icon-angleicon-facebookicon-hatebuicon-instagramicon-lineicon-linked_inicon-pinteresticon-twittericon-youtubelogo-not
SCROLL
TOP
Publications 著書/論文
ニュースレター

欧州の企業持続可能性DD指令(CSDDD)案及び強制労働製品・流通禁止の規則案に関する近時のアップデート

NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 欧州では、今年に入り、人権・環境リスクに関する重要な法規制のアップデートが相次いでいます。本ニュースレターでは、日本企業にとっても影響を与えうる、企業の人権・環境デュー・ディリジェンス実施義務化に関する企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)、強制労働により生産された製品のEU域内での流通及びEU域外への輸出を禁止する規則案の制定に関するアップデートについて紹介します。

2. 企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)

(1) CSDDDに関するこれまでの経緯と今後の流れ

 CSDDDは、2023年12月にEU理事会と欧州議会による企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)に関する暫定合意がなされたものの(以下「CSDDD暫定合意案」といいます)※1、EU加盟国の間で適格過半数を確保できずに2024年2月28日のEU理事会では否決され、現在の議会任期が終了する前にCSDDDを成立させるべく再交渉が行われていました。同年3月15日、修正されたCSDDD案(以下「修正CSDDD案」といいます)に基づきEU理事会の常設代表委員会において合意に達した※2ことから、同年4月下旬の欧州議会本会議での採決がなされた後に正式に採択されることが見込まれます。

(2) 修正CSDDD案の概要

 修正CSDDD案では、修正案採択までの再交渉の結果、CSDDD暫定合意案と比較すると、以下のとおり対象企業が限定されています。

CSDDD暫定合意案(旧) 修正CSDDD案(新)※3
EU企業:①従業員数500名超かつ全世界での年間売上高1億5,000万ユーロ超、又は②従業員数250名超かつ全世界での年間売上高が4,000万ユーロ超であり、ハイリスクセクター※4の売上が50%超 EU企業:従業員1,000名超かつ全世界での年間売上高4億5,000万ユーロ超
非EU企業:EU域内の売上高が上記を満たす場合 非EU企業(企業グループとして要件を満たす親会社を含む):EU域内の年間売上高4億5,000万ユーロ超※5
  ※ハイリスクセクターに基づく基準については言及なし(ただし、見直しに関する条項が含まれており、後日対応される可能性があります)

 修正CSDDD案では、CSDDD暫定合意案と同様に、対象企業のサプライチェーンに対する人権・環境リスクのデュー・ディリジェンスを求めています。具体的に対象企業に求められる事項としては以下の項目を含みます。

  • 人権・環境リスクに関する上流・下流のデュー・ディリジェンスの実施:対象企業は、実際の又は潜在的な人権・環境リスクを軽減・予防するためのデュー・ディリジェンスを実施することが求められます。人権・環境リスクには、強制労働、奴隷制度、労働力搾取、生物多様性の損失、環境汚染等が含まれます。また、デュー・ディリジェンスの範囲は自社のみならず、設計、製造、輸送、供給に従事する上流の取引先と、流通、輸送、保管に従事する下流※6の取引先を対象としています。
  • 利害関係者とのエンゲージメント:人権・環境リスクの特定・軽減等のため、利害関係者とのエンゲージメントが求められ、利害関係者が報復を受けることなく参加できるように対応しなければならないことが定められています。
  • 第三者に開かれた苦情処理手続:対象企業は、守秘義務を確保した形で、人権・環境リスクに関する情報や懸念を申告することができる手続を確立することが求められます。
  • 気候変動緩和のための移行計画の採用・実施:移行計画には、企業の期限付きの気候変動目標、目標を達成するための主要な行動を含めて策定することが求められます。
  • 年次報告書の公表:対象企業のウェブサイト上に年次報告書を公表することが求められます。

 CSDDDに違反した場合、対象企業は民事責任を負うほか、EU加盟国の国内法規において、違反企業に対する制裁金(少なくとも全世界の純売上高の5%を上限とする)に関する定めを置くものとされています。

 CSDDD遵守までの導入期間については、企業規模(従業員数及び純売上高)に応じて3年~5年の移行期間が段階的に設定されています。具体的な移行期間については以下のとおりです。

  • 従業員数が5,000名超及び売上高15億ユーロ超:3年以内
  • 従業員数が3,000名超及び売上高9億ユーロ超:4年以内
  • 従業員数が1,000名超及び売上高4億5,000万ユーロ超:5年以内

3. 強制労働

 EU理事会と欧州議会は、2024年3月5日、強制労働により生産された製品のEU域内での流通及びEU域外への輸出を禁止する規則案について暫定合意に達したと公表しました※7。本規則案は、2022年9月に欧州委員会から公表されており※8、その後審議・検討がなされていたものです。今後、暫定合意がなされた規則案(以下「暫定合意規則案」といいます)については、EU理事会と欧州議会による採択がなされた後、加盟国は規則発行日から3年以内に新規則の適用を開始することが見込まれます。今後の審議過程において変更がなされる可能性があるものの、暫定合意規則案の概要は以下のとおりです。

  • 製品の流通禁止・市場からの排除:強制労働により生産された製品のEU市場での流通及びEU市場からの輸出を禁止する目的のため、当局が、製品が強制労働により採掘、生産、製造等がなされた疑いがある製品について調査を実施し、強制労働が判明した場合、EU域内で生産されたものかEU域外から輸入されたものかに関わらず、その製品の流通を禁止し、EU市場から排除することを可能にしています(生産者が事業やサプライチェーンから強制労働を排除した場合には、当該製品を再度EU市場に戻すことが可能とされています)。
  • リスクベース・アプローチ:強制労働の規模と深刻さ(国家による強制労働が懸念されるかを含む)、EU域内で流通される製品の数量、最終製品に占める強制労働で製造されたと思われる部品等の割合、サプライチェーンにおける強制労働リスクと事業者の影響力の近接性に基づくリスクベース・アプローチがとられています。
  • 輸出入に関する追加情報の提出:欧州委員会は、指定する製品に関し、輸出入業者に製品の製造業者やサプライヤー等の追加情報の提出を求めることができるとされています。
  • 管轄当局:EU域外については欧州委員会が管轄を有し、EU域内では各国当局が調査を担当するとされており、この点は、2022年9月に欧州委員会から公表された原案では基本的に各国当局が調査を担当するとされていた枠組みから変更が加えられたものになります。また、欧州委員会は強制労働が存在する地域等に関する情報を含むデータベースを構築するものとされており、これが調査開始の必要性を評価する基準となることが見込まれます。

4. おわりに

 CSDDD及び強制労働により生産された製品のEU域内での流通及びEU域外への輸出を禁止する規則案が企業に求める措置は広範ですが、いずれもリスクベース・アプローチをとるものであり、人権・環境リスクが高いコアな部分について先行して取組を進めることが有用と思われます。

 なお、欧州ではグリーンウォッシュに関する規制も強化されており、この点については改めて本ニュースレターで紹介する予定です。

脚注一覧

※1
CSDDD暫定合意案の概要については、2024年1月発行「欧州の人権・環境デュー・ディリジェンスの義務化に向けて~企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の欧州議会とEU理事会の暫定合意内容~」(本ニュースレターNo.82)をご参照ください。

※3
なお、金融機関を対象とするか、またその程度については継続的に論点となっていましたが、修正CSDDD案でも、金融機関についても自らの業務と上流のサプライチェーンに限ったデュー・ディリジェンス義務が課されています。

※4
繊維・衣料・履物の製造及び卸売業、林業・漁業を含む農業、食品の製造及び原材料農産物の取引、鉱物資源の採掘及び卸売業、関連製品の製造、建設業といった人権・環境のリスクが高いセクターとして定義されています。

※5
その他、EU域内で独立した第三者企業とロイヤリティを対価とするフランチャイズ又はライセンス契約を締結しているEU又は非EU企業についても、8,000万ユーロ超の年間売上高を有し、そのうちロイヤリティが2,250万ユーロ超の場合にも適用されます。

※6
製品の廃棄は対象としないものとされています。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


全文ダウンロード(PDF)

Legal Lounge
会員登録のご案内

ホットなトピックスやウェビナーのアーカイブはこちらよりご覧いただけます。
最新情報をリリースしましたらすぐにメールでお届けします。

会員登録はこちら

弁護士等

危機管理/リスクマネジメント/コンプライアンスに関連する著書/論文

海外業務に関連する著書/論文

ヨーロッパに関連する著書/論文

決定 業務分野を選択
決定