型太陽光発電における支柱の接地部分についての一時転用許可は、許可期間の終了後に当該支柱の設置部分を農地に戻すことが前提になっている「一時」的な転用許可であるため、営農型太陽光発電を継続する期間中、一時転用許可を維持する必要があります。

 この点、農地転用許可権者である都道府県知事又は指定市町村の長は、一時転用許可を行うにあたり、下部の農地における「営農の適切な継続」(下記図表3参照)が確実と認められること(平成30年通知2(2)ウ)をはじめとする様々な事項(平成30年通知2(2))に該当することを確認することとされています。そして、一時転用許可を受けた者は、毎年、下部の農地における農作物に係る状況について、農地転用許可権者である都道府県知事等に対して報告を行うこととされており(平成30年通知3)、この報告により「営農の適切な継続」が確保されなくなった場合や確保されないと見込まれる場合には、必要な改善措置を講ずるよう指導がなされることとなります(平成30年通知4(2))。さらに、下部の農地での農業が行われない場合、営農型発電設備による発電事業が廃止される場合又は上記指導にもかかわらず必要な改善措置が講じられない場合には、営農型発電設備を撤去するよう指導がなされます(平成30年通知4(3))。

 金融機関としては、融資期間にわたって「営農の適切な継続」が確保できていることを確認するために、融資関連契約において、農業従事者による農業事業の継続を誓約事項(コベナンツ)とすることが考えられます。特に下部の農地で農業を行う者と上部の発電設備で発電事業を行う資金需要者が異なる場合には、農業従事者と資金需要者との間の契約関係(業務委託契約など)についても融資関連契約の規律を及ぼしていくことや資金需要者の義務として農業従事者をして農業事業を継続させる義務を課すことなども検討できると思われます。その他に農業従事者による農業従事の態様や農作物の収穫量等について報告を求めることも考えられます。また、「営農の適切な継続」が確保されなくなった場合や確保されないと見込まれる場合に、必要な改善措置を講ずるよう指導があったときは、金融機関への報告を求めるとともに具体的な改善措置の内容等について金融機関と協議することを求め、その上で適切な措置が採られない場合には期限の利益を喪失させる等の対応を取ることができるようにすることも考えられます。

(2) 一時転用許可の期間について

 営農型太陽光発電と異なり、農地を非農地に転用した上で太陽光発電設備を設置して売電を行う事業で必要となる転用許可については、当該太陽光発電事業を行う期間に特段制限は設けられません。一方で、一時転用許可の期間は原則3年以内であり(平成30年通知別表(4))、例外的に、下記図表4の①~③のいずれかを満たす場合には10年以内となります(平成30年通知別表(1)乃至(3))。そして、当初取得する一時転用許可期間の経過後も営農型太陽光発電を継続する場合には、一時転用許可の再許可の取得が必要となります。

 一般的にプロジェクトファイナンスを組成する場合は20年等の長期にわたって融資期間を設定する例が多いため、融資期間が当初取得する一時転用許可の期間を上回る場合は、一時転用許可の再許可を取得する必要が生じます。この点、一時転用許可の再許可の判断にあたっては「それまでの転用期間における下部の農地での営農の状況を十分勘案して総合的に判断するもの」とされており、「営農の適切な継続」(上記図表3参照)が確保されていること等の所定の要件※14を全て満たす場合には、再度一時転用許可を受けることが可能とされています※15

 金融機関としては、まず前提として、当初の一時転用許可の期間を超えて融資期間を設定することが可能かについて慎重に検討する必要があると思われます。個別の事情を踏まえた検討の結果、融資期間を当初取得する一時転用許可期間と同一とした上で、再度一時転用許可が取得できた場合に、融資期間の延長・借換えなどに応じるという手法も考えられるところです。また、当初取得する一時転用許可の期間を超えて融資期間を設定する場合は、一時転用許可の再取得の要件を満たす状況を確保することが重要になります。例えば、一時転用許可の再取得の要件である「営農の適切な継続」(上記図表3参照)を確保・確認するために、上記(2)で検討した内容を融資関連契約において、規定することが考えられます。その上で、一時転用許可の再許可が取得できないおそれがあると認められる場合には期限の利益を喪失させることができることを確保するとともに、当初想定していた融資期間を前倒しして債権回収を行う可能性を踏まえた保全方法を融資実行時点から検討する必要があると思われます。

3. 結語

 以上では、農地を利用して営農型太陽光発電事業を営む資金需要者に対して融資を行う際に検討が必要となり得る主要な点について検討いたしましたが、営農型太陽光発電事業については、各事案の特性等に応じて更なる検討が必要となる農地法の規定や関連する通知等が他にも多数存在します。また、直近では、平成30年通知に代わって制定される「営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン」の案や、営農型太陽光発電における一時転用許可の許可申請時の添付資料や要件等を明記する農地法施行規則の改正案について、2024年1月2日までを募集期間とするパブリック・コメントの募集が行われました※16。改正後の農地法施行規則は、2024年4月1日に施行されることが予定されています(改正後農地法施行規則附則第1条)。カーボンニュートラル社会の実現のため今後その普及がより一層期待される営農型太陽光発電に対するファイナンスを検討するにあたり、上記のガイドラインや改正後の農地法施行規則の分析を含め、法務面のサポートは重要な役割を担うものといえます。

脚注一覧

※1
農林水産・食品ビジネス法務ニュースレターNo.2「農業・農地ファイナンスのポイント(上)」(岡竜司・松田悠・荒井耀章、2024年1月)

※2
下記2.1.参照。

※3
農林水産省「営農型太陽光発電について」2頁(https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-32.pdf

※4
資源エネルギー庁ウェブサイト「エネルギー基本計画」106頁(https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/pdf/20211022_01.pdf

※5
資源エネルギー庁ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231129003/20231129003-1.pdf)。こちらの図表1によると、2022年度の太陽光発電による発電電力量は合計926億kWhであり、全体の発電電力量(10082億kWh)の約9.2%を占めています。

※6
後述のとおり、農地を非農地に転用するためには転用許可(農地法第4条第1項又は第5条第1項)の取得が必要となります。

※8
農地を農地以外のものにするに際して、他人からの農地に関する権限の設定・移転を伴う場合は、農地法第5条第1項の許可、そうでない場合は、農地法第4条第1項の許可の対象となります。

※9
農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/attach/pdf/einogata-1.pdf)。なお、平成30年通知は、「技術的な助言」(地方自治法第245条の4第1項)と位置づけられており(平成30年通知冒頭)、平成30年通知自体に一時転用許可に係る許可権者である都道府県知事等の判断を法的に拘束する効力があるわけではありませんが、実務上は平成30年通知に沿った運用がなされているため、本ニュースレターでは平成30年通知に従って検討を行っています。

※10
その他、下部の農地について権原を有する者が法人である場合は、一定の要件を満たすこと(例えば、当該法人が農地を所有する場合には農地所有適格法人であること)が必要となります(農地所有適格法人については、前回のニュースレター2.2.をご参照ください。)。また、下部の農地で農業を行う者と上部の発電設備で発電事業を行う者が異なる場合は、上部の発電設備で発電事業を行う者が支柱の接地部分に係る土地利用権を確保する必要がありますが、その際の土地利用権の確保方法や対抗要件具備の方法については、その事案毎の検討が必要となります。

※12
(i)効率的かつ安定的な農業経営(主たる従事者が他産業従事者と同等の年間労働時間で地域における他産業従事者とそん色ない水準の生涯所得を確保し得る経営)、(ii)認定農業者、(iii)認定新規就農者、又は(iv)認定農業者になる見込みの集落営農をいいます(平成30年通知別表(1))。

※14
①営農の適切な継続が確保されていること、②荒廃農地を再生利用する場合以外の場合は、下部の農地での単収が同じ年の地域の同じ農作物の平均的な単収と比較しておおむね2割以上減収していないこと、③荒廃農地を再生利用する場合は、下部の農地の全部又は一部が農地法第32条第1項各号のいずれにも該当していないこと、④生産された農作物の品質に著しい劣化が認められないことが要件とされています(農林水産省「営農型発電設備の実務用Q&A(営農型発電設備の設置者向け)」問15(令和3年7月))(https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/attach/pdf/einogata-45.pdf)。

※15
「営農の適切な継続」の要件のうち「営農が行われていること」の要件に関して、下部の農地における農業の実施に支障が生じた場合であっても、それがやむを得ない事情であれば、その事情及びその他の年の営農の状況を十分勘案して再許可に係る判断が行われることとされています。そのような事情としては、台風等の自然災害に被災したことや農作業に従事する者の病気や死亡により労働力が不足したことにより、下部の農地における単収が減少した又は皆無となったこと等、社会通念上やむを得ないと認められるといった事情が考えられるとされています(平成30年通知5、令和3年3月31日付け2農振第3854号農林水産省農村振興局長通知「再生可能エネルギー設備の設置に係る農業振興地域制度及び農地転用許可制度の適正かつ円滑な運用について」5(1)(https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukei/totiriyo/attach/pdf/einogata-43.pdf))。

※16
e-GOVパブリック・コメント「営農型太陽光発電に係る農地転用許可制度上の取扱いに関するガイドライン案」(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000263766)、「農地法施行規則の一部改正案」(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000263853)。
こちらのガイドライン案・農地法施行規則の改正案では、平成30年通知と比較して、営農型太陽光発電事業を第三者に承継する際は遅滞なく報告し(ガイドライン案2(3)エ)、かつ、承継する事業者が改めて一時転用許可を取得し直す必要があることや(ガイドライン案4(6))、上記2.(1)の「営農の適切な継続」が確保されなくなった場合又はこれが確保されないと見込まれる場合における必要な改善措置の指導について、営農型太陽光発電設備の設置が原因とはいえないやむを得ない事情(台風等による自然災害の被災、営農者の病気療養等)があると認められる場合は、当該事情も考慮して指導を行うものとすること(ガイドライン案4(2))が追記されているなど、様々な改正が加えられています。

(監修:弁護士 笠原康弘/宮城栄司/宮下優一/渡邉啓久/鳥巣正憲)

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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