
堀内健司 Kenji Horiuchi
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NO&T Tax Law Update 税務ニュースレター
ニュースレター
株式報酬の新展開2025(ストックオプション・譲渡制限付株式・RSU/PSU) ~近時の租税特別措置法、産競法、金商法改正を踏まえて~(上)(2025年2月)
株式報酬の新展開2025(ストックオプション・譲渡制限付株式・RSU/PSU) ~近時の租税特別措置法、産競法、金商法改正を踏まえて~(下)(2025年3月)
2023年12月14日、与党による「令和6年度税制改正大綱」(「与党大綱」)が公表された。与党大綱の内容は多岐にわたるが、本ニュースレターでは、特に重要な改正と思われる、①パーシャルスピンオフ税制に関する改正及び②税制適格ストックオプションに関する改正を取り上げる。なお、与党大綱における他の重要な税制改正については、税務ニュースレター「令和6年度税制改正大綱:外形標準課税の改正」、「令和6年度税制改正大綱:ミニマム課税とOECD執行ガイダンス」、及び「令和6年度税制改正大綱:第三者保有の暗号資産の期末時価評価課税に関する改正」を、それぞれ参照されたい。
令和5年度税制改正において、親会社が保有する完全子会社の持分を一部(20%未満)残したスピンオフ(パーシャルスピンオフ)について、2023年4月1日から2024年3月31日までの間に産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けることを要件とする1年間の時限措置であるものの、適格組織再編(認定株式分配)として位置づけられることになった。これは、100%スピンオフとは異なり、旧親会社とスピンオフされる旧子会社との間に一定の資本関係を維持することで、旧親会社のブランドやシステムその他コーポレートサービスをスピンオフ後にも使い続けることができるようにすることや、旧親会社がスピンオフ後もスピンオフされた旧子会社株式の一部を持ち続けることでその価値上昇を享受することを可能にすることが意図されたものである※1。
今般の与党大綱においては、パーシャルスピンオフ税制について、①認定された事業再編計画の公表時期を、現行の認定日から認定された事業再編計画に記載された事業再編の実施時期の開始日までとすること、②税制適格要件として、スピンオフされる完全子会社が主要な事業として新たな事業活動を行っていること、③適用期限を4年間延長すること、という3つの改正が挙げられている。
事業再編計画の認定の公表時期については、これまでは原則として認定日に公表する運用が取られていると理解している。このような運用が変更された場合には、認定日以降、事業再編計画の開始日までの間のいずれかのタイミングで認定された事業再編計画を公表すれば良いことになり、申請事業者の都合も踏まえてパーシャルスピンオフの実行時期に近いタイミングで公表することが可能となる。
事業再編計画では、例えば、生産性の向上に関する目標の記載が必要とされ、認定を受けた場合には、当該計画の内容として、事業再編に係る事業の目標とともにかかる生産性の向上を示す数値目標も公表される※2。このように、事業再編計画の公表内容には一定の将来情報が含まれるところ、現行の運用でもその内容について主務省庁と相談が可能であるものの※3、こうした将来情報の公表はその不確実性ゆえ上場会社の開示責任の懸念を招来する面がある。今回の運用見直しは、公表タイミングを事業再編計画の開始日(スピンオフの実行時期)に近いタイミングとすることでかかる懸念を払拭し、ひいてはパーシャルスピンオフの活用を促す効果を有すると思われる。
かかる運用の変更については、来年の法改正を待たずに変更されることが期待される。
与党大綱では、現行制度にはない「スピンオフされる完全子会社が主要な事業として新たな事業活動を行っていること」という要件が適格組織再編(適格株式分配)としての要件に新たに追加されることとされている。これは、「スタートアップ創出促進の観点から」(与党大綱9頁)付加されたものであると考えられる。
かかる要件のうち、「主要な事業」の意義が組織再編税制の事業継続要件(法人税法2条12号の8ロほか)における「主要な事業」と同等の意義であるとすると、複数の事業を行っている場合の主要な事業は、事業に属する収入金額又は損益の状況、従業者の数、固定資産の状況等を総合的に勘案して判定されることになる(法人税基本通達1-4-5)。しかしながら、新規事業ないしスタートアップは、投資による赤字が先行し、従業者の人数を最低限とした上でバックオフィスなど多くの機能をアウトソースする、所有資産は最低限とした上で多くはリースで取得するなど、必ずしも上記基本通達で掲げられた考慮要素では適切に捉えきれない側面があるように思われる。また、「新たな事業活動を行っていること」という要件についても、どのように認定を行うことになるのか、今後の要件の具体化を注視する必要がある。
経済産業省においてはパーシャルスピンオフの恒久化を要望していたところであるが、1年間の時限措置であったものが適用期限をさらに4年間延長するにとどまった。そのため、2028年3月31日までの間に産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けることが要件になると考えられる。
今般の与党大綱においては、いわゆる税制適格ストックオプションについて、①非公開会社を念頭に、その行使によって交付される株式について金融商品取引業者等に保管委託等することが求められるいわゆる保管委託要件が緩和され、また、②1,200万円という権利行使価額の年間限度額の増額が認められることになったほか、③社外高度人材に対する付与要件が緩和された。
税制適格ストックオプションについては、その行使によって交付される株式について金融商品取引業者等に保管委託等することが求められるところ※4、新株予約権の発行会社がIPO(新規上場)ではなく、他の企業による買収という形でのエグジットを行った場合には、ストックオプションの行使によって交付される株式が非上場株式となり、保管委託の受け手となる金融商品取引業者等が限られ、この要件を充足することが事実上困難であるという指摘がなされてきた。この点について、今般の与党大綱においては、「新株予約権を与えられた者と当該新株予約権の行使に係る株式会社との間で締結される一定の要件を満たす当該行使により交付をされる株式(譲渡制限株式に限る。)の管理等に関する契約に従って、当該株式会社により当該株式の管理等がされること」により、保管委託要件の充足は不要とされることになった。「譲渡制限株式に限る」との限定が付されていることを踏まえると、上記の非上場株式に関する指摘を念頭に置いたものであると考えられる。
次に、税制適格ストックオプションについては、1年間におけるその権利行使価額の合計額が1,200万円を超えてはならないという要件が定められているところ※5、かかる限度額がインセンティブとして必ずしも十分ではないとの指摘があったところである。この点について、今般の与党大綱において、(i)設立後5年未満の株式会社については、限度額を2,400万円とし、(ii)設立後5年以上20年未満の株式会社のうち、非上場会社又は上場後5年未満の会社については、限度額が3,600万円とされている。
最後に、税制適格ストックオプションについては、発行会社及びその子会社の取締役、執行役、使用人に加えて、令和元年度税制改正により、弁護士、会計士、プログラマーといった一定の社外高度人材(認定新規中小企業者等が認定社外高度人材活用新事業分野開拓計画に従って行う社外高度人材活用新事業分野開拓に従事する社外高度人材)もその付与対象とされたものの、かかる認定が煩雑であることや認定に時間を要することからあまり活用されておらず、認定手続の簡素化・撤廃や付与要件の緩和が求められていた。この点について、今般の与党大綱においては、かかる認定手続の簡素化・撤廃には言及されておらず、以下のとおり、付与要件の緩和のみに言及されている。
認定新規中小企業者等に係る要件のうち「新事業活動に係る投資及び指導を行うことを業とする者が新規中小企業者等の株式を最初に取得する時において、資本金の額が5億円末満かつ常時使用する従業員の数が900人以下の会社であること」との要件を廃止することとされている。
「3年以上の実務経験があること」との要件を、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社の役員については「1年以上の実務経験があること」とし、国家資格を有する者、博士の学位を有する者及び高度専門職の在留資格をもって在留している者については廃止することとされている。
また、社外高度人材の範囲に、次に掲げる者を加えることとされている。
※1
経済産業省の担当者による解説である中村宏・林優里「パーシャルスピンオフ税制とその適用要件等の解説」(旬刊商事法務 2327号)18頁
※2
産業競争力強化法23条3項3号、同6項、同施行規則13条3項、様式21。
※3
事業再編Q&A
※4
租税特別措置法29条の2第1項6号
※5
租税特別措置法29条の2第1項2号
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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