
服部薫 Kaoru Hattori
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ニュースレター
フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要(2024年2月)
フリーランス・事業者間取引適正化等法における取引の適正化に係る規定への実務対応(2024年9月)
本ニュースレターに関連する英語版はこちらをご覧ください。
2024年5月31日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)(令和5年法律第25号。以下、「フリーランス保護法」といいます。)に関して、その施行日を2024年11月1日と定める政令(令和6年政令第199号)と共に、公正取引委員会及び厚生労働省から関係下位法令等が公布・公表されました。そのうち、厚生労働省が関わる関係下位法令等としては、以下のものが挙げられます。
本ニュースレターでは、これらの関係下位法令等の内容を踏まえ、特定受託事業者(フリーランス)の就業環境の整備に関するポイントを解説します。なお、フリーランス保護法の概要については、2024年2月に発行した独占禁止法・競争法ニュースレターNo.29・労働法ニュースレターNo.11にてご紹介しておりますので、併せてご参照ください。
特定業務委託事業者(発注事業者)は、広告などにより、特定受託事業者(フリーランス)の募集に関する情報を提供する際に、①虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならないこと、及び②提供する情報を正確かつ最新の内容に保たなければならないこととされています(フリーランス保護法12条)。
本指針によれば、同法の適用対象となる「特定受託事業者の募集」とは、特定受託事業者(フリーランス)に業務委託をしようとする者が、自ら又は他の事業者に委託して、特定受託事業者になろうとする者に対して広告等により広く勧誘することをいい、結果として募集に応じて業務委託を受けた相手方が特定受託事業者であったか否かにかかわらず、募集情報の提供の時点で、特定受託事業者に業務委託をすることが想定される募集をいうとされています。このため、募集の内容に照らして、専ら、①労働者の募集や、②所定の従業員※1を使用する事業者に業務委託をすることが想定される募集であって、特定受託事業者に業務委託をすることが想定されない募集には適用されません。
的確表示義務の対象となる募集情報について、本施行令において、下記①~⑤の事項とすることが示され、本指針で、その具体的な内容が下記のとおりであることが示されました。
これらの的確表示義務の対象となる募集情報に掲げられている事項は、求人の際に全ての事項を表示することを義務付けられているものではありませんが、本指針は、当事者間の募集情報に関する認識の齟齬を可能な限り無くし、業務委託後の取引上のトラブルを未然に防ぐという観点から、これらの事項を可能な限り含めて情報を提供することが望ましいとしています(本指針第2の5)。
本施行規則1条及び本指針第2、1(3)によれば、フリーランス保護法12条1項の厚生労働省令で定める的確表示義務の対象となる募集情報の提供方法は、①新聞、雑誌等の刊行物に掲載する広告、②文書の掲出又は頒布、③書面の交付、④ファクシミリ、⑤電子メール等(SNS等のメッセージ機能等を利用した電気通信を含む。)、⑥テレビやラジオ、インターネット上のオンデマンド放送や自社のホームページ、クラウドソーシングサービス等が提供されるデジタルプラットフォーム等であるとされています。
特定業務委託事業者(発注事業者)は、広告などにより特定受託事業者(フリーランス)の募集に関する情報を提供するに当たっては、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならないこととされています。
例えば、募集情報の提供時に、意図的に募集情報と実際の就業に関する条件を異なるものとした場合や、実際には存在しない業務に係る募集情報の提供をした場合等は、虚偽の表示に該当します。ただし、事後的に当事者間の合意に基づき、募集情報から実際の契約条件を変更することとなった場合は虚偽の表示には該当しないとされています。本指針は、虚偽の表示の具体例として以下のものを挙げています。
(虚偽の表示の具体例)
一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示は、誤解を生じさせる表示に該当します。本指針では、特定業務委託事業者(発注事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に誤解を生じさせることのないよう留意すべき事項として以下のものを挙げています。
【特定受託事業者(フリーランス)に誤解を生じさせないよう留意すべき事項】
本指針は、特定業務委託事業者(発注事業者)は、他の事業者に広告等による募集を委託した場合に、当該他の事業者が虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしていることを認識した場合には、情報の訂正を依頼するとともに、他の事業者が情報の訂正をしたかどうか確認を行わなければならないとしています。情報の訂正を繰り返し依頼したにもかかわらず他の事業者が訂正しなかった場合には、特定業務委託事業者は募集情報の的確表示義務(フリーランス保護法12条)の違反にはならないとされています。
特定業務委託事業者(発注事業者)は、広告等により特定受託事業者(フリーランス)の募集に関する情報を提供するに当たっては、正確かつ最新の内容を保たなければならないとされています。
本指針では、特定受託事業者の募集に関する情報を正確かつ最新の内容に保つための適切な対応の例として、以下の措置が示されています。
【募集情報を正確かつ最新の内容に保つための対応の例】
特定業務委託事業者(発注事業者)は、政令で定める一定期間以上行う継続的な業務委託(「継続的業務委託」)について、特定受託事業者(フリーランス)が育児介護等と両立して業務が行えるよう、その申出に応じて必要な配慮をしなければならないとされています(フリーランス保護法13条1項)。「継続的業務委託」以外の業務委託の場合には、育児介護等と業務の両立に対する配慮の努力義務が課されています(同条2項)。
本施行令において、フリーランス保護法13条1項の「政令で定める期間」は6か月とすることが示されました。
それを踏まえ、本指針においては、「継続的業務委託」に関する具体的な期間、継続的業務委託の期間の算定方法等について、以下の内容とすることが示されています。
本指針において、特定業務委託事業者(発注事業者)は、特定受託事業者(フリーランス)が育児介護等と両立しつつ業務委託に係る業務に従事することができるよう、下記の①から④に掲げる事項について、継続的業務委託の場合には配慮しなければならないこと、それ以外の業務委託の場合には配慮するよう努めなければならないことが示されています。
本指針は、特定業務委託事業者(発注事業者)による望ましくない取扱いとして以下のものを挙げています。
(具体例)
(具体例)
特定業務委託事業者(発注事業者)は、特定受託業務従事者※3(「特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者」)に対し、「業務委託におけるハラスメント」が発生することがないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならず(フリーランス保護法14条1項)、特定受託業務従事者が相談を行ったことやその相談を受けた特定業務委託事業者の対応に協力した際に事実を述べたことを理由として不利益な取扱いをすることはできないとされています(同条2項)。
「業務委託におけるハラスメント」とは、特定業務委託事業者(発注事業者)との間で、業務委託契約を締結した特定受託業務従事者に対して、当該業務委託に関して行われるセクシュアルハラスメント(同条1項1号)、妊娠、出産等に関するハラスメント※4(同項2号)、パワーハラスメント(同項3号)をいうものと定められています。
本指針は、特定業務委託事業者(発注事業者)は、業務委託におけるハラスメントを防止するために、下記のような措置を講じなければならないとしています。下記内容は、自らの雇用する労働者に対しハラスメント防止措置を講ずることを求める既存の労働関係法制におけるハラスメント関連指針を参考にしつつ定められたという経緯から、基本的にそれらの指針と同様の内容となっています。
特定業務委託事業者(発注事業者)は、「継続的業務委託」(前記3.のとおり、政令で定める一定期間以上行う継続的な業務委託を指し、本施行令及び本指針によれば、6か月以上の期間行う業務委託又は当該業務委託に係る契約の更新により6か月以上の期間継続して行うこととなる業務委託を意味します。)を中途解除(契約の不更新を含む。)する場合は、厚生労働省令で定める例外事由に該当しない限り、中途解除等の30日前までに、特定受託事業者(フリーランス)に対してその予告をしなければならないとされています(フリーランス保護法16条1項)。
また、当該予告の日から契約終了日までの間に、特定受託事業者が契約の中途解除等の理由の開示を請求した場合には、特定業務委託事業者は、遅滞なく中途解除等の理由を開示しなければならないとされています(同条2項)。
本施行規則は、フリーランス保護法16条1項の厚生労働省令で定める事前予告の方法(本施行規則3条)及び同条2項の厚生労働省令で定める理由開示の方法(本施行規則5条)は、①書面を交付する方法、②ファクシミリを送信する方法、③電子メール等(ただし、記録を出力することにより書面を作成できるものに限る。)であるとしています。
本施行規則4条は、フリーランス保護法16条1項に規定する厚生労働省令で定める事前予告の例外事由が以下のものであると規定しています。
なお、解釈ガイドライン第3部の4(2)においては、仮に、特定業務委託事業者(発注事業者)と特定受託事業者(フリーランス)との間で、一定の事由があれば事前予告なく中途解除することができると定めていたとしても、それだけで直ちに事前予告なく解除できるものとなるわけではなく、厚生労働省令で定める事前予告の例外事由に該当する必要があることが指摘されています。
また、特定業務委託事業者と特定受託事業者との間の合意に基づく契約終了の場合は契約の解除には該当しないものの、その際には、契約の解除に関する合意に係る特定受託事業者の意思表示が自由な意思に基づくものであったかどうかについて慎重に判断する必要があることも指摘されています。
本施行規則6条は、フリーランス保護法16条2項に規定する厚生労働省令で定める理由開示の例外事由として、①「第三者の利益を害するおそれがある場合」(本施行規則6条1号)と②「他の法令に違反することとなる場合」(同条2号)を挙げています。
そして、解釈ガイドライン第3部の4(6)では、①の例外事由としての「第三者の利益を害するおそれがある場合」とは、契約の解除の理由を開示することにより、特定業務委託事業者(発注事業者)及び特定受託事業者(フリーランス)以外の者の利益を害するおそれがある場合をいうものであり、②の例外事由としての「他の法令に違反することとなる場合」とは、契約の解除の理由を開示することにより、例えば、法律上の守秘義務に違反する場合などをいうと説明されています。
デジタル社会の進展や専門性重視の傾向などを背景として、働き方の多様化が進展する中で、コロナ禍以降も、フリーランスとして働く例が増えており、企業が、フリーランスと取引を行うケースは今後ますます増加することが予想されます。
今般、フリーランス保護法が本年11月1日に施行されることとなり、関係下位法令等が公布・公表されたことにより、募集情報の的確な表示、育児介護等と業務の両立に対する配慮、ハラスメント体制整備義務等、中途解除等の事前予告の例外的事由等の規制の細目や運用の方向性が示されました。フリーランスと取引をする機会が見込まれる各企業におかれては、目前に迫ったフリーランス保護法の施行に向けて、既存の労働関係法令に基づいて整備した社内体制・ツールを活用することや、新たな体制を構築するなど、その準備に当たって、本ニュースレターをお役立ていただければ幸いです。
※1
フリーランス保護法は、従業員を使用せず1人の「個人」として業務委託を受けるフリーランスと、従業員を使用して「組織」として業務委託を行う発注事業者との間で交渉力などに格差が生じることを踏まえて、フリーランスの就業環境の整備等を図ることを目的としていることから、同法の適用対象となる「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないものとされています(同法2条1項)。そして、解釈ガイドライン第1部の1(1)によれば、「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者をいう。)を雇用することをいうとされています。
※2
ここで、「契約の更新により継続して行うこととなる」と判断されるためには、①契約の当事者が同一であり、その給付又は役務の提供の内容が少なくとも一定程度の同一性を有し、②前の業務委託に係る契約又は基本契約が終了した日の翌日から、次の業務委託に係る契約又は基本契約を締結した日の前日までの期間の日数が1か月未満であること、という2つの要件を満たす必要があります。
なお、本指針では、給付等の内容の一定程度の同一性の判断に当たっては、機能、効用、態様等を考慮要素として判断することとされ、その際、原則として「日本標準産業分類」の小分類(3桁分類)を参照し、前後の業務委託に係る給付等の内容が同一の分類に属するか否かで判断することとされています(本指針第3、1(3))。
※3
「特定受託業務従事者」とは、「特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者」(フリーランス保護法2条2項)と定義されています。法人等の取引主体たる事業主に対するハラスメントが観念できないことから、「特定受託事業者」という属性を有する自然人を意味するものとして別途定義が設けられています。
※4
フリーランス保護法14条1項2号では、「特定受託業務従事者の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動によりその者の就業環境を害すること」と定義されており、本施行規則2条において、「厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由」として、①妊娠したこと、②出産したこと、③妊娠又は出産に起因する症状により業務委託に係る業務を行えないこと若しくは行えなかったこと又は当該業務の能率が低下したことが挙げられています。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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