糸川貴視 Takashi Itokawa
パートナー
東京
NO&T Capital Market Legal Update キャピタルマーケットニュースレター
2022年3月付けのニュースレター※1でご紹介のとおり、東証は、上場ベンチャーファンドの柔軟な運営を可能とするため、ベンチャーファンド市場制度につき、改正を行いました。
上記改正に加え、この度東証は、ファンド市場の利用活性化が期待される中で、同市場の健全な発展に資する観点から、上場審査における資産運用の健全性確保及び投資者に提供すべき情報の拡充等について、所要の制度整備を行うことを公表しました。本ニュースレターでは、上記公表に基づき2022年12月を目処に実施される予定の制度整備の概要についてご紹介いたします。
なお、東証による上記公表内容は、2022年7月26日に公表され、現在パブリック・コメント手続きに付されている段階であり、今後見直しがなされる可能性がある点にご留意ください。
今回の公表においては、大別して以下の4つの視点から、制度整備が予定されていることが示されました。
以下では、それぞれの制度整備の概要についてご紹介いたします。
ベンチャーファンドの資産運用等の健全性に関する上場審査においては、以下に掲げる観点から審査がなされることとなります。いずれの点も、東証リート(不動産投資信託証券)市場と似たような建付を採用しており、東証リート市場の議論が参考になると思われます。
この観点からは、ベンチャーファンド資産運用会社において未公開株等に係る専門的経験等を有している人材が配置されているか否かについて、投資対象資産の運用に関する十分な運用経験年数を有する運用責任者が確保されているかという視点で、確認が行われます。
また、ベンチャーファンド資産運用会社において、投資方針及び分配方針等が策定され、適切な投資プロセスを経て資産の運用を行う体制が整備されているか否かについても確認が行われます。
さらに、新規ベンチャーファンド上場申請者について、資産運用に関する会議体(取締役会、投資委員会、コンプライアンス委員会等)の開催状況を含め、投資意思決定の仕組みに関する確認が行われます。
この観点からは、スポンサーとの取引継続の合理性や取引条件の妥当性について、スポンサーが自己の利益を優先していると認められないことの確認が行われます。
この観点からは、経営管理組織に係る体制整備の状況について、社内諸規則の整備状況やその運用状況の確認が行われます。また、ベンチャーファンド資産運用会社の内部監査の運用状況についても確認が行われます。
上記(1)から(3)で記載した観点に加え、法令等の遵守に関する体制についても確認が行われます。
新規ベンチャーファンド上場申請者は、上場申請時に、以下の図1に掲げる内容を記載した「ベンチャーファンドに係る運用体制、商品特性及び未公開株等の評価方法等に関する報告書」(以下「運用体制等に関する報告書」といいます。)を提出しなければならず、当該報告書は上場前及び上場後において公衆の縦覧に供されることになります。こちらも上場リートと同様の枠組みが想定されています。
また、上場ベンチャーファンド発行者等※4は、上場後に運用体制等に関する報告書の記載内容に変更が生じた場合において、遅滞なく変更後の報告書を提出しなければならず、当該変更後の報告書も公衆の縦覧に供されることになります。
[図1:運用体制等に関する報告書に記載すべき事項]
項目 | 内容 |
---|---|
(1) 基本情報 |
|
(2) 商品特性 |
|
(3) 投資法人等の体制の状況 | |
① ベンチャーファンド発行投資法人 |
|
② ベンチャーファンド資産運用会社等 |
|
③ 未公開株等評価機関 |
|
④ その他 |
|
(4) 利益相反への対応状況 | |
① 利益相反取引への取組み |
|
② スポンサー関係者等との取引 |
|
③ その他の利益相反対応 |
|
(5) その他 |
|
※株式会社東京証券取引所2022年7月26日付「ベンチャーファンド市場の健全な発展に向けた上場審査基準等の整備について」別添の「II 制度概要」を参考に当職らにて作成。
東証の上場審査を経ていないベンチャーファンド資産運用会社が、上場ベンチャーファンドに係るベンチャーファンド発行投資法人(以下「上場ベンチャーファンド発行投資法人」といいます。)の資産の運用を受託することがないようにすることを目的として、ベンチャーファンド資産運用会社に関する上場廃止基準が明確化されます。
具体的には、ベンチャーファンド資産運用会社が、組織再編等の結果、上場ベンチャーファンド発行投資法人の資産運用に係る業務の運営体制の実質的な存続性を喪失する場合について、一定期間内に新規上場審査基準に準じた基準に適合しないときには、当該上場ベンチャーファンドの上場が廃止されることが明確化されます。
また、組織再編等によって、上場ベンチャーファンドに係るベンチャーファンド資産運用会社が行っていた業務が、他の上場ベンチャーファンド発行投資法人の資産の運用に係る業務の委託を現に受けている他のベンチャーファンド資産運用会社に引き継がれる場合には、上場廃止及び新規上場審査基準に準じた基準への適合性審査の対象としないことも明確化されます。
本改正は、2021年3月15日に施行された上場リート市場での改正と同じものが想定されています。
上記4.における新規上場審査基準に準じた基準への適合性審査は、組織再編等の効力発生後1年以内に、上場ベンチャーファンド発行者等からの申請に基づき実施されることとなります。
また、現行のベンチャーファンド資産運用会社に係るその他の上場廃止基準に関する新規上場審査基準に準じた基準への適合性審査についても同様の取扱いとされます。
以上の制度整備に加え、上場ベンチャーファンドがその利益を超えた金銭の分配をすることが可能となる予定であり、これにより柔軟な分配方針選択が(少なくとも東証ルール上は)できるようになります。
※2
ベンチャーファンド発行投資法人及びベンチャーファンド資産運用会社をいいます。
※3
新規上場申請銘柄の投資主、ベンチャーファンド資産運用会社の株主その他の新規上場申請銘柄の関係者であって、運用資産の取得その他の新規上場申請銘柄に係る資産の運用等に主導的な立場で関与する者をいいます。
※4
上場ベンチャーファンドに係るベンチャーファンド発行投資法人及びベンチャーファンド資産運用会社をいいます。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
(2024年10月)
水越恭平
(2024年10月)
鈴木謙輔、宮下優一(共著)
(2024年10月)
勝山輝一、河相早織、水野陽清(共著)
(2024年9月)
勝山輝一、河相早織、水野陽清(共著)
(2024年10月)
水越恭平
(2024年10月)
鈴木謙輔、宮下優一(共著)
(2024年9月)
鈴木謙輔、宮下優一(共著)
中央経済社 (2024年9月)
日本IPO実務検定協会(編)、宮下優一、水越恭平(共著)
日本経済新聞出版 (2024年9月)
石塚洋之、須田英明、水越恭平(共著)
糸川貴視、石内鴻壮(共著)
清水啓子、高好麻(共著)
(2023年11月)
鈴木謙輔、酒井敦史、小泉遼平(共著)
日本経済新聞出版 (2024年9月)
石塚洋之、須田英明、水越恭平(共著)
(2024年8月)
月岡崇、大野一行(共著)
Wolters Kluwer (2024年8月)
糸川貴視(共著)
須田英明
(2024年10月)
勝山輝一、河相早織、水野陽清(共著)
(2024年9月)
勝山輝一、河相早織、水野陽清(共著)
(2024年9月)
勝山輝一、河相早織、水野陽清(共著)
日本経済新聞出版 (2024年9月)
石塚洋之、須田英明、水越恭平(共著)
(2024年10月)
鈴木謙輔、宮下優一(共著)
(2024年9月)
鈴木謙輔、宮下優一(共著)
(2024年9月)
玉井裕子、岡野辰也、田村優、柴田雄司(共著)、畑中弓佳(執筆協力)
松﨑景子
(2024年10月)
鈴木謙輔、宮下優一(共著)
(2024年9月)
鈴木謙輔、宮下優一(共著)
宮下優一、川村勇太、吉野貴之(共著)
殿村桂司、田原一樹、水野奨健、甲斐凜太郎、片瀬麻紗子(共著)