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CCSに係る制度的措置のあり方に関する中間取りまとめの公表

NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update インフラ・エネルギー・環境ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 今通常国会において提出されることが予定される二酸化炭素(CO2)の貯留事業の許可制度などを盛り込んだCCS事業法案に関し※1、総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 カーボンマネジメント小委員会/産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 産業保安基本制度小委員会 合同会議(以下「合同会議」という。)は、2024年1月29日に、「中間取りまとめ CCSに係る制度的措置の在り方について」(以下「合同会議中間取りまとめ」という。)を公表した※2

 分離回収されたCO2を地中又は海底下の貯留層に貯留する技術であるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は、化石燃料の利用を継続しながらも大気中のCO2量の増加を回避又は抑制する仕組みであり、第6次エネルギー基本計画においても、カーボンニュートラル社会の実現のカギと位置づけられている(同87頁参照)。一方で、CCS事業の本格展開に必要となるCCS事業法は未整備であり、政府は、法整備について早急に結論を得て制度的措置を整備するとしていた※3。これを受けて、政府は、同年9月から合同会議を継続的に開催し、CCS事業法案の在り方についての検討を続けてきた※4。また、検討会での議論と併行する形で、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、2023年6月13日に、CCS事業の本格展開のため2030年までの事業開始と事業の大規模化及び圧倒的なコスト削減を目標とする7つのCCS事業をモデル性のある「先進的CCS事業」として選定した※5。これらのプロジェクトは国から集中的な支援を受けることとされている。

2. CCS事業法案のゆくえ~合同会議中間取りまとめの要点

1. 法整備の必要性

 2023年3月のロードマップ検討会取りまとめは、CCS事業法を可能な限り早期に整備すべき背景理由として、①CCS事業に対する法令の適用関係がはっきりとしないために事業者側で準拠すべきルールや国の監督体制が不明確であること※6、②CO₂の分離・回収、輸送、貯留というCCSのバリューチェーンの中で、ガスの組成を整え、計測し、輸送し、データを提供するルールがないこと、③長期の事業の安定性を図るために第三者からの妨害の排除・予防の仕組みがないこと、④CCSの整備は住民理解を得ながら進める必要があるが、保安規制への準拠の状況や損害賠償の仕組みなどがなく、事業者が住民に説明すべき内容が明確ではないこと、⑤特に貯留事業者の保安責任やモニタリング責任が不明確であり、また、責任が消滅しなければ事業性が担保できない状況であること、といった問題点を掲げていた※7

2. CCSのバリューチェーンと合同会議が示した検討の方向性

 CCS事業は、製油所、発電所、化学プラントなどのCO2排出源から、アミンを用いた化学吸収法やエーテルを用いた分離吸収法などによってCO2を分離・回収し、(分離・回収場所が貯留適地から離隔している場合は貯留適地まで輸送した上で)地中又は海中の貯留層にCO2を貯留する技術である。これに沿うように、CCSのバリューチェーンは、以下の段階に区分されることになる。

 上記の図のように、CCSのバリューチェーンには、①分離・回収、②輸送及び③貯留という3つの異なるフェーズが含まれることになる。ロードマップ検討会取りまとめは、CCS事業法の対象範囲として、この3つのフェーズ全てを含むものとすべきと提案し(ロードマップ検討会取りまとめ29頁)、同別冊「CCS事業法(仮称)のあり方について」の中で、①分離・回収、輸送及び貯留対象となるCO2の法的な位置付け、②貯留事業者が第三者による妨害行為に対して物権的な排除請求をすることができるようにするための貯留事業権(みなし物権)の創設、③ファイナンス調達の観点から、財団抵当の設定が可能となる貯留事業財団の創設、④保安上のリスクに対処する措置の整備、⑤分離・回収事業、輸送事業及び貯留事業それぞれの許認可の仕組み、⑥土地収用を含む土地の利用に関する規律、⑦貯留事業者の責任範囲のあり方など、多岐に亘る論点の整備が必要であることを示していた。

 これに対し、合同会議中間取りまとめが示した新法の検討の方向性(同15~16頁)は以下の通りであり、近く国会に提出される法案においても、主として貯留事業及び輸送事業を対象とした規律が示されることが想定される。

①分離・回収 「分離・回収」については、現在、特定の事業者が第三者に対して分離・回収サービスを提供するのではなく、各排出者がそれぞれの排出源に分離・回収設備を設置して利用するのが一般的であること、諸外国のCCS制度においても貯留事業と輸送事業のみを事業規制の対象とすることが一般的であることを踏まえ、分離・回収に関する事業規制の必要性については将来的な検討事項とする。
②輸送 「輸送」に関し、パイプライン輸送の場合には、貯留サイトと排出源の間でパイプラインを介した物理的な接続を前提とすることから、輸送事業者がCO2排出者に対して優越的な地位になることも想定されるため、輸送事業についても一定の規律を確保するための措置を講じる必要がある。
③貯留 「貯留」については、貯留層におけるCO2の安定的貯留を確保するための法制度(CO2の安定的な貯留を脅かす第三者に対する妨害排除を可能とする仕組みや資金調達を円滑化する仕組みなど)がないことから、CO2の安定的貯留を確保するための権利の創設や多数のCO2排出事業者が貯留サービスに適切にアクセスすることができる環境整備の観点から、貯留事業について一定の規律を確保するための措置を講じる必要がある。

3. 合同会議中間取りまとめの要点

 上記の基本的な方向性を前提として、合同会議は、以下の通り、貯留事業及びパイプラインを用いた輸送事業(導管輸送事業)に関する個別の規律の方針を示している(合同会議中間取りまとめ17~26頁)。

 なお、現在、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律(海防法)において、特定二酸化炭素ガスの海底下廃棄に関する環境大臣の許可制度を中心とするCO₂の海底下貯留に関する規律が設けられている(同法第18条の7第2号・第18条の8参照)。CCS事業法(新法)と海防法の関係についても今後整理が必要と思われるが、合同会議中間取りまとめは、規制を一本化すべきとの意見や一本化する場合も海防法の規定をそのまま適用するのではなくその合理化に向けた必要な検討を加えるべきといった意見を踏まえつつ、中央環境審議会水環境・土壌農薬部会海底下CCS制度専門委員会における海底下CCSに係る制度の見直しの検討に関する議論とも整合的な仕組みを検討すべきと指摘している(合同会議中間取りまとめ26頁)。

論点 合同会議中間取りまとめが示した方針
1. 貯留事業に関する事項
①試掘権・貯留権制度の創設
  • 鉱業法や大深度地下の公共的使用に関する特別措置法の例を参考に、経済産業大臣の許可制による、試掘・貯留を行う区域を独占的かつ排他的に使用できる「みなし物権」としての試掘権及び貯留権を創設し、第三者からの妨害予防・妨害排除を可能とする仕組みを構築することが適当※8
②試掘権・貯留権の設定手続
  • 先願制ではなく、経済産業大臣が、貯留に適した貯留層が存在し、又は存在する可能性がある区域を「特定区域」に指定した上で、公募手続を経て、試掘・貯留事業者を選定する制度が適当※9
③貯留事業の実施計画
  • 鉱業法に倣い、貯留事業者は、貯留事業の着手前に、貯留事業の実施方法や保安措置等についての計画策定・経済産業大臣の認可を取得し、当該計画に即して貯留事業を行う義務を負い、かつ、経済産業大臣が必要に応じて変更を命じることができる仕組みとすべき。
④モニタリング
  • 貯留事業者に対して、CO2が計画通りに貯留できていることや漏出がないこと等を確認するため定期的なモニタリングの実施を義務付けるべき。具体的な内容については、諸外国の取組も参考にしつつ、引き続き検討をすることが重要。なお、貯留停止後も、CO2が安定して貯留されていることを確認すべく、継続的なモニタリングを義務付けることが適当。
⑤サードパーティーアクセス
  • CO2の排出事業者が貯留事業者の提供する貯留サービスを適切に利用することができる環境整備のため、貯留事業者に対し、(a)正当な理由なくCO2の貯留依頼を拒むことを禁止するとともに、(b)特定の排出者に対する差別的取扱いの禁止、(c)料金その他の条件の届出等の事業規制を課すことが適当。
⑥保安規制
  • 鉱山保安法も踏まえつつ、貯留に必要な地上設備の保安の確保や地下の井戸の掘削・CO2貯留作業における安全等の確保のために必要な措置等の保安規制を新たに体系的に整備することが適当。
  • 労働安全の面では、貯留事業では、石炭鉱山のような坑内における特殊環境での作業は想定されないため、通常の事業場と同様に労働安全衛生法下で監督することが適当。
⑦CO2の所有権
  • 貯留されたCO2の所有権は、貯留事業者や排出事業者等の関係者間の契約にて規律されるのが原則であるが、CO2排出者が貯留されたCO2の所有権を主張しその自由な取出しを許容すると貯留事業の安定的遂行が脅かされるおそれがあるため、貯留事業者に対し、貯留するCO2の所有権の取扱いについて経済産業大臣に届け出ることを要求し、経済産業大臣が貯留事業の安定的な遂行の観点から問題がないかどうかを確認することが適当。
⑧貯留事業終了後の管理業務の在り方及び資金確保措置
  • 諸外国においては、貯留事業終了後、一定期間が経過した後、貯留したCO2が安定している等の一定の要件を満たす場合、貯留事業場における管理業務等を国などに移管する措置が一般に講じられていることも踏まえ、我が国においても、貯留事業終了後、一定期間が経過した後は、CO2の挙動の安定性や貯留事業場の適切な原状回復の完了など一定の要件を満たすと経済産業大臣が認める場合に限り、JOGMECに当該業務を移管することが適当。但し、貯留事業場の管理業務等の移管は、貯留事業者の債権・債務までJOGMECに承継するものではなく、万が一移管後にCO2の漏洩等が発生し損害賠償責任が発生すれば、民法の原則に従って原因者が負担。
  • 貯留事業者に対し、CO2の貯留停止後に貯留事業者が行うべきモニタリング業務等に要する資金に充てるための必要な引当金を予め積み立てるなど、必要な負担能力を確保する仕組みを設けることが適当であるとともに、移管後にJOGMECが行う管理業務等に必要な資金をJOGMECに拠出する義務を課すことが適当。
⑨貯留事業に起因する損害賠償
  • 鉱業法の例に倣い、貯留事業に特有の事象に伴って第三者が損害を被った場合の責任は無過失責任とし、被害を受けた第三者が貯留事業者の故意・過失を立証することを不要とする。
2. 輸送事業に関する事項
導管輸送事業の規律確保のための措置
  • 貯留事業場までのCO2の輸送は、一般的にはパイプラインによることが想定されるところ、諸外国における制度やガス事業法も参考にしつつ、導管輸送事業者に対し、(a)正当な理由なくCO2の輸送依頼を拒むことを禁止するとともに、(b)特定のCO2排出者に対する差別的取扱いの禁止、(c)料金その他の条件の届出等の事業規制を課すことが適当。
  • 導管輸送事業とガス導管事業の類似性が高いことを踏まえ、ガス事業法を踏まえつつ、技術基準の適合・維持義務や工事計画の届出、使用前検査・定期自主検査、保安規程の整備・届出など新たに体系的な保安規制を措置することが適当。
  • 船舶や車両によるCO2輸送については、規制する必要性が生じた場合に措置する。
3. 貯留及び輸送事業の双方に関する事項
公益特権
  • 貯留事業に係る測量や実地調査、工事等のために他人の土地に立ち入る必要性や、導管輸送事業において長距離のパイプラインを整備する必要性が生じることも踏まえ、他人の土地の立入等の特例措置を講ずるべく調整を進めるべき。

3. おわりに

 合同会議中間取りまとめでは、法整備のあり方以外の今後の検討課題として、CCS事業に関する支援制度の整備や海外におけるCCS事業の推進に向けた環境整備も掲げている。特に、CCS事業の本格展開のためにはCAPEX・OPEX支援を含めた支援措置が重要になるところ、諸外国のCCS事業を支える支援措置(予算、税制、クレジット、カーボンプライシング等)やビジネスモデルを参考として、我が国として最適なビジネスモデル及び事業者の円滑な参入・操業を可能とする支援制度の在り方について検討し、支援制度の整備を進めると明記している(合同会議中間取りまとめ31頁)。

 近く通常国会に提出されると予想されるCCS事業法案のみならず、支援措置や海外展開に向けた措置も含めて、CCS事業化に向けた全般的な環境整備の動向に注目が集まる。

脚注一覧

※1
電氣新聞(2024年1月31日号)1面は、現在与党内でCCS事業法案の審議が進められており、2月中旬の国会提出が予定されていると報道している。

※3
「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」(13頁)

※4
合同会議に先立ち、2022年1月に「CCS長期ロードマップ検討会」が組織され、CCSの本格的展開に向けた課題と方針などを取りまとめた「CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ」(以下「ロードマップ検討会取りまとめ」という。)が2023年3月10日に公表されている。ロードマップ検討会取りまとめの解説のほか、CCS全般に関する概説については、長島・大野・常松法律事務所ESGプラクティスチーム編著『ESG法務』(金融財政事情研究会、2023年9月)の285~304頁を参照。

※5
先進的CCS事業に関しては、渡邉啓久=宮城栄司「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の本格展開に向けて」(本ニュースレター No.24:2023年6月)を参照。

※6
国内唯一のCCS事業である苫小牧の実証プロジェクトでは、技術的な規制面だけをみても、地上設備に関しては、ガス事業法、高圧ガス保安法、消防法、電気事業法、労働安全衛生法などを適用し、圧入・貯留設備と圧入時の保安基準に関しては鉱業法及び鉱山保安法に準拠し、圧入井から先の海底下貯留に関するプロセスでは海上汚染防止法を適用するなどといったパッチワーク的な規制対応を行わざるを得なかった(経済産業省・NEDO・日本CCS調査株式会社「苫小牧におけるCCS大規模実証試験30万トン圧入時点報告書」173頁参照)。

※7
CCS長期ロードマップ検討会取りまとめ28頁

※8
なお、地層調査のための探査についても、不適切な者により無規律に行われれば有限である貯留層の適切な利用を確保できないことが想定されることから、探査についても許可制とすることが適当とされる(合同会議中間取りまとめ17頁)。

※9
但し、貯留に適した貯留層が存在する区域において、既に石油・天然ガス開発等の鉱業権者が存在し、引き続き、当該鉱業権者が当該区域においてCO₂貯留事業を行おうとする場合には、特定区域の指定や公募手続を経ずに貯留権者の許可を取得することができる制度を創設することが適当とされる(合同会議中間取りまとめ18頁)。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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