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ニュースレター

米国輸出管理規制アップデート~エンドユース・エンドユーザー規制の拡大~

NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報

NO&T International Trade Legal Update 国際通商・経済安全保障ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2024年7月25日、米国商務省産業安全保障局(the U.S. Department of Commerce’s Bureau of Industry and Security(BIS))は、既存の輸出管理規則(Export Administration Regulations、以下「EAR」といいます。)を拡大する形で、軍事・諜報機関に対する品目の輸出や支援に関する制限を拡大するための規則案(以下「本規則案」といいます。)を公表しました。本規則案は2つに分かれており(”End-Use and End-User Based Export Controls, Including U.S. Persons Activities Controls: Military and Intelligence End Uses and End Users”※1及び”Export Administration Regulations: Crime Controls and Expansion/Update of U.S. Persons Controls”※2)、主として、①米国人の活動に対する規制の拡大、②エンドユース・エンドユーザー規制の拡大、及び③品目規制の拡大を内容とするものですが、本ニュースレターでは特に日本企業に関係する可能性が高い②を中心にご紹介します。

軍事エンドユース・エンドユーザー規制の拡大

 本規則案は、既存の軍事エンドユース・エンドユーザー規制(EAR § 744.21)を改定することで、その規制範囲を大きく拡大しています。具体的には、以下の条件を満たす場合にライセンスの取得が義務付けられます。

 対象品目:EAR対象品目(EAR99(リスト外規制品)を含む)

 対象国:マカオ又はカントリー・グループ※3で「D:5」に指定された国

 対象行為:輸出、再輸出又は国内移転時(以下「輸出時等」といいます。)に、当該品目が、①対象国における「軍事エンドユース」に利用されること若しくは最終用途が「軍事エンドユース」である対象国向けの製品であること、又は②対象国の「軍事エンドユーザー」(所在地を問わない)向けであることを知っている又は知り得た場合

 まず、規制対象品目に関して、従前の軍事エンドユース・エンドユーザー規制では、①中国、ベネズエラ、ミャンマー、ニカラグア又はカンボジア向けの場合はSupplement No. 2 to EAR Part 744※4に列挙された特定の品目のみが規制対象とされ、②ロシア又はベラルーシ向けの場合においてのみ全てのEAR対象品目(EAR99を含む)が規制対象とされていましたが、本規則案では、ロシア、ベラルーシ向けに限らず全てのEAR対象品目が一律に規制対象とされています。

 また、対象国に関しても、マカオ又はカントリー・グループで「D:5」に指定された国(米国の武器禁輸国。本ニュースレター発行時点で24ヶ国が指定されています。)に対象が拡大しています。

 なお、下記のとおり本規則案で新たなエンドユース・エンドユーザー規制が追加されたことに伴い、既存の「軍事エンドユーザー」の定義(「国の軍(陸軍、海軍、海兵隊、空軍、又は沿岸警備隊)、国家守備隊、国家警察、政府の諜報・偵察機関又は「軍事エンドユース」の支援を意図した活動若しくは機能を有するあらゆる団体・個人」)が以下のとおり改正されています。

  • 「国家警察」(national police)及び「政府の諜報・偵察機関」(government intelligence, or reconnaissance organizations)の除外(なお、これらはそれぞれ新たに創設された「安全保障エンドユーザー」及び「諜報エンドユーザー」の定義に含まれることとなります。)
  • 「『軍事エンドユース』の支援を意図した活動若しくは機能を有するあらゆる団体・個人」(any person or entity whose actions or functions are intended to support ‛military end uses,’)の除外(なお、これらは新たに創設された「軍事支援エンドユーザー」の定義に含まれることとなります。)
  • 「傭兵、準軍事組織、非正規軍を含む軍事エンドユーザーの機能を有するあらゆる団体・個人」(any person or entity performing the functions of a ‛military end user,’ including mercenaries, paramilitary, or irregular forces)が新たに定義に追加※5
  • エンティティ・リスト※6の脚注3付掲載者又は脚注5付掲載者が新たに定義に追加。

 他方、「軍事エンドユース」の定義※7については特段実質的な変更は加えられておりません。

新たなエンドユーザー規制の追加

1. 軍事支援エンドユーザー規制(EAR § 744.22)

 本規則案は、新たなエンドユーザー規制として軍事支援エンドユーザー規制を追加しており、以下の条件を満たす場合にはライセンスの取得が義務付けられます。

 対象品目:EAR対象品目、かつ、ECCN対象品目(リスト規制品目)

 対象国:マカオ、カントリー・グループで「D:5」に指定された国

 対象行為:輸出時等に当該品目が対象国に所在する「軍事支援エンドユーザー」又はエンティティ・リストの脚注6付掲載者(所在地を問わない。)向けであることを知っている又は知り得た場合

 「軍事支援エンドユーザー」とは、①「軍事エンドユース」を支援する活動若しくは機能を有するあらゆる個人若しくは団体、又は②エンティティ・リストの脚注6付掲載者と定義されています。上記軍事エンドユース・エンドユーザー規制の対象品目が全てのEAR対象品目に拡大されたのに対して、軍事支援エンドユーザー規制の規制対象はあくまでECCN対象品目に限定されており、EAR99は規制対象に含まれません。

2. 諜報エンドユーザー規制(EAR § 744.24)

 本規則案は、既存の軍事諜報エンドユース・エンドユーザー規制に代わる新たな規制として諜報エンドユーザー規制を追加しており、以下の条件を満たす場合にはライセンスの取得が義務付けられます。既存の軍事諜報エンドユース・エンドユーザー規制が軍事関連の諜報機関のみを規制対象としていたのに対し、諜報エンドユーザー規制は、軍事関連か否かに関わらず、あらゆる種類の諜報機関を規制対象とすることを目的としています。

 対象品目:EAR対象品目(EAR99(リスト外規制品)を含む)

 対象国:カントリー・グループで「D」又は「E」(但し、カントリー・グループで「A:5」又は「A:6」に指定されていない国に限る)に指定された国※8

 対象行為:輸出時等に当該品目が最終的に対象国からの「諜報エンドユーザー」(所在地を問わない)向けであることを知っている又は知り得た場合

 「諜報エンドユーザー」とは、①外国政府の諜報機関、監視機関、偵察機関若しくはそのような機関に代わって機能を実行するその他の団体、又は②エンティティ・リストの脚注7付掲載者と定義されています。①の定義には、軍事機関のみならず民間企業・団体も含まれるとされている点に注意が必要です。既存の軍事諜報エンドユース・エンドユーザー規制がベラルーシ、ミャンマー、カンボジア、中国、ロシア、ベネズエラ及びカントリー・グループで「E:1」及び「E:2」に指定された国向けの規制に限定されていたのに対し、新たな諜報エンドユーザー規制では、カントリー・グループで「D」又は「E」(但し、カントリー・グループで「A:5」又は「A:6」に指定されていない国に限る)に指定された45ヶ国に対象が拡大しています。また、最終的に対象国からの「諜報エンドユーザー」(所在国を問わない)がエンドユーザーとなる場合が一律に規制対象とされているため、規制対象がかなり広汎となっています。

3. 安全保障エンドユーザー規制(EAR § 744.25)

 本規則案は、新たに安全保障エンドユーザー規制を追加しており、以下の条件を満たす場合にはライセンスの取得が義務付けられます。

 対象品目:EAR対象品目、かつ、ECCN対象品目(リスト規制品目)

 対象国:カントリー・グループで「D:5」又は「E」に指定された国

 対象行為:輸出時等に当該品目が対象国の「安全保障エンドユーザー」向けであることを知っている又は知り得た場合

 「安全保障エンドユーザー」とは、①逮捕、拘留、監視、捜索、若しくは公務遂行のために有形力を行使する権限を有する政府機関及びその他の組織(国家本部又は省レベルから全ての下部組織・部局に至るまで、政府警察及びセキュリティサービスのあらゆるレベルの個人・団体が含まれることとされています。)、②逮捕、拘禁、監視、捜索など、「安全保障エンドユーザー」の機能を遂行するその他の個人・団体(分析・データセンター(ゲノムデータセンター等)、犯罪科学研究所、拘置所、刑務所、その他の拘禁施設、労働キャンプ、再教育施設等が含まれることとされています。)、又は③エンティティ・リストの脚注8付掲載者と定義されています。①の定義には、軍事機関のみならず民間企業・団体も含まれる可能性がある点に注意が必要です。

脚注一覧

※5
下記「軍事支援エンドユーザー」に該当する場合を除き、戦闘又は軍の活動に類似したその他の活動に従事する民間企業、非国家主体又は準政府組織を捕捉することが意図されています。

※6
エンティティ・リストとは、EARのもとで整備されている、米国の国家安全保障や外交政策に反する活動に関与していると考えられる個人、法人及び団体等のリストのことをいいます。エンティティ・リスト及びエンティティ・リスト掲載者への輸出規制の詳細は、当事務所発行の米国最新法律情報No.53「米国輸出管理規制アップデート~エンティティ・リストの更新とFAQsの公表~」(2021年1月)をご確認ください。

※7
EAR § 744.21(f)において、①ITAR(国際武器取引規則)のUSML(軍事品目リスト)品目、若しくは規制品目リストのECCNがA018若しくは600番台の品目への組み込み、又は②上記品目の操作、据付、保守、修理、オーバーホール、分解修理、開発、若しくは製造のいずれかを支援若しくは貢献することと定義されています。

※8
エジプト、カザフスタン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ウズベキスタン等の国が含まれます。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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