
小原淳見 Yoshimi Ohara
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東京
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ロシアは、ウクライナへの軍事侵攻に対する各国の経済制裁に対抗するため、主に制裁発令国の企業に対する対抗措置を次々と発令しています。取引制限、外貨輸出規制、ロシアルーブルによる債務返済の容認に加えて、ロシアにおける事業の停止・撤退を決定した外資企業の資産を接収する方針が報道されています。詳細は、当事務所の米国最新法律情報No.71/欧州最新法律情報No.10及び今後のNewsletterをご参照下さい。これらのロシアの対抗措置から日本企業の投資を護るのが、まさに投資協定です。日本とロシアの間には、2020年5月27日に発効した投資協定があります(日露投資協定)。
ロシアによるウクライナへの侵攻は、2014年のクリミア「併合」に遡ります。2014年のロシアによるクリミア「併合」でロシアに資産を事実上接収されたウクライナの企業は、まさに投資協定に基づきロシアに対し仲裁を申し立てました。国家から独立した投資協定に基づく仲裁廷が、ロシア政府に対しウクライナの企業が被った損害の賠償を命じたことは、今回のロシアによる対抗措置から日本企業の投資を護るために、投資協定が如何に重要かをご理解頂けるかと思います。
投資協定とは、相手国からの投資を互いに促進するための国と国との取り決めで、相手国の投資家や投資財産を保護することを互いに約するものです。
保護される投資財産の具体的な内容は、個々の投資協定によって異なります。例えば、日露投資協定第1条(1)項では、以下の資産を「投資財産」と定義しています。
「投資財産」とは、次のものを含むすべての種類の資産をいう。
また同協定では、「投資財産」に加えて、「投資財産」から生ずる価値、特に、利益、利子、資本利得、配当、使用料及び手数料についても「収益」として、保護しています(第1条(2)項)。
次に、保護義務の内容ですが、投資受入国は、投資協定の締約国の投資家及び投資財産について、違法な収用を行わない義務、投資家及び投資財産を公正衡平に扱う義務(公正衡平待遇義務)、投資受入国の投資家より不利な取り扱いをしない義務(内国民待遇義務)、第三国の投資家より不利な取り扱いをしない義務(最恵国待遇義務)、資金の移転の自由を確保する義務などが、規定されています。具体的な保護義務の内容は、適用になる投資協定によっても異なるため、個別の協定の条文とその解釈を確認する必要があります。
日露投資協定では、ロシア政府による日本企業の「投資財産」及び「収益」の違法な収用を禁止しており、日本企業のロシア投資に関する資金の移転の自由を保証しています。また、ロシア政府は、日本企業の「投資財産」及び「収益」に関して、公正衡平待遇義務、内国民待遇義務、最恵国待遇義務などの義務を負っています。更にロシア政府が日本企業の行った投資財産について何らかの義務を負った場合には、投資協定上もそれらの義務を履行しなければならない義務(いわゆる義務遵守条項またはアンブレラ条項)を負っています。具体的な事案において、日本企業の投資がどこまで保護されるかを見極めるには、個別事案の事実関係、投資協定その他国際法の解釈等を詳細に分析する必要があります。
更に、投資協定では、投資受入国が締約国の投資家及び投資財産の保護を怠った場合に備えて、被害を被った投資家が、投資受入国に対して直接仲裁を申し立て、原状回復や損害賠償を求める手続を規定しています。これら投資協定に基づく紛争解決の規定は、Investor-State Dispute Settlement条項、略して、ISDS条項と呼ばれており、日本が締結している多くの投資協定に規定されています。
このため、投資家は、投資受入国の裁判所ではなく、中立かつ公正な国際仲裁(投資協定仲裁)において、投資受入国と対等な立場で、紛争の解決を図ることができます。このことは、とりわけ、司法機関が政治的な影響を受け易い国や汚職が蔓延している国との紛争解決において、大きなメリットがあります。
日露投資協定にも、ISDS条項があり、投資家はICSID条約又はUNCITRAL仲裁規則に基づき投資受入国に対し仲裁を申し立てることができると規定されています。もっとも、ロシアは現時点でICSID条約に正式に加盟していないため、日本企業は、UNCITRAL仲裁規則またはICSID Additional Facility規則に基づき、ロシアに対し仲裁を申し立てることになります。
ロシアによるウクライナ侵攻、ミャンマーでの軍事政権の誕生、資源ナショナリズムの動き、気候変動及び経済安保に基づく制度変更等、めまぐるしく変わる世界情勢の中で、グローバルに事業を展開する企業にとり、投資協定は、投資受入国で直面する多様な政治的なリスクに対処する有力な手段となります。日本企業も、昨今投資協定仲裁を活用して、投資の保護を実現しています。当事務所では、投資紛争において、投資受入国政府と交渉を行うとともに、現在複数の投資協定仲裁において代理人を務め、実績も上げております。具体的な投資協定の保護の範囲、執るべき手段については、適用になる投資協定、個々の事案、その時点での国際法の解釈によって異なりますので、お気軽に御相談下さい。
今後とも、ウクライナ情勢を巡る最新の情報について、当事務所のNewsletterをご参照下さい。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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