
清水美彩惠 Misae Shimizu
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ニュースレター
企業に求められるカスハラ対策―厚生労働省によるカスハラ対策企業マニュアルの策定、精神障害の労災認定基準の改定を受けて―(2024年4月)
セミナー
カスタマーハラスメント対応力強化セミナー 第1回「カスハラに対する法規制の状況や行政の動向」(2024年6月)
カスタマーハラスメント対応力強化セミナー 第2回「カスハラの基礎知識 ~カスハラの定義と判断基準~」(2024年7月)
カスタマーハラスメント対応力強化セミナー 第3回「企業に求められるカスハラ対策の実務上のポイント」(2024年7月)
2024年10月11日、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(令和6年東京都条例第140号、以下「本条例」といいます。)が公布され、2025年4月1日より施行されることが予定されています。本条例においては、罰則等は規定されていないものの、カスタマー・ハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)の防止に関する基本理念、東京都、顧客等、就業者及び事業者の責務、カスハラの防止に関する施策に関する基本的な事項が定められています。
そして、東京都は、本条例の施行に先立ち、2024年12月19日付けで、本条例11条1項及び2項の規定に基づき、「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」(以下「本指針」といいます。)を策定し、公表しました。本指針では、カスハラの内容に関する事項、顧客等、就業者及び事業者の責務に関する事項、都の施策に関する事項、事業者の取組に関する事項等、カスハラ防止のために必要な事項について具体的に定められています。東京都に倣い、東京都以外の地方自治体においても、条例制定に向けた議論が活発化しており、企業におけるカスハラ対策は喫緊の課題となっています。
本ニュースレターでは、本指針の記載を踏まえ、企業の皆様に関連性が高い項目を中心に、本条例の概要をご説明します。
本条例において、「事業者」は、「都内」で「事業」を行う①法人、②その他の団体、③国の機関、④個人事業主をいうと規定されています(本条例2条1号)。
そして、本指針によれば、本条例2条1号にいう「都内」とは、法人登記や開業届等により、事務所・事業所が都の区域内であることが確認できる場合のほか、都内で事業を行っている実態がある場合も含むものとされており、具体的には、①都内に本社がある企業、②都外に本社があるものの、都内に支店等の事務所・事業所がある企業、③都内の官公署などが想定されるとされています(本指針第2、3(2))。また、「事業」とは、「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」を意味し、営利の目的をもってなされるか否かを問わないとされています(同第2、3(1))。
本条例において、「就業者」は、「都内で業務に従事する者」をいうとされており、「事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者」を含むとされています(本条例2条2号)。本指針によれば、「就業者」に該当するか否かの判断に当たっては、具体的には、以下の点に留意する必要があります。
「就業者」は、事業者と雇用関係のある労働者に限定されるわけではなく、派遣労働者、フリーランスとして業務を行う者や、インターンシップ生やボランティア活動に従事する者なども含まれるとされています。また、業務を有償で行うか否かは問わない、とされておりますので、有償・無償問わず、「事業者」の業務を行う全ての者が「就業者」に含まれることになります(以上について、本指針第2、4(1)ア及びイ)。
「都内」とは、「物理的・空間的な都の区域内」を意味し、「都内で業務に従事する者」とは、「都の区域内に所在する事務所・事業所及びそれに準ずる場所で業務を行う者」をいうとされています(本指針第2、4(1)ウ)。
条例は、制定した自治体の区域内においてのみ効力を有するものですが、通常は都内で業務に従事する者が一時的に都外で業務を行う際にカスハラ行為を受ける事例も想定されるところ、そのような場合を一律に本条例の適用外とすることは適切でないことから、事業者の事業に関連し、都の区域外に所在する事務所・事業所及びそれに準ずる場所で業務を行う者は、従事する業務と事業者の事業との間に合理的関連性が認められる場合には、「就業者」に含めるものとし、合理的関連性があるか否かは、事業者と就業者が置かれた具体的状況に即して判断するとされています(以上について、本指針第2、4(1)エ)。
本指針によれば、例えば、以下の者は、「就業者」になり得るとされています。
本条例4条は、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。」と定めており、インターネット上のカスハラ行為も禁止されています。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や動画配信サイト等を活用して業務を行う者が本条例2条2号の定める「就業者」に当たるか否かは一見して不明確ですが、前記②及び③のとおり、「都内で業務に従事する者」又は「事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者」であれば、「就業者」になり得るとされています(以上について、本指針第2、4(2))。
本指針によれば、インターネット上で業務を行う者のうち、例えば、以下の者は、「就業者」になり得るとされています。
本条例において、「顧客等」は、「顧客(就業者から商品又はサービスの提供を受ける者をいう。)又は就業者の業務に密接に関係する者」をいうとされています(本条例2条3号)。本指針によれば、「顧客」に該当するか否かの判断に当たっては、具体的には、以下の点に留意する必要があります。
「顧客」とは、「就業者から商品又はサービスの提供を受ける者」であり、既存の顧客のみならず、「今後、商品やサービスの提供を受けることが予期される者(例:店頭で商品の購入を検討している人、飲食店で入店を待つ列に並ぶ人など)」などの潜在的顧客も含むものとされています(本指針第2、5(1))。
「就業者の業務に密接に関係する者」とは、顧客(就業者から商品又はサービスの提供を受ける者)ではないが、(i)「就業者の遂行する業務の目的に相当な関係を有する者」、又は(ii)「本来は関わりが想定されていないものの、就業者の円滑な業務の遂行に当たって対応が必要な者」を意味し、「密接に関係する者」であるか否かは、具体的状況に即して判断されるとされています(本指針第2、5(2))。本指針によれば、例えば、以下の者は、「就業者の業務に密接に関係する者」になり得るとされています。
後記(5)のとおり、本条例は、「カスタマー・ハラスメント」を「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義しています(本条例2条5号)。その上で、「著しい迷惑行為」を、「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」と定義しています(同2条4号)。本指針によれば、以下の行為が「著しい迷惑行為」に該当するとされています(本指針第2、2(1))。
「暴行、脅迫その他の違法な行為」とは、暴行、脅迫、傷害、強要、名誉毀損、侮辱、威力業務妨害、不退去等の刑法に規定する違法な行為のほか、ストーカー行為等の規制等に関する法律や軽犯罪法等の特別刑法に規定する違法な行為を指すとされています。これらの行為は、本条例2条5号の「著しい迷惑行為」に該当するだけでなく、犯罪として処罰される可能性があります(本指針第2、2(1)ア)。
「正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」とは、客観的に合理的で社会通念上相当であると認められる理由がなく、要求内容の妥当性に照らして不相当であるものや、大きな声を上げて秩序を乱すなど、行為の手段・態様が不相当であるものを意味し、相当性の判断に当たっては、当該行為の目的、当該行為を受けた就業者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該行為が行われた経緯や状況、就業者の業種・業態、業務の内容・性質、当該行為の態様・頻度・継続性、就業者の属性や心身の状況、行為者との関係性など、様々な要素を総合的に考慮することが適当であるとされています。そして、上記を踏まえると、正当な理由に基づき、社会通念上相当であると認められる手段・態様による、顧客等から就業者への申出(苦情・意見・要望等)自体は妨げられるものではないものの、その後の交渉や話し合いの過程で違法又は不当な行為があった場合、その時点で著しい迷惑行為に該当する可能性があるとされています(本指針第2、2(1)イ)。
前記(4)のとおり、本条例は、「カスタマー・ハラスメント」を「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義しており(本条例2条5号)、「著しい迷惑行為」のうち、「その業務に関して」行われるものであり、かつ、「就業環境を害するもの」が本条例におけるカスハラに該当するとされています。本指針によれば、「その業務に関して」及び「就業環境を害するもの」は、以下のものが該当するとされています(本指針第2、2(1)ウ及び(2))。
「その業務に関して」行われる「著しい迷惑行為」とは、(i)「労働時間内の就業者が受けた顧客等からの著しい迷惑行為」又は(ii)「労働時間外の就業者又は定まった労働時間がない就業者が受けた、その業務遂行に影響を与える顧客等からの著しい迷惑行為」に該当する行為を意味するとされています。そして、(ii)「業務遂行に影響を与える」とは、当該行為を受けた就業者の円滑な業務遂行の妨げとなることを意味し、休憩時間や通勤時間など、使用者の指揮命令下に置かれていない時間に受けた行為であっても、「その業務に関して」行われる著しい迷惑行為に該当する可能性があるとされています(本指針第2、2(1)ウ)。
「就業環境を害する」とは、顧客等による著しい迷惑行為により、人格又は尊厳を侵害されるなど、就業者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、就業者が業務を遂行する上で看過できない程度の支障が生じることをいうとされています。そして、この判断に当たっては、平均的な就業者が同様の状況で当該行為を受けた場合、社会一般の就業者が業務を遂行する上で看過できない程度の支障が生じたと感じる行為であるかどうかを基準とすることが適当であるとされています。
本指針は、顧客等から法人等に対する著しい迷惑行為(例:インターネット上での法人への誹謗中傷など)は、その内容により法人等の経営者や従業員などの就業環境が害されたと言える可能性があるため、法人等に対する著しい迷惑行為も行われるべきでないとも述べています(本指針第2、2(2))。
本指針においては、カスハラの代表的な行為類型は以下のとおりであると説明しています(本指針第2、6)。もっとも、本指針は、カスハラに該当するか否かは、就業者の業務内容や実際に発生した個別事案の状況等によって判断が異なる場合があり、また、下記の行為類型は限定列挙ではないことにも十分留意する必要があるとも述べています。
【代表的な行為類型】
行為類型 | 具体例 | 成立する可能性のある犯罪 | |
---|---|---|---|
A 顧客等の要求内容が妥当性を欠く場合 | |||
① | 就業者が提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない |
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② | 要求内容が、就業者の提供する商品・サービスの内容とは関係がない |
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B 顧客等の要求内容の妥当性にかかわらず、要求を実現するための手段・態様が違法又は社会通念上不相当である場合 | |||
① | 就業者への身体的な攻撃 |
|
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② | 就業者への精神的な攻撃 |
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|
③ | 就業者への威圧的な言動 |
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|
④ | 就業者への土下座の要求 |
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⑤ | 就業者への執拗な(継続的な)言動 |
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|
⑥ | 就業者を拘束する行動 |
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⑦ | 就業者への差別的な言動 |
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⑧ | 就業者への性的な言動 |
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⑨ | 就業者個人への攻撃や嫌がらせ |
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|
C 顧客等の要求内容の妥当性に照らして、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当である場合 | |||
① | 過度な商品交換の要求 |
|
|
② | 過度な金銭補償の要求 |
|
|
③ | 過度な謝罪の要求 |
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|
④ | その他不可能な行為や抽象的な行為の要求 |
|
本条例2条5号における「カスタマー・ハラスメント」の定義を前提として、本条例4条は、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。」と規定しています。本指針は、「何人も」、「あらゆる場において」の意味について以下のとおり説明しています(本指針第2、1)。
「何人も」とは、カスハラの行為主体となり得る全ての人を指し、都民であるか否かを問わないとされており、また、企業間取引を背景としたカスハラも禁止されています。このため、一般の消費者を顧客としない、B to Bの商品・サービスを提供する企業においても、取引先からのカスハラあるいは取引先に対するカスハラの防止に向けた対策を講ずる必要があります。
「あらゆる場において」とは、店舗や事業所の窓口等における行為だけでなく、電話やインターネット等における行為も含まれます。
本条例制定に向けた議論においては、罰則規定を設けるべきか否かについて議論がなされましたが、最終的には、罰則規定を設けることは見送られました。このため、本条例4条のカスハラ禁止規定に違反したとしても、罰則が課されるわけではありませんが、カスハラは、その行為の内容によっては、刑法、下請代金支払遅延等防止法、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律等に抵触する可能性があり、それらの法律の違反が認められれば法律の定める罰則等の対象となります。また、当該行為が、民法上の不法行為に該当すると判断されれば、損害賠償責任が発生する可能性があります(以上について、本指針第2、1(2))。本条例及び本指針によって、禁止行為が明確化されたことに伴い、不法行為責任が肯定されやすくなる可能性も否定できませんので、各企業は、本条例及び本指針を踏まえて、カスハラ防止に向けた措置を講じることが求められます。
本条例5条は、本条例の適用上の注意として「この条例の適用に当たっては、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」と規定しています。カスハラ行為は禁止されるべきものですが、他方で、正当なクレームは業務の改善や新たな商品又はサービスの開発につながるものであり、不当に制限されるべきではありません。また、就業者が応対する顧客等の中には、障害のある人や病気がある人など、合理的配慮が必要な人も存在し、顧客等の権利についても十分配慮する必要があります。
本指針は、顧客等の権利として配慮する必要がある権利の例として、消費者の権利(消費者基本法第5条第1項第4号、消費者契約法第3条第1項、同条第2項)、障害者の権利(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律第8条第2項)、認知症の人の権利(共生社会の実現を推進するための認知症基本法第7条)、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利(日本国憲法第21条)等を挙げています(本指針第2、7)。
本条例は7条~9条において、「顧客等」、「就業者」、「事業者」の責務を定めています。
本条例7条は、「顧客等」に対し、①カスハラに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、②「就業者に対する言動に必要な注意を払う」ように努めること(同1項)、③都が実施するカスハラ防止施策に協力するよう努めること(同2項)を求めています。本指針は、「顧客等」は、上記②(就業者に対する言動における必要な注意)として、具体的には、「就業者に対する意見や要望の伝え方等を工夫するなど、自らの言動に注意を払うこと」、特に、「就業者が提供する商品やサービスに瑕疵・過失があった場合であっても、怒りの感情を抑え、落ち着いてその内容を伝えるなど、冷静な姿勢でその改善を要求することが重要」であるとしています(本指針第3、1)。
本条例8条は、「就業者」に対し、①顧客等の権利を尊重し、カスハラに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、②カスハラの防止に資する行動をとるよう努めること(同1項)、③業務に関して事業者が実施するカスハラの防止に関する取組に協力するよう努めること(同2項)を求めています。本指針は、「就業者」は、上記①(カスハラに関する関心と理解)として、カスハラ行為を受けた際にどのように対応すべきか、誰に相談すべきかなど、カスハラが発生した際の対処等について理解を深める必要があること、上記②(カスハラ防止に資する行動)として、「顧客等に対する意見の伝え方等を工夫するなど、カスタマー・ハラスメントを未然に防ぐための積極的な行動をとること」、特に、「顧客等からの商品やサービスに関する正当な理由に基づく要求や改善の要望に対して、初期の段階でカスタマー・ハラスメントに至らないよう、顧客等の心情に配慮した適切な言動を行うことが重要」であるとしています(本指針第3、2)。
本条例9条では、「事業者」に対し、①カスハラの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、②都が実施するカスハラ防止施策に協力するよう努めること(同1項)、③その事業に関して就業者がカスハラを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、④当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めること(同2項)、⑤その事業に関して就業者が顧客等としてカスハラを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めること(同3項)を求めています。本指針は、上記③(就業者の安全の確保)として、「事業者」は、具体的には、「顧客等による暴力行為等によって就業者の安全が脅かされる事態が発生した場合、あらかじめ定めた対応方針に従い、現場監督者等が対応を代わった上で、顧客等から就業者を引き離す、あるいは、弁護士や管轄の警察と連携を取りながら対応するなど、就業者への被害がこれ以上継続しないようにすること」が求められるとしています。また、上記④(中止の申入れその他の必要かつ適切な措置)として、「カスタマー・ハラスメントが発生した場合、行為者である顧客等に対して、就業者への行為を止めるよう要請するとともに、あらかじめ定めた対応方針に従い、現場監督者等からの退去要請や出入り禁止、商品やサービスの提供停止の通告等の対処を行うこと」が求められ、「その際、恣意的で正当な理由のない退去要請や出入り禁止、商品やサービスの提供の拒否がないよう、十分留意する必要がある」としています(本指針第3、3(1)~(4))。
さらに、上記⑤(就業者が顧客等としてカスハラを行わないようにするための必要な措置)として、「事業に従事する者」がカスハラを行わないよう「カスタマー・ハラスメント防止に関する啓発や教育等を行っていくこと」が求められるとしています(本指針第3、3(5))。
そして、本条例9条は、「事業者」に対し、「事業に従事する者」に対するカスハラ防止に関する啓発や教育等を求めるものであるところ、本指針によれば、派遣労働者、無償ボランティア、インターンシップ生、フランチャイズ加盟店の経営者・従業員なども、「事業者」の事業に関連した業務に従事していることから、「事業者」との間に雇用関係がない場合であっても、雇用関係がある就業者と同様に取り扱うことが必要であるとされています(本指針第3、3)。
本条例14条1項は、9条(前記5(3))と同様に、「事業者」に対して、カスハラを防止するために必要な措置(必要な体制の整備、カスハラを受けた就業者への配慮、カスハラ防止のための手引の作成その他の措置)を講ずるよう努めることを求めています。同条2項は、「就業者」に対して、事業者が作成したカスハラ防止のための手引を遵守するよう努めなければならないとしています。そして、本指針において、カスハラを防止するために必要な措置が具体的に解説されていますが、本指針に定められた措置は、厚生労働省が2022年2月25日付けで公表した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下「厚労省カスハラマニュアル」といいます。)を踏まえたものとなっています(本指針第5)。厚労省カスハラマニュアルの内容については、労働法ニュースレターNo.12・紛争解決ニュースレターNo.20「企業に求められるカスハラ対策―厚生労働省によるカスハラ対策企業マニュアルの策定、精神障害の労災認定基準の改定を受けて―」(2024年4月)で詳しく紹介しておりますのでご参照ください。
本指針において、厚労省カスハラマニュアルから新たに追加された内容としては、自社の就業者が「カスタマー・ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知」があります。対応の具体例としては、①立場の弱い取引先等に無理な要求をしない、させないこと、他の事業者の就業者に対してもハラスメントを起こさないとのメッセージを社内で周知すること、②カスハラを行った自社の就業者に対しては、厳正に対処する旨を就業規則等に定め、社内で周知することなどが挙げられています。そして、対応の際には、自社の就業者が、カスハラに該当する言動をした場合、具体的にどのような対処がなされるのかをルールとして明確化し、就業者に認識してもらうことで、カスハラの防止を図ることが重要であり、具体的にカスハラに該当する言動と社内の処分内容を対応させた懲戒処分規定を定めるほか、その判断要素を明らかにする方法が考えられるとしています(本指針第5、2)。
パワハラ、セクハラ等とは異なり、現状、カスハラについては、法律に基づく企業に対する措置義務は課されていませんが、厚生労働省は、企業に対してカスハラ対策を義務付ける方向での法改正を目指していると報道されています。また、東京都が、法改正に先立ち、全国初のカスハラ防止条例を制定したことを受けて、他の地方自治体においても条例制定に向けた議論が活発化しています。
各企業は、厚労省カスハラマニュアルや本条例・本指針を参考に、また、それぞれの業種、業態、企業文化等を踏まえ、各企業の実情に即したカスハラ対策に取り組むことが求められます。企業におけるカスハラ対策の策定やカスハラ発生時の対応を検討するに際して、本ニュースレターをお役立ていただければ幸いです。また、弊所では、カスハラに関する社内研修、カスハラに関するマニュアルや各種規程の整備のサポート等も対応しておりますので、ご要望があれば、弁護士宛にご連絡ください。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
(2025年2月)
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