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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

近年、米国では、1930年関税法第307条及び2022年6月に施行されたウイグル強制労働防止法(以下「UFLPA」という)に基づき、人権侵害を根拠とする輸入規制を積極的に実施している※1。また、米国連邦議会上院が複数の自動車会社に対しサプライチェーンにおける強制労働への対応状況について回答を求める※2など、輸入規制以外の動きも無視できない流れとなっている。

中国新疆ウイグル自治区との関係では、UFLPAの施行に先立つ2020年7月、米国国務省等が「新疆ウイグル自治区における強制労働等の人権侵害に関する勧告※3」を公表し、同地区における強制労働等に関与する企業がサプライチェーンに含まれていないかを確認するための人権デュー・ディリジェンスを実施することを推奨している(なお、改訂版が2021年7月に公表されている)が、本年9月26日その付属書(addendum)が公表されている※4(以下「本付属書」という)。

本付属書では、同地区における強制労働の情報を含む報告書(米国政府により作成されたものと、学術機関等政府以外の機関により作成されたもの双方を含む)を紹介するとともに、改めて企業による人権デュー・ディリジェンスの必要性を強調しており、当該勧告ないし本付属書自体が法的拘束力を持つものではないが、米国政府の問題意識を示唆するものとして参考になると思われるので、その概要を紹介する。

2. アップデート概要

(1) 前提となるUFLPAの概要等

UFLPAは、①新疆ウイグル自治区で全部又は一部が生産等された製品、及び②米国政府が特定したEntity Listに掲載された事業体により生産等された製品について、強制労働により生産された製品であると推定し、輸入者である企業が、輸入品が強制労働により製造されたものでないことを「明確かつ説得力のある証拠」により立証するなどの要件を満たした場合に限って輸入が認められるとしている。これは、企業側に強制労働を利用していないことの立証責任が課せられている点で、企業にとっての負担が重い規制となっている。

また、CBP(米国税関・国境警備局)が2023年2月に公表したガイダンスでは、輸入者が適法性を立証するために提出すべき資料として、原材料の支払いや、輸送に関する文書(請求書、契約書、発注書等原材料の支払い・輸送に関する商取引が発生したことを示す記録など)、輸入品とその構成品の原産国を証明する取引およびサプライチェーンの文書(梱包明細書、船荷証券など)が広範に挙げられている。

Entity Listの対象となる事業体のリストについても、2022年6月以降複数回にわたり更新されており、本年9月26日に新たに中国企業3社が追加されている※5

(2) 本付属書の概要

ア 米国政府の報告書

米国政府の報告書としては、以下のものが含まれており、新疆ウイグル自治区において、職業訓練や貧困緩和等の名目で少数民族に対する強制労働等が行われてきたことが指摘されている。なお、これらの報告書は、企業が人権デュー・ディリジェンスを行うにあたり、国ごと又は製品ごとの強制労働等のリスクを一次的に把握する目的でも有用と思われる。

  • 国務省「人権慣行に関する国別報告書」(2022年)
  • 国務省「人身取引報告書」(2023年)
  • 国務省「国際的な宗教の自由に関する報告書」(2021年)
  • 労働省「強制労働又は児童労働により生産された製品リスト」※6
イ 学術機関等政府以外の機関の報告書

また、学術機関等の報告書としては、以下のものが含まれており、複数の産業・製品について新疆ウイグル自治区での強制労働リスクが指摘されている。

  • 英国シェフィールド・ハラム大学のヘレナ・ケネディ国際司法センター「中国自動車産業における強制労働の原動力に関する報告書」(中国における自動車製造(原材料加工等)において新疆ウイグル自治区の労働力が利用される割合が増加していること等が指摘されている)
  • 人権擁護団体UHRP「レッドデーツ(ナツメヤシ)に関する報告書」(同地区における強制労働リスクが高い中国の輸出品としてレッドデーツが指摘されている)
  • ヘレナ・ケネディ国際司法センター「抑圧の上に築かれた(Built on Repression)ウイグル地区におけるPVC建材の人権侵害・環境酷使への依存」(ポリ塩化ビニル(PVC)の生産における同地区の強制労働の使用等が指摘されている)

3. おわりに

UFLPAの活発な執行に伴い、米国への輸出を行う日本企業としては、自社の製品(又はそれが組み入れられる最終製品)がアメリカに出荷されることが想定される場合、サプライチェーンをマッピングし、UFLPAなどに基づく輸入差止めのリスクがないかどうかを確認する体制を整備する必要性に迫られている。

企業のサプライチェーンにおける人権尊重については、2023年5月にはIPEF(インド太平洋経済枠組み)サプライチェーン協定が日米を含む14か国で実質妥結され、国際的にサプライチェーン脆弱性の監視や労働者権利侵害の場合の対応等について連携することが確認される※7など、国際協調の動きも進んでいることから、このような協調の方向性についても引き続き注目される。

脚注一覧

※1
UFLPAの概要については、NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報 No.67(2022年1月)「ウイグル強制労働防止法の制定」、2022年会計年度の執行状況については、NO&T International Trade Legal Update 国際通商・経済安全保障ニュースレター No.4(NO&T Compliance Legal Update 危機管理・コンプライアンスニュースレター No.72・NO&T U.S. Law Update 米国最新法律情報 No.85との合併号)(2023年3月)「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)の執行状況と実務上の留意点〜最新の執行状況に関する統計データを踏まえて〜」参照。

※3
Xinjiang Supply Chain Business Advisory ”Risks and Considerations for Businesses and Individuals with Exposure to Entities Engaged in Forced Labor and other Human Rights Abuses linked to Xinjiang, China”

※6
2022年9月の改訂により、太陽電池のインゴット、ウエハー、セル、モジュールが新疆ウイグル自治区生産のポリシリコンに関連する中国からの川下製品として追記されている。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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