渡邉啓久 Yoshihisa Watanabe
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2022年2月17日、「2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方に関する検討会」(以下「検討会」といいます。)が全5回の検討会を終え、基地港湾の配置及び規模に関する検討結果(以下「検討会とりまとめ」といいます。)を公表しました。検討会とりまとめでは、基地港湾の全国的な配置や基地港湾の面積・地耐力等に関する検討結果が整理されています。これを受け、同月28日に開催された国土交通省の審議会である交通政策審議会 港湾分科会 環境部会 洋上風力促進小委員会においては、新たな基地港湾の指定に向けた考え方の観点が整理され、今後、港湾管理者の意向確認調査が進められる予定です。
本稿では、検討会とりまとめの内容及び港湾法上の海洋再生可能エネルギー発電設備等拠点港湾(以下「基地港湾」といいます。)制度に触れつつ、洋上風力発電プロジェクトの積極的な導入に不可欠な基地港湾の指定・整備の現状について概説いたします。
政府は、2021年10月22日、エネルギー政策基本法に基づいて第6次エネルギー基本計画を閣議決定しましたが、その中で、再エネ主力電源化の徹底を図り、2030年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの比率を36~38%にまで高めることを見込んでいます。
中でも、洋上風力発電は再エネ主力電源化の「切り札」として推進していくことが必要とされています。洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会が定めた「洋上風力産業ビジョン(第1次)」(2020年12月15日)※1では、今後年間100万kW程度の区域指定を10年継続し、2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万kWから4,000万kWの案件の形成する旨の導入目標を設定し、その実現に向けた取組みを進めることとされています。
洋上風力発電は、陸地に設置される太陽光発電や陸上風力等と異なって規模的な立地制約が少なく大量導入が可能であること、タービンの大型化や技術革新によって今後のコスト低減が見込まれることのほか、数千億円に上る事業規模や数万点にも達する構成機器や部品点数を考えると関連産業に大きな経済波及効果をもたらすと考えられるため、エネルギーのクリーン化だけに留まらない役割を期待されています。
日本列島は周囲を海洋に囲まれていますので、全国各地に多数の港湾が存在します。しかし、洋上風力発電プロジェクトの建設や維持管理に適した港湾は限られているのが現状です。洋上風力発電所においては、タービンのパーツ(ナセル、ブレード及びタワー等)や風車基礎といった極めて長大で重量のあるパーツが多数使用されます。なおかつ、現状は海外メーカーからの調達に大きく依存しなければならない状況です。そのため、特に発電所の建設フェーズにおいては、重量物運搬船を利用してパーツを陸揚げし、一定期間保管し、洋上作業を効率化するための事前組立(プレアセンブリー)を行い、船舶へ積み出しをするという一連の作業を港湾において行う必要が生じます。洋上風力発電所の建設の用途に供される港湾は、水切作業ヤード、保管ヤードだけでなく、事前組立ヤード、積出ヤードといった広大な作業スペースを有していることが求められ、重量物に耐え得る地耐力を兼ね備えることも必要となります。
また、洋上において風車及びその基礎の設置を行うに際しては、台船(プラットフォーム)と昇降用レグを有し、大型クレーンを備えたSEP船(自己昇降式作業船)を利用するのが一般です。SEP船は、海底にレグを下ろし、台船を波の影響を受けない高さにまで上昇させることで、海上での風や波による船舶の揺れをなくし、作業精度や効率を高めるものですが、SEP船が港湾で作業する際にも、海底にレグを下ろして重量のあるパーツをクレーンで吊り上げることになるため、船舶の接岸スペースの広さはもちろんのこと、岸壁前面水域の海底部分に関しても、一定の水深と地耐力を備える必要があります。
さらに、今後は、個々の発電機と発電所自体の大型化が見込まれます。洋上風力発電プロジェクトで先行する欧州においては、既に、2020年に導入されたタービンの出力容量は平均8.2MWにまで大型化しており、2020年発注のタービンに関しては10MWから13MWが主流とされているほか※2、洋上風力発電所自体の大型化も進んでいます。国内案件においても、タービンや洋上風力発電所の大型化に伴い、発電設備を構成するパーツはさらに巨大かつ重量となり(着床式洋上風力発電設備(モノパイル式)に関して、下図参照)、その本数・個数も増えていくことが見込まれることから、港湾に関しても高いスペックが求められていくと考えられます。
出典:第5回 2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方に関する検討会(2022年2月17日)
資料3「2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方検討会~基地港湾の配置及び規模~」10頁
出典:第5回 2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方に関する検討会(2022年2月17日)
資料3「2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方検討会~基地港湾の配置及び規模~」10頁
基地港湾は、洋上風力発電施設の新規開発時だけでなく、発電所の運転開始後に、洋上に設置された風力発電設備のメンテナンスを行う場合や事故等不測の事態に対応するためにも必要ですし、将来的には洋上風力発電設備の撤去の場面でも必要となると考えられます。ただ、この先大規模な洋上風力発電プロジェクトが多数導入されることが想定される一方で、上記のようなスペックを備えた港湾は限られていることから、複数の発電事業者間の利用調整を図る必要もあります。
こうした背景から、国が基地港湾を指定した上で、事業者に対し基地港湾を長期かつ安定的に貸し付ける制度として、港湾法の一部を改正する法律(令和2年2月施行)により、海洋再生可能エネルギー発電設備等拠点港湾(基地港湾)の貸付制度が導入されました。本稿執筆時点では、①秋田港、②能代港、③鹿島港及び④北九州港の4港が基地港湾として既に指定されており、整備が進められています(なお、秋田港については既に供用を開始しています。)。
もっとも、事業者サイドからは、既存の4港のみでは洋上風力産業ビジョン(第1次)の導入目標に対応しきれないといった懸念や、基地港湾不足が原因で基地港湾の空き待ちの状態が生じ、洋上風力発電の導入が遅延するおそれがあるといった懸念が示されていました※3。他方で、基地港湾の過度の指定・整備により、不要な投資がなされないよう配慮する必要もあります※4。
今回示された検討会とりまとめは、洋上風力産業ビジョン(第1次)が示す洋上風力発電の導入目標を達成するために必要となる地域別の基地港湾の数の目安※5の試算結果として、地域別に、下記の図に示される数の港湾を必要と見込んでいます。ここからは、洋上風力適地とされる北海道・東北地方及び九州地方を中心に、2030年・2040年に向けて、多数の基地港湾を新たに指定し整備していく必要があることがわかります。
出典:第5回 2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方に関する検討会(2022年2月17日)
資料3「2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方検討会~基地港湾の配置及び規模~」20頁
出典:第5回 2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方に関する検討会(2022年2月17日)
資料3「2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方検討会~基地港湾の配置及び規模~」20頁
本稿では記載を割愛しますが、検討会とりまとめにおいては、大型化・大規模化に対応した基地港湾の最適なスペック及び浮体式に対応した基地港湾の最適なスペックに関しても方向性が示されています。
国土交通大臣は、下記表1記載の要件を満たす埠頭(海洋再生可能エネルギー発電設備等取扱埠頭)の中から、港湾の利用状況その他下記表2記載の事情を勘案し、当該海洋再生可能エネルギー発電設備等取扱埠頭を中核として海洋再生可能エネルギー発電設備等の設置及び維持管理の円滑な実施の促進に資する当該港湾の効果的な利用の推進を図ることが我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上のために特に重要なものを、基地港湾として指定することができます(港湾法第2条の4第1項)。
表1:海洋再生可能エネルギー発電設備等取扱埠頭の要件(港湾法施行規則第1条の9) |
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①【係留施設及び荷さばき施設に必要な面積・地盤の強度】
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②【係留施設の構造の安定】
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表2:基地港湾の指定に際して勘案される事情(同施行規則第1条の10) |
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①【当該港湾の利用状況と周辺の再エネ導入量の現況・将来の見通し】
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②【1以上の再エネ海域利用法※6上の促進区域内占用等許可を受けた者の利用】
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③【港湾法又は再エネ海域利用法に基づく2以上の発電設備等設置・維持管理者の利用】
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国土交通大臣は、基地港湾における港湾施設を、貸付けを受ける許可事業者及び貸付期間に関して当該基地港湾の港湾管理者の同意を得て、かつ、財務大臣と協議した上で、許可事業者に対して貸付けを行うことができます(港湾法第55条の2第1項乃至第3項)※7 。
再エネ海域利用法に基づく一般海域での洋上風力発電プロジェクトに関して、同法に従った手続の流れと港湾法に従った埠頭貸付契約締結までの流れをまとめたのが以下の図です。
出典:第6回 交通政策審議会 港湾分科会 環境部会 洋上風力促進小委員会(2020年8月4日)
資料2「海洋再生可能エネルギー発電設備等拠点港湾(基地港湾)の指定について」3頁
出典:第6回 交通政策審議会 港湾分科会 環境部会 洋上風力促進小委員会(2020年8月4日)
資料2「海洋再生可能エネルギー発電設備等拠点港湾(基地港湾)の指定について」3頁
洋上風力発電プロジェクトを開発・運営しようとする事業者の観点からすれば、基地港湾の供給が限られている状況においては、自らが計画する洋上風力発電プロジェクトの開発、運営及び撤去に要する期間について必要な範囲で基地港湾の利用を確保することができるのか否かは、重大な関心事です。国土交通省は、海洋再生可能エネルギー発電設備等取扱埠頭賃貸借契約書(案)(以下「埠頭貸付契約案」といいます。)を公表していますが、公募占用計画を立案する段階で埠頭貸付契約案を精査し、リスク分析を行っておくことが重要と考えられます。特に、埠頭貸付契約案における、基地港湾の他の賃借人(同一の基地港湾を利用する他の発電事業者等)との利用調整に関する規律(同第7条及び第8条等参照)については、十分に留意する必要があるでしょう。
本稿では基地港湾制度を中心に概説してきましたが、検討会においては、基地港湾を活用した地域振興に関する検討も行われてきました。検討会とりまとめが公表された2022年2月17日に、「洋上風力発電を通じた地域振興ガイドブック」が公表されています。これは、今後基地港湾の港湾管理者や関連自治体が地域振興を検討・推進するに際しての参考資料・事例集という位置づけですが、これまでの促進区域に係る公募占用指針上、地域への経済波及の観点は公募における評価項目の1つでもあるため、公募に参加する事業者にとっても参考にすべき内容だと考えられます。
※1
洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会「洋上風力産業ビジョン(第1次)」4頁。
※2
Wind Europe「Offshore Wind in Europe: Key trends and statistics 2020」16頁。
※3
第1回 2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方に関する検討会 資料3「2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾のあり方に関する検討会(第1回)」14頁。
※4
同上。
※5
なお、図表内の目安は、「50万kWの洋上風力発電所の建設に対応した基地港湾の規模を前提としたものであり、基地港湾の規模が大きくなれば、必要となる基地港湾数は減少する。詳細については、風車大型化や発電所大規模化の今後の動向を踏まえた検討が必要となる」とされています(検討会とりまとめ21頁)。
※6
海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(平成30年法律第89号)。
※7
また、基地港湾の港湾管理者は、当該基地港湾の海洋再生可能エネルギー発電設備等取扱埠頭を構成する地方自治法(昭和22年法律第67号)第238条第4項に規定する行政財産を、許可事業者に対して貸し付けることができるとされています(港湾法第55条の2第4項)。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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