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ニュースレター

脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案の公表

NO&T Infrastructure, Energy & Environment Legal Update インフラ・エネルギー・環境ニュースレター

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 2050年カーボンニュートラルに向けて、脱炭素化が難しい分野におけるグリーントランスフォーメーション(GX)を推進するための鍵となる低炭素水素等※1※2の活用を進めるため、2024年2月13日に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案」(「水素等供給等促進法案」)が閣議決定された※3

 水素等供給等促進法案においては、

  1. 主務大臣が低炭素水素等の供給・利用の促進に向けた基本方針を策定すること
  2. 低炭素水素等の需給両面の計画認定制度の創設
  3. 計画認定を受けた事業者に対する独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(「JOGMEC」)を通じた支援措置(後述の価格差支援、拠点整備支援)
  4. 規制(高圧ガス保安法、港湾法及び道路占用)の特例措置
  5. 水素等の供給を行う事業者が取り組むべき判断基準の策定等

が規定されている。もっとも、それぞれの内容の詳細、特に価格差支援等については今後定められることとされており、水素等供給等促進法案では大きな枠組みのみが示されている。このため、本ニュースレターにおいては、水素等供給等促進法案を概観しながら、詳細部分については、今後の議論の前提となるであろう総合資源エネルギー調査会 水素・アンモニア政策小委員会、脱炭素燃料政策小委員会、産業構造審議会及び水素保安小委員会の合同会議が2024年1月29日に公表した「中間とりまとめ」※4(「中間とりまとめ」)の内容に触れながら説明することとする。

2. 基本方針の策定

 水素等供給等促進法案は、主務大臣が低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する基本的な方針(「基本方針」)として、以下の事項について定めるものとしている。

低炭素水素等の供給及び利用の促進の意義及び目標に関する事項
低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する以下の事項

  1. 低炭素水素等の利用を特に促進すべき事業分野に関する事項
  2. エネルギーの安定的かつ低廉な供給を確保しつつ脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を図るために重点的に実施すべき低炭素水素等供給等事業の内容及び実施方法
  3. 低炭素水素等供給等事業により得た知見を活用して行う脱炭素成長型経済構造への円滑な移行に資する取組に関する事項
  4. 低炭素水素等の供給及び利用の促進のための方策に関する事項
低炭素水素等供給等事業の用に供する施設の適正な整備その他の低炭素水素等の供給及び利用の促進に際し配慮すべき重要事項

かかる基本方針を前提に、国、地方公共団体及び事業者は以下の責務を負うとされている。

  • 国は、基本方針に即して、低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、規制の見直しその他の必要な事業環境の整備及び事業者に対する支援措置を講じるよう努めること
  • 地方公共団体は、国の施策に協力し、低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する施策を推進するよう努めること
  • 事業者は、基本方針の定めるところに留意して、低炭素水素等の供給及び利用に伴う安全を確保しつつ、低炭素水素等の供給及び利用の促進に資する投資その他の事業活動を積極的に行うよう、また、国及び地方公共団体の施策に協力するよう努めること

3. 低炭素水素等供給等事業計画の認定

 水素等供給等促進法案では、以下の内容を行う事業が「低炭素水素等供給事業」(第2条第2項)及び「低炭素水素等利用事業」(第2条第3項)と定義され、これらをまとめて「低炭素水素等供給等事業」とされている。

低炭素水素等供給等事業 低炭素水素等供給事業
  1. 低炭素水素等の国内製造又は輸入による供給
  2. ①に伴う低炭素水素等の貯蔵又は輸送
低炭素水素等利用事業
  1. 低炭素水素等の利用(自動車・原動機付自転車への充填を含む。)
  2. ①に伴う低炭素水素等の貯蔵又は輸送

 低炭素水素等供給等事業を行おうとする者は、単独又は共同して低炭素水素等供給等事業に関する計画(「低炭素水素等供給等事業計画」※5)を作成し、主務大臣に提出して認定を受けることができるとされている。

 かかる低炭素水素等供給等事業の認定を受けた低炭素水素等供給事業者及び低炭素水素等利用事業者等には、以下の措置がとられる。

対象事業者 とられる措置
認定を受けた低炭素水素等供給事業者 価格差支援
認定供給等事業者※6 拠点整備支援
高圧ガス保安法、港湾法及び道路占用に関する特例の享受

 なお、価格差支援及び拠点整備支援を受けることを希望する場合には、低炭素水素等供給等事業計画に関して以下の条件が満たされることが条件とされている。

① 低炭素水素等供給事業者及び低炭素水素等利用事業者が共同して低炭素水素等供給等事業計画を作成していること。
② 低炭素水素等の供給が一定期間内に開始され、かつ、一定期間以上継続的に行われると見込まれること。
③ 低炭素水素等利用事業者が、低炭素水素等を利用するための新たな設備投資や事業革新等を行うことが見込まれること。

 これらの条件は、後述の中間とりまとめにおける価格差支援に関する中核的な条件のうち、自立したサプライチェーンの構築に関する条件が法律案として規定されたものと思われる。

 なお、中間とりまとめでは、低炭素水素等供給等事業計画について、2024年夏頃を目途に申請受付開始、2024年内での案件採択開始を目指すとされており、それに向けた制度整備が今後早急に進められるものと見込まれる。

4. 価格差に着目した支援

 水素等供給等促進法案においては、認定を受けた低炭素水素等供給等事業計画(「認定供給等事業計画」)に従って、低炭素水素等供給事業者が継続的に低炭素水素等の供給を行うために必要な資金をJOGMECが交付することとされている(第10条第1号イ)。このJOGMECによる助成金の交付が、中間とりまとめにおける価格差に着目した支援(「価格差支援」)である。水素等供給等促進法案においては、詳細な規定は設けられておらず、価格差支援に係る助成金の交付がJOGMECが低炭素水素等の供給及び利用を促進するために行う業務とのみ規定されているため、詳細については助成金の交付を行うJOGMECにおいて定めることが想定されているものと思われるが、当該詳細については中間とりまとめ記載の内容に沿うものと思われる。そこで以下、中間とりまとめにおける議論をみていくこととする。

 中間とりまとめにおいては、産業の水素等への転換と自立的発展に向けてGX経済移行債を活用しながら、2030年度までに供給開始が見込まれるサプライチェーンを組成するために、代替技術が少なく転換が困難な鉄・化学等の分野・用途と、こうしたサプライチェーン組成に資する発電等において、変革の嚆矢となる事業計画に対して、価格差支援を行い、パイロットプロジェクトを立ち上げることが価格差に着目した支援の制度趣旨であることを明確にした。

1. 価格差支援の制度設計詳細

(1) 中核的な条件

 中間とりまとめは、価格差支援を受けようとする事業計画が満たすべき中核となる条件を以下のものとした。

 なお、支援対象となる水素等については低炭素水素等であることは求められているものの、その製造方法については、いわゆるグリーン水素に限定されておらず、ブルー水素等も含まれることとされている。

 また、国内製造のもののみならず、海外製造・海外からの輸入のプロジェクトについても対象とされている。

(2) 総合評価項目

 (1)に記載した中核的な条件を充足していることを前提として、支援対象とするプロジェクトの選定に際しては、以下の政策的重要性及び事業完遂の見込みの評価項目について総合的な評価を行うこととされた。なお、以下の下線が付された太字の項目は必須条件とされているものである。

(3) 価格差支援の範囲

 価格差支援の対象となるコストは、

国内製造: 水素等の製造に係るコスト
海外製造・海上輸送: 水素等の製造・海上輸送に係るコスト

とされている。

 なお、海外製造・海上輸送の場合において、脱水素装置(MCH、NH3)を国内で利用するときについては、今後運転費が下がる見通しがあることを前提として、運転費も含め、例外的に、その全部又は一部を価格差支援の対象とすることがあり得るものとされている。

 こうした支援対象となる範囲を分かりやすく図示したものが以下である。

(4) 価格差支援の具体的内容

 以下の基本的な考え方に従って、基準価格及び参照価格をプロジェクトごとに個別に決定し、その価格差の全部又は一部を15年間に亘り支援することとされている。

 なお、参照価格が基準価格を超え、事業者が超過した利益を得る場合には、参照価格と基準価格の差分を国へ返還することが求められる。

 水素等のサプライチェーン構築に際しては、価格差支援の他にも、後述の拠点整備支援、さらにはGI基金、長期脱炭素電源オークション等の制度が存在しているため、他の関連制度と価格差支援の対象経費に重複がある場合には、供給者への他の制度の対象経費の重複分を基準価格の積算から控除し、利用者への他の制度の対象経費の重複分を参照価格の積算に加算して調整を図ることとされている。

 また、事業計画の期間及び供給継続を求める支援後10年の間に計画と著しく異なる事業内容が認められた場合や事業者方針に起因する供給途絶が認められた場合には、支援した額を上限として補助金の返還が求められることとされている。

【海外製造の場合の為替変動、原料等価格変動の調整式】

A1×原料価格等+A2+B+利益

A1: 単位量当たりの水素等の製造効率等を加味した係数
原料価格等(変動費): 天然ガス代・電力代等と連動する価格。
※最短月次調整(為替連動)
A2(固定費): その他のOPEX(オペレーション、メンテナンス、保険、輸送等における委託費等)
※四半期~年次調整(為替連動)
B(固定費): CAPEX(製造、輸送、キャリア返還及びCCS等に必要な設備費やEPC費用等(予備費を含む。))
利益: 資金調達スキームの妥当性と合わせ、プロジェクトごとに設定

 出典:中間とりまとめ12-13頁をもとに作成

中間とりまとめにおいて詳細が記載された価格差支援の具体的内容の中で以下の点が注目すべき点となる。

  1. 基準価格については固定値だけでなく算定式での提示も認められることとなった。上述の調整式も基準価格の算定式であるが、これにより為替や原料費等の一定の変動要因を基準価格に反映させることができ、事業者としては、固定値での提示に比べて事業計画が立てやすくなっている。
  2. 定量化できないコスト増に備えて建設費の10%まで予備費を設定することが認められた一方で、コストオーバーラン等についてのリスクは事業者が負担すべきこととされた。官民のリスク分担としては妥当なものと思われるが、事業者としては、建設費が高騰している中で、予備費を超えるコスト増にどう対応するのかという悩ましい問題を抱えることになった。
  3. 中間整理時と異なり、5年ごとの基準価格の見直しという制度への言及がなくなり、事業者としては、後日基準価格の変動が生じるという不確定要素を考えることなく事業計画を策定することができるようになった。

5. 拠点整備支援

 水素等供給等促進法案においては、価格差支援と並び、拠点整備支援についても、JOGMECによる助成金の交付措置が取られることが規定されている(第10条第1号ロ)※7。拠点整備支援についても、価格差支援と同様、制度設計の詳細は中間とりまとめに示されている。

1. 拠点整備支援の制度設計詳細

 拠点整備支援については、2023年1月4日「水素政策小委員会/アンモニア等脱炭素燃料政策小委員会 合同会議 中間整理」※8において、今後10年間で、大都市圏を中心に大規模拠点を3か所程度、地域に分散した中規模拠点を5か所程度整備することを目標に、①拠点整備の事業性調査(FS)、②詳細設計(FEED)、③インフラ整備の3段階に分けて支援を行う方針が示された。

 このうち、①拠点整備の事業性調査(FS)については、2023年12月22日に閣議決定された令和6年度予算案において、「水素等供給基盤整備事業」として15億円が計上され※9、2024年2月9日には「水素等供給基盤整備事業」に係る補助金執行団体の公募が開始される※10など、具体的な事業性調査の実施に向けた準備が進められているところである。②詳細設計(FEED)、③インフラ整備については、今般の中間とりまとめにおいて、拠点整備支援を受けようとする事業者の事業計画が満たすべき中核となる前提条件及び評価項目が示されている。具体的な項目は以下のとおりである。

 出典:中間とりまとめ16-19頁をもとに作成

6. 低炭素水素等の供給・利用の拡大に向けて必要な保安措置

1. 水素保安戦略

 2023年6月に定められた水素基本戦略において定められた水素保安戦略では、①技術開発等を通じた科学的データ・根拠に基づく取組、②水素社会の段階的な実装に向けたルールの合理化・適正化、③水素利活用環境の整備の3つの行動方針が示されていたところである※11

2. 低炭素水素等供給等事業の創設

 一定の水素ガスは高圧ガス保安法に定める高圧ガスに該当するところ、高圧ガス保安法に基づく製造の許可、各種検査(完成検査・保安検査等)については都道府県等が実施している。中間とりまとめにおいては、水素保安における新たな制度案として、低炭素水素等の大規模供給・利用については、製造の許可、その後の完成検査、製造等の開始から一定の期間の保安検査等について国が自ら全般的に実施することができることが事業の迅速化にとって有効であるとされた。水素等供給等促進法案においては、新たに低炭素水素等供給等事業の制度を設け、高圧ガス保安法の特例として、経済産業大臣の承認や認定を受けることができる制度(第12条、第17条、第22条)が設けられる予定である。

(1) 高圧低炭素水素等ガスの製造

 認定供給等事業計画に従って高圧低炭素水素等ガス(低炭素水素等である高圧ガス)の製造をしようとする者(「承認製造者」)は、事業所ごとに、経済産業大臣の承認を受けることができる(第12条)※12。承認製造者は、経済産業大臣の承認を受けることで、高圧低炭素水素等ガスの製造を開始した日から3年間(「特定製造期間」)、高圧ガス保安法上の許可を受けることなく、高圧低炭素水素等ガスを製造することができる(第25条第1項)。承認製造者は、高圧低炭素水素等ガスの製造を開始し、又は特定製造期間内に製造を廃止した場合には、遅滞なく、経済産業大臣に届出を行う必要がある(第15条)。承認製造者には保安に関する規定を中心に高圧ガス保安法が準用される(第16条)。特定製造期間が経過した場合には、承認製造者は高圧ガス保安法上の高圧ガスの製造についての許可を受けたものとみなされる(第25条第4項)。

(2) 高圧低炭素水素等ガスの貯蔵

 認定供給等事業計画に従って高圧ガス保安法第16条第1項に定める容量以上の高圧低炭素水素等ガスを貯蔵するために貯蔵所を設置しようとする者は、当該貯蔵所(「承認貯蔵所」)につき、経済産業大臣の承認を受けることができる(第17条)。承認貯蔵所の所有者又は占有者は、経済産業大臣の承認を受けることで、高圧低炭素水素等ガスの貯蔵を開始した日から3年間(「特定貯蔵期間」)、高圧ガス保安法上の許可を受けることなく、承認貯蔵所において高圧低炭素水素ガスを貯蔵することができる(第25条第7項)。承認貯蔵所の所有者又は占有者は、当該貯蔵所における高圧低炭素水素等ガスの貯蔵を開始し、又は特定貯蔵期間内に貯蔵を廃止した場合には、遅滞なく、経済産業大臣に届出を行う必要がある(第20条)。承認を受けた貯蔵所及びその所有者又は占有者については保安に関する規定を中心に高圧ガス保安法が準用される(第21条)。特定貯蔵期間が経過した場合には、承認貯蔵所は第一種貯蔵所と、承認所蔵所の所有者又は占有者は高圧ガス保安法上の貯蔵についての許可を受けたものとみなされる(第25条第8項)。

(3) 高圧低炭素水素等ガスの輸入検査

 認定供給等事業計画に従って高圧低炭素水素等ガスの輸入をした事業者は、輸入した高圧低炭素水素等ガス及びその容器について、高圧低炭素水素等ガスの輸入を開始した日から3年間、経済産業大臣が行う輸入検査を受け、輸入検査技術基準に適合していることについて経済産業大臣の認定を受けることができる(第22条)。認定を受けた者は、高圧ガス保安法第22条第1項の規定にかかわらず、輸入した高圧低炭素水素等ガス及びその容器を移動させることができる(第25条第9項)。

(4) 経済産業大臣から都道府県知事への通知等

 高圧ガス保安法に基づく事業については各都道府県知事が所掌し、監督を行っているところ、水素等供給等促進法に基づく低炭素水素等供給等事業については、事業の迅速化等の観点から国主導で監督等を実施することが予定されており、経済産業大臣の承認等を受けることとされた。もっとも、実質的には高圧ガス保安法に基づく事業となるため、経済産業大臣が水素等供給等促進法に基づき承認等を行った場合には、関係都道府県知事に通知させることとしている(第24条)。また、経済産業大臣だけでなく、都道府県知事にも水素等供給等促進法に基づく事業者に対する立入検査が認められている(第38条)。

3. 水電解装置などの安全確保/アンモニアの保安

 中間とりまとめにおいては、水電解装置などの安全確保について、特に、高圧ガスに該当せず、ガス事業法に基づくガス事業者や電気事業法に基づく電気工作物の設置者に該当しない場合について、ガス事業法第105条の準用事業者に対する保安規制が適用され、技術基準適合等が求められる場合があるため、安全確保について、適用される規制の明確化及び具体的な技術基準について検討を行うこととされている。

 また、高圧ガスのアンモニアについては、高圧ガス保安法において可燃性ガス及び毒性ガスとして規定されるなど保安の措置を定められているところ、中間とりまとめにおいては、アンモニアについては今後大規模に利活用されることを見据え、必要な科学的データの戦略的獲得を図り、技術基準等に随時反映することが求められるため、前例のない液体アンモニアの大型貯蔵の安全確保について慎重な対応の必要性が示唆されている。

4. 水素等事業の保安に係る適用法令

 中間とりまとめにおいては、大規模な水素等事業は黎明期にあり、想定され得る水素等事業全体を包含した安全規制体系を構築している国は国際的にもなく、IEAの政策提言においても、規制については水素市場の発展段階を考慮し、段階的かつ動的な取組が推奨されている。日本においても、国内外の水素等事業の進捗に応ずる形で、段階的に保安規制の合理化・適正化を進めていくことが重要とされている。中間とりまとめにおいては、今後経済産業省所管法令についての適用や手続に関する相談体制の構築、水素保安ポータルサイト等での情報発信を行うことが示唆されている。

5. リスクコミュニケーション・人材育成・国際調和

 上記の他、水素保安戦略において具体的な手段のうち、リスクコミュニケーション・人材育成・国際調和については、中間とりまとめにおいて以下のような指摘がなされている。

リスクコミュニケーション
  • 事業者を始め、水素社会の実現に関わる幅広い関係者が、事業者による安全対策や周辺住民への影響などについて、専門家の参画も得つつ、地域社会との間でリスクコミュニケーションを進めることが必要
  • 国として、水素保安ポータルサイト等を活用し、都道府県等と連携しながら、水素等の特性や取扱い等の理解を深めるための情報発信を行う
人材育成
  • スマート保安の考え方も取り込みつつ、保安も含めた水素等分野の人材育成・確保を行い、水素等事業の基盤を支えることが重要
  • 「水素実験・実証アライアンス」のメンバー間の情報交換や安全講座への講師派遣等、産学連携の人材育成の輪を広げる
国際調和
  • 官民連携して国際会議に参加し、主要国の動向把握、技術基準の共通化のための議論・活動に参加し、技術競争力に留意しつつ、国際調和を図る
  • 日本で得た科学的データ等を積極的に発信し、水素保安規制の国際規格の策定に取り組む

 出典:中間とりまとめ27-28頁をもとに作成

7. 各分野における制度的措置に係る議論の状況

 2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」※13において、政府は、GX経済移行債を活用した水素等の導入促進に係る先行投資支援が水素等の新たな市場創出・利用拡大につながるよう、規制・制度的措置と一体的に行うことを明記した。かかる方針を踏まえ、電力・都市ガス・燃料・産業・運輸といった各分野において低炭素水素等の新たな市場創出及び利用拡大につながる適切な制度の在り方が関連審議会等で議論されている。今後、それぞれの分野でより一層の検討が進められる。

電力分野 2023年10月31日開催の電力・ガス基本政策小委員会にて、電力のゼロエミッション化を後押しする今後の制度的措置の在り方の検討が開始された※14。水素等との関係では、既設の⽕⼒発電所のゼロエミッション化のための制度的措置が検討される。
ガス分野 2023年11月9日開催の電力・ガス基本政策小委員会 ガス事業制度検討ワーキンググループにおいて、都市ガス分野のカーボンニュートラル化に向けた適切な規制・制度の在り方の議論が開始された※15。2023年6月に取りまとめられた「都市ガスのカーボンニュートラル化について 中間整理」※16にて示された方向性を踏まえ、都市ガスのカーボンニュートラル化を加速していくための規制・制度が検討される。
燃料分野 水素と二酸化炭素を合成して製造される人工的な燃料である合成燃料(e-fuel)を2030年代前半までに商用化するとの目標の達成に向けて、「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会」等において、e-fuelの目標導入量の設定やそれを担保する制度的枠組が検討される。
産業分野 水素等の需要を供給と一体で加速する観点から、GX市場創出研究会※17等における議論を踏まえ、水素等を用いて製造される製品の利用を促す制度的措置について検討が進められる。また、2023年11月21日開催の省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキンググループにおいて、水素等を含めた非化石エネルギー転換への在り方について議論が開始された※18
運輸分野 大型トラックを用いる貨物輸送事業者側及び荷主側の双方において、非化石エネルギー自動車の導入に関する目標の目安の設定※19について、その是非を含めた検討が進められる。

8. 最後に

 本ニュースレターにおいては、水素等供給等促進法案について、中間とりまとめを踏まえて概観した。まずは同法の成立に向けた国会における審議動向を注視する必要があるが、黎明期にある水素等事業の更なる進展に向けて、法案可決後における政省令の制定動向に加え、ビジネスの進展についても引き続きその動向に注目する必要がある。

脚注一覧

※1
水素等供給等促進法案において、低炭素水素等は、「水素等であって、その製造に伴って排出される二酸化炭素の量が一定の値以下であること、二酸化炭素の排出量の算定に関する国際的な決定に照らしてその利用が我が国における二酸化炭素の排出量の削減に寄与すると認められることその他の経済産業省令で定める要件に該当するもの」と定義されている(第2条第1項)。具体的な水準は今後経済産業省令において定められることになるが、中間とりまとめにおいては、具体例として、水素バリューチェーン協議会(JH2A)から審議会に提示された、天然ガス改質の際の水素製造に係るCO2排出量と比較して、約70%の排出削減を実現する水準として示された3.5kg-CO2/kg-H2という水準への言及がされている。

※2
水素等供給等促進法案において、水素等は、「水素及びその化合物であって経済産業省令で定めるもの」と定義されており(第2条第1項)、詳細は経済産業省令において規定されることとされているが、中間とりまとめにおいては、水素に加えて、その化合物であるアンモニア、合成メタン、合成燃料を含むとされている。

※3
経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/press/2023/02/20240213002/20240213002.html

※4
総合資源エネルギー調査会 水素・アンモニア政策小委員会 脱炭素燃料政策小委員会 産業構造審議会 水素保安小委員会「中間取りまとめ」(2024年1月29日)(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/suiso_seisaku/pdf/20240129_1.pdf

※5
低炭素水素等供給等事業に係る目標、内容及び実施期間、実施体制、必要な資金及びその調達方法、助成金の交付を受ける場合はその旨、施設の規模及び場所等が記載される。

※6
認定を受けた低炭素水素等供給等事業計画に係る低炭素水素等供給事業者、低炭素水素等利用事業者又は低炭素水素等の貯蔵、輸送若しくは販売を行う者を意味する。事業者は、認定を受けるにあたり、低炭素水素等供給等事業を行う者以外の者が行う低炭素水素等の貯蔵、輸送又は販売に関する事項を含めることができるとされており(第7条第3項)、認定を申請しない低炭素水素等の貯蔵事業者も対象となる。

※7
「認定供給等事業者が共同して使用する供給等施設であって、認定供給等事業計画に従って供給が行われる低炭素水素等の貯蔵又は輸送の用に供する施設その他の認定供給等事業計画の実施に必要な施設の整備に必要な資金」とされる。

※8
資源エネルギー庁「水素政策小委員会/アンモニア等脱炭素燃料政策小委員会 合同会議 中間整理」(2023年1月4日)(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/suiso_seisaku/pdf/20230104_1.pdf

※9
経済産業省「令和5年度補正予算・令和6年度当初予算案の概要」(https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2024/pdf/01.pdf

※10
資源エネルギー庁「令和6年度「『非化石エネルギー等導入促進対策費補助金(水素等供給基盤整備事業)』に係る補助事業者(執行団体)の公募について」(https://www.enecho.meti.go.jp/appli/public_offer/2023/0209_08.html

※11
なお、三上二郎=渡邉啓久=宮城栄司=河相早織「水素社会の早期実現に向けた『水素基本戦略』の改定」(本ニュースレター No.23:2023年6月)において水素保安戦略の概略と記載したが、水素保安戦略に訂正する。

※12
高圧ガス保安法上、水素を容器に充填する行為も製造に該当するため、例えば水素ステーションにおいて燃料電池自動車に水素ガスを充填する行為にも高圧ガス保安法上の製造の許可が必要となる。水素ステーションにおける水素ガスの充填については、当事務所カーボンニュートラル・プラクティスチーム編『カーボンニュートラル法務』(きんざい、2022年)68頁も参照されたい。

※13
経済産業省「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」(2023年2月10日)(https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210002/20230210002.html

※14
経済産業省「第66回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会」(2023年10月31日)(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/066.html

※15
経済産業省「第32回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 ガス事業制度検討ワーキンググループ」(2023年11月9日)(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/gas_jigyo_wg/032.html

※16
総合資源エネルギー調査会 ガス基本政策小委員会 ガス事業制度検討ワーキンググループ「都市ガスのカーボンニュートラル化について 中間整理」(2023年6月)(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/gas_jigyo_wg/pdf/032_s01_00.pdf

※17
産業競争力強化及び排出削減の実現に向けた需要創出に資するGX製品市場に関する研究会(https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/gx_product/index.html

※18
経済産業省「2023年度第1回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキンググループ」(2023年11月21日)(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kojo_handan/2023_001.html

※19
現在は、省エネ法に基づく非化石エネルギー転換目標において、8トン以下のトラックを用いる貨物輸送事業者に対し、2030年度においてその保有する貨物自動車の5%を非化石エネルギー自動車とするという目標の目安が設定されている。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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