
糸川貴視 Takashi Itokawa
パートナー
東京
NO&T Capital Market Legal Update キャピタルマーケットニュースレター
ニュースレター
キャピタルマーケット2024年の振り返りと2025年の展望(2025年1月)
2022年8月付けのニュースレター※1でご紹介のとおり、東証は、同年12月に、上場ベンチャーファンドの資産運用の健全性確保等の観点から、上場審査基準等の整備を行いました。
上記改正に加え、この度、東証は、スタートアップのための資金供給の強化等に向けた環境整備や上場ベンチャーファンドの情報開示の内容や頻度に関する近時の議論※2を踏まえ、投資者保護に留意しつつ、スタートアップへの資金供給を強化する観点から、上場ベンチャーファンドの運用資産等に関する開示基準について、所要の見直しを行うことを公表しました。
また、これに先立ち、日証協は、上場ベンチャーファンドの資産運用の健全性確保等に係る上場審査基準等の整備等これら一連の東証における制度整備を踏まえ、「有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正を行いました。本ニュースレターでは、上記東証における開示基準(以下「東証ルール」といいます。)の見直し及び日証協における規則(以下「日証協ルール」といいます。)改正(2023年11月6日から施行)の概要についてご紹介いたします。
なお、2023年12月14日に公表された東証による上記改正案の内容は、2024年3月を目処に実施予定とされており、現在パブリック・コメント手続きに付されている段階であるため、今後見直しがなされる可能性がある点にご留意ください。
改正前においては、上場ベンチャーファンドに係るベンチャーファンド発行投資法人及びベンチャーファンド資産運用会社(以下「上場ベンチャーファンド発行者等」といいます。)は、下記①の事項を週1回、下記②から⑤の事項を月1回開示する必要がありますが、今回の公表においては、これらの情報開示の頻度等が過度な負担とならないよう、運用資産等に関する下記①から⑤の事項を、3か月に1回開示しなくてはならないこととされました※3。
なお、上記③(未公開企業の概要)については、改正前においては、未公開企業の直前期及び直前々期に係る売上高や経常利益、当期純利益、配当総額、総資産の額、総負債の額、純資産の額を記載することとなっています(有価証券上場規程施行規則別添八.I.2.二.b)。しかし、多くの未公開企業の売上高や経常利益、当期純利益、配当総額が一般的には公表されていない現状を踏まえ、その理由を注記することを前提に、これらの額を記載しないことができることとする趣旨の改正も併せて導入される予定です。なお、運用資産等の状況を適時に投資者が把握できるよう、総資産の額や総負債の額、純資産の額を記載する必要があることには改正前後で変更はない予定です。
但し、未公開株等に関する組入計画の進捗状況等を周知する観点から、上場後6か月以内に上場審査の形式要件の1つである運用資産等の比率を満たすことが見込まれる場合により上場するときには本運用資産等の比率を満たすまで又は運用資産等の比率を満たさず猶予期間入りした場合における猶予期間内は、上記②から⑤までの事項を、月1回以上開示しなければならないとされています。
「有価証券の引受け等に関する規則」(以下「規則」といいます。)及び「『有価証券の引受け等に関する規則』に関する細則」(以下「細則」といいます。)について、ベンチャーファンド市場への円滑な上場に資する観点から、以下の改正が行われました。
ベンチャー・スタートアップへの投資におけるエコシステムの構築や制度設計については様々な動向があり、その一部として近時においても、経済産業省が官民によるインパクトスタートアップ育成支援プログラム「J-Startup Impact」を設立したり、デジタルアセット共創コンソーシアムが「ベンチャーキャピタル×デジタル証券化」という文脈で、投資事業有限責任組合(LPS)の有限責任出資組合員(LP)持分を裏付け資産とした特定受益証券発行信託スキームによるデジタル証券化スキームを提案したりする等、様々な動きがあるところです。これまで以上に未上場のベンチャー企業が投資対象として重要な役割を担っていくことが予想されるところ、上場ベンチャーファンドもこのような投資における重要な選択肢となることが期待されます。
※2
令和5年6月16日閣議決定「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023 改訂版」、金融審議会「市場制度ワーキング・グループ・資産運用に関するタスクフォース報告書」(令和5年12月12日公表)。なお、同報告書16頁では、「上場ベンチャーファンドにおいては、株式売却等による余剰資金について、財務戦略の多様化や再投資の実行が困難である場合等の使途として自己投資口の取得も選択肢となり得るものと考えられる。このため、自己投資口の取得についてインサイダー取引規制の対象とした上で、自己投資口の取得を可能とすることが考えられる。」との指摘がある点も注目に値します。
※3
なお、運用資産等に係る資産の譲渡又は取得等を決定した場合や未公開株等が金融商品取引上に上場されることとなった場合、未公開株等及び未公開株等関連資産の発行者につき破産手続開始の申立てが行われた場合等において、運用資産等の状況を適時に投資者が把握できるよう、上場ベンチャーファンド発行者等は、直ちにその内容を開示する必要があることに変更はありません。また、その他の場合でも、運用資産等に関する重要な事項であって、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものについて、上場ベンチャーファンド発行者等は、直ちにその内容を開示する必要があります。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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(2025年4月)
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長島・大野・常松法律事務所 農林水産・食品プラクティスチーム(編)、笠原康弘、宮城栄司、宮下優一、渡邉啓久、鳥巣正憲、岡竜司、伊藤伸明、近藤亮作、羽鳥貴広、田澤拓海、松田悠、灘本宥也、三浦雅哉、水野奨健(共編著)、福原あゆみ(執筆協力)
(2025年4月)
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糸川貴視、鈴木雄大(共著)
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